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第四章 令嬢は困惑する

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しばらくして熱が下がり、体調が戻ってきた頃にはもう夏期休暇も残り五日ほどになっていた。
———結局どこにも行かれなかった。
海、行きたかったな…
しばらくパトリックにも会っていない。
寂しい。


そんな悲しみの中、レベッカがお見舞いに来てくれた。

「ドーナツはまだ無理でしょうからコンポートを作ってきたの」
「わあっ」
リンゴだろうか、容器の中には赤く染まった、艶やかな果物が並べられていた。
「きれいな色…」
「ワインで煮たの。アルコールは飛んでいるから酔ったりはしないわ」
「すごいわ。レベッカはこんなものまで作れるのね」
「前世からお菓子作りは好きだったから…。それにコンポートは煮るだけだからそう難しくはないわ」

コンポートを一切れ口に入れると、ふんわりとワインの香りが広がる。
「美味しい!」
ほどよい甘みとリンゴの酸味…それらが組み合わさってとても美味しい。
「良かった」
レベッカは嬉しそうに笑った。
元々可愛らしい顔立ちだけれど、今日はそれに加えて大人っぽいというか…女らしさが増したような…これは、もしかして。

「…何にやけているの」
「レベッカが綺麗になったのは、リアム様と順調だからなのかなーと思って」


「は?!」
見る間にレベッカの顔が赤くなる。
「な、何を言ってるのよ!」
「だって。お休み中も会っているの?」
「え…ああ…まあ…」
———これは会っているな。
私は確信した。


「この間もガーデンパーティーがあったわよね、ゲームにもあった」
「…そうね」
「それも一緒だったの?」

「……虫除けを頼まれたわ」
「虫除け?」
「夜会の時に私をエスコートしたら、女性嫌いが治ったんじゃないかと思われたらしくて。アプローチが急増したんですって」
「ああ…」
侯爵子息で宰相の息子のリアムはテオドーロよりも優良物件だ。
それはさぞ狙われるだろう。

「それで…今後は私しか…パートナーにしたくないと言われて…」
「それってゲームで最後の方に言われる言葉じゃない!」
確か、そこでパートナーの証としてアメジストのネックレスを渡されるのよね。

「ネックレスはもらったの?」
「…それはまだだけど…」
「あとはどこにデートに行ったの?」
ゲームだと図書館とか博物館みたいな場所が多かったけど。

「…そんなの…別にいいじゃない」
レベッカは赤らめていた顔を私へ向けた。



「そんな事より…そのガーデンパーティーの日、何かあったの?」
「…え?」
レベッカの言葉にぎくりとした。
「…どうして…?」
「あの日、テオドーロ様が途中で帰ったのよね」
「テオが?」

「殿下も来る予定だったのに姿が見えなくて。誰かがリアム様に尋ねたら〝急用が出来てこられなくなった〟と答えたの。そうしたら側でそれを聞いたテオドーロ様が〝帰らなくちゃ〟と言って…」
「…そうだったの」
あの日テオドーロが早く帰って来たのはそんな理由があったのか。
———もしも早く帰って来なかったら、私は殿下に〝既成事実〟を…


「アレクシア?何かあったの?」
ぞっとして思わず自分の腕を抱きしめた私を見て、レベッカが心配そうに首を傾げた。

「…ええ…あのね…」
迷いながら私は答えた。
「殿下の、初恋の人…私だったみたい」


殿下の事、テオドーロの事。
これまでに知った事を私はレベッカに話した。

彼女に言っていいのか分からない。
だけど…一人で抱え込むのも辛かった。

誰かに———前世やゲームの事を知るレベッカに、話を聞いて欲しかった。
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