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第三章 誠実な恋人たち
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「可愛い……!」
ベビーベッドで眠る赤子を覗き込んでルーシーは声を上げた。
「ちっちゃい……可愛い……」
「あう」
目を輝かせながら見つめるルーシーに向かって小さな手が伸ばされた。
ルーシーが手を差し出すと、その指を赤子が握りしめ、ルーシーを見上げてキャッキャと喜びの声をあげた。
「……か……」
悶えながらルーシーは声にならない声を上げた。
「まあ、クリストファーはルーシーを気に入ったのかしら」
その様子を見守っていたアメーリアが微笑んだ。
「ルーシーは僕のものだぞ」
隣で同じように赤子を覗き込んでいたエリオットがムッとした口調で甥に向かって言った。
「赤ちゃんって初めて近くで見るんです……こんなに可愛いんですね……」
ルーシーははあ、とため息をついた。
「これからもっと可愛くなるのよ、動けるようになったりおしゃべりできるようになって。毎日毎日可愛さが増していくの」
「わあ……」
アメーリアの言葉にルーシーは更に目を輝かせた。
「これ以上可愛くなるなんて……どうしましょう」
「……ルーシーの赤ちゃんの方がきっともっと可愛いよ」
横目でルーシーを見てエリオットは言った。
「そうね、ルーシーと殿下の赤ちゃんもきっととても可愛いわ」
「……そうでしょうか」
ルーシーは照れたように少し顔を赤らめた。
「クリストファー様、可愛かったですね……」
「さっきからそればかりだね」
「殿下! ルーシー!」
アメーリアの元から帰る途中、声をかけられ二人は振り返った。
「ブリトニー様」
大きな籠を手にしたブリトニーが駆け寄ってきた。
「ブリトニー、今日はどうして王宮へ?」
「近衛騎士団への差し入れです」
籠へと視線を落としてブリトニーは答えた。
「わざわざ君が?」
「今日は模擬戦を行うので見学にきましたの。差し入れはついでですわ」
「模擬戦ですか」
「ええ。お二人は?」
「アメーリア様のお子様を見に行ってきたんです」
ルーシーは頬を緩めた。
「もう可愛くて可愛くて。ずっと見ていたかったです……」
「まあ、ルーシーは赤ちゃんが好きなの?」
「はい、これからもっと可愛くなるそうですね」
「そうね……私も弟が小さい時はすごく可愛かったけど、だんだん憎たらしくなっていくのよね」
「……そうなんですか?」
「生意気な口をきくようになって。最近は身長も抜かれてもう全然可愛くないわ」
ブリトニーはため息をついた。
「マクレガーは十五歳だったか」
「ええ、今日の模擬戦にも参加するんです。そうだ、お二人も見に行きますか?」
「いいのですか?」
「ええ、皆で見た方が楽しいですもの」
笑顔でブリトニーはそう言った。
訓練場には多くの近衛騎士たちが集まっていた。
「お父様!」
ブリトニーが声をかけると、マントを纏った体格の良い男性がこちらへ向かって歩いてきた。
「お父様、こちらがルーシー嬢ですわ」
「ルーシー・アングラードと申します」
ルーシーが挨拶をして顔を上げると、男性はその顔を見て息を呑んだ。
「あ……ああ、近衛騎士団長のルイス・オールストンだ。娘から話はよく聞いています」
「ブリトニー様にはとてもお世話になっております」
「そうですか……どうぞごゆっくりご覧下さい、殿下も」
「……ルーシーを見て驚いていたね」
近衛騎士団長が戻っていくのを見ながらエリオットは小さく呟いた。
「やっぱり似てるからかな」
「そうですね……」
ブリトニーの話では、団長はパトリシアが追放された場に居合わせていたのだという。
(他にも人がいたはずなのに……どうして誰も止めてくれなかったのだろう)
婚約破棄はありうるとしても。修道院へ追放なんて、どうしてそんなことをしたのだろう。
「ルーシー。向こうへ座ろうか」
表情が暗くなったルーシーの手を取ると、エリオットはベンチへと促した。
模擬戦は順調に進んでいった。
ルーシーには剣技の良し悪しは分からなかったが、エリオットとブリトニーが解説をしてくれるうちになんとなく解るようにはなってきた。
「あの細い方が弟のマクレガーよ」
新しい対戦者が出てくるとブリトニーが言った。
「……こうして見ると、大きくなったのは身長だけで身体はまだまだね」
対峙している二人は身長こそ同じくらいだが、その身体の厚みには大きな違いがあった。
「十五歳でもう騎士の方々と対戦するのですか」
まだ学園に入るか入らないかの年齢なのに。ルーシーは疑問に思い尋ねた。
「本来なら学園卒業後なんでしょうけれど、うちは代々近衛騎士を輩出する家だし父親は団長でしょう。だから幼い頃から騎士たちに揉まれているわ」
「凄いですね……」
マクレガーは身体こそ細いけれど、その身軽さを活かした素早い剣さばきで互角に戦っていた。
ベビーベッドで眠る赤子を覗き込んでルーシーは声を上げた。
「ちっちゃい……可愛い……」
「あう」
目を輝かせながら見つめるルーシーに向かって小さな手が伸ばされた。
ルーシーが手を差し出すと、その指を赤子が握りしめ、ルーシーを見上げてキャッキャと喜びの声をあげた。
「……か……」
悶えながらルーシーは声にならない声を上げた。
「まあ、クリストファーはルーシーを気に入ったのかしら」
その様子を見守っていたアメーリアが微笑んだ。
「ルーシーは僕のものだぞ」
隣で同じように赤子を覗き込んでいたエリオットがムッとした口調で甥に向かって言った。
「赤ちゃんって初めて近くで見るんです……こんなに可愛いんですね……」
ルーシーははあ、とため息をついた。
「これからもっと可愛くなるのよ、動けるようになったりおしゃべりできるようになって。毎日毎日可愛さが増していくの」
「わあ……」
アメーリアの言葉にルーシーは更に目を輝かせた。
「これ以上可愛くなるなんて……どうしましょう」
「……ルーシーの赤ちゃんの方がきっともっと可愛いよ」
横目でルーシーを見てエリオットは言った。
「そうね、ルーシーと殿下の赤ちゃんもきっととても可愛いわ」
「……そうでしょうか」
ルーシーは照れたように少し顔を赤らめた。
「クリストファー様、可愛かったですね……」
「さっきからそればかりだね」
「殿下! ルーシー!」
アメーリアの元から帰る途中、声をかけられ二人は振り返った。
「ブリトニー様」
大きな籠を手にしたブリトニーが駆け寄ってきた。
「ブリトニー、今日はどうして王宮へ?」
「近衛騎士団への差し入れです」
籠へと視線を落としてブリトニーは答えた。
「わざわざ君が?」
「今日は模擬戦を行うので見学にきましたの。差し入れはついでですわ」
「模擬戦ですか」
「ええ。お二人は?」
「アメーリア様のお子様を見に行ってきたんです」
ルーシーは頬を緩めた。
「もう可愛くて可愛くて。ずっと見ていたかったです……」
「まあ、ルーシーは赤ちゃんが好きなの?」
「はい、これからもっと可愛くなるそうですね」
「そうね……私も弟が小さい時はすごく可愛かったけど、だんだん憎たらしくなっていくのよね」
「……そうなんですか?」
「生意気な口をきくようになって。最近は身長も抜かれてもう全然可愛くないわ」
ブリトニーはため息をついた。
「マクレガーは十五歳だったか」
「ええ、今日の模擬戦にも参加するんです。そうだ、お二人も見に行きますか?」
「いいのですか?」
「ええ、皆で見た方が楽しいですもの」
笑顔でブリトニーはそう言った。
訓練場には多くの近衛騎士たちが集まっていた。
「お父様!」
ブリトニーが声をかけると、マントを纏った体格の良い男性がこちらへ向かって歩いてきた。
「お父様、こちらがルーシー嬢ですわ」
「ルーシー・アングラードと申します」
ルーシーが挨拶をして顔を上げると、男性はその顔を見て息を呑んだ。
「あ……ああ、近衛騎士団長のルイス・オールストンだ。娘から話はよく聞いています」
「ブリトニー様にはとてもお世話になっております」
「そうですか……どうぞごゆっくりご覧下さい、殿下も」
「……ルーシーを見て驚いていたね」
近衛騎士団長が戻っていくのを見ながらエリオットは小さく呟いた。
「やっぱり似てるからかな」
「そうですね……」
ブリトニーの話では、団長はパトリシアが追放された場に居合わせていたのだという。
(他にも人がいたはずなのに……どうして誰も止めてくれなかったのだろう)
婚約破棄はありうるとしても。修道院へ追放なんて、どうしてそんなことをしたのだろう。
「ルーシー。向こうへ座ろうか」
表情が暗くなったルーシーの手を取ると、エリオットはベンチへと促した。
模擬戦は順調に進んでいった。
ルーシーには剣技の良し悪しは分からなかったが、エリオットとブリトニーが解説をしてくれるうちになんとなく解るようにはなってきた。
「あの細い方が弟のマクレガーよ」
新しい対戦者が出てくるとブリトニーが言った。
「……こうして見ると、大きくなったのは身長だけで身体はまだまだね」
対峙している二人は身長こそ同じくらいだが、その身体の厚みには大きな違いがあった。
「十五歳でもう騎士の方々と対戦するのですか」
まだ学園に入るか入らないかの年齢なのに。ルーシーは疑問に思い尋ねた。
「本来なら学園卒業後なんでしょうけれど、うちは代々近衛騎士を輩出する家だし父親は団長でしょう。だから幼い頃から騎士たちに揉まれているわ」
「凄いですね……」
マクレガーは身体こそ細いけれど、その身軽さを活かした素早い剣さばきで互角に戦っていた。
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