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四幕目 1
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「わあっ」
慣れない高さと不安定さに思わず声を上げる。
すかさずお腹に回った手に力が入り、背後に引かれて———また声を上げそうになるのをぐっとこらえた。
近い!というか密着しすぎ!
色々無理!
「ミア嬢は馬に乗った事はないの?」
パニックになりそうな私を見てジュードさんが笑いながら尋ねた。
「ありません!」
馬は乗るものじゃなくて曳くものです!
「でもネーロは慣れてるみたいだけど」
そう言いながら頭を撫でるとネーロは少し目を細めた。
もうじき聖なる神殿に到着する。
聖域である神殿の敷地内に入ってしまえば手出しはできなくなるので、アルフ様が襲われる可能性があるならばその前だろうと、いくつか対策を取る事になった。
その一つがいざという時は荷台を捨ててネーロに乗って逃げる事で、ジュードさんが持ってきた鞍をネーロに付け、試しにアルフ様と乗ってみる事になったのだ。
呪いの影響でアルフ様の足の力は弱くなっている。
それでも腕の力を使い、自力で跨るとアルフ様はこちらに手を伸ばしてきた。
その手を借りてなんとか私もネーロに乗り…アルフ様の前に座る。
馬の上ってすごく高いのね!
ネーロの頭を見下ろす視線が慣れなくて何だか不思議。
それに…狭い所に二人で乗るわけだから。
ぴったりと…アルフ様に背後から抱きしめれるように乗らないとならなくて。
うう、恥ずかしい…
「ネーロ…重くないの?」
恥ずかしさを誤魔化すようにそう言って背中を撫でるとネーロは大丈夫というように頭を振った。
「本当にこの馬は大人しいね。初めて鞍を付ける時や人を乗せる時って普通嫌がるもんだよ」
「うちの子は頭がいいんです」
「それに体格も随分いい。王都の騎馬隊でも中々見かけない。馬車馬にするには勿体ないくらいだよ」
「そうなんですか」
うふふ、褒めて。
もっとうちの子を褒めて。
「この馬はどうやって手に入れたんだ?」
カーティスさんがネーロを見つめながら言った。
「……ずっと家にいるので。私には分かりません」
先日の呪いの話を思い出してしまい、やや警戒しながら答えた。
ネーロは私と一緒に親父さんの厩にいた。
まるで私を守るようだったと、親父さんは教えてくれた。
———もしかしたらネーロは私の本当の名前や素性を知っているのかもしれない。
いくら頭が良くても言葉は喋れないから分からないけど…
「少し歩かせてみようか」
ジュードさんが言った。
「アルフ様は見えないからミア嬢が手綱を握るんだ」
「…はい」
「馬車を曳くのと同じ感覚でやってみて」
「はい。ネーロ、行くよ」
軽く合図を送るとネーロは歩き出した。
うわあ、結構揺れる!
「背筋を伸ばして。そんなに身体に力を入れない!揺れに合わせてバランスを取るんだ」
一度に色々言われても!
「ミア。力を抜いて僕に身体を預けて」
わあーアルフ様は耳元で囁かないで!
「じゃあ走ってみようか」
待ってまだ早いから!
「行くよミア。ネーロ走れ!」
「きゃあ!」
「舌噛むから喋っちゃダメだよ!」
そう叫ぶジュードさんの声があっという間に遠くなった。
早い!
馬ってこんなに早く走るの?!
人気のない丘陵地をぐるっと駆け抜けて、ネーロはあっという間に元の場所に戻ってきた。
「いやあ、本当にいい馬だねえ」
うんうんとジュードさんが頷いている。
「アルフ様、どうですか」
「ああ、気持ちよかったよ」
嬉しそうな声を滲ませてアルフ様が答えた。
「———目が見えた状態で乗ったらもっと気持ちいいんだろうね」
今度は寂しさのこもった声だった。
慣れない高さと不安定さに思わず声を上げる。
すかさずお腹に回った手に力が入り、背後に引かれて———また声を上げそうになるのをぐっとこらえた。
近い!というか密着しすぎ!
色々無理!
「ミア嬢は馬に乗った事はないの?」
パニックになりそうな私を見てジュードさんが笑いながら尋ねた。
「ありません!」
馬は乗るものじゃなくて曳くものです!
「でもネーロは慣れてるみたいだけど」
そう言いながら頭を撫でるとネーロは少し目を細めた。
もうじき聖なる神殿に到着する。
聖域である神殿の敷地内に入ってしまえば手出しはできなくなるので、アルフ様が襲われる可能性があるならばその前だろうと、いくつか対策を取る事になった。
その一つがいざという時は荷台を捨ててネーロに乗って逃げる事で、ジュードさんが持ってきた鞍をネーロに付け、試しにアルフ様と乗ってみる事になったのだ。
呪いの影響でアルフ様の足の力は弱くなっている。
それでも腕の力を使い、自力で跨るとアルフ様はこちらに手を伸ばしてきた。
その手を借りてなんとか私もネーロに乗り…アルフ様の前に座る。
馬の上ってすごく高いのね!
ネーロの頭を見下ろす視線が慣れなくて何だか不思議。
それに…狭い所に二人で乗るわけだから。
ぴったりと…アルフ様に背後から抱きしめれるように乗らないとならなくて。
うう、恥ずかしい…
「ネーロ…重くないの?」
恥ずかしさを誤魔化すようにそう言って背中を撫でるとネーロは大丈夫というように頭を振った。
「本当にこの馬は大人しいね。初めて鞍を付ける時や人を乗せる時って普通嫌がるもんだよ」
「うちの子は頭がいいんです」
「それに体格も随分いい。王都の騎馬隊でも中々見かけない。馬車馬にするには勿体ないくらいだよ」
「そうなんですか」
うふふ、褒めて。
もっとうちの子を褒めて。
「この馬はどうやって手に入れたんだ?」
カーティスさんがネーロを見つめながら言った。
「……ずっと家にいるので。私には分かりません」
先日の呪いの話を思い出してしまい、やや警戒しながら答えた。
ネーロは私と一緒に親父さんの厩にいた。
まるで私を守るようだったと、親父さんは教えてくれた。
———もしかしたらネーロは私の本当の名前や素性を知っているのかもしれない。
いくら頭が良くても言葉は喋れないから分からないけど…
「少し歩かせてみようか」
ジュードさんが言った。
「アルフ様は見えないからミア嬢が手綱を握るんだ」
「…はい」
「馬車を曳くのと同じ感覚でやってみて」
「はい。ネーロ、行くよ」
軽く合図を送るとネーロは歩き出した。
うわあ、結構揺れる!
「背筋を伸ばして。そんなに身体に力を入れない!揺れに合わせてバランスを取るんだ」
一度に色々言われても!
「ミア。力を抜いて僕に身体を預けて」
わあーアルフ様は耳元で囁かないで!
「じゃあ走ってみようか」
待ってまだ早いから!
「行くよミア。ネーロ走れ!」
「きゃあ!」
「舌噛むから喋っちゃダメだよ!」
そう叫ぶジュードさんの声があっという間に遠くなった。
早い!
馬ってこんなに早く走るの?!
人気のない丘陵地をぐるっと駆け抜けて、ネーロはあっという間に元の場所に戻ってきた。
「いやあ、本当にいい馬だねえ」
うんうんとジュードさんが頷いている。
「アルフ様、どうですか」
「ああ、気持ちよかったよ」
嬉しそうな声を滲ませてアルフ様が答えた。
「———目が見えた状態で乗ったらもっと気持ちいいんだろうね」
今度は寂しさのこもった声だった。
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