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第四章 令嬢は困惑する
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夏期休暇に入ったけれど、パトリックの領地はおろか、自分の領地へも行かれていない。
熱が下がらないのだ。
微熱がずっと続いている状態で、何となく身体がだるいくらいなのだけれど、馬車で何日も移動は出来ないと診断された。
なのでせっかくの休みだというのにずっと屋敷に引きこもっている。
パトリックは何度も見舞いに来てくれたけれど、どうしても領地に帰らないとならないと数日前に旅立ってしまった。
来年卒業したら、本格的に領地経営に関わるためその準備があるのだ。
パトリックには、テオドーロから求婚された事を伝えていない。
彼に言うべきなのか悩んでいる。
父とは話をした。
———父も説得したけれど、諦める気配はないので本人が私とパトリックの婚約解消が無理だと納得するまでテオドーロの好きにさせてやって欲しいと言われた。
好きにはさせると言ったが、もしもテオドーロが私に手を出すような事があれば勘当して二度と会わせないと誓わせたそうだ。
…私の貞操が守られれば何をしてもいいのかと少しモヤモヤしたが、確かに今のテオドーロには何を言っても聞かないように思う。
そのテオドーロは楽しそうに、毎日私の世話をしている。
以前のように手ずから食べさせようとしたり、侍女の代わりに私の髪を梳いてくる。
そして事あるごとに私へ甘い言葉を囁いてくるのだ。
———自分の心を抑える事をやめたテオドーロは全身で愛情を示してこようとするのだが…重い。
重いというか…過剰に世話を焼きたがるそれは、まるで母親が子供を愛するようで。
色々な意味でツライ。
今日は珍しくテオドーロは外出している。
王都に残る学生達が参加するガーデンパーティーが開かれるのだ。
テオドーロは行くのを渋っていたが、伯爵家を継ぐのだから社交も大切にするよう父に言われ、「これもシアとの未来のため」と自分に言い聞かせて出ていった。
このパーティーはゲームにもあり、リアムとのイベントが起きるのだ。
という事はレベッカも行っているのだろうか。
父は仕事で王宮へ、母もお茶会に呼ばれて外出している。
一人、静かな家で私はソファに座り気怠い身体を持て余しながらぼんやりとしていた。
「お嬢様っ」
慌てた様子の侍女が部屋に駆け込んできた。
「レオポルド殿下がいらっしゃいました」
「え?」
「早くお召し替えを…」
「その必要はないよ」
侍女の後ろから声が聞こえた。
「殿下…」
「シア。やっと会いに来られた」
立ち上がろうとする私を制すると、殿下は侍女達を振り返った。
「君達は下がっていてくれ」
「ですが…」
「いいから下がれ」
鋭い殿下の声に、逆らえるはずもなく侍女達は部屋を出ていった。
…え…殿下と二人きり?
「シア」
殿下は私のすぐ隣に腰を下ろすと頬に手を伸ばしてきた。
「まだ痕が残っているね…可哀想に」
それから額へと手を滑らせる。
「熱もある…苦しい?」
「いえ…少しだるく感じるくらいで…」
「可哀想に」
もう一度そう言うと、殿下は私の肩を抱き自分へと引き寄せた。
「殿下…」
「レオって呼んでくれないの?」
私を腕の中に閉じ込めると、殿下はそう言って私の額へと口づけを落とした。
———何でこんなに触れてくるの?!
急に…前から親しく接してきていたけれど、これじゃあまるで…
「で、殿下…」
「シア。まだ思い出せないの?あの時レオって呼んでくれたから…思い出したんだと嬉しかったのに」
確かに…あの瞬間、私も何かを思い出したように感じた。
だけど…
「…ごめんなさい…まだ…」
「じゃあ教えてあげる」
殿下は私の顔を覗き込んだ。
「私達は恋人同士だったんだよ」
そう言って、殿下は微笑んだ。
熱が下がらないのだ。
微熱がずっと続いている状態で、何となく身体がだるいくらいなのだけれど、馬車で何日も移動は出来ないと診断された。
なのでせっかくの休みだというのにずっと屋敷に引きこもっている。
パトリックは何度も見舞いに来てくれたけれど、どうしても領地に帰らないとならないと数日前に旅立ってしまった。
来年卒業したら、本格的に領地経営に関わるためその準備があるのだ。
パトリックには、テオドーロから求婚された事を伝えていない。
彼に言うべきなのか悩んでいる。
父とは話をした。
———父も説得したけれど、諦める気配はないので本人が私とパトリックの婚約解消が無理だと納得するまでテオドーロの好きにさせてやって欲しいと言われた。
好きにはさせると言ったが、もしもテオドーロが私に手を出すような事があれば勘当して二度と会わせないと誓わせたそうだ。
…私の貞操が守られれば何をしてもいいのかと少しモヤモヤしたが、確かに今のテオドーロには何を言っても聞かないように思う。
そのテオドーロは楽しそうに、毎日私の世話をしている。
以前のように手ずから食べさせようとしたり、侍女の代わりに私の髪を梳いてくる。
そして事あるごとに私へ甘い言葉を囁いてくるのだ。
———自分の心を抑える事をやめたテオドーロは全身で愛情を示してこようとするのだが…重い。
重いというか…過剰に世話を焼きたがるそれは、まるで母親が子供を愛するようで。
色々な意味でツライ。
今日は珍しくテオドーロは外出している。
王都に残る学生達が参加するガーデンパーティーが開かれるのだ。
テオドーロは行くのを渋っていたが、伯爵家を継ぐのだから社交も大切にするよう父に言われ、「これもシアとの未来のため」と自分に言い聞かせて出ていった。
このパーティーはゲームにもあり、リアムとのイベントが起きるのだ。
という事はレベッカも行っているのだろうか。
父は仕事で王宮へ、母もお茶会に呼ばれて外出している。
一人、静かな家で私はソファに座り気怠い身体を持て余しながらぼんやりとしていた。
「お嬢様っ」
慌てた様子の侍女が部屋に駆け込んできた。
「レオポルド殿下がいらっしゃいました」
「え?」
「早くお召し替えを…」
「その必要はないよ」
侍女の後ろから声が聞こえた。
「殿下…」
「シア。やっと会いに来られた」
立ち上がろうとする私を制すると、殿下は侍女達を振り返った。
「君達は下がっていてくれ」
「ですが…」
「いいから下がれ」
鋭い殿下の声に、逆らえるはずもなく侍女達は部屋を出ていった。
…え…殿下と二人きり?
「シア」
殿下は私のすぐ隣に腰を下ろすと頬に手を伸ばしてきた。
「まだ痕が残っているね…可哀想に」
それから額へと手を滑らせる。
「熱もある…苦しい?」
「いえ…少しだるく感じるくらいで…」
「可哀想に」
もう一度そう言うと、殿下は私の肩を抱き自分へと引き寄せた。
「殿下…」
「レオって呼んでくれないの?」
私を腕の中に閉じ込めると、殿下はそう言って私の額へと口づけを落とした。
———何でこんなに触れてくるの?!
急に…前から親しく接してきていたけれど、これじゃあまるで…
「で、殿下…」
「シア。まだ思い出せないの?あの時レオって呼んでくれたから…思い出したんだと嬉しかったのに」
確かに…あの瞬間、私も何かを思い出したように感じた。
だけど…
「…ごめんなさい…まだ…」
「じゃあ教えてあげる」
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「私達は恋人同士だったんだよ」
そう言って、殿下は微笑んだ。
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