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17 気づかなかった思い
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温室を出ると、そろそろ日が暮れるのだろう、少し冷たい風が吹いていた。
(殿下も……私が好きだったの?)
そんなの、全然知らなかったんですけど!
「クリスティナ嬢」
殿下の言葉を思い出して頭の中がぐるぐるしながら外廊下を歩いていると、声をかけられた。
「……ラウル様」
振り返ると、書類らしき紙の束を抱えたラウルが立っていた。
「お帰りですか」
「ええ……ラウル様は何をなさっているのですか」
「勉強を兼ねて父上の手伝いに、というのは建前で」
さすが未来の宰相、と感心しかけていると、ラウルは私へ近づき声をひそめた。
「エディーに頼まれたんだ。様子を見てきてって」
「え?」
「今、殿下と会ってたんでしょ」
私をじっと見てそういうと、ラウルはにっこりと笑って身体を離した。
「クリスティナ嬢、よかったら書類整理を手伝ってもらえますか」
「え……ええ」
「こちらです」
身を翻したラウルの後についていくと、政務官たちの部屋が集まるエリアの一部屋へとたどり着いた。
「ねえ、あなた知ってたの?」
壁一面に作り付けの本棚がある、小さな書庫のような部屋に入ると私はラウルに尋ねた。
「何が?」
「エディーが……その、私のことを好きだって……」
「ああ、うん」
「いつから?」
「最初の試験のあと、僕のところに来て『勉強を教えて欲しい』って言われて。それならお義姉さんに聞けばって返したら、『あいつより出来るようになりたい』って。その顔を見て、ああ好きなんだなって分かった」
「え、そんなので分かるの?」
「花奈姉ちゃんには分からないだろうね」
どや顔がちょっとムカつくんですけれど。
「前世からそうだよね。花奈姉ちゃんのこと好きだって人、僕、二人知ってたよ」
「……は?」
え、誰?
「好きって……告白なんかされたことないわ」
「アプローチしてるのに全く反応がないから脈がないと思ってたんだろうね。エディーも嘆いてたよ、婚約解消してから態度とか変えてるのに全然気づかないって」
態度? ……もしかして。
「……婚約解消されたの気遣って優しくしてくれてるんだと思ってた」
「だろうね。そう思ったから、遠回しじゃなくて直接言わないと伝わらないと思うよって言っておいた」
「そうだったの……」
それで告白をしてきたの。
「それで、殿下とは何の話をしたの?」
「え、ええと……」
一瞬躊躇ったが、私はラウルに殿下とのやりとりを話すことにした。
「ふうん」
話を終えると、ラウルはじと目で私を見た。
「殿下に対しての態度が薄情だなと思ってたけど、殿下に思われていたことも気づいてなかったんだ」
「え、だってそんなの思わないじゃない」
「何で?」
「だって、私が婚約者になったのって王妃様が決めたことだし……まだ十歳の時だったのよ」
「婚約した時はそうじゃなかったとしても、時間が経てば好きになってくのは普通にあり得るでしょ」
「それに、ゲームでは……」
「あのね、姉ちゃん」
ラウルは私の言葉を遮った。
「確かにここはゲームの世界と同じだけど、それを知ってるのは僕たちだけだ。殿下や他の人たちにとってはそんなこと関係ないんだよ」
「……それは……そうだけど」
「姉ちゃんはゲームに囚われすぎて、婚約破棄された時のことを気にするあまり現実にいる殿下とちゃんと向き合ってこなかったでしょ」
う……心に刺さるなあ。
でも……本当に、殿下やエディーが私のことを好きだなんて、全く気がつかなかったんだもの。
「もうヒロインもいなくなったんだから。ちゃんと現実を見て選んでね」
「選ぶ?」
「殿下なのかエディーなのか、それとも他の人なのか。クリスティナ嬢は誰を選ぶの?」
「選ぶって……」
「父上たちは、クリスティナ嬢に王太子妃になって欲しいと望んでる。僕も国のためを思えばそれがいいとは思うけれど、友人に幸せになってもらいたい気持ちもある。でも選ぶのはクリスティナ嬢自身だ。……前世の分も含めて幸せにならないとね」
優しげな笑顔を浮かべてラウルはそう言った。
「お帰り」
家について馬車の扉が開くとエディーが立っていた。
「……ただいま」
手を差し出してきたのでそれを取って馬車から降りる。
「遅かったな」
「そう? ……ラウル様に会ったんだけど。あなたに頼まれたって」
「俺は同行できないからな」
「わざわざ探りを入れなくても……」
「それで、王太子殿下には会ったのか」
「……会ったわよ」
そう答えると、エディーはぎゅっと私の手を握りしめた。
「何て言われた」
手を握られたまま、私はエディーの部屋へと連れてこられた。
「……私に妃になってほしいって」
「それで、何て返した」
「考えさせてくださいって」
「もういいんじゃなかったのか?」
「うん……そう思って一度はお断りしたんだけど。もう一度チャンスが欲しいって言われたから」
顔がやつれるほど反省した殿下の真剣な眼差しを見てしまったら、拒否するのも申し訳ない気持ちになった。
それに、そのあとラウルに言われて……確かに私自身にも反省すべき点があると気づいたのだ。
私はゲームを気にするあまり、殿下とあまり親しくしなりすぎないようにしていた。
ラウルの言うように、私の態度はゲームを知らない殿下に対して失礼だったし……そのせいで殿下もヒロインと親しくしてしまったのだとしたら、私にも婚約解消の責任があるのだと。
「それで、学園が始まったら改めて交流していこうということになったの」
「ふうん」
鼻を鳴らすとエディーは私の腕を取り、自分へと引き寄せた。
「負けないから」
私を抱きしめてエディーは言った。
(殿下も……私が好きだったの?)
そんなの、全然知らなかったんですけど!
「クリスティナ嬢」
殿下の言葉を思い出して頭の中がぐるぐるしながら外廊下を歩いていると、声をかけられた。
「……ラウル様」
振り返ると、書類らしき紙の束を抱えたラウルが立っていた。
「お帰りですか」
「ええ……ラウル様は何をなさっているのですか」
「勉強を兼ねて父上の手伝いに、というのは建前で」
さすが未来の宰相、と感心しかけていると、ラウルは私へ近づき声をひそめた。
「エディーに頼まれたんだ。様子を見てきてって」
「え?」
「今、殿下と会ってたんでしょ」
私をじっと見てそういうと、ラウルはにっこりと笑って身体を離した。
「クリスティナ嬢、よかったら書類整理を手伝ってもらえますか」
「え……ええ」
「こちらです」
身を翻したラウルの後についていくと、政務官たちの部屋が集まるエリアの一部屋へとたどり着いた。
「ねえ、あなた知ってたの?」
壁一面に作り付けの本棚がある、小さな書庫のような部屋に入ると私はラウルに尋ねた。
「何が?」
「エディーが……その、私のことを好きだって……」
「ああ、うん」
「いつから?」
「最初の試験のあと、僕のところに来て『勉強を教えて欲しい』って言われて。それならお義姉さんに聞けばって返したら、『あいつより出来るようになりたい』って。その顔を見て、ああ好きなんだなって分かった」
「え、そんなので分かるの?」
「花奈姉ちゃんには分からないだろうね」
どや顔がちょっとムカつくんですけれど。
「前世からそうだよね。花奈姉ちゃんのこと好きだって人、僕、二人知ってたよ」
「……は?」
え、誰?
「好きって……告白なんかされたことないわ」
「アプローチしてるのに全く反応がないから脈がないと思ってたんだろうね。エディーも嘆いてたよ、婚約解消してから態度とか変えてるのに全然気づかないって」
態度? ……もしかして。
「……婚約解消されたの気遣って優しくしてくれてるんだと思ってた」
「だろうね。そう思ったから、遠回しじゃなくて直接言わないと伝わらないと思うよって言っておいた」
「そうだったの……」
それで告白をしてきたの。
「それで、殿下とは何の話をしたの?」
「え、ええと……」
一瞬躊躇ったが、私はラウルに殿下とのやりとりを話すことにした。
「ふうん」
話を終えると、ラウルはじと目で私を見た。
「殿下に対しての態度が薄情だなと思ってたけど、殿下に思われていたことも気づいてなかったんだ」
「え、だってそんなの思わないじゃない」
「何で?」
「だって、私が婚約者になったのって王妃様が決めたことだし……まだ十歳の時だったのよ」
「婚約した時はそうじゃなかったとしても、時間が経てば好きになってくのは普通にあり得るでしょ」
「それに、ゲームでは……」
「あのね、姉ちゃん」
ラウルは私の言葉を遮った。
「確かにここはゲームの世界と同じだけど、それを知ってるのは僕たちだけだ。殿下や他の人たちにとってはそんなこと関係ないんだよ」
「……それは……そうだけど」
「姉ちゃんはゲームに囚われすぎて、婚約破棄された時のことを気にするあまり現実にいる殿下とちゃんと向き合ってこなかったでしょ」
う……心に刺さるなあ。
でも……本当に、殿下やエディーが私のことを好きだなんて、全く気がつかなかったんだもの。
「もうヒロインもいなくなったんだから。ちゃんと現実を見て選んでね」
「選ぶ?」
「殿下なのかエディーなのか、それとも他の人なのか。クリスティナ嬢は誰を選ぶの?」
「選ぶって……」
「父上たちは、クリスティナ嬢に王太子妃になって欲しいと望んでる。僕も国のためを思えばそれがいいとは思うけれど、友人に幸せになってもらいたい気持ちもある。でも選ぶのはクリスティナ嬢自身だ。……前世の分も含めて幸せにならないとね」
優しげな笑顔を浮かべてラウルはそう言った。
「お帰り」
家について馬車の扉が開くとエディーが立っていた。
「……ただいま」
手を差し出してきたのでそれを取って馬車から降りる。
「遅かったな」
「そう? ……ラウル様に会ったんだけど。あなたに頼まれたって」
「俺は同行できないからな」
「わざわざ探りを入れなくても……」
「それで、王太子殿下には会ったのか」
「……会ったわよ」
そう答えると、エディーはぎゅっと私の手を握りしめた。
「何て言われた」
手を握られたまま、私はエディーの部屋へと連れてこられた。
「……私に妃になってほしいって」
「それで、何て返した」
「考えさせてくださいって」
「もういいんじゃなかったのか?」
「うん……そう思って一度はお断りしたんだけど。もう一度チャンスが欲しいって言われたから」
顔がやつれるほど反省した殿下の真剣な眼差しを見てしまったら、拒否するのも申し訳ない気持ちになった。
それに、そのあとラウルに言われて……確かに私自身にも反省すべき点があると気づいたのだ。
私はゲームを気にするあまり、殿下とあまり親しくしなりすぎないようにしていた。
ラウルの言うように、私の態度はゲームを知らない殿下に対して失礼だったし……そのせいで殿下もヒロインと親しくしてしまったのだとしたら、私にも婚約解消の責任があるのだと。
「それで、学園が始まったら改めて交流していこうということになったの」
「ふうん」
鼻を鳴らすとエディーは私の腕を取り、自分へと引き寄せた。
「負けないから」
私を抱きしめてエディーは言った。
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