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32 この臭い、懐かしいなあ
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それから魔王さんたちは、実際の魔王城がある島とはかなり離れた場所にある島に、もう一つの魔王城を作り始めた。
「わあ、すごい豪華ですね」
魔法で実体を作りあげたという城の内装は、本物の魔王城よりも装飾が豪華で華やかだった。
「向こうと同じものを作っても意味がないと言われてな」
魔王さんはため息をついた。
「こう派手だと落ち着かないのだが」
「今の城が地味すぎるのよ」
イルズさんが眉をひそめた。
「前の城はもっと華やかだったのに、このひとの代になってから地味に変えたのよ。ほんと子供の頃から地味なのが好きだったんだから」
子供の頃? って……イルズさんて魔王さんを子供の頃から知ってるの?
「イルズさんて何歳……」
「あら、女性に歳を聞くのはだめよ」
思わず声に出してつぶやくと、イルズさんがそう言って私の頭を小突いた。
外に出ると、広大な森が広がっていた。
「あれは……火山?」
遠くにある山の上から煙がたなびいているのが見えた。
「え、噴火しないんですか?」
「あの山はフェニックスが棲んでいるの」
山を見つめながらイルズさんが説明した。
「フェニックス?」
「真っ赤でとても大きな鳥よ。あの山から沸く火を食べるから噴火はしないと伝えられているわね」
火を食べる……おお、まさに火の鳥!
「ドラゴンやフェニックスは、神々によってこの世界が変えられた時に生まれた生き物と言われている」
ブラウさんが言った。
「人間たちは『聖獣』と呼んでいるな」
「そうなんですね。……火山があるということは、ここにも源泉があるんじゃないですか?」
「源泉?」
「温泉になる温かい湧き水です」
「まあ、じゃあこの城にも温泉を作れるのね」
イルズさんがうれしそうに手をたたいた。
「探しに行ってみましょうか」
「行きたいです!」
温泉を使わなくても魔物は治せるけれど、ただ入るだけでも気持ちいいからね。
「しかし、あんな広い山の中で源泉を探し出せるのか」
エーリックがまゆをひそめた。
「そうねえ」
「ヒナノ、魔法で源泉の場所を感知できるか」
ブラウさんが尋ねた。
「え? そうですね……やってみます」
山に向けて意識を集中した。
色々な気配や魔力を感じる、その中にかすかになじみのある気配を感じた。
「あ……もしかしたらあれかも」
「分かったのか」
「ここからだと遠すぎて、なんとなくですが」
「じゃあ近くに行ってみましょう」
魔法で山のふもとへ飛ぶと、源泉の探知を再び試みた。
かすかに感じた気配が濃くなっている。それに硫黄のような臭いもする。これは、きっと温泉があるよね!
「あっちのほうです!」
感覚を頼りに山の中へと入っていくと、しばらくしてひときわ気配が強くなった。
「あった!」
茂みをかき分けた先に湯気を出す泉が現れた。
「まあ、これが温泉なの?」
イルズさんが泉へ近づいた。
「熱すぎるかもしれないので触らないでくださいね」
「魔法を使わずにお湯が湧き出ているなんて、不思議ねえ」
「さっきから妙な臭いがするが、何なんだ」
いぶかしげに周囲を見回しながらエーリックが言った。
「硫黄の臭いだよ。火山が近い温泉はこういう臭いがすることが多いの」
「ふうん」
「この臭い、懐かしいなあ」
決していい臭いではないけど、温泉になじみのある身からすると懐かしくていい臭いなんだよね。
源泉に近づいて、少し魔法でお湯を取り玉を作ってみる。
湯もみするように手の上で玉をくるくると回しながら「鑑定」をしてみた。
前にリンちゃんができると言っていたのを聞いて、自分でもできるのではないかと思い試してみたらできたのだ。
「うん、いい感じの温泉ね」
ミネラルたっぷりで毒もなく、そのまま入っても効果がありそうだ。
温度も下がったようなので、そっと玉の中に指を入れてみる。
「あったかくて気持ちいい!」
「私も触らせて。ほんと、いい湯加減だわ」
イルズさんも玉の中に手を入れると笑顔で言った。
「さっそく城の近くに温泉を作りましょう」
「大きいのがいいです!」
「――おい」
イルズさんと盛り上がっていると、ふいにエーリックの緊張したような声が聞こえた。
振り返り、その視線の先を見上げる。
「あ……」
岩の上に大きな鳥が止まっていた。
真っ赤な毛に覆われた、とても大きな鳥だ。
鋭い真っ黒な瞳がじっと私たちを見つめていた。
「あれがフェニックスだ」
「きれい……」
鮮やかな毛は艶やかで、長い尾がそり上がっているその姿はとてもきれいで凜々しかった。
「少なくとも五体はいるな」
エーリックの言葉に見回すと、確かにあちこちに赤い姿が見えた。
「……勝手にお城作ったから怒っているのかな」
「フェニックスが棲むのはこの山の中だけだからそれは問題ないだろう。山にまで入ってきたから様子を見にきたのかもしれない」
ブラウさんが言った。
「じゃあ早く山から出たほうがいいのかな……」
バサリと大きな羽をはばたかせて、一羽のフェニックスがこちらへ飛んできた。
間近で見るとびっくりするくらい大きい。
こんなに大きな鳥がどうやって飛ぶんだろうと思っていると、強い風が上から吹いて頭の上に大きな影ができた。
「ヒナノ!」
肩に痛みを感じるのと同時に足下が浮き上がった。
(え!?)
まるでジェットコースターに乗った時のように身体が宙を舞う感覚を覚えた。
「ヒナノ!」
エーリックの声があっという間に遠ざかっていった。
「わあ、すごい豪華ですね」
魔法で実体を作りあげたという城の内装は、本物の魔王城よりも装飾が豪華で華やかだった。
「向こうと同じものを作っても意味がないと言われてな」
魔王さんはため息をついた。
「こう派手だと落ち着かないのだが」
「今の城が地味すぎるのよ」
イルズさんが眉をひそめた。
「前の城はもっと華やかだったのに、このひとの代になってから地味に変えたのよ。ほんと子供の頃から地味なのが好きだったんだから」
子供の頃? って……イルズさんて魔王さんを子供の頃から知ってるの?
「イルズさんて何歳……」
「あら、女性に歳を聞くのはだめよ」
思わず声に出してつぶやくと、イルズさんがそう言って私の頭を小突いた。
外に出ると、広大な森が広がっていた。
「あれは……火山?」
遠くにある山の上から煙がたなびいているのが見えた。
「え、噴火しないんですか?」
「あの山はフェニックスが棲んでいるの」
山を見つめながらイルズさんが説明した。
「フェニックス?」
「真っ赤でとても大きな鳥よ。あの山から沸く火を食べるから噴火はしないと伝えられているわね」
火を食べる……おお、まさに火の鳥!
「ドラゴンやフェニックスは、神々によってこの世界が変えられた時に生まれた生き物と言われている」
ブラウさんが言った。
「人間たちは『聖獣』と呼んでいるな」
「そうなんですね。……火山があるということは、ここにも源泉があるんじゃないですか?」
「源泉?」
「温泉になる温かい湧き水です」
「まあ、じゃあこの城にも温泉を作れるのね」
イルズさんがうれしそうに手をたたいた。
「探しに行ってみましょうか」
「行きたいです!」
温泉を使わなくても魔物は治せるけれど、ただ入るだけでも気持ちいいからね。
「しかし、あんな広い山の中で源泉を探し出せるのか」
エーリックがまゆをひそめた。
「そうねえ」
「ヒナノ、魔法で源泉の場所を感知できるか」
ブラウさんが尋ねた。
「え? そうですね……やってみます」
山に向けて意識を集中した。
色々な気配や魔力を感じる、その中にかすかになじみのある気配を感じた。
「あ……もしかしたらあれかも」
「分かったのか」
「ここからだと遠すぎて、なんとなくですが」
「じゃあ近くに行ってみましょう」
魔法で山のふもとへ飛ぶと、源泉の探知を再び試みた。
かすかに感じた気配が濃くなっている。それに硫黄のような臭いもする。これは、きっと温泉があるよね!
「あっちのほうです!」
感覚を頼りに山の中へと入っていくと、しばらくしてひときわ気配が強くなった。
「あった!」
茂みをかき分けた先に湯気を出す泉が現れた。
「まあ、これが温泉なの?」
イルズさんが泉へ近づいた。
「熱すぎるかもしれないので触らないでくださいね」
「魔法を使わずにお湯が湧き出ているなんて、不思議ねえ」
「さっきから妙な臭いがするが、何なんだ」
いぶかしげに周囲を見回しながらエーリックが言った。
「硫黄の臭いだよ。火山が近い温泉はこういう臭いがすることが多いの」
「ふうん」
「この臭い、懐かしいなあ」
決していい臭いではないけど、温泉になじみのある身からすると懐かしくていい臭いなんだよね。
源泉に近づいて、少し魔法でお湯を取り玉を作ってみる。
湯もみするように手の上で玉をくるくると回しながら「鑑定」をしてみた。
前にリンちゃんができると言っていたのを聞いて、自分でもできるのではないかと思い試してみたらできたのだ。
「うん、いい感じの温泉ね」
ミネラルたっぷりで毒もなく、そのまま入っても効果がありそうだ。
温度も下がったようなので、そっと玉の中に指を入れてみる。
「あったかくて気持ちいい!」
「私も触らせて。ほんと、いい湯加減だわ」
イルズさんも玉の中に手を入れると笑顔で言った。
「さっそく城の近くに温泉を作りましょう」
「大きいのがいいです!」
「――おい」
イルズさんと盛り上がっていると、ふいにエーリックの緊張したような声が聞こえた。
振り返り、その視線の先を見上げる。
「あ……」
岩の上に大きな鳥が止まっていた。
真っ赤な毛に覆われた、とても大きな鳥だ。
鋭い真っ黒な瞳がじっと私たちを見つめていた。
「あれがフェニックスだ」
「きれい……」
鮮やかな毛は艶やかで、長い尾がそり上がっているその姿はとてもきれいで凜々しかった。
「少なくとも五体はいるな」
エーリックの言葉に見回すと、確かにあちこちに赤い姿が見えた。
「……勝手にお城作ったから怒っているのかな」
「フェニックスが棲むのはこの山の中だけだからそれは問題ないだろう。山にまで入ってきたから様子を見にきたのかもしれない」
ブラウさんが言った。
「じゃあ早く山から出たほうがいいのかな……」
バサリと大きな羽をはばたかせて、一羽のフェニックスがこちらへ飛んできた。
間近で見るとびっくりするくらい大きい。
こんなに大きな鳥がどうやって飛ぶんだろうと思っていると、強い風が上から吹いて頭の上に大きな影ができた。
「ヒナノ!」
肩に痛みを感じるのと同時に足下が浮き上がった。
(え!?)
まるでジェットコースターに乗った時のように身体が宙を舞う感覚を覚えた。
「ヒナノ!」
エーリックの声があっという間に遠ざかっていった。
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