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別離
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どんな時でもひたむきに僕を愛してくれる藤堂。僕のことを誰よりも想ってくれている優しい人。彼は傷つきながらそれでも懸命に負けてしまいそうな自分に抗おうとする。繊細で弱くて脆いけれど、心の芯にあるものはきっと金剛石のような輝きがあるんじゃないかと思えた。どんなに打ち据えられても、純粋な想いは歪まない。
「佐樹さん、俺もっと強くなります。何度も誓ったけど今度こそ変わりたい」
藤堂が持つものは外側の強さだけじゃなかったんだ。決意を秘めた眼差しを僕は眩しく想いながら見つめた。
「うん、大丈夫。お前にならきっとできるよ」
「佐樹さんにまた惚れ直してもらえるくらいの男になりたい」
「そっか、それは楽しみだな。期待してるぞ」
まっすぐとした瞳に笑みを返して、僕は愛おしさが伝わればいいとそっと唇を重ねた。そして何度もついばむような口づけを交わしていると、ふいに輪郭をなぞるように舌先で唇を撫でられる。触れ合うだけではないその感触に小さく肩が震えた。
「……んっ」
唇に吸い付く濡れた感触は肌をぞくりとさせる。こんな風に口づけるのはいつぶりだろう。その先を請うようにうっすらと唇を開けば、その奥に濡れた舌先が滑り込んだ。ひどく甘いその口づけに酔いそうになる。
「はぁっ、ん……」
舌先が絡んでこすれ合うたびに背中を快感がよぎる。口内を弄られ、息すら絡め取られてしまいそうで、しがみつくように抱きついてしまった。けれどそれと共にふっと唇が離れていく。
「藤堂?」
「そんな顔をしないで、このままここで押し倒してしまいそうだから」
首を傾げて藤堂を見つめたら、彼は苦笑いを浮かべて僕の頬を撫でる。その感触にすり寄れば、そっと口先に口づけを落として僕の身体を抱き上げた。そして恭しいくらいに優しくベッドに横たえる。
両手で僕を囲い、まっすぐと僕を見下ろす藤堂の視線に頬が熱くなった。じわじわ広がる熱は耳まで広がっていく。でも逃げ出す気にはならなくて、先をねだるように目の前の唇を引き寄せる。するとそれに応えるように再び舌先が唇をなぞっていく。
「佐樹さん、愛してる」
「うん」
角砂糖みたいに甘ったるい口づけが心を満たしていく。混ざり合う唾液すらまるで媚薬のようで、奥底まで触れて欲しくてたまらなくなる。腕を伸ばして藤堂を抱き寄せて、求めるように舌先を伸ばした。絡み合うそれは熱くて身体までじんと火照るような気がする。
「あ、待って……脱ぐ」
「いいですよ」
「よくない、なんかこれじゃ格好つかない」
コートのボタンに手をかけた藤堂の手を慌てて止めると、僕は急いで身体を起こし立ち上がる。そして自分の格好を見て思わず苦笑してしまった。部屋についてからずっとコートを着たまま鞄もかけたまま、これでは少しばかり色気にかける気がする。
不服そうな顔でベッドの端に腰掛けた藤堂の口先に口づけると、僕は鞄を下ろしコートのボタンを外した。そして中に着ていたジャケットのボタンも外して、まとめて脱いで床に放った。
「佐樹さんこっち来て」
「待って、まだ」
腕を伸ばし僕を引き寄せようとする藤堂から逃れると、僕はシャツのボタンに手をかけながらそれをスラックスから引き抜く。そして一つひとつと指先でボタンを外し、一番下までたどり着くと肩を脱いでゆっくりとシャツを下ろした。
素肌が外気に触れる感覚に肌がざわめく。けれどまっすぐに藤堂に見つめられていると思うと、身体の内は熱くなってくる。緩慢とも言えるほどの動きで袖から腕を引き抜けば、はらりとシャツは床に落ちて広がった。
「佐樹さん」
さらに靴を脱ぎ捨て素足になると、ゆっくりと藤堂に近づきながらウエストのボタンを外す。けれどファスナーを下ろし、スラックスに指をかけたところで藤堂の手に捕まった。勢いよく引き寄せられてベッドの上に身体と腕を押さえつけられる。中途半端に落ちたスラックスが足に絡み、身動きが取れなくなった。
「あんまり煽らないで、我慢できる自信がなくなります」
「我慢、するんだ」
眉間にしわを寄せて僕を見下ろす藤堂の瞳の奥は熱を孕んでいた。けれどそれを押さえ込もうとするほどに僕の内でくすぶるものは高まっていく。足先で行儀悪くスラックスを滑り落とすと、素足を藤堂に寄せる。
「……っ、佐樹さん! これでも反省してるんです。あなたを不安にさせて傷つけたこと」
「じゃあ、不安も傷も消えるくらいに抱きしめてくれたら許す」
僕の不安や傷なんかよりも、僕は藤堂の不安と傷を消してあげたい。あんな風に打ちひしがれて泣く藤堂はできればもう見たくない。あんな風にボロボロになった藤堂を見るのは、どんな出来事よりもずっと僕には辛い。そんなことを考えるくらいなら、全部忘れるくらいに抱きしめて欲しい。
「この傷、残りますね」
「うん、けどもう大丈夫だ」
両腕を押さえていた手が解けて、僕の右腕を優しく撫でた。肘から手首にかけて刻まれた傷跡は薄まるかもしれないけれど、多分ずっと消えない。これを見るたびに藤堂は思い出してしまうだろうか。罪悪感に苛まれることになるのは嫌だな。
「藤堂は? もう大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。もう傷は塞がっています」
「そっか、でも無理はできないよな」
バスローブの合わせ目からそっと手を滑り込ませると、藤堂の右脇腹を撫でた。小さな傷口は医療用のテープに覆われている。医師は一か月で退院できると言っていたが、無理をしたら傷口が開く可能性もあるかもしれない。
「佐樹さんに触れるくらいはできますよ」
「そんなに僕は物欲しそうにしてる?」
「瞳の奥に熱を感じるくらいには」
「だって、ずっと藤堂に触れてなかった」
ゆっくりと近づいた藤堂に頬ずりされて、くすぐったさに肩をすくめる。すり寄るように頬に口づけされると、じわりと熱を帯びた。胸がやたらと音を早めていく。目の前にある瞳をまっすぐに見つめたら、熱のこもった目で見つめ返された。
「藤堂、早く抱きしめて」
右腕を撫でている手を胸元へ引き寄せて、その先をねだる。心の奥を覗き込まれるのが恥ずかしくて、目を閉じたら藤堂の唇は顎を伝い首筋に落ちた。時折薄い皮膚に吸い付く唇は優しく撫でるように肌の上を滑る。そして指先が肌を伝うたびにその感触に肩が震えた。
「藤堂、愛してる」
こんな愛おしさはほかに知らない。触れているだけで幸せなんだ。隙間を埋めるみたいに抱き合って、求め合うように口づけて、息ができないくらい胸が苦しくて熱くて仕方がない。
二人の熱を重ねるだけで腹の底からじわじわと疼いてくる。ねだるように揺れる身体を止める術はなくて、すがりつくように藤堂の肩にしがみついた。そしてそんな僕の背を片腕で抱き寄せる藤堂は、噛みつくような荒い口づけをする。けれどそれがますます気持ちを高ぶらせていく。ずっと足りなかった藤堂をもっと心に満たしたい、そんな想いが湧いた。
「泣かないで佐樹さん」
「や、ぁっ……もう、駄目」
優しく舌先で涙を拭われるだけでぞくりとした高揚感が身体を震わせる。藤堂の手の上に自分の両手を重ねて、その先の高まりを求めれば、腰が砕けてしまいそうなほど甘い痺れが広がり、止めどなく涙がこぼれた。
頭の中が真っ白になる。気づけば藤堂の肩口にもたれて荒く呼吸を繰り返していた。久しぶりに感じた過ぎるほどの快感に頭がぼんやりとして、思考が定まらない。
「佐樹さん、可愛い」
「や、だ……くすぐるな」
耳元で聞こえる笑い声と、そこから湧き上がる痺れるような感覚に肩が跳ね上がってしまう。それでもなお追い詰めるように耳の縁を唇で撫でられ、何度もあられもない声が漏れて羞恥で頬が熱くなった。
「佐樹さんの声を聞くだけでゾクゾクする。まるで媚薬みたいだ」
「恥ずかしいこと言うな」
「どこに触れても甘いし、佐樹さんにかじり付きたい気分になる」
囁く藤堂の声のほうがずっとゾクゾクするし、媚薬みたいに僕を惑わせる。そんな甘やかな声を塞ぎたくて指先で唇を覆ったら、容易く指先に囓りつかれた。そして付け根から先までたっぷりと舐められる。その瞬間、背筋に甘い痺れがよぎり思わず小さく声が漏れてしまった。
それと同時に火をつけられたみたいに顔が熱くなる。自分でもわかるくらいに紅潮して、それが恥ずかしくて目を伏せた。けれど藤堂はそれを許してはくれず、肌に感じるほどの視線を向けてくる。その視線にゆっくりと目を向けると、やんわりと微笑んだ藤堂に頬を撫でられた。
「藤堂が、笑ってる顔が一番好きだ」
「好きなのに、どうしてそんなに泣きそうな顔をするんですか?」
「違う、これは、幸せで胸が苦しいから」
「どうしたら苦しくなくなりますか?」
「……もっと抱きしめて、僕の中からお前が消えないように、ちゃんと刻みつけておいてくれ」
優しい笑顔に胸が締めつけられて、幸せなはずなのに涙があふれてしまった。まだ先だけれど、離れてしまうんだって実感したら、急に心が切なくなる。
腕を伸ばしたら抱き寄せるように身体を包み込まれた。そのぬくもりが嬉しくて、僕は肩口に頬を寄せて微かに感じる音に耳を澄ませる。とくんとくんと脈打つその音は藤堂の存在を感じさせてくれるようで、ひどく安心をさせてくれた。次第に僕の音も寄り添うように緩やかな音を奏で始める。
僕はこの鼓動をずっと忘れないでいようと思う。この優しい高鳴りは僕を感じていてくれる。だから藤堂の想いはずっと傍にいてくれるはずだ。
「佐樹さん、俺もっと強くなります。何度も誓ったけど今度こそ変わりたい」
藤堂が持つものは外側の強さだけじゃなかったんだ。決意を秘めた眼差しを僕は眩しく想いながら見つめた。
「うん、大丈夫。お前にならきっとできるよ」
「佐樹さんにまた惚れ直してもらえるくらいの男になりたい」
「そっか、それは楽しみだな。期待してるぞ」
まっすぐとした瞳に笑みを返して、僕は愛おしさが伝わればいいとそっと唇を重ねた。そして何度もついばむような口づけを交わしていると、ふいに輪郭をなぞるように舌先で唇を撫でられる。触れ合うだけではないその感触に小さく肩が震えた。
「……んっ」
唇に吸い付く濡れた感触は肌をぞくりとさせる。こんな風に口づけるのはいつぶりだろう。その先を請うようにうっすらと唇を開けば、その奥に濡れた舌先が滑り込んだ。ひどく甘いその口づけに酔いそうになる。
「はぁっ、ん……」
舌先が絡んでこすれ合うたびに背中を快感がよぎる。口内を弄られ、息すら絡め取られてしまいそうで、しがみつくように抱きついてしまった。けれどそれと共にふっと唇が離れていく。
「藤堂?」
「そんな顔をしないで、このままここで押し倒してしまいそうだから」
首を傾げて藤堂を見つめたら、彼は苦笑いを浮かべて僕の頬を撫でる。その感触にすり寄れば、そっと口先に口づけを落として僕の身体を抱き上げた。そして恭しいくらいに優しくベッドに横たえる。
両手で僕を囲い、まっすぐと僕を見下ろす藤堂の視線に頬が熱くなった。じわじわ広がる熱は耳まで広がっていく。でも逃げ出す気にはならなくて、先をねだるように目の前の唇を引き寄せる。するとそれに応えるように再び舌先が唇をなぞっていく。
「佐樹さん、愛してる」
「うん」
角砂糖みたいに甘ったるい口づけが心を満たしていく。混ざり合う唾液すらまるで媚薬のようで、奥底まで触れて欲しくてたまらなくなる。腕を伸ばして藤堂を抱き寄せて、求めるように舌先を伸ばした。絡み合うそれは熱くて身体までじんと火照るような気がする。
「あ、待って……脱ぐ」
「いいですよ」
「よくない、なんかこれじゃ格好つかない」
コートのボタンに手をかけた藤堂の手を慌てて止めると、僕は急いで身体を起こし立ち上がる。そして自分の格好を見て思わず苦笑してしまった。部屋についてからずっとコートを着たまま鞄もかけたまま、これでは少しばかり色気にかける気がする。
不服そうな顔でベッドの端に腰掛けた藤堂の口先に口づけると、僕は鞄を下ろしコートのボタンを外した。そして中に着ていたジャケットのボタンも外して、まとめて脱いで床に放った。
「佐樹さんこっち来て」
「待って、まだ」
腕を伸ばし僕を引き寄せようとする藤堂から逃れると、僕はシャツのボタンに手をかけながらそれをスラックスから引き抜く。そして一つひとつと指先でボタンを外し、一番下までたどり着くと肩を脱いでゆっくりとシャツを下ろした。
素肌が外気に触れる感覚に肌がざわめく。けれどまっすぐに藤堂に見つめられていると思うと、身体の内は熱くなってくる。緩慢とも言えるほどの動きで袖から腕を引き抜けば、はらりとシャツは床に落ちて広がった。
「佐樹さん」
さらに靴を脱ぎ捨て素足になると、ゆっくりと藤堂に近づきながらウエストのボタンを外す。けれどファスナーを下ろし、スラックスに指をかけたところで藤堂の手に捕まった。勢いよく引き寄せられてベッドの上に身体と腕を押さえつけられる。中途半端に落ちたスラックスが足に絡み、身動きが取れなくなった。
「あんまり煽らないで、我慢できる自信がなくなります」
「我慢、するんだ」
眉間にしわを寄せて僕を見下ろす藤堂の瞳の奥は熱を孕んでいた。けれどそれを押さえ込もうとするほどに僕の内でくすぶるものは高まっていく。足先で行儀悪くスラックスを滑り落とすと、素足を藤堂に寄せる。
「……っ、佐樹さん! これでも反省してるんです。あなたを不安にさせて傷つけたこと」
「じゃあ、不安も傷も消えるくらいに抱きしめてくれたら許す」
僕の不安や傷なんかよりも、僕は藤堂の不安と傷を消してあげたい。あんな風に打ちひしがれて泣く藤堂はできればもう見たくない。あんな風にボロボロになった藤堂を見るのは、どんな出来事よりもずっと僕には辛い。そんなことを考えるくらいなら、全部忘れるくらいに抱きしめて欲しい。
「この傷、残りますね」
「うん、けどもう大丈夫だ」
両腕を押さえていた手が解けて、僕の右腕を優しく撫でた。肘から手首にかけて刻まれた傷跡は薄まるかもしれないけれど、多分ずっと消えない。これを見るたびに藤堂は思い出してしまうだろうか。罪悪感に苛まれることになるのは嫌だな。
「藤堂は? もう大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。もう傷は塞がっています」
「そっか、でも無理はできないよな」
バスローブの合わせ目からそっと手を滑り込ませると、藤堂の右脇腹を撫でた。小さな傷口は医療用のテープに覆われている。医師は一か月で退院できると言っていたが、無理をしたら傷口が開く可能性もあるかもしれない。
「佐樹さんに触れるくらいはできますよ」
「そんなに僕は物欲しそうにしてる?」
「瞳の奥に熱を感じるくらいには」
「だって、ずっと藤堂に触れてなかった」
ゆっくりと近づいた藤堂に頬ずりされて、くすぐったさに肩をすくめる。すり寄るように頬に口づけされると、じわりと熱を帯びた。胸がやたらと音を早めていく。目の前にある瞳をまっすぐに見つめたら、熱のこもった目で見つめ返された。
「藤堂、早く抱きしめて」
右腕を撫でている手を胸元へ引き寄せて、その先をねだる。心の奥を覗き込まれるのが恥ずかしくて、目を閉じたら藤堂の唇は顎を伝い首筋に落ちた。時折薄い皮膚に吸い付く唇は優しく撫でるように肌の上を滑る。そして指先が肌を伝うたびにその感触に肩が震えた。
「藤堂、愛してる」
こんな愛おしさはほかに知らない。触れているだけで幸せなんだ。隙間を埋めるみたいに抱き合って、求め合うように口づけて、息ができないくらい胸が苦しくて熱くて仕方がない。
二人の熱を重ねるだけで腹の底からじわじわと疼いてくる。ねだるように揺れる身体を止める術はなくて、すがりつくように藤堂の肩にしがみついた。そしてそんな僕の背を片腕で抱き寄せる藤堂は、噛みつくような荒い口づけをする。けれどそれがますます気持ちを高ぶらせていく。ずっと足りなかった藤堂をもっと心に満たしたい、そんな想いが湧いた。
「泣かないで佐樹さん」
「や、ぁっ……もう、駄目」
優しく舌先で涙を拭われるだけでぞくりとした高揚感が身体を震わせる。藤堂の手の上に自分の両手を重ねて、その先の高まりを求めれば、腰が砕けてしまいそうなほど甘い痺れが広がり、止めどなく涙がこぼれた。
頭の中が真っ白になる。気づけば藤堂の肩口にもたれて荒く呼吸を繰り返していた。久しぶりに感じた過ぎるほどの快感に頭がぼんやりとして、思考が定まらない。
「佐樹さん、可愛い」
「や、だ……くすぐるな」
耳元で聞こえる笑い声と、そこから湧き上がる痺れるような感覚に肩が跳ね上がってしまう。それでもなお追い詰めるように耳の縁を唇で撫でられ、何度もあられもない声が漏れて羞恥で頬が熱くなった。
「佐樹さんの声を聞くだけでゾクゾクする。まるで媚薬みたいだ」
「恥ずかしいこと言うな」
「どこに触れても甘いし、佐樹さんにかじり付きたい気分になる」
囁く藤堂の声のほうがずっとゾクゾクするし、媚薬みたいに僕を惑わせる。そんな甘やかな声を塞ぎたくて指先で唇を覆ったら、容易く指先に囓りつかれた。そして付け根から先までたっぷりと舐められる。その瞬間、背筋に甘い痺れがよぎり思わず小さく声が漏れてしまった。
それと同時に火をつけられたみたいに顔が熱くなる。自分でもわかるくらいに紅潮して、それが恥ずかしくて目を伏せた。けれど藤堂はそれを許してはくれず、肌に感じるほどの視線を向けてくる。その視線にゆっくりと目を向けると、やんわりと微笑んだ藤堂に頬を撫でられた。
「藤堂が、笑ってる顔が一番好きだ」
「好きなのに、どうしてそんなに泣きそうな顔をするんですか?」
「違う、これは、幸せで胸が苦しいから」
「どうしたら苦しくなくなりますか?」
「……もっと抱きしめて、僕の中からお前が消えないように、ちゃんと刻みつけておいてくれ」
優しい笑顔に胸が締めつけられて、幸せなはずなのに涙があふれてしまった。まだ先だけれど、離れてしまうんだって実感したら、急に心が切なくなる。
腕を伸ばしたら抱き寄せるように身体を包み込まれた。そのぬくもりが嬉しくて、僕は肩口に頬を寄せて微かに感じる音に耳を澄ませる。とくんとくんと脈打つその音は藤堂の存在を感じさせてくれるようで、ひどく安心をさせてくれた。次第に僕の音も寄り添うように緩やかな音を奏で始める。
僕はこの鼓動をずっと忘れないでいようと思う。この優しい高鳴りは僕を感じていてくれる。だから藤堂の想いはずっと傍にいてくれるはずだ。
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