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29 すごい! 雲の上だ!
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「確かに温泉って気持ちがいいわ」
「お湯に包まれる感じが最高ね」
私の目の前で裸の美女二人がうっとりとしながら温泉につかっている。
今日はイルズさんと、アルバンさんの奥さん、マイラさんが遊びにきている。
二人とも温泉に興味があるというので一緒に入ることにしたのだ。
「そういえば、息子は元気なの?」
イルズさんがマイラさんに尋ねた。
「元気なんじゃないかしら。まったく家に帰ってこないもの」
「まあ、そうなの」
マイラさんの息子は成人済みで、世界中を旅しているとアルバンさんから聞いたことがある。
「もう全然可愛くなくて。子育てしていた頃が懐かしいわ」
ため息をつくと、マイラさんは私を見た。
「ヒナノちゃんは子供の予定は?」
「え? いえ、まだです……」
「結婚してどれくらいたつの?」
「え? ええと……まだ一年は経っていないです?」
「あら、まだまだ新婚さんなのね」
「じゃあしばらくは二人で過ごしたいわね」
「そうですね」
子供は早く欲しいとは思っているけれど、こればかりはいつ授かるか分からないからなあ。
というか、そうか。この世界に召喚されてからもう一年たつのか。
魔法が使えるようになったり結婚したり。魔物に近い存在になるなんて、日本にいたときは想像すらできなかった。
色々なことがありすぎてとても長い一年だったけれど、あっという間だった気もするなあ。
「そういえば、魔王様はまだ結婚しないのかしら」
マイラさんがイルズさんを見た。
「そんな気配は全くないわね」
「でも跡継ぎが必要でしょう?」
「そうなのよ」
今度はイルズさんがため息をついた。
「閣下が人間の番を失ったのはもう二百年以上前の話よ。そろそろお相手を見つけて欲しいわ」
「……魔王って、世襲制なんですか?」
「そういうわけではないの、魔王になるとその力は特別になるから。でも魔王の血を継いだ子のほうがより強い魔王になれるわね」
マイラさんが答えた。
「特別になる……そういえば、魔王さんは大地の女神テルースの祝福を受けているんでしたっけ」
「ええ。テルースの代わりにその祝福の力で私たち魔物を護るのが魔王なのよ」
「なるほど……」
「ヒナノちゃんも同じよ」
私をじっと見つめてイルズさんが言った。
「テルースの祝福を受けて魔物を癒やす力を持った特別な存在。つまりヒナノちゃんは魔王の次に偉い存在ね」
「ええ!?」
「あら、じゃあヒナノ様って呼ばないとならないかしら」
「そうね、聖女様だものね」
「え……それはちょっと、恥ずかしすぎるといいますか」
様付けは嫌だなあ。
「まあ、そうね。ヒナノちゃんは『ヒナノちゃん』がいいわね」
イルズさんの言葉にマイラさんもうなずいた。
その後、しばらくして勇者一行がまたダミー魔王城に到着したという知らせが届いた。
一行は城内を二日間さまよい、ようやく脱出できたという。
他の人たちはどうでもいいけどリンちゃんがそれに巻き込まれるのはかわいそうだなと思ったけれど、推移を見守っていたイルズさんが「聖女の子なら一番喜んで探索していたわよ」と言っていたので……まあ、大丈夫みたい。
そういえばリンちゃんはゲームが好きだったのよね。
*****
「ここが天空城よ」
「わあ……すごい! 雲の上だ!」
等間隔に並んだ白い柱が高くそびえ立ち、正面は壁がなく開かれたその建物は城というより神殿に見える。
そうして建物が建っている周囲、地面があるはずの部分が全て雲に覆われていた。
視界に入るのは、雲の他には青い空ばかりで、建物が空に浮かぶ姿はまるで映画を見ているようだ。
天空城ができたからとイルズさんに呼ばれ、私とエーリックはこの不思議なお城へやってきた。
「こんな大きなお城が雲の上に浮かぶなんて不思議ですね」
「ヒナノ。ここは山の上だからな」
感動しているとエーリックの冷めた声が聞こえた。
「……山?」
「幻術の雲で地面を隠して空に浮かんでいるように見せているだけだ」
「やあねえこの子は。ネタばらしするなんて」
イルズさんが頬をふくらませた。
「でもすごいです! 本当に空の上にいるみたいです!」
「ありがとう。ヒナノちゃんはいい子ね」
ふふっとイルズさんは笑顔になった。
「山の上といっても登るのは大変ですよね。ここにはどうやって来るんですか?」
私たちは魔法で飛んできたけれど、勇者たちは登ってこれるのだろうか。それに普通に登ってきたら天空城ではなくなってしまうし。
「前にヒナノちゃんが言ったように、他の城から転移できるように罠をしかけてあるの。帰る時はこの地下にある部屋から別の城に転移するようになっているわ」
「へえ! すごいですね」
転移なんてどうやってそんな魔法が使えるのか、まったく分からないわ!
「ちなみにこの城は、その転移以外の罠はないのよ」
「どうしてですか?」
「罠のある城だけじゃなくて、こういう昔使っていた遺跡みたいな城もあったほうがいいかなと思ってね」
「なるほど……」
よく見ると壁や柱は少し崩れていて古そうな雰囲気を漂わせている。
確かに、ここが昔神殿だったと言われれば納得してしまうかも。
「隠し通路はここよ」
そう言ってイルズさんは広間の正面にある、祭壇のような大きな台座の後ろへ回った。
台座の下、少しだけ色が違う石に手を触れるとふいにその石が消え、階段が現れた。
「わあ。なんかそれっぽいですね」
「足下に気をつけてね」
狭い階段を下りた先は通路になっていていくつかの扉があり、その一つを開くと小さな部屋があった。
その奥には石でできたテーブルがあって、上には占いに使う水晶玉のような、丸くて透明な石が一つ置かれている。
「この石を通して他の城の様子がうかがえるようになっているのよ」
イルズさんがその石に手をかざすと一瞬淡い光を放ち、やがて中にどこかの建物の映像が映った。
「これはこの間勇者一行が来た城よ」
「ええ、すごい!」
「魔力を石に流すと映るようになっているの。ヒナノちゃんもやってみる?」
「え、できるんですか?」
「見たいと思う場所を念じながら魔力を込めるの。ダミー城しか見られないけれどね」
「じゃあ……この城とつながっている城を」
そう思いながら石に手をかざし、魔力を送ってみた。
それまで映っていた映像が消えて、光を放つと別の城内らしき映像が現れた。
「……あれ、リンちゃん?」
そこに映っていたのはリンちゃんとロイドの姿だった。
「あらやだ、また勇者たちが城に来たのね」
イルズさんが石をのぞき込んだ。
「飽きずによく来るわよね」
「リンちゃんたちと……あれ、この人どこかで見たような」
茶色い髪の若そうな……。
「この間遭遇した魔術師たちだな」
エーリックが言った。
「あ、そうだ! 魔法使ってるの見られた人!」
「勇者の仲間だったか。あいつらがあの場所を伝えたのか」
「リンちゃんとロイドはそんなことしないと思うけど……多分、残りの二人じゃないかな」
ウサギちゃんを殺した、あの二人。
思い出してしまってじわりと目が熱くなった。
「――ふうん。さすがに三回目になると彼らも慣れてくるわね」
石に映る映像を見つめながらイルズさんが言った。
「罠を避けるのも上手くなってきたわ」
「そうなんですか」
「次はもっと違う手を使わないとならないわね……そうね……」
真剣な眼差しで、イルズさんは何かつぶやいている。
彼女はこのダミー魔王城作りにハマったようで、色々なタイプのものを計画しているらしい。
今リンちゃんたちがいる城は、塔のように高くそびえたっていて螺旋階段で上れるようになっていた。
一行は罠を避けながら階段を上っている。
リンちゃんは途中罠にかかっても、むしろ喜んでいるというか……。
「聖女はわざと罠を踏んでいないか」
「……多分」
エーリックの言葉にうなずいた。
これ、絶対リンちゃんは罠らしいところに自分から行っている。そうして外れだと残念そうな顔をするのだ。
ロイドはそれをあきれたように横目で見ながら、先頭に立ちどんどん塔を上っていく。
そのあとを魔術師や騎士たちが続いていた。
「ところであの城は、ここにつながっているんだろう」
エーリックが言った。
「そうよ」
「じゃあここにあいつらが来る可能性も……」
そうエーリックが言うと、リンちゃんが壁の飾りに触れるのが見えた。
強い光が塔の中に満たされていく。
「あ」
イルズさんが声をあげた。
「お湯に包まれる感じが最高ね」
私の目の前で裸の美女二人がうっとりとしながら温泉につかっている。
今日はイルズさんと、アルバンさんの奥さん、マイラさんが遊びにきている。
二人とも温泉に興味があるというので一緒に入ることにしたのだ。
「そういえば、息子は元気なの?」
イルズさんがマイラさんに尋ねた。
「元気なんじゃないかしら。まったく家に帰ってこないもの」
「まあ、そうなの」
マイラさんの息子は成人済みで、世界中を旅しているとアルバンさんから聞いたことがある。
「もう全然可愛くなくて。子育てしていた頃が懐かしいわ」
ため息をつくと、マイラさんは私を見た。
「ヒナノちゃんは子供の予定は?」
「え? いえ、まだです……」
「結婚してどれくらいたつの?」
「え? ええと……まだ一年は経っていないです?」
「あら、まだまだ新婚さんなのね」
「じゃあしばらくは二人で過ごしたいわね」
「そうですね」
子供は早く欲しいとは思っているけれど、こればかりはいつ授かるか分からないからなあ。
というか、そうか。この世界に召喚されてからもう一年たつのか。
魔法が使えるようになったり結婚したり。魔物に近い存在になるなんて、日本にいたときは想像すらできなかった。
色々なことがありすぎてとても長い一年だったけれど、あっという間だった気もするなあ。
「そういえば、魔王様はまだ結婚しないのかしら」
マイラさんがイルズさんを見た。
「そんな気配は全くないわね」
「でも跡継ぎが必要でしょう?」
「そうなのよ」
今度はイルズさんがため息をついた。
「閣下が人間の番を失ったのはもう二百年以上前の話よ。そろそろお相手を見つけて欲しいわ」
「……魔王って、世襲制なんですか?」
「そういうわけではないの、魔王になるとその力は特別になるから。でも魔王の血を継いだ子のほうがより強い魔王になれるわね」
マイラさんが答えた。
「特別になる……そういえば、魔王さんは大地の女神テルースの祝福を受けているんでしたっけ」
「ええ。テルースの代わりにその祝福の力で私たち魔物を護るのが魔王なのよ」
「なるほど……」
「ヒナノちゃんも同じよ」
私をじっと見つめてイルズさんが言った。
「テルースの祝福を受けて魔物を癒やす力を持った特別な存在。つまりヒナノちゃんは魔王の次に偉い存在ね」
「ええ!?」
「あら、じゃあヒナノ様って呼ばないとならないかしら」
「そうね、聖女様だものね」
「え……それはちょっと、恥ずかしすぎるといいますか」
様付けは嫌だなあ。
「まあ、そうね。ヒナノちゃんは『ヒナノちゃん』がいいわね」
イルズさんの言葉にマイラさんもうなずいた。
その後、しばらくして勇者一行がまたダミー魔王城に到着したという知らせが届いた。
一行は城内を二日間さまよい、ようやく脱出できたという。
他の人たちはどうでもいいけどリンちゃんがそれに巻き込まれるのはかわいそうだなと思ったけれど、推移を見守っていたイルズさんが「聖女の子なら一番喜んで探索していたわよ」と言っていたので……まあ、大丈夫みたい。
そういえばリンちゃんはゲームが好きだったのよね。
*****
「ここが天空城よ」
「わあ……すごい! 雲の上だ!」
等間隔に並んだ白い柱が高くそびえ立ち、正面は壁がなく開かれたその建物は城というより神殿に見える。
そうして建物が建っている周囲、地面があるはずの部分が全て雲に覆われていた。
視界に入るのは、雲の他には青い空ばかりで、建物が空に浮かぶ姿はまるで映画を見ているようだ。
天空城ができたからとイルズさんに呼ばれ、私とエーリックはこの不思議なお城へやってきた。
「こんな大きなお城が雲の上に浮かぶなんて不思議ですね」
「ヒナノ。ここは山の上だからな」
感動しているとエーリックの冷めた声が聞こえた。
「……山?」
「幻術の雲で地面を隠して空に浮かんでいるように見せているだけだ」
「やあねえこの子は。ネタばらしするなんて」
イルズさんが頬をふくらませた。
「でもすごいです! 本当に空の上にいるみたいです!」
「ありがとう。ヒナノちゃんはいい子ね」
ふふっとイルズさんは笑顔になった。
「山の上といっても登るのは大変ですよね。ここにはどうやって来るんですか?」
私たちは魔法で飛んできたけれど、勇者たちは登ってこれるのだろうか。それに普通に登ってきたら天空城ではなくなってしまうし。
「前にヒナノちゃんが言ったように、他の城から転移できるように罠をしかけてあるの。帰る時はこの地下にある部屋から別の城に転移するようになっているわ」
「へえ! すごいですね」
転移なんてどうやってそんな魔法が使えるのか、まったく分からないわ!
「ちなみにこの城は、その転移以外の罠はないのよ」
「どうしてですか?」
「罠のある城だけじゃなくて、こういう昔使っていた遺跡みたいな城もあったほうがいいかなと思ってね」
「なるほど……」
よく見ると壁や柱は少し崩れていて古そうな雰囲気を漂わせている。
確かに、ここが昔神殿だったと言われれば納得してしまうかも。
「隠し通路はここよ」
そう言ってイルズさんは広間の正面にある、祭壇のような大きな台座の後ろへ回った。
台座の下、少しだけ色が違う石に手を触れるとふいにその石が消え、階段が現れた。
「わあ。なんかそれっぽいですね」
「足下に気をつけてね」
狭い階段を下りた先は通路になっていていくつかの扉があり、その一つを開くと小さな部屋があった。
その奥には石でできたテーブルがあって、上には占いに使う水晶玉のような、丸くて透明な石が一つ置かれている。
「この石を通して他の城の様子がうかがえるようになっているのよ」
イルズさんがその石に手をかざすと一瞬淡い光を放ち、やがて中にどこかの建物の映像が映った。
「これはこの間勇者一行が来た城よ」
「ええ、すごい!」
「魔力を石に流すと映るようになっているの。ヒナノちゃんもやってみる?」
「え、できるんですか?」
「見たいと思う場所を念じながら魔力を込めるの。ダミー城しか見られないけれどね」
「じゃあ……この城とつながっている城を」
そう思いながら石に手をかざし、魔力を送ってみた。
それまで映っていた映像が消えて、光を放つと別の城内らしき映像が現れた。
「……あれ、リンちゃん?」
そこに映っていたのはリンちゃんとロイドの姿だった。
「あらやだ、また勇者たちが城に来たのね」
イルズさんが石をのぞき込んだ。
「飽きずによく来るわよね」
「リンちゃんたちと……あれ、この人どこかで見たような」
茶色い髪の若そうな……。
「この間遭遇した魔術師たちだな」
エーリックが言った。
「あ、そうだ! 魔法使ってるの見られた人!」
「勇者の仲間だったか。あいつらがあの場所を伝えたのか」
「リンちゃんとロイドはそんなことしないと思うけど……多分、残りの二人じゃないかな」
ウサギちゃんを殺した、あの二人。
思い出してしまってじわりと目が熱くなった。
「――ふうん。さすがに三回目になると彼らも慣れてくるわね」
石に映る映像を見つめながらイルズさんが言った。
「罠を避けるのも上手くなってきたわ」
「そうなんですか」
「次はもっと違う手を使わないとならないわね……そうね……」
真剣な眼差しで、イルズさんは何かつぶやいている。
彼女はこのダミー魔王城作りにハマったようで、色々なタイプのものを計画しているらしい。
今リンちゃんたちがいる城は、塔のように高くそびえたっていて螺旋階段で上れるようになっていた。
一行は罠を避けながら階段を上っている。
リンちゃんは途中罠にかかっても、むしろ喜んでいるというか……。
「聖女はわざと罠を踏んでいないか」
「……多分」
エーリックの言葉にうなずいた。
これ、絶対リンちゃんは罠らしいところに自分から行っている。そうして外れだと残念そうな顔をするのだ。
ロイドはそれをあきれたように横目で見ながら、先頭に立ちどんどん塔を上っていく。
そのあとを魔術師や騎士たちが続いていた。
「ところであの城は、ここにつながっているんだろう」
エーリックが言った。
「そうよ」
「じゃあここにあいつらが来る可能性も……」
そうエーリックが言うと、リンちゃんが壁の飾りに触れるのが見えた。
強い光が塔の中に満たされていく。
「あ」
イルズさんが声をあげた。
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