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第四章 隠された真実
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「――あの時、は」
しばらくの沈黙の後、メイナードは口を開いた。
「そうすべきだと、そうすることが正義だと……そう思ったのだ」
「何故です? パトリシアが修道院へ送られるような、そんなことをしたと、殿下は本当に思っていたのですか」
セドリックはメイナードの隣――しかめ面でこちらを見ていたシャーロットへと視線を移した。
「何でもパトリシアは妃殿下を虐めたとか。けれどレンフィールド侯爵が調べたところ、そんな事実はどこにもなかったそうですね。そもそもパトリシアが彼女を虐める理由などありませんが」
好きでもない婚約者が誰と親しくしようとも、パトリシアには関係のないことだ。
「むしろパトリシアは望んでいたんです、あなた方が親しくなり自分との婚約が解消されるのを。彼女が無実だということは、友人たちや王宮の者たちも訴えていたそうですね。けれど殿下は、それらに耳を貸さなかった」
「……メイナード」
王妃が口を開いた。
「あなたは……何故その者の言うことだけを信じたのです。王となる者ならば一方の意見だけでなく、多くの声を聞き公正に判断すべきでしょう」
「……分かっています……今ならば、そうすべきだったと。もっと冷静になっていればと」
メイナードは深く息を吐いた。
「……何度もシャーロットから話を聞かされるうちに、パトリシアは嫉妬に狂うような酷い者だと……修道院で改心させなければと。――彼女もあの時はっきりとは否定しなかったとはいえ、どうしてあんな風に思い込んでいたのか……」
「酷い者、ですか」
セドリックはため息をついた。
「殿下の隣に立ちたいがために嘘を積み重ねて、何の罪もないパトリシアを修道院へと追放した。どちらが酷いのでしょうね」
そう言うとセドリックはシャーロットへ向いた。
「妃殿下。あなたは何故嘘を重ねたのです」
全員の視線がシャーロットへ送られた。
「嘘じゃないわ」
セドリックを見据えてシャーロットは言った。
「あの女は私を虐めて追放される、それが『役目』だもの」
「役目?」
「そうよ、あの女は『悪役令嬢』なの」
「悪役?」
「シャーロット……どういう意味だ」
「悪役令嬢は追放されてヒロインが幸せになる、それが『決まり』なの」
シャーロットは困惑した表情のメイナードを見た。
「なのにあの女は全然役に立たなかった、だから死んだの」
「言っている意味が分からないな」
そう呟いたセドリックを、シャーロットはきっと睨みつけた。
「大体、あなた何なの? 悪役令嬢に別に好きな人がいたとか、そんな話ゲームになかったんですけど」
「ゲーム?」
セドリックはルーシーと顔を見合わせた。
「シャーロット……パトリシアが死んだのは役目を果たさなかったからとはどういう意味だ」
メイナードが尋ねた。
「ゲームのシナリオ通りに動いていれば良かったのよ、そうすれば修道院で生きていられたのに。なのにあの女はシナリオ通りに動かなかった、だから罰として死んだの」
「そのシナリオ通りというのは、妃殿下を虐めるということですか」
「そうよ、それがあの女の役目なの」
「――つまり、パトリシア嬢は義姉上を虐めていないということだよね」
アーノルドが言った。
「その役目とやらを果たしていないんだから」
「あなたは……何故そんな嘘をついたのです」
王妃が声を震わせながらシャーロットを睨みつけた。
「嘘ではありません。あの女が役目を果たさないから、私が役目を果たさせたんです」
シャーロットは王妃を睨み返した。
「私はヒロインだから、王太子と結ばれて幸せにならないといけない。そのためには悪役令嬢は追放されなければならなかったの!」
沈黙が広がった。
「――愚かだとは思っていたけれど。頭もおかしかったなんて」
王妃は深くため息をついた。
「ゲームだのヒロインだの、何を言っているか分からないわ」
「その言葉は分からないけど、自分が妃になるために嘘をついてパトリシア嬢を追放させたってことだろ」
アーノルドは冷たい視線を兄へと向けた。
「何で兄上もそんな嘘を信じたんだか」
「嘘じゃないって言ってるでしょ!」
「パトリシア嬢があんたを虐めた事実はないんだろ」
叫んだシャーロットへとアーノルドは視線を移した。
「つまり嘘だったってことだろう」
「嘘じゃないわ!」
「――王太子妃を部屋へ連れていけ」
それまで黙っていた国王が口を開いた。
「ちよっと! 触らないでよ私は王太子妃よ!」
控えていた近衛騎士たちがシャーロットへ近づき、退出を促したがそれを拒否するもシャーロットは腕を掴まれようとしたのを振り解いた。
「構わず連れて行け」
「やめてよ! メイナード様!」
シャーロットが叫んだが、メイナードは足元を見つめたまま動かなかった。
しばらくの沈黙の後、メイナードは口を開いた。
「そうすべきだと、そうすることが正義だと……そう思ったのだ」
「何故です? パトリシアが修道院へ送られるような、そんなことをしたと、殿下は本当に思っていたのですか」
セドリックはメイナードの隣――しかめ面でこちらを見ていたシャーロットへと視線を移した。
「何でもパトリシアは妃殿下を虐めたとか。けれどレンフィールド侯爵が調べたところ、そんな事実はどこにもなかったそうですね。そもそもパトリシアが彼女を虐める理由などありませんが」
好きでもない婚約者が誰と親しくしようとも、パトリシアには関係のないことだ。
「むしろパトリシアは望んでいたんです、あなた方が親しくなり自分との婚約が解消されるのを。彼女が無実だということは、友人たちや王宮の者たちも訴えていたそうですね。けれど殿下は、それらに耳を貸さなかった」
「……メイナード」
王妃が口を開いた。
「あなたは……何故その者の言うことだけを信じたのです。王となる者ならば一方の意見だけでなく、多くの声を聞き公正に判断すべきでしょう」
「……分かっています……今ならば、そうすべきだったと。もっと冷静になっていればと」
メイナードは深く息を吐いた。
「……何度もシャーロットから話を聞かされるうちに、パトリシアは嫉妬に狂うような酷い者だと……修道院で改心させなければと。――彼女もあの時はっきりとは否定しなかったとはいえ、どうしてあんな風に思い込んでいたのか……」
「酷い者、ですか」
セドリックはため息をついた。
「殿下の隣に立ちたいがために嘘を積み重ねて、何の罪もないパトリシアを修道院へと追放した。どちらが酷いのでしょうね」
そう言うとセドリックはシャーロットへ向いた。
「妃殿下。あなたは何故嘘を重ねたのです」
全員の視線がシャーロットへ送られた。
「嘘じゃないわ」
セドリックを見据えてシャーロットは言った。
「あの女は私を虐めて追放される、それが『役目』だもの」
「役目?」
「そうよ、あの女は『悪役令嬢』なの」
「悪役?」
「シャーロット……どういう意味だ」
「悪役令嬢は追放されてヒロインが幸せになる、それが『決まり』なの」
シャーロットは困惑した表情のメイナードを見た。
「なのにあの女は全然役に立たなかった、だから死んだの」
「言っている意味が分からないな」
そう呟いたセドリックを、シャーロットはきっと睨みつけた。
「大体、あなた何なの? 悪役令嬢に別に好きな人がいたとか、そんな話ゲームになかったんですけど」
「ゲーム?」
セドリックはルーシーと顔を見合わせた。
「シャーロット……パトリシアが死んだのは役目を果たさなかったからとはどういう意味だ」
メイナードが尋ねた。
「ゲームのシナリオ通りに動いていれば良かったのよ、そうすれば修道院で生きていられたのに。なのにあの女はシナリオ通りに動かなかった、だから罰として死んだの」
「そのシナリオ通りというのは、妃殿下を虐めるということですか」
「そうよ、それがあの女の役目なの」
「――つまり、パトリシア嬢は義姉上を虐めていないということだよね」
アーノルドが言った。
「その役目とやらを果たしていないんだから」
「あなたは……何故そんな嘘をついたのです」
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「嘘ではありません。あの女が役目を果たさないから、私が役目を果たさせたんです」
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「私はヒロインだから、王太子と結ばれて幸せにならないといけない。そのためには悪役令嬢は追放されなければならなかったの!」
沈黙が広がった。
「――愚かだとは思っていたけれど。頭もおかしかったなんて」
王妃は深くため息をついた。
「ゲームだのヒロインだの、何を言っているか分からないわ」
「その言葉は分からないけど、自分が妃になるために嘘をついてパトリシア嬢を追放させたってことだろ」
アーノルドは冷たい視線を兄へと向けた。
「何で兄上もそんな嘘を信じたんだか」
「嘘じゃないって言ってるでしょ!」
「パトリシア嬢があんたを虐めた事実はないんだろ」
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「つまり嘘だったってことだろう」
「嘘じゃないわ!」
「――王太子妃を部屋へ連れていけ」
それまで黙っていた国王が口を開いた。
「ちよっと! 触らないでよ私は王太子妃よ!」
控えていた近衛騎士たちがシャーロットへ近づき、退出を促したがそれを拒否するもシャーロットは腕を掴まれようとしたのを振り解いた。
「構わず連れて行け」
「やめてよ! メイナード様!」
シャーロットが叫んだが、メイナードは足元を見つめたまま動かなかった。
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