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07 意外と快適なんだもん
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「ごちそうさまでした」
食事を終えると私は手を合わせた。
今夜のメニューはパンと野菜たっぷりのスープ、そして魚の塩焼きだ。
「スープが美味かったな」
「出汁が決め手なの」
キノコを乾燥させたものと、干し肉を使ったのだ。いいお出汁が出るのよね。
「あんたって料理上手いんだな」
エーリックが感心したように言った。
「子供のくせに」
「子供じゃないよ、二十歳だよ」
「二十歳!?」
エーリックは大声を上げた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
確かに童顔だけど。
他の人たちにも年齢を言うと驚かれるけど!
「そうか……もう成人してるのか」
何かつぶやいているエーリックを尻目にあと片づけをする。
「これだけ野菜と干し肉があれば当分困らないね」
小麦粉もあるから主食も作れるし。
「――しかし」
エーリックは周囲を見回した。
「あんた、もうここに住み着く気だろ」
「え、そういうわけでもないけど……意外と快適なんだもん、ここの生活」
エーリックと出会ってから五日たった。
出会った翌日、温泉に入ろうとやってくる魔物の数が増え、だったらしばらくはここにいようと思い、でも野宿は流石に……と思っていたら、源泉の近くで良さそうな洞窟を見つけた。
そこに私とエーリックの魔法を使って、とりあえず住むのに必要なものを用意したのだ。
入り口近くには石を積んでかまどを作った。
奥には毛布や布を重ねて寝床にした。
エーリックが防御魔法を張ってくれるので、雨風や危険な生き物は入ってこられない。
それから洞窟の外に小さな温泉を作った。
最初に作ったものはすっかり魔物専用になってしまったので、これは私とエーリック用だ。
原始的な住居だけれど、どこでも寝られるタイプなので私的には十分だ。
洞窟はテントよりずっと広いし丈夫だし。灯りはエーリックが魔法で出した光の玉があるし。トイレがないのを除けば問題ないのよね。
布や食料はエーリックが町に行って買ってきてくれた。
「……そういえば聞きそびれてたんだけど」
「何だ」
「お金ってどうしてるの?」
聞きそびれていたというより、怖くて聞けなかった。
もしも犯罪的に手に入れてたらまずいし、それを使っている私も共犯者になってしまう。
でも知らないままというのも良くないよね。
「ああ。宝石を売って金に換えた」
「宝石?」
「これだ」
パチン、とエーリックが指を鳴らすと、石で作ったテーブルの上にジャラジャラといくつものアクセサリーが現れた。
ネックレスやブローチ、指輪など。どれも大きな石がついていて金の装飾も細かくて、とってもお高そうだ。
「え、これどうしたの?」
「母親が遺したものだ」
「お母さん? もしかして形見!?」
そんな大事なもの売っちゃったの!?
「いざという時に金にするために持っていたものだ。売るためのものだから問題ない」
「そうなんだ……」
私は目についたネックレスを手に取った。
「これオパールだよね。エーリックの目の色に似てて綺麗だね」
金色の繊細なチェーンの先に下がった、柔らかな虹色に輝く丸い石は目の前の瞳にそっくりだ。
「気に入ったならやるよ」
「え?」
「そのネックレス。綺麗なんだろ」
「え、でもこれ、いざという時用なんでしょ」
「たくさんあるし、他のを売ればいいだろ」
そう言ってエーリックは立ち上がった。
それから私の後ろに回ると、持っていたネックレスを取り上げた。
「ほら、つけてやるから」
金具を外してネックレスを私の首にかけると、エーリックはその金具をまた留めた。
「ああ、悪くないな」
また元の場所に戻ると、私を見て目を細めた。
「……あ、ありがとう」
胸元に光る石がエーリックの目と同じ色だと思うと、なんだかドキドキしてしまう。
(そういえば、家族以外の男の人からプレゼントもらうのって初めてだ……)
年齢イコール彼氏ナシ歴なのだ。
でもそれを言うのもちょっと悔しい気がして黙っていた。
「しかし。さすがに洞窟生活というのも味気ないか」
また周囲を見回してエーリックが言った。
「そう? 結構楽しいよ」
トイレがないこと以外はね!
「これじゃ呪われていた時とそう変わらない」
「ああ……」
そうか、雪男だったんだものね。
目の前にいる綺麗な色彩のイケメン君と、あの黒もじゃ雪男が同じにはどうしても見えないけれど。
「……百年間、ずっと独りでいたの?」
「あの姿じゃ人前に出るわけにはいかないだろ」
「でも、討伐隊の目的は多分エーリックだったよ。人を襲いにきた二本足で黒もじゃの魔物だって」
「襲うことはしない。たまたま山に入ってきた人間と遭遇したときに向こうが勘違いしたんだろ」
「そうか。知らないで見たら怖いもんねえ」
「人間は、魔物は襲うものだと思い込んでいるからな」
エーリックはため息をついた。
「魔物も動物も同じだ。自分に危害が及ばなければ相手を襲うことはほとんどない」
「ほとんど……」
襲うこともあるってこと?
「どんなものにも例外はあるだろ」
「そうか……ねえ、魔王って会ったことある?」
「いいや」
「魔王は悪いひとなのかな」
「さあな。人間の王と一緒じゃないか」
「……どっちの可能性もあるってこと?」
「ああ」
「――どうして人間って、魔物を退治したがるんだろうね」
「さあな」
「皆で一緒に温泉に入れば仲良くなれるのにね」
「……そうかもしれないな」
少しあきれたような顔になったエーリックは、そう言って表情を和らげた。
食事を終えると私は手を合わせた。
今夜のメニューはパンと野菜たっぷりのスープ、そして魚の塩焼きだ。
「スープが美味かったな」
「出汁が決め手なの」
キノコを乾燥させたものと、干し肉を使ったのだ。いいお出汁が出るのよね。
「あんたって料理上手いんだな」
エーリックが感心したように言った。
「子供のくせに」
「子供じゃないよ、二十歳だよ」
「二十歳!?」
エーリックは大声を上げた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
確かに童顔だけど。
他の人たちにも年齢を言うと驚かれるけど!
「そうか……もう成人してるのか」
何かつぶやいているエーリックを尻目にあと片づけをする。
「これだけ野菜と干し肉があれば当分困らないね」
小麦粉もあるから主食も作れるし。
「――しかし」
エーリックは周囲を見回した。
「あんた、もうここに住み着く気だろ」
「え、そういうわけでもないけど……意外と快適なんだもん、ここの生活」
エーリックと出会ってから五日たった。
出会った翌日、温泉に入ろうとやってくる魔物の数が増え、だったらしばらくはここにいようと思い、でも野宿は流石に……と思っていたら、源泉の近くで良さそうな洞窟を見つけた。
そこに私とエーリックの魔法を使って、とりあえず住むのに必要なものを用意したのだ。
入り口近くには石を積んでかまどを作った。
奥には毛布や布を重ねて寝床にした。
エーリックが防御魔法を張ってくれるので、雨風や危険な生き物は入ってこられない。
それから洞窟の外に小さな温泉を作った。
最初に作ったものはすっかり魔物専用になってしまったので、これは私とエーリック用だ。
原始的な住居だけれど、どこでも寝られるタイプなので私的には十分だ。
洞窟はテントよりずっと広いし丈夫だし。灯りはエーリックが魔法で出した光の玉があるし。トイレがないのを除けば問題ないのよね。
布や食料はエーリックが町に行って買ってきてくれた。
「……そういえば聞きそびれてたんだけど」
「何だ」
「お金ってどうしてるの?」
聞きそびれていたというより、怖くて聞けなかった。
もしも犯罪的に手に入れてたらまずいし、それを使っている私も共犯者になってしまう。
でも知らないままというのも良くないよね。
「ああ。宝石を売って金に換えた」
「宝石?」
「これだ」
パチン、とエーリックが指を鳴らすと、石で作ったテーブルの上にジャラジャラといくつものアクセサリーが現れた。
ネックレスやブローチ、指輪など。どれも大きな石がついていて金の装飾も細かくて、とってもお高そうだ。
「え、これどうしたの?」
「母親が遺したものだ」
「お母さん? もしかして形見!?」
そんな大事なもの売っちゃったの!?
「いざという時に金にするために持っていたものだ。売るためのものだから問題ない」
「そうなんだ……」
私は目についたネックレスを手に取った。
「これオパールだよね。エーリックの目の色に似てて綺麗だね」
金色の繊細なチェーンの先に下がった、柔らかな虹色に輝く丸い石は目の前の瞳にそっくりだ。
「気に入ったならやるよ」
「え?」
「そのネックレス。綺麗なんだろ」
「え、でもこれ、いざという時用なんでしょ」
「たくさんあるし、他のを売ればいいだろ」
そう言ってエーリックは立ち上がった。
それから私の後ろに回ると、持っていたネックレスを取り上げた。
「ほら、つけてやるから」
金具を外してネックレスを私の首にかけると、エーリックはその金具をまた留めた。
「ああ、悪くないな」
また元の場所に戻ると、私を見て目を細めた。
「……あ、ありがとう」
胸元に光る石がエーリックの目と同じ色だと思うと、なんだかドキドキしてしまう。
(そういえば、家族以外の男の人からプレゼントもらうのって初めてだ……)
年齢イコール彼氏ナシ歴なのだ。
でもそれを言うのもちょっと悔しい気がして黙っていた。
「しかし。さすがに洞窟生活というのも味気ないか」
また周囲を見回してエーリックが言った。
「そう? 結構楽しいよ」
トイレがないこと以外はね!
「これじゃ呪われていた時とそう変わらない」
「ああ……」
そうか、雪男だったんだものね。
目の前にいる綺麗な色彩のイケメン君と、あの黒もじゃ雪男が同じにはどうしても見えないけれど。
「……百年間、ずっと独りでいたの?」
「あの姿じゃ人前に出るわけにはいかないだろ」
「でも、討伐隊の目的は多分エーリックだったよ。人を襲いにきた二本足で黒もじゃの魔物だって」
「襲うことはしない。たまたま山に入ってきた人間と遭遇したときに向こうが勘違いしたんだろ」
「そうか。知らないで見たら怖いもんねえ」
「人間は、魔物は襲うものだと思い込んでいるからな」
エーリックはため息をついた。
「魔物も動物も同じだ。自分に危害が及ばなければ相手を襲うことはほとんどない」
「ほとんど……」
襲うこともあるってこと?
「どんなものにも例外はあるだろ」
「そうか……ねえ、魔王って会ったことある?」
「いいや」
「魔王は悪いひとなのかな」
「さあな。人間の王と一緒じゃないか」
「……どっちの可能性もあるってこと?」
「ああ」
「――どうして人間って、魔物を退治したがるんだろうね」
「さあな」
「皆で一緒に温泉に入れば仲良くなれるのにね」
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