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序章~はじまりの日~
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木々の合間から見える青い空で鳥が旋回していた。茶色に黒マダラのその鳥は、ラーズヘルム王国第三騎士団が所有している伝令用の鷹だ。
鳴き声につられて頭上を見上げたリューウェイクは、懐に忍ばせた呼び笛を取り出し息を吹き込む。しばらくすると笛の音に気づいた鷹が、羽音を立てながら降下してきた。
馬上からリューウェイクが腕を差し伸ばして待てば、そこへゆっくりと着地する。
「ギャッツ、ご苦労さま」
鋭い金目の鷹――ギャッツはねぎらう声に目を細め、褒美を催促するよう指に頭を擦りつけてくる。
甘えた仕草に苦笑しつつ、リューウェイクは腰に下げた袋から干し肉を取り出す。くちばしで受け取った彼は、満足をしたのか足を軽く持ち上げ、金属の筒を示した。
『いますぐ帰還 祈りの塔』
簡潔な走り書きの文字。意味を悟ったリューウェイクの理知的で美しい、紫水晶の瞳が暗い色を帯びた。
胸の内に湧き上がる行き場のない感情を、こらえているのがひと目でわかるほど、眉間のしわも深くなる。
「リューク、なんの知らせだ? 城に残ってるやつらからだろう?」
「陛下たちが、私のいないあいだに先走ったみたいだ」
「え? それは、あれだろう? お前がずっと反対していた」
馬を寄せてきた、今回の遠征リーダーである部隊長ベイク・ラドインは、思いがけない内容に目を見開く。言葉もないと言わんばかりの反応に、リューウェイクも苦虫を噛み潰した気分になる。
手紙を握りつぶし、騎士服の懐へ突っ込み、とっさに馬の手綱を引いて方向転換した。
「すまない。私は先に城へ帰還する」
「……そうだな。少々、心配は残るが」
まだ二十歳を過ぎたばかりで、成熟しきらない優しげな面立ちをしているリューウェイク。
ベイクからすると十歳以上も年下だった。それでもリューウェイクは、第三騎士団で有能と言われる副団長だ。
戦力の要が抜けるデメリットに逡巡し、ベイクは部隊を振り返ったが、瞬時に頭を切り替えて頷いてくれた。
「いまは急いだほうがいい。よし、今回の討伐はおっさんに任せておけ」
「ありがとう」
頼り甲斐のある大柄な体で胸を反らし、安心させるように胸元を拳で叩く。
向けられたカラッとした笑みに、感謝の念を込めて深く頷き返したリューウェイクは、すぐさま馬を走らせた。
羽ばたいた鷹に見守られた愛馬が、鬱蒼とした森を駆け抜けて景色が流れゆく。
近頃、日に焼けて艶が失われてきた、麦藁色の前髪が風に煽られる。
さらには冷たさを感じる早朝の風が頬を撫でていき、リューウェイクは目をすがめた。
(やはりあの二人には私の声など、微塵も届かないんだな)
春先の定期遠征は夏秋冬に比べると長期にわたることが多い。
謀られた――と気づき、胸に重石を突っ込まれた気持ちにさせられる。兄たちの治世に自分の存在など必要ないと、否応無しに理解を強いられるのだ。
鳴き声につられて頭上を見上げたリューウェイクは、懐に忍ばせた呼び笛を取り出し息を吹き込む。しばらくすると笛の音に気づいた鷹が、羽音を立てながら降下してきた。
馬上からリューウェイクが腕を差し伸ばして待てば、そこへゆっくりと着地する。
「ギャッツ、ご苦労さま」
鋭い金目の鷹――ギャッツはねぎらう声に目を細め、褒美を催促するよう指に頭を擦りつけてくる。
甘えた仕草に苦笑しつつ、リューウェイクは腰に下げた袋から干し肉を取り出す。くちばしで受け取った彼は、満足をしたのか足を軽く持ち上げ、金属の筒を示した。
『いますぐ帰還 祈りの塔』
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胸の内に湧き上がる行き場のない感情を、こらえているのがひと目でわかるほど、眉間のしわも深くなる。
「リューク、なんの知らせだ? 城に残ってるやつらからだろう?」
「陛下たちが、私のいないあいだに先走ったみたいだ」
「え? それは、あれだろう? お前がずっと反対していた」
馬を寄せてきた、今回の遠征リーダーである部隊長ベイク・ラドインは、思いがけない内容に目を見開く。言葉もないと言わんばかりの反応に、リューウェイクも苦虫を噛み潰した気分になる。
手紙を握りつぶし、騎士服の懐へ突っ込み、とっさに馬の手綱を引いて方向転換した。
「すまない。私は先に城へ帰還する」
「……そうだな。少々、心配は残るが」
まだ二十歳を過ぎたばかりで、成熟しきらない優しげな面立ちをしているリューウェイク。
ベイクからすると十歳以上も年下だった。それでもリューウェイクは、第三騎士団で有能と言われる副団長だ。
戦力の要が抜けるデメリットに逡巡し、ベイクは部隊を振り返ったが、瞬時に頭を切り替えて頷いてくれた。
「いまは急いだほうがいい。よし、今回の討伐はおっさんに任せておけ」
「ありがとう」
頼り甲斐のある大柄な体で胸を反らし、安心させるように胸元を拳で叩く。
向けられたカラッとした笑みに、感謝の念を込めて深く頷き返したリューウェイクは、すぐさま馬を走らせた。
羽ばたいた鷹に見守られた愛馬が、鬱蒼とした森を駆け抜けて景色が流れゆく。
近頃、日に焼けて艶が失われてきた、麦藁色の前髪が風に煽られる。
さらには冷たさを感じる早朝の風が頬を撫でていき、リューウェイクは目をすがめた。
(やはりあの二人には私の声など、微塵も届かないんだな)
春先の定期遠征は夏秋冬に比べると長期にわたることが多い。
謀られた――と気づき、胸に重石を突っ込まれた気持ちにさせられる。兄たちの治世に自分の存在など必要ないと、否応無しに理解を強いられるのだ。
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