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レンアイモヨウ
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お互い真っ正直なんだろうなと思うと、ほんの少し羨ましくもある。自分はひねくれて、素直に心の内側にある気持ちさえ言葉にできない。
それを言葉というカタチにしてしまったら、なにかがガラガラと崩れ落ちていきそうで、隣にある手さえ握れない。
この微妙な距離感だから、まだ自分を保っていられる。もしかしたら言ってしまうと、逃げ道がなくなるから言えないのかもしれない。
この先も一緒にいるだろうと、想像はできているのに。
そういえば誰かに好き――の言葉を告げたことは、一度もなかった気がする。しかしそれを告げる、最初の相手が隣に立つ男なのか、それはまだ想像ができていない。
「色々びっくりしました。でも同性同士のカップルは気づかないことのほうが多いし、俺も出会えて嬉しかったです。知ってると相談できること多いですよね。連絡先を交換しちゃった」
「お前はすでにあちこちに筒抜けじゃねぇか」
「う、まあ、わりとそうですけど。広海先輩ってあまりそういう交友関係ないですよね」
「確かにないな。そもそも長続きしないからほかの縁もほとんど続かない」
「友達も少なめですよね」
「うるせぇよ」
少しすっきりしたように笑みを浮かべて、帰って行った二人の距離は、指先を伸ばせば届きそうな近さだった。
満足げに見つめ合って、もう仲違いなんてしそうにも見えないほどで、サプライズもきっと成功するのだろう。
たまに喧嘩しながらも、お互い変わることなく歩いて行けそうに見える。それがやはり羨ましく思える。
「俺は幸せ者ですね。こうして先輩を独り占めできてる」
「いつまでもつかわかんねぇぞ」
「大丈夫です。俺はどんなことがあっても手を離さないですから」
「……飯どうすんだ。どっかで食って帰るか」
「広海先輩、俺、ほんとに絶対に手を離さないよ。だから逃げられても追いかけるから」
踏み出した足を止めずに歩く、俺の背中に執着心が絡みついた。赤い糸という名のそれは、ふらふらとした気持ちを雁字搦めにして、繋ぎ止めて離そうとしない。
いままでならきっとぷつりと、自分から切っていた縁だ。
けれどいまはそのしがらみが、心地よいとさえ思う。まっすぐに自分へ向けられる感情が嬉しくて、胸が震える。しかしそれはやはり言葉にならなかった。
「俺はずっと先輩といるから、忘れないでいてね」
「……っ」
ふいに通り過ぎた声と気配が先へと進んでいく。それに気づいてとっさに手を伸ばしたら、目の前の背中は立ち止まり、いつもの笑みが振り返った。
伸ばした指先が震えて、ぎゅっと握りしめて手を引けば、その手は強く握られた。
「遅くなっちゃったし、どっか定食屋とかラーメン屋とかでもいい?」
「なんでもいい」
「よーし、この近くならね」
そっと握り込んでいた手を解くと、手のひらに熱が重なった。小さな画面に、視線を落としている横顔を見上げて、温かなぬくもりをもっと感じられるように、指先に力を込める。
驚いた視線が振り向いたけれど、黙ったまま俯いて足を踏み出す。
気持ちを問いただそうとしたのは、これまでで一度だけ。それ以降どんな場面でも、俺の気持ちを問いただそうとはしなくなった。
言葉にしたら、それだけで安心させてやれるのだろう。自分だって気持ちを伝えてもらえるだけで、ほっとした気持ちになる。
「瑛冶」
「ん? なに?」
「……あ、いや、……なんでも、ない」
「ねぇ、こことかどう? 前に行ったことあるんだけど、チャーシュー麺がおいしかったよ」
「お前は、なにも聞かねぇな」
聞かれたいわけでもないのに、そんな言葉が出たのは、気づいていないふりをして振り向いたからだ。
どれだけこの男に我慢を強いているのだろう。そう思うと言葉をカタチにするのは、必要なのかもしれない。
「……無理、しなくていいよ。俺、ちゃんとわかってるし、ちゃんと伝わってる。言葉がなくても広海先輩が、俺のこと大好きなのは知ってます。だから言葉がなくても大丈夫。いつか言いたくなったら言ってください」
立ち止まって、手を握ってただいつものように笑う。言わなくてもわかっていると、言われたのは初めてではないけれど、なぜだかやけに胸に染みてくる。
視界がぼやけて俯いたら、感情がこぼれ落ちた。
「先輩は、俺が思っているよりずっと、俺とのこと考えてくれてるんですよね。でも俺はいまが幸せだから、あなたのいない世界なんて考えられないし、道の先を変えるなんて一生できない。……あ、それと実は俺も言っちゃってるんです」
「……なにをだ」
「親に、広海先輩のこと」
「はっ?」
「だってこの先を考えると言っておかないと。結婚できないし、子供も無理だし、そういうのは全部、下の子たちに任せることになっちゃうでしょ。だから正式に一緒に暮らすのが決まった時に、言っちゃいました」
思わず睨み付けるみたいに視線を上げたら、後ろめたさを感じさせるどころか、開き直っていた。
それは様子を窺うどころか、間違ったことを一つもしていないみたいな顔だ。
ムカついて手を振り解こうとすると、強く握られる。
「なんで、お前たちはそんなに簡単に」
「簡単じゃない。……簡単なことじゃないから言うんだよ。嘘をつくのも嫌だし、彼女は結婚はって言われても困るし。なにより俺にはあなたしかないってことを、知っておいてもらいたい。さっき穂村くんに本当のこと言った、先輩の誤魔化したくないって気持ちも似たようなものでしょ?」
「結婚、……時期が来たらする、って言ってなかったか」
ふと記憶が巻き戻る。数日前くらい、電話口で笑いながら話していたあれは、なんだったのだろう。
親からの言葉を、やり過ごすような返事なのかと思いはした。なにげなく耳に留めて、なにげなく通り過ぎたけれど、ずっと引っかかっていたのはこれだ。
その場の嘘なのだとしても、そういう言葉が出てくるのは、いつか正しいレールに戻るからなのかと思った。
「あっ、あれは、なんて言うか」
「そういうつもりが片隅にでもあるってことか」
「……うん、あるよ」
慌てたような声を上げたが、問いかければまっすぐな目で返事をする。その視線にまた胸の奥がじくりと痛んで、息が詰まりそうになった。
もう一度手に力を込めたけれど、離すつもりがないのかビクともしない。
手が震えているのが伝わってしまう。それが嫌で目をそらしたら手を引かれて、抱きしめられた。
「離せ、これ以上目立ちたくない」
「ごめん、でも誤解されたままは嫌だから離したくない」
駅前で人が多い夕刻。穂村たちのように騒いでいるわけでなくとも、男同士で抱き合う構図は目を引く。
それなのに身をよじっても、抱きしめる腕は離れていかなくて、焦りなのか頬が火照る。
「結婚っていうのは言葉のたとえみたいなもので、この先、誰かと籍を入れるとかじゃないよ。いま住んでるところにパートナー制度があるのに申請しないのかって言われて、そういうのはもう少し先かなって話してただけ。俺が一人で答えを出せるものじゃないし。でも今日の話を聞いたらそれもそろそろ必要かなって思った。想像以上に不安にさせてた」
するりと手を離れたぬくもりが、頬に触れるとそっと額を合わせられた。その仕草に胸の音が一瞬大きく脈打つけれど、近づいてくる気配を感じて、それを押し止める。
拗ねるみたいに口を尖らせるが、なお近づいてこようとする顔を、今度は押し退けた。
「やめろ」
「キスしたい」
「したら殴る」
「しおらしくて可愛い先輩だと思ったのに」
「時と場所を考えろ」
力一杯の抵抗をしたら、諦めたのかふっと力が抜ける。
触れていたぬくもりが遠ざかって、合間を冷たい風が通り抜けた。しかし息をついた瞬間に、離れた距離は突然狭まり、額に熱を感じる。
驚いて視線を上げたら、目の前の男は悪びれることなく、緩みきった顔で満面の笑みを浮かべた。
「時と場所、考えられなくなっちゃった」
「ば、馬鹿じゃねぇの!」
「ご飯テイクアウトして帰りませんか。もっと一杯ぎゅってしたくなった。うん、そうしよう」
「自己完結すんな!」
急に生き生きしだした瞳に、嫌な予感しか湧いてこない。繋がれた手を解こうと引いたが、それよりも強く引っ張られる。
大きく足を踏み出した背中を渋々ついていくと、振り返った顔が柔らかく綻んだ。
「広海先輩、好きだよ」
「……っ! 俺だって、……だ」
「んふふ、声ちっちゃ。可愛い」
言葉になっていないような、小さな声が本当に届いたのかわからないが、嬉しそうな表情を浮かべるその反応に、心が軽くなった。
言ったら取り返しが、つかないんじゃないかと思っていたのに、言ってしまったら大したことではないような気持ちになる。
だからと言って何度もは言えそうにない。それに気づいているはずなのに、こちらを見る目は意地の悪い色を見せた。
「もう一回、おっきな声で言って」
「絶対もう言わねぇ!」
「えー、まあ仕方ないか、先輩のデレは貴重だからなぁ。次に期待します」
「次はないって言ってんだろ!」
「はいはい。さあ、早く帰りましょう」
楽しそうに笑う横顔がいつも以上に機嫌が良くて、改札の前で離れた手が寂しくなかった。
こんなにもこの男が、自分の中に浸食していたことに驚くけれど、指折り数えたら片手じゃ足りないくらい、傍にいるんだと言うことにも気づいた。
日常の中にいつの間にか入り込んで、図々しくも居座ったこの男の粘り勝ちに近い。しかしそれは長いあいだ一ミリもぶれることなく、気持ちが向けられていたから許せたことだ。
いままで不安になる要素なんて一つもなかった。
もっと自分はこの感情を信じるべきなんだと思った。
レンアイモヨウ/end
それを言葉というカタチにしてしまったら、なにかがガラガラと崩れ落ちていきそうで、隣にある手さえ握れない。
この微妙な距離感だから、まだ自分を保っていられる。もしかしたら言ってしまうと、逃げ道がなくなるから言えないのかもしれない。
この先も一緒にいるだろうと、想像はできているのに。
そういえば誰かに好き――の言葉を告げたことは、一度もなかった気がする。しかしそれを告げる、最初の相手が隣に立つ男なのか、それはまだ想像ができていない。
「色々びっくりしました。でも同性同士のカップルは気づかないことのほうが多いし、俺も出会えて嬉しかったです。知ってると相談できること多いですよね。連絡先を交換しちゃった」
「お前はすでにあちこちに筒抜けじゃねぇか」
「う、まあ、わりとそうですけど。広海先輩ってあまりそういう交友関係ないですよね」
「確かにないな。そもそも長続きしないからほかの縁もほとんど続かない」
「友達も少なめですよね」
「うるせぇよ」
少しすっきりしたように笑みを浮かべて、帰って行った二人の距離は、指先を伸ばせば届きそうな近さだった。
満足げに見つめ合って、もう仲違いなんてしそうにも見えないほどで、サプライズもきっと成功するのだろう。
たまに喧嘩しながらも、お互い変わることなく歩いて行けそうに見える。それがやはり羨ましく思える。
「俺は幸せ者ですね。こうして先輩を独り占めできてる」
「いつまでもつかわかんねぇぞ」
「大丈夫です。俺はどんなことがあっても手を離さないですから」
「……飯どうすんだ。どっかで食って帰るか」
「広海先輩、俺、ほんとに絶対に手を離さないよ。だから逃げられても追いかけるから」
踏み出した足を止めずに歩く、俺の背中に執着心が絡みついた。赤い糸という名のそれは、ふらふらとした気持ちを雁字搦めにして、繋ぎ止めて離そうとしない。
いままでならきっとぷつりと、自分から切っていた縁だ。
けれどいまはそのしがらみが、心地よいとさえ思う。まっすぐに自分へ向けられる感情が嬉しくて、胸が震える。しかしそれはやはり言葉にならなかった。
「俺はずっと先輩といるから、忘れないでいてね」
「……っ」
ふいに通り過ぎた声と気配が先へと進んでいく。それに気づいてとっさに手を伸ばしたら、目の前の背中は立ち止まり、いつもの笑みが振り返った。
伸ばした指先が震えて、ぎゅっと握りしめて手を引けば、その手は強く握られた。
「遅くなっちゃったし、どっか定食屋とかラーメン屋とかでもいい?」
「なんでもいい」
「よーし、この近くならね」
そっと握り込んでいた手を解くと、手のひらに熱が重なった。小さな画面に、視線を落としている横顔を見上げて、温かなぬくもりをもっと感じられるように、指先に力を込める。
驚いた視線が振り向いたけれど、黙ったまま俯いて足を踏み出す。
気持ちを問いただそうとしたのは、これまでで一度だけ。それ以降どんな場面でも、俺の気持ちを問いただそうとはしなくなった。
言葉にしたら、それだけで安心させてやれるのだろう。自分だって気持ちを伝えてもらえるだけで、ほっとした気持ちになる。
「瑛冶」
「ん? なに?」
「……あ、いや、……なんでも、ない」
「ねぇ、こことかどう? 前に行ったことあるんだけど、チャーシュー麺がおいしかったよ」
「お前は、なにも聞かねぇな」
聞かれたいわけでもないのに、そんな言葉が出たのは、気づいていないふりをして振り向いたからだ。
どれだけこの男に我慢を強いているのだろう。そう思うと言葉をカタチにするのは、必要なのかもしれない。
「……無理、しなくていいよ。俺、ちゃんとわかってるし、ちゃんと伝わってる。言葉がなくても広海先輩が、俺のこと大好きなのは知ってます。だから言葉がなくても大丈夫。いつか言いたくなったら言ってください」
立ち止まって、手を握ってただいつものように笑う。言わなくてもわかっていると、言われたのは初めてではないけれど、なぜだかやけに胸に染みてくる。
視界がぼやけて俯いたら、感情がこぼれ落ちた。
「先輩は、俺が思っているよりずっと、俺とのこと考えてくれてるんですよね。でも俺はいまが幸せだから、あなたのいない世界なんて考えられないし、道の先を変えるなんて一生できない。……あ、それと実は俺も言っちゃってるんです」
「……なにをだ」
「親に、広海先輩のこと」
「はっ?」
「だってこの先を考えると言っておかないと。結婚できないし、子供も無理だし、そういうのは全部、下の子たちに任せることになっちゃうでしょ。だから正式に一緒に暮らすのが決まった時に、言っちゃいました」
思わず睨み付けるみたいに視線を上げたら、後ろめたさを感じさせるどころか、開き直っていた。
それは様子を窺うどころか、間違ったことを一つもしていないみたいな顔だ。
ムカついて手を振り解こうとすると、強く握られる。
「なんで、お前たちはそんなに簡単に」
「簡単じゃない。……簡単なことじゃないから言うんだよ。嘘をつくのも嫌だし、彼女は結婚はって言われても困るし。なにより俺にはあなたしかないってことを、知っておいてもらいたい。さっき穂村くんに本当のこと言った、先輩の誤魔化したくないって気持ちも似たようなものでしょ?」
「結婚、……時期が来たらする、って言ってなかったか」
ふと記憶が巻き戻る。数日前くらい、電話口で笑いながら話していたあれは、なんだったのだろう。
親からの言葉を、やり過ごすような返事なのかと思いはした。なにげなく耳に留めて、なにげなく通り過ぎたけれど、ずっと引っかかっていたのはこれだ。
その場の嘘なのだとしても、そういう言葉が出てくるのは、いつか正しいレールに戻るからなのかと思った。
「あっ、あれは、なんて言うか」
「そういうつもりが片隅にでもあるってことか」
「……うん、あるよ」
慌てたような声を上げたが、問いかければまっすぐな目で返事をする。その視線にまた胸の奥がじくりと痛んで、息が詰まりそうになった。
もう一度手に力を込めたけれど、離すつもりがないのかビクともしない。
手が震えているのが伝わってしまう。それが嫌で目をそらしたら手を引かれて、抱きしめられた。
「離せ、これ以上目立ちたくない」
「ごめん、でも誤解されたままは嫌だから離したくない」
駅前で人が多い夕刻。穂村たちのように騒いでいるわけでなくとも、男同士で抱き合う構図は目を引く。
それなのに身をよじっても、抱きしめる腕は離れていかなくて、焦りなのか頬が火照る。
「結婚っていうのは言葉のたとえみたいなもので、この先、誰かと籍を入れるとかじゃないよ。いま住んでるところにパートナー制度があるのに申請しないのかって言われて、そういうのはもう少し先かなって話してただけ。俺が一人で答えを出せるものじゃないし。でも今日の話を聞いたらそれもそろそろ必要かなって思った。想像以上に不安にさせてた」
するりと手を離れたぬくもりが、頬に触れるとそっと額を合わせられた。その仕草に胸の音が一瞬大きく脈打つけれど、近づいてくる気配を感じて、それを押し止める。
拗ねるみたいに口を尖らせるが、なお近づいてこようとする顔を、今度は押し退けた。
「やめろ」
「キスしたい」
「したら殴る」
「しおらしくて可愛い先輩だと思ったのに」
「時と場所を考えろ」
力一杯の抵抗をしたら、諦めたのかふっと力が抜ける。
触れていたぬくもりが遠ざかって、合間を冷たい風が通り抜けた。しかし息をついた瞬間に、離れた距離は突然狭まり、額に熱を感じる。
驚いて視線を上げたら、目の前の男は悪びれることなく、緩みきった顔で満面の笑みを浮かべた。
「時と場所、考えられなくなっちゃった」
「ば、馬鹿じゃねぇの!」
「ご飯テイクアウトして帰りませんか。もっと一杯ぎゅってしたくなった。うん、そうしよう」
「自己完結すんな!」
急に生き生きしだした瞳に、嫌な予感しか湧いてこない。繋がれた手を解こうと引いたが、それよりも強く引っ張られる。
大きく足を踏み出した背中を渋々ついていくと、振り返った顔が柔らかく綻んだ。
「広海先輩、好きだよ」
「……っ! 俺だって、……だ」
「んふふ、声ちっちゃ。可愛い」
言葉になっていないような、小さな声が本当に届いたのかわからないが、嬉しそうな表情を浮かべるその反応に、心が軽くなった。
言ったら取り返しが、つかないんじゃないかと思っていたのに、言ってしまったら大したことではないような気持ちになる。
だからと言って何度もは言えそうにない。それに気づいているはずなのに、こちらを見る目は意地の悪い色を見せた。
「もう一回、おっきな声で言って」
「絶対もう言わねぇ!」
「えー、まあ仕方ないか、先輩のデレは貴重だからなぁ。次に期待します」
「次はないって言ってんだろ!」
「はいはい。さあ、早く帰りましょう」
楽しそうに笑う横顔がいつも以上に機嫌が良くて、改札の前で離れた手が寂しくなかった。
こんなにもこの男が、自分の中に浸食していたことに驚くけれど、指折り数えたら片手じゃ足りないくらい、傍にいるんだと言うことにも気づいた。
日常の中にいつの間にか入り込んで、図々しくも居座ったこの男の粘り勝ちに近い。しかしそれは長いあいだ一ミリもぶれることなく、気持ちが向けられていたから許せたことだ。
いままで不安になる要素なんて一つもなかった。
もっと自分はこの感情を信じるべきなんだと思った。
レンアイモヨウ/end
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