上 下
34 / 35

33 ゲームの秘密

しおりを挟む
「ねえ。ラウル様って転生者なの?」
話をするために用意してもらった部屋に入るなりアリスが言った。

「どうして?」
「私の話についてこれたのラウル様だけだし、ゲームと全然性格違うし。それにゲームの内容とか言葉を理解できるのなんて、転生者しかいないだろうし」

「そうだよ。僕も元日本人だ」
アリスを見据えてラウルは言った。
「男なのにゲームやってたの? あれ女子向けだよね」
「男がやったっていいだろう。元々は姉の影響だけど」
「お姉さん?」
「この人が前世の姉だよ」
そう言ってラウルは私を指した。

「えー、やっぱあんたも転生者だったの!」
「……そうよ」
「怪しいとは思ってたけど。って姉弟で転生したの?」
「多分僕たち、同じバスに乗っていたんだ」
「バス?」
「君も吉祥寺行きのバスに乗って、事故に遭わなかった?」


「……ああ、やっぱあの時死んだんだ」
しばらく考えてアリスはそう言った。
「多分、その時三人とも同じゲームをやっていて、それでこの世界に一緒に転生したんだと思う」
「そうなんだ。でもどうやってゲームの世界に転生なんかできたの?」
「そこまでは知らないよ」
「ふうん。まあいいか、どうせ知ったところで生き返る訳でもないし」

「あの……それで、ありがとうございました」
私はアリスに向かって頭を下げた。
「あなたがゲームでシリル様のルートをやっていたおかげで助かりました」
「あんたたち、シリル様はやってなかったの」
「存在すら知らなかったよ」
「そうなんだ。まあシリル様は最初の期間限定イベントの隠れキャラだったからね、やってない人多いんだよね」
「え?」
最初の? ……あのゲームで遊び始めたのは発売してしばらくしてだったから……だから、知らなかったのか。
「期間限定だからってヤバい性格にしたんだけど、評判が良かったから他にも隠れキャラが出るようになったって聞いたよ。どれも死ぬルートがあるらしいって」
「……隠れキャラって、みんなそんな物騒なの?」
そんな人たちがこの世界に存在しているの?!

「他の隠れキャラって、誰なんだ?」
ラウルが尋ねた。
「さあ、私はシリル様しかやってないもん」
「やってなくても何か知らないか」
「さあ……あ、そうだ。今思い出した」
アリスはぽんと手を叩いた。
「期間限定イベントといえば、うちらが死んだ日、新しいイベントの予告がSNSに出てたの知ってる?」
「イベントの予告?」
「いいや」
「クリスティナがヒロインになってプレイできるんだって」

「え……」
私?
「王太子とか義弟との恋愛ルートとか、あと『あの幻の人気キャラが復活』ってあったから、多分シリル様じゃないかな」
(え、待って。それって……)
「まさか、この世界はクリスティナがヒロインの……」
ポツリとラウルが呟いた。

「ねえ。もう帰っていいかな。ヨセフも解放されたよね」
「ヨセフ?」
「一緒に何でも屋をやってるの。元騎士見習いで、あの怖い人が上司だったとかで、あんたを探すのに協力しろって連れてかれたの」
はあ、とアリスはため息をついた。
「あーあ、今日は割りのいい仕事があったんだけどなあ。それで馬車を買う予定だったのに」
「その分以上を出すよ。今回の事件解決に協力した謝礼として」
「え、うそ。やったあ」
ラウルの言葉にアリスは目を輝かせた。
「馬車があると仕事の幅が広がるのよね! これでもっと稼げるわ!」
「……君は今の生活が楽しそうだね」
「楽しいわよ。憧れてたのよね、稼ぎながら旅するのって」
笑顔でアリスはそう言った。



「クリスティナがヒロイン……」
アリスが部屋から出ていくと、私は呟いた。
ゲームとは関係なく生きてきたと思っていたのに……本当は、ゲームの世界そのもので。
「私がシリル様に攫われたのも、エディーや殿下に好かれたのも……その期間限定イベントのせい?」
知らない間にゲームをなぞって彼らを攻略していた?
そう思ったら、胸の奥がチクリと痛んだ。

「シリルが現れたのはゲームのせいかもしれないけど、クリスティナ嬢が彼らに好かれたのはゲームとは関係ないんじゃないかな」
ラウルが言った。
「……そう?」
「だって中身はねーちゃんなんだし。エディーも殿下も、見た目じゃなくて中身が好きなんだから」
「……そう、かな」
だったら……いいんだけど。

「それを気にするってことは、決めたの?」
「え?」
「殿下と復縁するのか、エディーを選ぶのか」
「それは……」
「まあ、助かった時の反応見てたら分かるけど」
え、分かる?

「あいつには可哀想だけど、でもクリスティナ嬢自身の気持ちが一番だから」
そう言い残してラウルは部屋を出て行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はあなたの何番目ですか?

ましろ
恋愛
医療魔法士ルシアの恋人セシリオは王女の専属護衛騎士。王女はひと月後には隣国の王子のもとへ嫁ぐ。無事輿入れが終わったら結婚しようと約束していた。 しかし、隣国の情勢不安が騒がれだした。不安に怯える王女は、セシリオに1年だけ一緒に来てほしいと懇願した。 基本ご都合主義。R15は保険です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】最推しは悪役王女ですから、婚約者とのハピエンを希望します。氷の皇帝が番だとか言ってきますが、そんなの知りません。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
愛読書「失われた王国」の世界に転生してしまった。しかも悪役令嬢役の王女リヴシェ・ヴィシェフラドにだ。待ち受ける未来は、ヒロインを虐め倒しての断罪と処刑、お約束の鉄板設定で。 前世の記憶を思い出したリヴシェは、へらりと笑った。 これぞ究極の推し活だ。思う存分リヴシェを愛でて、幸せにしてあげられる。アンチヒロイン、最推しは悪役令嬢役のリヴシェだったから、喜ぶなという方が無理。 早速リヴシェ幸福化計画を、実行に移した。 ヒロイン異母妹にはできる限り関わらず、ヒーロー帝国皇太子にも同様で、二番手ヒーローの婚約者とは仲良くしよう。 なのにどうして? ヒーローは黒狼の獣人で「おまえは番だ」なんて言い寄ってくるけど、そんなの小説の設定にはなかったし、2番手ヒーローはヤンデレ風味で、優しいはずの小説設定とは違うし。天真爛漫で清らかな設定のヒロインは、どうやらものすっごい腹黒で、リヴシェに積極的に関わってくるし……。 小説設定と違い過ぎる世界だけど、幸福化計画はやめる気はない。 元23歳オタク女が、最推しの悪役王女を幸せにするために今日も頑張るお話し。

推しのトラウマメイカーを全力で回避したら未来が変わってしまったので、責任もって彼を育てハッピーエンドを目指します!

海老飛りいと
恋愛
異世界転生したら乙女ゲームのスチルに一瞬映るモブキャラ(たぶん悪役)で、推しキャラに性的トラウマを与えたトラウマメイカー役だった。 今まさにその現場に当人としていることを思い出したので、推しを救いだしたらルートが改変? 彼の未来が変わってしまったようなので、責任をとってハッピーエンドになるようにがんばる! な、モブキャラの大人女性×ショタヒーローからはじまるちょっとえっちなギャグラブコメディです。 ライトな下品、ご都合あり。ラッキースケベ程度のエロ。恋愛表現あり。年の差と立場と前世の記憶でじれじれだけどなんだかんだで結果的にはラブラブになります。 完結しました。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...