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第二章 令嬢はモブである事を思い出す

03

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「シア!」

入学式が終わり、教室で担任の話を聞いて今日はこれで終わりとなり、皆が帰り支度を始めた所で教室のドアが開くと私を呼ぶ声が聞こえた。


「…リック」
「シア、身体は大丈夫か?」
パトリックは私を見つけると真っ直ぐに向かってきた。
…生徒会長の登場に教室中の視線が集まっているんですけれど?!

「大丈夫です」
「上から見てたら途中顔色が悪そうだっただろう」
見られてたの?もしかしてずっと?
「病み上がりなんだから無理しては駄目だよ」
「本当に大丈夫ですから…」
「心配しなくても姉には僕が付いているんで」
私の背中へ回そうとしたパトリックの手を払い除けてテオドーロが言った。

「生徒会長は忙しいのでしょう。姉の事はお気になさらず」
「生徒会の仕事よりも婚約者の身体の方が大事だが?」
二人ともこんな所で睨み合わないで!
あとパトリック、大きな声でそんなことを言われたら恥ずかしいから!


「生徒会長の婚約者…」
「確かベルティーニ伯爵家の…」
「病気で記憶がなくなったって…」

周囲のざわめきと声が聞こえる。
———私が記憶喪失なのは知られているのか。
でもその方が…都合がいいのかな。
それよりも…

「二人ともそんなに睨まないで。リック、心配してくれてありがとう。でももう大丈夫ですから」
「本当に?」
「はい」
笑顔で首肯すると、パトリックも安心したように笑顔を返した。
再び教室がざわめきに包まれる。


「今日は帰るのか」
そんなクラスの様子を気にする風もなくパトリックは言った。
「はい」
「馬車止めまで送って行こう」
「いえ大丈夫です…」
テオドーロもいるし、と断ろうとする前にパトリックの手が背中へと回った。

「君に手を出そうとする者がいたら困るからな。俺と君の仲を見せつけて牽制しておかないと」
耳元で囁かれ、顔が熱くなる。

「姉に…」
「婚約者としてエスコートするのは当然だろう」
睨みつけるテオドーロを制するように、強めの口調でそう言うとパトリックは私を促して教室から出た。




「アレクシアか」

馬車止めに向かうと、ちょうど殿下とリアムがいた。
私に気づいた殿下が笑顔を向けようとして…隣に目を留めるとすっと真顔になった。

「…生徒会長」
「殿下もお帰りですか」
「ああ…」
殿下の視線が、私とパトリックへ交互に送られる。

「———君達は仲が良くなかったように思っていたが」
私の肩に回されたパトリックの手に視線を留めて殿下は言った。

「ええ、以前はそうでしたが。今はこの通りです」
私を覗き込むように見るとパトリックは笑顔を見せた。
…間近の笑顔は破壊力が…!
顔を赤くした私の頭をパトリックが撫で、さらに血が上ってしまう。

「…そうか。婚約者同士、仲が良いのはいい事だな」
どこか冷たさを含んだ声でそう言うと、殿下は私達に背を向け馬車へと乗り込んでいった。



「シア達の馬車はもっと向こうだな」
馬車止めは爵位毎に止められる馬車が決まっているらしい。
伯爵位の馬車止めに向かおうとそちらへ視線を送ると…前方に赤い髪が見えた。
ヒロインだ…彼女も帰るんだ。

ヒロインが馬車に乗り込むのを横目で見ながら、私達も家の馬車へと向かっていった。
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