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「わあ…」
桟橋に停まっている、仰ぎ見るほどに大きな船にイザベラは感嘆の声を上げた。

イザベラが船に乗るのは初めてだ。
前世でも観光船やフェリーくらいで、ここまで大きな船に乗った事はない。


「しばらく穏やかな日が続くそうだ。海が荒れると船も揺れるからな、船酔いがキツくなる」
メイナードが言った。

「…船酔いは大変ですか」
「ああ、何せ逃げ場がないからな」

———どうか波が穏やかな日が続きますように。
願いながらもう一度イザベラはこれから乗る予定の船を見上げた。



イザベラはメイナードのパートナーとして初めての外国訪問へ出発するため、王国一の港へ来ていた。
港はとても賑やかで数多くの船が停まっている。
イザベラが乗るのはその中でも一番大きな船だ。

今回の訪問先はレディントン王国とは長く親しくしている国で、国王の生誕祭に招かれたのだ。
滞在中は幾つものパーティに出席する予定で、イザベラの出番も多くなる。
責任も重大だ。



「殿下。積荷の最終一覧です」
モーリスがやってくると封筒をメイナードに手渡した。
それからイザベラへと向き別の封筒を差し出した。

「イザベラにはこれ、父上達からの手紙」
「…ありがとう」

新しい部下だといって、メイナードがオーキッドハウスにモーリスを連れてきた時は驚いた。
どういう経緯かは分からないけれど、メイナードの下で外交の仕事につく事になったという。

そのモーリスやメイナードから驚きの話を聞かされた。
クリストファーと婚約したライラが、オリバーと浮気をしていたというのだ。
当然婚約は破棄、ライラは偽りの証言でイザベラの罪を捏造しクリストファーとの婚約を破棄させた事も合わせ、修道院へ送られる事になった。
山奥にあるその修道院はとても厳しく、一度入ったら出てくる事はほとんどない…刑務所のようなものだという。

オリバーもまた、父親から勘当され、罰として国境の警備隊に送られたという。
こちらもやはり、五体満足で帰ってくる事は少ないという厳しい場所だ。

そしてクリストファーは、第二王子ヴィンセントが成人するまでの約五年の間に改心し、良き王になれると周囲に認められなければ王太子の座は弟に行くのだという。
クリストファーが心を改められるのか、イザベラには分からないが…彼は全てを失ったのだ。
さすがの彼も変わらざるをえないだろう。
———それでも、ヴィンセントを抑えて王太子になるのは相当に厳しいだろうけれど。



イザベラは両親からの手紙を開いた。
そこには旅の無事を願う言葉が書かれてあった。

娼館へ追放されて以来、両親とは会っていない。
娘が娼婦で愛人———メイナード曰く〝恋人〟だそうだが———だというのは辛いだろうと思うからだ。

イザベラ自身は、自分の今の立場を不幸とは思わない。
仕事にやりがいを感じているし、メイナードとは思いの外価値観や意見が合う事が分かった。
一夫多妻は嫌だというイザベラの考えにも同意してくれ、イザベラ以外の妻や愛人は持たないと誓ってくれた。

楽しい仕事と相性の良いパートナー。
親の命令で行く末の決まる貴族令嬢ばかりの中で、むしろ恵まれていると思っている。


イザベラのこういった考えが家族や他の貴族達には理解できないものだと分かっている。
それでも、メイナードは理解してくれる。
イザベラにはそれで十分だ。



「そろそろ船へ」
促され、イザベラは留守番のモーリスを振り返った。

「それでは行ってきます」
「ああ、気をつけて」

「モーリスも。皆によろしくね」
笑顔で弟に手を振ると、差し出されたメイナードの手を取り、イザベラは船のタラップを登っていった。



おわり


あらすじにも書きましたが、思いついた勢いで一気に書き上げたものです。
もっと色々エピソードを付け加えた方が良いのかなとも思いましたが…前作が時間がかかったので今回はさくさく書きたくて。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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