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24 だってダンジョンだよ
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「……エーリック?」
真っ暗で何も見えない。
(なにが……起きたの?)
『ヒナノ』
突然頭の中に女性の声が響いた。
「……え?」
『聞こえますかヒナノ』
「誰……?」
『私はテルース』
「……テルースって……もしかして、私に祝福をくれた、大地の女神?」
『ええ』
ふわりとなにか柔らかなものが頬に触れた気配を感じた。
『私は探していたの。魔物たちに回復魔法をかけられる者を』
探していた?
「……あの、どうして魔物には回復魔法が効かないのですか」
『それは太陽の神ソルの呪いのせいなの』
呪い!?
『ソルがこの世界に生まれ闇を照らしたのは瘴気を消すため。その瘴気から生まれた魔物も彼にとっては不要な存在として、魔法によって回復させることができない呪いをかけられているの』
「そんな……ひどい」
魔物だって心があるし、皆頑張って生きているのに。
『ヒナノ。あなたは魔物を慈しむ優しい心を持っている。それに異世界から来たあなたにはソルの呪いも力も及ばない。だから私はあなたに祝福を与えることができたの』
「……そうでしたか」
『久しぶりに大きな力を使ったら、石を壊しちゃったけれどね』
笑ったような声でテルースは言った。
「石って、女神が石になったという?」
『私が石になった訳じゃないの。石の中で休んでいただけなのが、長い時間がたつうちにそんな話になってしまったのね。さあヒナノ。あなたに残りの祝福を与えましょう』
「残りの祝福?」
何か温かなものに包まれるような感覚を覚えた。
(あれ、この感じ、どこかで……)
そうだ、前に討伐に参加して崖から落ちた時に感じたのと同じ……。
『これであなた、そしてあなたの子孫は魔物を癒せることができるわ』
「え……」
それって、直接治癒魔法が使えるということ?
「……あの、どうしてこれまで温泉を使わないと治せなかったのですか」
『人間が神の祝福を使うには媒体が必要なの、勇者の剣や聖女の杖のように』
媒体……それが私にとって温泉だったのか。
『けれどあなたは半魔の番となったことで、少しずつ魔物に近づいてきたの』
「え? 私が魔物に?」
『完全な魔物にはならないけれど、近い存在にはなったの。だから祝福をすべて与えられるのよ』
ひときわ強い光が私を包み込んだ。
『ヒナノ。どうか魔物たちをよろしくね』
ゆっくりと光が消えていった。
「ヒナノ!」
目を開けると、心配そうな表情のエーリックの顔が目の前にあった。
「……エーリック」
「大丈夫か。赤い光に包まれたが」
「あ……うん」
「何があった」
ブラウさんが尋ねた。
「……あの、今女神が……」
私は三人にエルースの言葉を伝えた。
「太陽神の呪いか」
魔王さんがつぶやいた。
「だから太陽神の祝福を受けた勇者が魔王を倒すとされているのですか」
ブラウさんが魔王さんに尋ねた。
「そうだな、だが私もテルースの祝福を受けているから太陽神の力は及ばない」
「魔王さんも祝福を?」
「魔王とは魔物を守る存在。だから誰よりも強くなければならない」
私を見て魔王さんは言った。
「ヒナノの力は魔王同様、代々続くのだな」
「はい……そう言っていました」
ブラウさんの言葉にうなずいた。
「そうか。お前たち、子はまだなのか」
私とエーリックを見てブラウさんは言った。
「え、ええと……まだみたいです」
「心配しなくても大丈夫だ。時がくればできる」
エーリックが私の肩を抱き寄せるとそう言った。
*****
「わあ……」
私の目の前には巨大な石の壁がそびえ立っていた。
鬱蒼とした森の中に突如現れたその城壁は、見上げても上が見えないほど高くて。
唯一の入り口は禍々しい装飾が施された、重たそうな鉄の扉で塞がれていた。
「魔物ならばこの扉を簡単に開くことができる」
ブラウさんが扉に手を軽く当てると、扉がゆっくりと開いた。
扉の向こうにはまた森があった。
そうしてその木々の間、細い道を抜けた先には二つの塔を持つ、黒くて大きな城がそびえ立っていた。
「わあ……すごい!」
いかにも魔王城って感じ!
「こんなに大きいお城、こんな短期間で作れるんですか!?」
私は魔王さんを見上げた。
「中身がないからな」
「中身がない?」
魔王さんが言ったように、城の中は何もなかった。
装飾や家具がないのではなく、真っ暗な空間があるばかりで――本当に、何もないのだ。
「……え?」
どういうこと!?
「外壁は本物だが、この城は私の魔力で作り出したものだ」
暗闇の中から魔王さんの声が聞こえた。
「魔力で作る?」
こんな大きなお城を?
「幻術魔法の一種だが、これは幻術ではなく実体を持った『本物』でもある」
「へえ……」
「分かってないだろ」
すぐ隣でエーリックのあきれたような声が聞こえた。
勇者対策としてダミーの魔王城を作ろうという話が出てから十日後。
早速一つ目のお城を建てたというので見に来たのだ。
一旦外に出て再び城を見上げる。
灰色の分厚い雲に覆われた空を背景に建つその姿は禍々しくて、ゲームや映画に出てきそうな雰囲気で改めて見てもカッコいい。
ちなみに本物の魔王城はこんなに禍々しくなく、居住空間は落ち着いた雰囲気で、人間の王宮や教会に似ていた。
「中はあのままなんですか」
「どうするか考えているところだ。城らしくするか、迷路のようにするか」
「迷路! 面白そうです」
向こうの世界のゲームに出てくるダンジョンみたい。
「途中落とし穴とか隠し通路とか、宝箱を置いて……」
「宝箱?」
エーリックが聞き返した。
「強い武器や回復アイテムが入っているの」
「なんで勇者を助ける物を入れるんだ」
「だってダンジョンだよ?」
「ダンジョンって何だよ」
魔王攻略には欠かせないものなんだけど。でもそうか、ここはゲームの世界じゃないからそういうものはないのね。
「宝箱はともかく。ここは仕掛けのある迷路にしますか」
「ああ」
ブラウさんの言葉に魔王さんはうなずいた。
「では中はイルズに任せましょう」
「イルズ?」
初めて聞く名前だわ。
「幻術を得意とする者だ」
そんなひとがいるのね。
「……そういえば、魔王さんたちみたいな人間に似た姿のひとたちってどれくらいいるんですか」
魔王城で何人か見かけたことはあるけれど。
「――全てを把握しているわけではないが、千はいるだろう」
魔王さんが答えた。
「へえ。少ないんですね」
「その代わり人間より寿命がずっと長いし、身体も丈夫だからな」
「寿命……そういえばエーリックも百年生きてるんだっけ」
エーリックを見上げると「百二十年以上だな」と言った。
「ヒナノも女神の祝福を受けて魔物に近くなったのだから、人間より長生きするだろう」
ブラウさんが言った。
「そうなんですか……」
魔物に近くなったとか、寿命が伸びたとか……実感が湧かないけれど。
私の身体は、本当に変わってしまったのかな。
真っ暗で何も見えない。
(なにが……起きたの?)
『ヒナノ』
突然頭の中に女性の声が響いた。
「……え?」
『聞こえますかヒナノ』
「誰……?」
『私はテルース』
「……テルースって……もしかして、私に祝福をくれた、大地の女神?」
『ええ』
ふわりとなにか柔らかなものが頬に触れた気配を感じた。
『私は探していたの。魔物たちに回復魔法をかけられる者を』
探していた?
「……あの、どうして魔物には回復魔法が効かないのですか」
『それは太陽の神ソルの呪いのせいなの』
呪い!?
『ソルがこの世界に生まれ闇を照らしたのは瘴気を消すため。その瘴気から生まれた魔物も彼にとっては不要な存在として、魔法によって回復させることができない呪いをかけられているの』
「そんな……ひどい」
魔物だって心があるし、皆頑張って生きているのに。
『ヒナノ。あなたは魔物を慈しむ優しい心を持っている。それに異世界から来たあなたにはソルの呪いも力も及ばない。だから私はあなたに祝福を与えることができたの』
「……そうでしたか」
『久しぶりに大きな力を使ったら、石を壊しちゃったけれどね』
笑ったような声でテルースは言った。
「石って、女神が石になったという?」
『私が石になった訳じゃないの。石の中で休んでいただけなのが、長い時間がたつうちにそんな話になってしまったのね。さあヒナノ。あなたに残りの祝福を与えましょう』
「残りの祝福?」
何か温かなものに包まれるような感覚を覚えた。
(あれ、この感じ、どこかで……)
そうだ、前に討伐に参加して崖から落ちた時に感じたのと同じ……。
『これであなた、そしてあなたの子孫は魔物を癒せることができるわ』
「え……」
それって、直接治癒魔法が使えるということ?
「……あの、どうしてこれまで温泉を使わないと治せなかったのですか」
『人間が神の祝福を使うには媒体が必要なの、勇者の剣や聖女の杖のように』
媒体……それが私にとって温泉だったのか。
『けれどあなたは半魔の番となったことで、少しずつ魔物に近づいてきたの』
「え? 私が魔物に?」
『完全な魔物にはならないけれど、近い存在にはなったの。だから祝福をすべて与えられるのよ』
ひときわ強い光が私を包み込んだ。
『ヒナノ。どうか魔物たちをよろしくね』
ゆっくりと光が消えていった。
「ヒナノ!」
目を開けると、心配そうな表情のエーリックの顔が目の前にあった。
「……エーリック」
「大丈夫か。赤い光に包まれたが」
「あ……うん」
「何があった」
ブラウさんが尋ねた。
「……あの、今女神が……」
私は三人にエルースの言葉を伝えた。
「太陽神の呪いか」
魔王さんがつぶやいた。
「だから太陽神の祝福を受けた勇者が魔王を倒すとされているのですか」
ブラウさんが魔王さんに尋ねた。
「そうだな、だが私もテルースの祝福を受けているから太陽神の力は及ばない」
「魔王さんも祝福を?」
「魔王とは魔物を守る存在。だから誰よりも強くなければならない」
私を見て魔王さんは言った。
「ヒナノの力は魔王同様、代々続くのだな」
「はい……そう言っていました」
ブラウさんの言葉にうなずいた。
「そうか。お前たち、子はまだなのか」
私とエーリックを見てブラウさんは言った。
「え、ええと……まだみたいです」
「心配しなくても大丈夫だ。時がくればできる」
エーリックが私の肩を抱き寄せるとそう言った。
*****
「わあ……」
私の目の前には巨大な石の壁がそびえ立っていた。
鬱蒼とした森の中に突如現れたその城壁は、見上げても上が見えないほど高くて。
唯一の入り口は禍々しい装飾が施された、重たそうな鉄の扉で塞がれていた。
「魔物ならばこの扉を簡単に開くことができる」
ブラウさんが扉に手を軽く当てると、扉がゆっくりと開いた。
扉の向こうにはまた森があった。
そうしてその木々の間、細い道を抜けた先には二つの塔を持つ、黒くて大きな城がそびえ立っていた。
「わあ……すごい!」
いかにも魔王城って感じ!
「こんなに大きいお城、こんな短期間で作れるんですか!?」
私は魔王さんを見上げた。
「中身がないからな」
「中身がない?」
魔王さんが言ったように、城の中は何もなかった。
装飾や家具がないのではなく、真っ暗な空間があるばかりで――本当に、何もないのだ。
「……え?」
どういうこと!?
「外壁は本物だが、この城は私の魔力で作り出したものだ」
暗闇の中から魔王さんの声が聞こえた。
「魔力で作る?」
こんな大きなお城を?
「幻術魔法の一種だが、これは幻術ではなく実体を持った『本物』でもある」
「へえ……」
「分かってないだろ」
すぐ隣でエーリックのあきれたような声が聞こえた。
勇者対策としてダミーの魔王城を作ろうという話が出てから十日後。
早速一つ目のお城を建てたというので見に来たのだ。
一旦外に出て再び城を見上げる。
灰色の分厚い雲に覆われた空を背景に建つその姿は禍々しくて、ゲームや映画に出てきそうな雰囲気で改めて見てもカッコいい。
ちなみに本物の魔王城はこんなに禍々しくなく、居住空間は落ち着いた雰囲気で、人間の王宮や教会に似ていた。
「中はあのままなんですか」
「どうするか考えているところだ。城らしくするか、迷路のようにするか」
「迷路! 面白そうです」
向こうの世界のゲームに出てくるダンジョンみたい。
「途中落とし穴とか隠し通路とか、宝箱を置いて……」
「宝箱?」
エーリックが聞き返した。
「強い武器や回復アイテムが入っているの」
「なんで勇者を助ける物を入れるんだ」
「だってダンジョンだよ?」
「ダンジョンって何だよ」
魔王攻略には欠かせないものなんだけど。でもそうか、ここはゲームの世界じゃないからそういうものはないのね。
「宝箱はともかく。ここは仕掛けのある迷路にしますか」
「ああ」
ブラウさんの言葉に魔王さんはうなずいた。
「では中はイルズに任せましょう」
「イルズ?」
初めて聞く名前だわ。
「幻術を得意とする者だ」
そんなひとがいるのね。
「……そういえば、魔王さんたちみたいな人間に似た姿のひとたちってどれくらいいるんですか」
魔王城で何人か見かけたことはあるけれど。
「――全てを把握しているわけではないが、千はいるだろう」
魔王さんが答えた。
「へえ。少ないんですね」
「その代わり人間より寿命がずっと長いし、身体も丈夫だからな」
「寿命……そういえばエーリックも百年生きてるんだっけ」
エーリックを見上げると「百二十年以上だな」と言った。
「ヒナノも女神の祝福を受けて魔物に近くなったのだから、人間より長生きするだろう」
ブラウさんが言った。
「そうなんですか……」
魔物に近くなったとか、寿命が伸びたとか……実感が湧かないけれど。
私の身体は、本当に変わってしまったのかな。
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