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第二章 令嬢はモブである事を思い出す
02
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講堂では入学式が行われている。
壇上に立ち新入生へ挨拶を送っているのは、生徒会長のパトリックだ。
そう、ここで三人目の攻略対象が登場するのだ。
はっきりと思い出した。
ここは、かつて私が遊んでいた乙女ゲームの世界だ。
どうしてゲームの世界に入り込んでいるのか…ここは現実なのか、夢なのか。
私の…日本人としての名前は何だったのか。
思い出したばかりでその辺りはあやふやなのだけれど。
このゲームの事は思い出せる。
ゲームのタイトルは『君の瞳に恋をする』。
近世ヨーロッパ風の異世界が舞台で、ヒロインは貴族の学園に入学した、赤い髪が目立つ子爵令嬢。
身分の高い男子生徒と出会い、恋に落ちて玉の輿に乗るシンデレラストーリーだ。
攻略対象は三人。
第二王子のレオポルド殿下。
宰相の息子で侯爵子息のリアム。
そして生徒会長の公爵子息パトリック。
…つまり攻略対象の婚約者である私は、ヒロインにとってライバルとなる立場———のはずなのだけれど。
ゲームには名前しか出てこなかったと思う。
パトリックは婚約者と仲が悪く、彼の口からもその存在はほとんど聞かされないし、同じ学園にいるのにその姿を見せることもない。
もしかしたら背景として絵の中にいたのかもしれないけれど…つまりゲーム的にはいわゆるモブキャラだ。
どうりで自分の顔を見てもゲームの事を思い出さなかったはずだ。
挨拶を終えたパトリックが新入生達を見渡した。
そして私と目線を合わせると笑みをくれる。
さすが攻略対象、眉目秀麗なその笑顔に周囲から小さな黄色い悲鳴とため息が漏れた。
ゲーム内では私達の仲が悪い事になっていたけれど、今は良好だと思う。
———私が記憶を失う事はゲームにはない事なのだろうか。
ゲームといえば、朝の殿下達との出会い…あれは本来ならばヒロインに起きるはずなのに。
どうして私が…って。
…まさかヒロインのイベントを潰してしまった?!
その事実に気がつき青ざめる。
どうしよう…
私はそっと前方を伺った。
斜め前に座っている赤い髪の、彼女は確かにこのゲームのヒロインだ。
同じクラスになったのだけれど、私とテオドーロは学園長室に寄っていたため教室に着いたらすぐに移動となってしまい、彼女の様子を伺えなかった。
もしもここが本当にゲームの世界で、彼女が殿下かリアムを攻略するはずだったら…。
いや、もしかしたらパトリックかもしれない。
けれど三人とも始まりは同じで、幾つかのイベントが終わってから途中で誰を攻略するかの選択肢が出てくるはずだから…
その、一番最初のイベントが起きなかったという事は…?
「姉上。顔色が悪いけど大丈夫?」
隣のテオドーロがそっと声をかけてきた。
「あ…ええ、大丈夫」
「本当に?やっぱり学園に来るの早かったんじゃない?」
「大丈夫よ」
心配そうな弟に笑みを向ける。
顔色が悪いのは彼が心配しているのとは違う理由なんだけど…まさかここがゲームの世界かもしれないなんて、言えるはずもない。
『続いて新入生代表の挨拶です』
司会の声にはっとする。
———たしかここで壇上に上がるのは、入学前の学力テストで一位になった…そう、ヒロインだ。
ちなみに私は留年なのでテストは免除だったが、勉強についていかれるか不安だったので自宅で受けさせてもらった。
学園長室に呼ばれたのはその結果を聞くことも目的の一つだったのだが、歴史やマナーなど一部の教科に問題があるけれど、それらは家での学習で補えるだろうと言われた。
何とか授業はこなせそうで安心したが…今は正直、勉強どころではない。
ヒロインは堂々と、快活な声で挨拶を読み上げていった。
「———新入生代表、レベッカ・ステファーニ」
挨拶を終えて一礼し、顔を上げて———あの琥珀色の瞳が私を見た。
…笑った…?
形の良い唇が弧を描いたような気がした。
壇上に立ち新入生へ挨拶を送っているのは、生徒会長のパトリックだ。
そう、ここで三人目の攻略対象が登場するのだ。
はっきりと思い出した。
ここは、かつて私が遊んでいた乙女ゲームの世界だ。
どうしてゲームの世界に入り込んでいるのか…ここは現実なのか、夢なのか。
私の…日本人としての名前は何だったのか。
思い出したばかりでその辺りはあやふやなのだけれど。
このゲームの事は思い出せる。
ゲームのタイトルは『君の瞳に恋をする』。
近世ヨーロッパ風の異世界が舞台で、ヒロインは貴族の学園に入学した、赤い髪が目立つ子爵令嬢。
身分の高い男子生徒と出会い、恋に落ちて玉の輿に乗るシンデレラストーリーだ。
攻略対象は三人。
第二王子のレオポルド殿下。
宰相の息子で侯爵子息のリアム。
そして生徒会長の公爵子息パトリック。
…つまり攻略対象の婚約者である私は、ヒロインにとってライバルとなる立場———のはずなのだけれど。
ゲームには名前しか出てこなかったと思う。
パトリックは婚約者と仲が悪く、彼の口からもその存在はほとんど聞かされないし、同じ学園にいるのにその姿を見せることもない。
もしかしたら背景として絵の中にいたのかもしれないけれど…つまりゲーム的にはいわゆるモブキャラだ。
どうりで自分の顔を見てもゲームの事を思い出さなかったはずだ。
挨拶を終えたパトリックが新入生達を見渡した。
そして私と目線を合わせると笑みをくれる。
さすが攻略対象、眉目秀麗なその笑顔に周囲から小さな黄色い悲鳴とため息が漏れた。
ゲーム内では私達の仲が悪い事になっていたけれど、今は良好だと思う。
———私が記憶を失う事はゲームにはない事なのだろうか。
ゲームといえば、朝の殿下達との出会い…あれは本来ならばヒロインに起きるはずなのに。
どうして私が…って。
…まさかヒロインのイベントを潰してしまった?!
その事実に気がつき青ざめる。
どうしよう…
私はそっと前方を伺った。
斜め前に座っている赤い髪の、彼女は確かにこのゲームのヒロインだ。
同じクラスになったのだけれど、私とテオドーロは学園長室に寄っていたため教室に着いたらすぐに移動となってしまい、彼女の様子を伺えなかった。
もしもここが本当にゲームの世界で、彼女が殿下かリアムを攻略するはずだったら…。
いや、もしかしたらパトリックかもしれない。
けれど三人とも始まりは同じで、幾つかのイベントが終わってから途中で誰を攻略するかの選択肢が出てくるはずだから…
その、一番最初のイベントが起きなかったという事は…?
「姉上。顔色が悪いけど大丈夫?」
隣のテオドーロがそっと声をかけてきた。
「あ…ええ、大丈夫」
「本当に?やっぱり学園に来るの早かったんじゃない?」
「大丈夫よ」
心配そうな弟に笑みを向ける。
顔色が悪いのは彼が心配しているのとは違う理由なんだけど…まさかここがゲームの世界かもしれないなんて、言えるはずもない。
『続いて新入生代表の挨拶です』
司会の声にはっとする。
———たしかここで壇上に上がるのは、入学前の学力テストで一位になった…そう、ヒロインだ。
ちなみに私は留年なのでテストは免除だったが、勉強についていかれるか不安だったので自宅で受けさせてもらった。
学園長室に呼ばれたのはその結果を聞くことも目的の一つだったのだが、歴史やマナーなど一部の教科に問題があるけれど、それらは家での学習で補えるだろうと言われた。
何とか授業はこなせそうで安心したが…今は正直、勉強どころではない。
ヒロインは堂々と、快活な声で挨拶を読み上げていった。
「———新入生代表、レベッカ・ステファーニ」
挨拶を終えて一礼し、顔を上げて———あの琥珀色の瞳が私を見た。
…笑った…?
形の良い唇が弧を描いたような気がした。
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