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閑話:キュートな子猫の可愛がり方

可愛い子猫の愛し方

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 指だけで何度もイかせてから、ようやく伊上は自身の昂ぶりを取り出す。
 くったりと力の抜けた天希の脚を抱え上げ、ローションをこぼす小さな孔に先端を擦りつけると、素直な体が反応してそこがひくりと動いた。

「挿れていい?」

「……ぅん、欲しい」

 とろっと溶けたような眼差しで、いとけなく頷く天希に伊上は興奮をぶつけるかの如く腰を進め、快感でくねる体をぐっと引き寄せる。
 一気に押し込まれた天希は目を見開いてはくはくと息をするが、さらに押し開き抽挿を繰り返せば、たまらなく甘ったるい喘ぎをこぼした。

「あっぁっ、いいっ、こーいち、もっと」

「ほんと、あまちゃんの体はやらしいね。交尾して啼く雌猫みたい」

「ち、ちがっ、猫じゃ、ないっ」

「そう? さっきからにゃんにゃん啼いてるみたいだよ?」

「ちが、うっ、やっん、ぁあっ、イクっ、もう」

 先ほどからイキっぱなしなせいか、呆気なく上り詰めた天希は伊上の昂ぶりを締めつけ、ビクビクと体を跳ねさせる。
 それでも動きに逆らい腰を引き、伊上は再び奥へと突き入れた。

「はっぁ、こーいち、キス……キスしたい」

 揺さぶられながらも瞳で訴えてくる、可愛い恋人のおねだりに、繋がったまま身を屈めてお望み通り口づけを贈る。
 渇いた喉を潤そうとするみたいに深いキスを求める天希の様子に、ギリギリで耐えていたものが崩壊させられた気がした。

 遠慮なく腰を使い始めた伊上に追いつけずに、天希は快楽に翻弄されてひっきりなし悲鳴に似た声を上げる。
 さらに無防備な胸の尖りまで愛撫されれば、まともにものを考えられないほどなのだろう。

 よがり狂いながら何度も甲高い嬌声を上げる。
 二度、伊上が欲を吐き出した頃にはすっかり声が掠れてしまっていた。

「可愛い子猫ちゃん。声が色っぽくなってるよ? 奥、ぐりぐりして欲しい?」

 腰を揺らすとローションがぐちゃぐちゃと粘ついた音を立てる。
 ぬめりを借りて奥へ押し入りトントンと内壁を突いただけで、ぴくんぴくんと天希の体が跳ねた。いまは中を擦る刺激だけでも感じてしまうらしい。

 だがそれは伊上も同様で無意識に快楽を求め、何度も抽挿を繰り返していた。
 天希を前にすると欲望が尽きることを知らず、満足するまで抱き潰したくなる。

「ねぇ、もっといっぱい動いてもいい?」

「だめっ、やにゃ、まだしちゃやにゃ」

 ろれつの回らない天希は自分がいまどんな言葉を発しているか、まったく理解していないようだ。
 突然の破壊力にぐっと息を詰めた伊上はしばらくして息を吐き出した。

「滾るね」

「へ? やっ、こーいち! やにゃー!」

 再び臨戦状態になった伊上に目を丸くした天希は逃げ出そうともがくものの、大型獣が好物の餌を逃すはずがない。
 引きずり戻されて貪り尽くされるのがオチだ。

 天希の体が自由になった時にはすでに日付が変わっていた。

「ひでぇ目に遭った」

 ぐったりとベッドで力尽きている天希は体を拭く伊上にされるがままで、ブツブツと文句を言っている。
 さすがにもう指一本動かすのも辛いのだろうことが様子からもよくわかった。

「猫語で理性がぶち切れるとか、あんたの性癖やっぱ変態だ」

 なぜいきなりあんな状態になったのかと聞かれたので、素直ににゃんにゃん言う天希がたまらなかったと伊上は答えた。
 聞いた途端、あんぐり口を開けて呆れられ、見た目とのアンバランスが良かったとなおも答えたら「変態野郎!」と罵られたが。

「畜生、結局は伊上の思うつぼだった」

「その分だけ気持ち良くなったんだし。それとも僕とのセックスはいまいちだった?」

「くっ、最高でした。……だけど! もう絶対に言わねぇからな!」

「へぇ」

 心のこもっていない相づちを返せば、じとりと横目で睨まれる。
 それでも拭き終わった体を優しく揉みほぐしてやると、ゴロゴロ喉を鳴らす猫のようにうっとりし始めた。

「あまちゃん、明日は何時に出るの?」

「うーん、午前中さ、猫を見に行きたいって言ったら怒るか?」

「ああ、二ノ宮の本邸に行きたいんだね。いいよ」

 どうせ昼からでいいと言われている。
 二ノ宮へ行ったあと天希を駅まで送れば良いだろうと、伊上は二つ返事で了承をした。

 あそこには常に人がいるのだが、子猫については伊上も気にかかる。
 とは言ってもおそらくそのまま本邸で飼うだろうと予想もついており、志築は渋い顔をしても、息子の成治は動物好きなので黙認するはずだ。

「名前はやっぱコウちゃんは駄目なのか?」

「篠原が言ったようにやめておいたほうがいいと思うよ。それに猫を僕と重ねて見られて、あまちゃんが構ってばっかりだと面白くないし」

「……伊上でも嫉妬するんだな」

「君と過ごして情緒が育ったかな」

「へへっ、いいことだな」

 枕を抱き込みながら破顔する天希の表情に誘われ、伊上が頬に唇を落とすとパチリと瞬いてから、枕に顔を埋めてなにやらもごもご言っている。
 恥ずかしさを隠しきれていない行動が可愛く、自然と伊上の顔に笑みが浮かぶ。

 作り笑いは元より得意だが、こうした笑みを浮かべられるようになったのも天希のおかげだろう。
 相変わらず彼以外の前では仮面だと篠原は言っているが。

 全身をマッサージし終わり伊上が天希の隣に横たわると、わずかに顔が動きちらりと横目で見つめられる。
 毛布を引き寄せてつつ、恋人の体も抱き寄せて腕に閉じ込めたら、黙って胸元へすり寄ってきた。

「無理させてごめんね」

「別に、いい。気持ち良かったし、俺はまだ若いし」

「なに? さりげなく僕をディスってるの?」

「うそうそ、俺よりかよっぽどあんたのほうが体力ある」

 くすくすと笑う天希はごますりをするみたいに伊上の体に抱きつく。
 普段の伊上であればそんなご機嫌取りでは納得しないけれど、相手が天希であれば別だった。

「じゃあ、僕に負けないように体力をつけないとね」

「マジかよ。あんたの体力わりと無尽蔵だろ」

「あまちゃんは十八個も年下なのにね?」

「うわぁ、揚げ足取り」

 他愛のないピロトークなどこれまでした覚えもない。
 自分の腕の中で疲れてウトウトし出す天希を見ていると、伊上はこれまで縁のなかった幸せというものを感じる。

 彼と同じ年の頃にはすでに一筋縄でいかない大人に混じっており、面倒なしがらみにつきまとわれてうんざりしていた。
 志築が組を継いでくれたおかげでようやく、いくらか身の回りがすっきりしたと言っていい。

 これから先は少しでも長く天希と過ごすために、余計なモノをそぎ落としていかなければならないだろう。
 どんなにあがいても自身がいまの場所から抜け出すのは不可能だ。

 たとえ抜け出たとしても周りが放って置いてくれない。

 いつの間にか胸元ですやすやと寝息を立てていた天希へ視線を向け、そっと伊上は彼の額に口づけた。

「君とあとどれくらい一緒にいられるのかな? ……ふふっ」

 まるで離さないと答えるかのようにぎゅっと背中を鷲掴みされて、それが偶然だとしても胸の奥に温かさを感じる。
 ぬくもりをなくしてはいけないと、天希を抱きしめ伊上もまぶたを閉じた。

 恋人を抱きしめて眠る日は夢も見ぬほどぐっすりと眠れるのだ。



 二ノ宮家に増えた家族は命名〝雪丸〟となった。
 非常に安直な名前ではあるものの、覚えやすさは大事でもある。そうでないと周りの男どもは勝手な呼び名で呼び出す。

「ユッキー」

「まるちゃん」

「ゆーたん」

「まんまる」

 ぴょこぴょこと跳ね回る子猫を囲んだ男たちは、デレデレとしながら猫じゃらしを振っている。
 誰一人として正しい名前を呼んでいないところがやはりと言うべきだろう。

 本邸にいる天希を迎えに来た伊上は屋敷の惨状に呆れた視線を送る。
 冷ややかな目をしながら開け放されたふすまの手前で立ち止まると、気づいた天希がパッと顔を上げた。

「あっ、伊上、おかえり!」

 満面の笑みの恋人とは対照的に、挙がった名前で気づいた者たちは緩んだ顔を引きつらせ、その場で直立する。

「僕に構わず、好きにしてていいよ」

 駆け寄ってきた天希の腰を抱いた伊上はひらひらと手を振った。
 それでもなお固まったままなので、肩をすくめて踵を返せば、やや間を置いたあとに再び後ろから猫なで声が聞こえ始める。

「伊上は雪丸を撫でていかなくて良かったのか?」

「ん? だって僕にはここに、可愛い子猫ちゃんがいるからね」

「だ、か、ら! 俺は猫じゃねぇ!」

 腰を引き寄せてこめかみにキスをしたら、ムッと口を尖らせた金色のにゃんこが猫パンチを繰り出してくる。
 そんな様子に声を上げて笑った伊上は今日もご機嫌で家路に就くのであった。


END
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