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第3章 紫の系譜

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「リリーは好きな人ができたのかしら」

妻の突然の言葉に、ルイス・エバンズ侯爵は思わず手にしていた本を落とした。


「な…」
「最近あの子、雰囲気が変わってきたのよね」
動揺した夫を楽しそうに眺めながらライラは言葉を続けた。

元々リリーは年齢の割には大人びたところがあった。
学園に通うようになってから、それに女性らしさが増し———その成長の理由に母親として、察するところがあった。

「リリーだってもう十五歳なんですもの。そういう相手がいても———貴方?」
夫の様子に違和感を感じ、ライラは眉根を寄せた。

ひどく真剣な表情で、遠くを見つめるように送られたその視線は何も写していない。



「…そうだな———もう、そういう歳なのだな」

長い沈黙の後、ルイスは呟いた。





「リリー。今日も図書館に行くの?」
放課後、ルカはリリーに声をかけた。

「ええ」
「僕も一緒に行っていい?」

「いいけれど…フレッド達はいいの?」
「そう始終あいつらに付き合う必要はないよ」

連れ立って図書館へと入ると、薄暗い館内からはひんやりとした———本の匂いが混ざる独特の空気が二人を出迎えた。

「ルカはお目当ての本があるの?」
「魔術に関する本をね。リリーは?」
「この間読んだ本が面白かったから、その作家の違う本を読んでみようと思って」
「ふーん…じゃあ僕はあっちにいるから」
「ええ」

ルカが別の方向に去っていくのを見送ると、リリーは文芸関係の本がある棚へ向かった。
一冊一冊、丁寧に背表紙に書かれた文字を追っていく。



「今日は目付役がいるんだな」

ふいに真後ろから声が聞こえ、リリーは振り返った。

「フランツ様」
見上げて、声の主に微笑む。

人の少ない図書室は、二人の待ち合わせの場所だった。

本は小百合と樹の共通の趣味でもあった。
二人は前世で自宅の父親の書斎や、街の図書館で過ごした時と同じように、互いに本を選んだり、読んだりしながら———時間のある時はフランツの部屋に移動し、逢瀬の時間を過ごしていた。


「仕方がない。今日はこれを君に」
そう言うとフランツはリリーの目の前に一冊の本を差し出した。

「…これは?」
「歴史書だ。我が国について詳しく書かれている。花嫁修業用に読んでおいて欲しい」
「———はい」
ほんのり頬を染めてリリーは本を受け取った。


二人の様子を気配を消したルカが見つめていた事に、フランツでさえ気がつかなかった。
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