素直になれなくて

蕾々虎々

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伝えたいことがあります

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 階段を登り切ると、彼女が振り向いた。二人で買ったお揃いのマフラーを身に着けて、一年前のあの日と変わらない凛々しい姿。待たせてしまっただろうか。その手が、微かに震えているのが見えた。
 小走りで近づき、彼女の顔を正面から見つめる。彼女も、真っすぐこちらの眼を見つめ返してきた。

 そっと深呼吸をする。そういえば、一年前のあの時もそうしていたように思う。あの時は自分のことに一杯一杯で相手に気を遣う余裕なんて微塵も無かった。今も、寒さを感じない程度にはドキドキしているけど。
 呼吸が整い、ドキドキも気にならない程度に収まった。胸に抱えていた両手を下ろすと、改めて真っすぐに彼女の眼を見て。

 「来てくれてありがとう。寒いのに待たせちゃってごめんね」
 「ううん」

 何回も繰り返してきた他愛もない結びの言葉。されど心なしか、今日は彼女の表情が硬い気がした。当然か。真冬のこんな寒い中一人で待たせてしまって、どんなに気を配っても顔が強張るのは当たり前だ。
 改めて待たせてしまったことへの申し訳なさを覚えつつ、これ以上余計な時間を使わないようにさっさと気持ちを伝えてしまおうと思う。

 「今日は、伝えたいことがあります」

 無意識の内に、先程下ろした両手を腰の前で強く握り合わせていた。この胸にとめどなく溢れる感謝の気持ちが、出来るだけ強く伝わりますようにと、想いを込めるように。

 「今日で一年。こんな私に付き合ってくれて本当にありがとう」

 一旦、言葉を区切る。
 実際に言葉に出してみて分かった。感謝を伝えたかったのも本当。だけど、わざわざこんな改まって呼び出したりして伝えたかったのは。
 彼女が好きで。彼女とずっと一緒に居たくて。どうしようもなくて。
 今よりもっと、彼女を好きになりたい。今よりずっと、私を見て欲しい。何のことはない、自分で思っていたよりも遥かに、私は強欲だったらしい。

 だから、もう一度告白しようと思った。

 前よりもずっと強くなったこの気持ちを。気づいてしまえばもう抑ええられないこの気持ちを。
 好き。本当。好かれたい。本当。でも、彼女を束縛したい訳では無かった。もし、彼女の側に居られなくなったとしたら、辛くて、哀しくて、外聞もなく泣いてしまうだろう。
 それでも。彼女の厚意に甘えて、なぁなぁで済ませて。それは、相手に対する思いやりのない、一番最低なことだと思うから。

 「それで……」

 何度目であっても緊張するのに変わりはない。どんなに固く決心していたとしても、直前になって少しの躊躇いが生まれて若干の間が空いてしまう。
 でも、あの日の私が勇気をくれた。一度は出来たという経験が今の私を後押ししてくれる。
 それから続きの言葉を口にしようと、した。

 「ごめんなさい」

 だけど、彼女から紡がれたその言葉は私の決心を遠くへ押し流してしまった。
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