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第一章

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「聖獣の加護など……何百年ぶりだろうか」
報告を聞いて国王は感慨深く息を吐いた。

王宮の謁見の間。
玉座に座るのは国王と王妃。
そして王太子コルネリウスと第二王子ハインツが王の隣に控えている。

他にこの場にいるのは神殿の最高責任者である司祭長と宰相。
アルムスター伯爵とその嫡男フリードリヒに娘カタリーナ。
そして聖狼リーコス。

王都の屋敷に戻り、カタリーナが聖狼の加護を受けたということを父親に報告すると、すぐに国王にも報告しなければという話になった。
そうして翌日にはこの場が設けられたのだ。
一同の視線を集めるリーコスは、それを気にする様子もなくカタリーナの傍で寛いでいた。

「聖獣の姿を拝める日が来るとは……」
年老いた司祭長は涙を流している。
神殿にとっても聖獣は神話的存在で、中には実在するのを否定する神官もいるという。
それは貴族や平民達も同様で……この数百年、誰もその姿を見たことはなかったのだ。

「聖獣リーコス殿にはお尋ねしたいことが色々とあるのですが」
常に冷静な宰相がリーコスに向かって口を開いた。
「まず、過去聖獣が加護を授けるのは決まった一族の当主ときいております。ですがカタリーナ嬢は当主ではなく、いずれ王家に嫁がれる身。これは……」
「アルムスターの血を引く者で私が認めた者ならば誰でも与えられる」
宰相の言葉を遮ってリーコスは言った。

「当主のみとは一族間での争いを避けるために人間が決めた。カタリーナは私を助けた、その礼に与えたのだ」
「アルムスター家以外はありえないのですか?」
「相性があるからな、合わない血に授けてしまうとその者の破滅を呼ぶ」
「破滅……」
「魔力が暴走したり、逆に失われる事もあるな」
思わず呟いたカタリーナに顔を向けてリーコスは言った。

「それで、カタリーナ嬢は確かに魔力が増えたのですのか?」
宰相もカタリーナに向いた。
「はい……いつもよりも効果の高い薬を作ることができました」
「薬?」
「娘は幼い頃から薬作りに興味があり、領地のギルドで使う薬を今も作っております」
アルムスター伯爵が言葉を継いだ。

「そういえば薬草を採りにいった先でリーコス殿と会ったのでしたね」
「ええ。それで魔力の量を調べるならば薬を作るのが分かりやすいと思い、昨夜これを」
伯爵は懐から二本の小瓶を取り出した。
「リボンがついたものが昨夜作ったもの、もう一本は以前作ったものです」

「———それを見せてくれるか」
司祭長はそう言って、差し出された小瓶を受け取った。
「これは……」
手に取った小瓶を握りしめると司祭長は唸った。

薬草の使い方は二通りある。
一つは乾燥させたものを煮出して飲む方法で、誰にでも作ることができる。
もう一つは魔力を持った者が作る『薬』で、煮出す時に魔力を注ぐことでより薬草の効果を増したり変質させることができるのだ。
薬の効果は魔力量や技術によって変わるため、作る者次第でその性能もかなり異なってくる。
「元々のものもかなりいい薬だが、こちらは……これほどの薬は見たことがない」
薬には魔力が込められているため、司祭長ほどの力があると触れただけで薬の効果を判断することができるのだ。

「そんなにですか」
「神殿の薬師でもこれを作るのは無理であろう。魔力とは異なる力も感じる……おそらくこれが聖獣の力であろうが」
司祭長は一同を見渡した。
「今まで治せなかった病や怪我もこれで治せるであろう。それだけ万能であると共に……これは危険なものだ」

「危険?」
「このような薬を作る事のできるカタリーナ嬢をめぐり争いが起きることもあろう。加護を授けられたことを明かすのは慎重にした方がよかろう」
「そうですね、薬のことがなくとも聖獣の加護を授けられた人間は他にいない……カタリーナ嬢を手に入れようとする者がきっと出てくる」
「殿下の婚約者で良かったの。理由を明かすことなく王家で保護できる」

「ではリーコス殿の存在も含め、この事は他言無用だ」
司祭長と宰相の言葉を受けて国王が言った。
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