7 / 33
第1章 赤い記憶
7
しおりを挟む
リリーがフレデリックの婚約者に選ばれる事もなく———他の令嬢が決まる事もなく、時は過ぎ、十四歳の秋を迎えていた。
リリーの視線の先、王宮内に作られた訓練場の中央では二人の青年———フレデリックとルカが剣を構えていた。
先に動いたのはフレデリックだった。
飛び込むように打ち込まれる剣を払い、相手から距離を取るように下がったルカが握りしめた左手が光る。
広げられた掌から放たれた光の玉が襲いかかるのを剣で薙ぎ払うと、フレデリックはすかさずルカへ剣を振るう。
しばらく剣と光を交えた攻防が続いていたが、一瞬の隙を突いたフレデリックがルカの腕に切りつけた。
「———っ!」
吹き上がった真っ赤な血飛沫にリリーは声にならない悲鳴を上げた。
「大丈夫。すぐ治すから」
リリーの隣で見ていたロイドがそう言うと訓練場に向かって歩き出した。
膝をついたルカの腕を取り、口の中で何か呟くと、傷口が淡い色の光に包まれた。
「ルカ!」
リリーはルカの側まで駆け寄った。
「だ、大丈夫なの…?痛みは…?」
「平気だよ、ロイドの回復魔法はすぐ効くからね」
ルカは笑顔でそう返したが、魔法でも消せない、切り裂かれ血で染まった服を見てリリーの顔がざっと青ざめた。
「リリー…大丈夫?」
フレデリックはリリーの顔を見て、困ったように眉を寄せた。
「ごめんね、怖かった?」
「う、ううん。驚いたけど…見たいって言ったのは私だし…」
この世界には魔法がある。
使えるのは限られた人間のみだが、前世での記憶を思い出した後にゲーム内でのリリーも魔法を使っていた事を———それは主にヒロインに嫌がらせをする為のものだったけれど———思い出し、期待したのだが。
現実のリリーは全く魔法が使えなかった。
双子のルカはかなり魔力が強く、攻撃能力も高いというのに。
せめてこの目で魔法が使われるのを見たくて訓練を見学させてくれるよう頼み込んだのだ。
「リリーには血の刺激は強すぎたな。次は魔法だけでやってみようか」
フレデリックとルカを見てロイドが言った。
「…それは私が不利だろう」
「フレッドはすぐ剣に逃げるだろ。魔法も使えないと」
「…じゃあ魔法縛りで」
立ち上がると、ルカはフレデリックの耳元に口を寄せた。
「ただし火の魔法は禁止」
「…何故?」
「何でも。リリーの前で火は使うな」
他の者には聞こえないように、けれど強い声でそう言って、ルカはフレデリックの肩を叩いた。
リリーの視線の先、王宮内に作られた訓練場の中央では二人の青年———フレデリックとルカが剣を構えていた。
先に動いたのはフレデリックだった。
飛び込むように打ち込まれる剣を払い、相手から距離を取るように下がったルカが握りしめた左手が光る。
広げられた掌から放たれた光の玉が襲いかかるのを剣で薙ぎ払うと、フレデリックはすかさずルカへ剣を振るう。
しばらく剣と光を交えた攻防が続いていたが、一瞬の隙を突いたフレデリックがルカの腕に切りつけた。
「———っ!」
吹き上がった真っ赤な血飛沫にリリーは声にならない悲鳴を上げた。
「大丈夫。すぐ治すから」
リリーの隣で見ていたロイドがそう言うと訓練場に向かって歩き出した。
膝をついたルカの腕を取り、口の中で何か呟くと、傷口が淡い色の光に包まれた。
「ルカ!」
リリーはルカの側まで駆け寄った。
「だ、大丈夫なの…?痛みは…?」
「平気だよ、ロイドの回復魔法はすぐ効くからね」
ルカは笑顔でそう返したが、魔法でも消せない、切り裂かれ血で染まった服を見てリリーの顔がざっと青ざめた。
「リリー…大丈夫?」
フレデリックはリリーの顔を見て、困ったように眉を寄せた。
「ごめんね、怖かった?」
「う、ううん。驚いたけど…見たいって言ったのは私だし…」
この世界には魔法がある。
使えるのは限られた人間のみだが、前世での記憶を思い出した後にゲーム内でのリリーも魔法を使っていた事を———それは主にヒロインに嫌がらせをする為のものだったけれど———思い出し、期待したのだが。
現実のリリーは全く魔法が使えなかった。
双子のルカはかなり魔力が強く、攻撃能力も高いというのに。
せめてこの目で魔法が使われるのを見たくて訓練を見学させてくれるよう頼み込んだのだ。
「リリーには血の刺激は強すぎたな。次は魔法だけでやってみようか」
フレデリックとルカを見てロイドが言った。
「…それは私が不利だろう」
「フレッドはすぐ剣に逃げるだろ。魔法も使えないと」
「…じゃあ魔法縛りで」
立ち上がると、ルカはフレデリックの耳元に口を寄せた。
「ただし火の魔法は禁止」
「…何故?」
「何でも。リリーの前で火は使うな」
他の者には聞こえないように、けれど強い声でそう言って、ルカはフレデリックの肩を叩いた。
21
お気に入りに追加
667
あなたにおすすめの小説
第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
悪役令嬢の幸せは新月の晩に
シアノ
恋愛
前世に育児放棄の虐待を受けていた記憶を持つ公爵令嬢エレノア。
その名前も世界も、前世に読んだ古い少女漫画と酷似しており、エレノアの立ち位置はヒロインを虐める悪役令嬢のはずであった。
しかし実際には、今世でも彼女はいてもいなくても変わらない、と家族から空気のような扱いを受けている。
幸せを知らないから不幸であるとも気が付かないエレノアは、かつて助けた吸血鬼の少年ルカーシュと新月の晩に言葉を交わすことだけが彼女の生き甲斐であった。
しかしそんな穏やかな日々も長く続くはずもなく……。
吸血鬼×ドアマット系ヒロインの話です。
最後にはハッピーエンドの予定ですが、ヒロインが辛い描写が多いかと思われます。
ルカーシュは子供なのは最初だけですぐに成長します。
婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される
白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?
婚約破棄された悪役令嬢は、満面の笑みで旅立ち最強パーティーを結成しました!?
アトハ
恋愛
「リリアンヌ公爵令嬢! 私は貴様の罪をここで明らかにし、婚約を破棄することを宣言する!」
突き付けられた言葉を前に、私――リリアンヌは内心でガッツポーズ!
なぜなら、庶民として冒険者ギルドに登録してクエストを受けて旅をする、そんな自由な世界に羽ばたくのが念願の夢だったから!
すべては計画どおり。完璧な計画。
その計画をぶち壊すのは、あろうことかメインヒロインだった!?
※ 他の小説サイト様にも投稿しています
めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。
hoo
恋愛
ほぅ……(溜息)
前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。
ですのに、どういうことでございましょう。
現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。
皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。
ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。
ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。
そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。
さあ始めますわよ。
婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヒロインサイドストーリー始めました
『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』
↑ 統合しました
乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった
月
恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。
そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。
ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。
夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。
四話構成です。
※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです!
お気に入り登録していただけると嬉しいです。
暇つぶしにでもなれば……!
思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。
一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。
散財系悪役令嬢に転生したので、パーッとお金を使って断罪されるつもりだったのに、周囲の様子がおかしい
西園寺理央
恋愛
公爵令嬢であるスカーレットは、ある日、前世の記憶を思い出し、散財し過ぎて、ルーカス王子と婚約破棄の上、断罪される悪役令嬢に転生したことに気が付いた。未来を受け入れ、散財を続けるスカーレットだが、『あれ、何だか周囲の様子がおかしい…?』となる話。
◆全三話。全方位から愛情を受ける平和な感じのコメディです!
◆11月半ばに非公開にします。
乙女ゲームのモブ令嬢、マリア・トルースの日記
月
恋愛
マリア・トルースは入学案内を見て、前世でプレイしていた乙女ゲームのモブに転生していたことに気が付く。
それならやることは一つ。
キャラたちのイベントをこの目で楽しみ、日記に残すこと。
だがしかしどうだろう?
ヒロイン、オフィーリアの様子がおかしい。
そして決定的なことが起こる。
まだ一年生のオフィーリアは、三年生の卒業記念パーティーを友人、ユレイアの断罪パーティーへと変えようとしていた。
待って、このゲームに婚約破棄イベントも断罪イベントもないからね!?
その時、幼馴染のジークがユレイアを助けるために言ったこと。
「こちらも証拠を出せばいいのでは?」と。
そしてなぜか私に差し出される手。
ジークの執事が証拠として持ってきたのは私の日記だった。
ジークは言った。
"マリア・トルース"の日記だ、と。
それを聞いてユレイアは「あら、まぁ」と微笑んだ。
なぜか日記を読まれるはめになった、モブ令嬢のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる