34 / 249
休息
01
しおりを挟む
お互い意外と晴れ男なのかもしれない。開いたカーテンの向こうに見えた青空に、僕は目を細めた。昨日の天気予報では今日明日は雨で、かなり心配していたのだが、いまは雲一つない綺麗な空だ。
前に出かけた時もこんなにいい天気だったなと、ふいに思い出して口元が緩む。朝、目が覚めてからなんだかずっとそわそわしている自分がいる。その理由には気づいているけど、気恥ずかしくていまはあまり考えないでおこうと思う。
「うーん、いい天気」
欠伸と共にそう呟いて、僕は大きく伸びをしてから寝間着のTシャツとハーフパンツをベッドの上に放り投げる。着替えたその服装は、長袖のTシャツにデニム、トレーナー地のジップパーカーで、以前に出かけた時とあまり変わらないが、まあそこは気にしない。それによそ行きなおしゃれな服などほとんど持っていないし、今日の行き先ならばこんなもんだろう。
「それなりに歩くだろうしな」
連休前に藤堂の予定に合わせてスケジュールを調整し、約束した通り二人で出かける計画は今日、無事決行されることになった。一応、藤堂が行きたいところという名目なのだが、正直言うと首を傾げる部分がある。
「なにか違う気がするんだよな」
これから向かう場所を思い浮かべ僕は思わず小さく唸る。あの時、藤堂が選んだ場所はどう考えても、彼の口からなんの躊躇いもなく出るような場所には思えなかった。多分きっと嫌いではないだろうが、それでもやっぱり少し違う気がする。
なぜならそこは僕自身が好きな場所だからだ。大体そのことを知っていなければ、藤堂の口から――動物園へ行こう、なんて言葉が出るはずがない。
「結局、僕の行きたいとこじゃないか」
藤堂の行きたいところに行こうと言ったのに、ため息交じりに呟けば、図ったように携帯電話が鳴った。慌ててそれを開くと、メールを受信している。
藤堂からいつも届く朝のメールだ。大して中身のない「おはよう」の挨拶だけだが、これには意味がある。
「もう電車に乗ったのか」
普段、平日の朝にだけ来るこのメールは、藤堂が電車に乗った頃に送信される。なのでこれはいま電車に乗りましたという合図のようなものだ。彼の最寄り駅は僕の駅と同じ沿線で、あいだに七つ駅を挟む。なのでのんびりしていると、あっという間にこちらに着いてしまう。
時計を確認し、少しだけスピードを上げて身支度すると、僕は目と鼻の先にある駅へと急いで向かった。
休日の朝はさすがに静かだった。普段はたくさんの人が行き交う場所は閑散としていて、人波などまったくない。ひと気の少ないやけに広々とした駅前の広場を過ぎ、約束の五分前に改札口を通り抜ければ、ちょうど藤堂が階段を下りてきた。
「おはよう」
「おはようございます」
軽く手を上げれば、爽やかな笑顔が返ってくる。朝に見る藤堂の微笑みは妙に眩しく感じる。こうキラキラとしたオーラが周りを取り巻いているような感じだ。
「なんか目が覚めるな」
思わず口から出た言葉に、自分で笑ってしまう。しかしそのくらいに藤堂が眩しくて、気分が高揚していくのを感じる自分がいるのだから、仕方がない。
「なんですかそれ」
そんな浮かれた僕に藤堂は不思議そうな顔で首を傾げるが、僕は苦笑いを浮かべて、その場を誤魔化すようのんびりと歩き始めた。朝から藤堂に見惚れてました、なんて恥ずかし過ぎてそんなことは絶対に言えない。
「さすがに空いてるな」
目的地はこの駅で別の線に乗り換え、電車とバスを乗り継ぐ。日帰りだが片道二時間弱で、ちょっとした小旅行な気分だ。ホームに着きちょうど来た電車に乗ると、その中も駅前と同様にひと気は少ない。おそらく目的地が同じと思える家族連れや中高生くらいのグループなどをちらほら見かける程度だ。
「いまから行く場所は連休中なんでまったく混んでないとは言えませんけど、多分余所より広いのでいくらかマシですよ」
ぼんやりと車内を眺めていた僕は藤堂の声に振り返る。すると隣に座っている藤堂がふっと目を細め、やんわりとした優しい微笑みを浮かべた。
「ふぅん、そうか」
相槌を打ちながら僕はなぜかその姿をじっと見つめていた。しばらくそのままでいると、藤堂が不思議そうに小さく首を傾げる。
相変わらずプライベートの藤堂には少し戸惑う。普段と一緒で決して派手ではない。着ているものも黒地のシャツとデニムにグレーのシンプルなデザインのジャケット。それはまったく華美ではないし、アクセサリー類はつけないほうなのかシンプルだ。戸惑う原因は髪型や眼鏡のせいだろうか。なんだかいつもと違う雰囲気で大人っぽいその姿にそわそわしてしまう。
「藤堂」
「なんですか?」
「ん、いや、なんでもない」
数少ない乗客の多くが藤堂を振り返る――そんな視線を感じて、胸の内にモヤモヤしたものがくすぶってくる。でもこんな公衆の場で、こんないい男がいて、振り返るなというほうが無理な話だ。
「心が狭過ぎる」
嫉妬――ふいに浮かんだその感情に僕は肩を落とした。いままではこんなこと感じたことがなかったから、余計にその感情に翻弄される自分がいる。
「どうしたの佐樹さん」
微かな僕の呟きに訝しげな表情を浮かべた藤堂は、座席に置いていた僕の指先にさり気なく触れる。
「な、なんでもない」
その感触に僕が思わず肩を跳ね上げれば、どこか含みのある藤堂の笑顔と共にそれは離れていった。一体どこまで藤堂に心の内を見透かされているんだろうかと思う。知っていてもらえる嬉しさと、独占欲の塊みたいな自分に気づかれる不安とが、ごちゃまぜになってどうしたらいいかわからなくなる。
「お前には、なんでも知られてそうで怖い」
感情も言葉も、あれこれとすぐに先回りされて、言葉が足りなくとも藤堂は敏感に察しすくい取ってくれる。それがすごく嬉しいと思う反面、それに慣れてしまったら、普段でも足りてないと自覚のあるコミュニケーションや言葉が皆無になりそうで怖い。そして無意識に周りに向けてしまうドロドロとした感情に気づかれるのが怖い。
「意外と佐樹さんは顔に出てますよ。見ていてすごくわかりやすい」
「そうか……いままでは、なにを考えてるか全然わからないって言われることが多かったけどな」
無関心過ぎるとか、無頓着で嫌だとか、もっとはっきりと気持ちを示して欲しいとも言われたことがある。でも僕はそんなつもりはなくて、僕なりにできる限りのことはして来たつもりなのだけれど、なかなか伝わることが少なかった。しかし最近、誰かにも同じようなことを言われた気もする。
「わかりやすいのか?」
思わず顔を両手で触って考え込んでしまった僕に、藤堂は小さく笑い微かな声で可愛いと呟く。
「可愛くない」
その言葉に僕は間髪入れず言い返した。すぐにこうやって藤堂は、僕に対して可愛い可愛いと囁く。いつまで経っても慣れないその言葉を聞くたびに恥ずかしくて仕方がなくなる。
「そういや、今日の調べてたのか?」
いまだ笑っている藤堂の脇を肘で小突きながら、僕は朝から疑問に思っていた行き先を問う。その言葉に頬を緩めて藤堂はにこりと微笑んだ。
「ええ、少し。以前にあずみから話は聞いていて、いつか機会があればと思ってたんです。でもこのあいだ一緒に出かけた時、人混みが駄目なんだなって気がついたので、ちょっと遠くなっちゃいました」
「……そうか」
片道に二時間近くもかかる場所へわざわざ行くのは、やはり僕の人混み嫌いを察してのことだったのか。あんなに短い時間でそれに気づかれるなんて思いもよらなかった。
「お前が行きたいとこって言ったのに」
「俺は佐樹さんが楽しいならそれが一番嬉しいですよ」
「うーん、まあ藤堂がよければ、それでいいけどな」
なんのてらいもなく当然だと言わんばかりの顔をされると、甘やかされていることをしみじみ実感してしまう。これじゃあ、どっちが歳上かわからない。でも悔しいがこの気遣いと優しさには完敗だ。
「もしかしてそんなに好きじゃないですか?」
反応の薄い僕に不安になったのか、ふいに藤堂の表情が曇った。
「いや、かなり好き」
藤堂がしょげた気配を感じて、慌てて訂正すると、あからさまにほっとした表情を浮かべられてしまった。ただ確かにもちろん楽しみなのだが――心の中にほんの少し残る気持ちがある。
「藤堂の好きなものとか、場所とかってなんだ」
なによりも今回は藤堂のことを知るのが第一の目的だったのだ。いつものように自分が主体では、その目的が果たされなくて困ってしまう。
「俺、ですか」
なに気なく問えば、藤堂は難しい顔をして真剣に悩み出す。
そういえば以前三島が、藤堂はあまり物事に興味がなかったと言っていたけれど、もしかしたらいまだにそうだったりするのだろうか。そうだとすると、いま無理に聞き出すのは止めておいたほうがいいかもしれない。
「思いつかなければいいぞ。なにか思いついた時に言ってくれれば」
なんだか本気で悩んでいて少し可哀想になってくる。しかしあまり隙を見せない藤堂の、そんな不器用過ぎる一面が見られるのは楽しい。
「佐樹さんって時々意地の悪い顔をしますよね」
「そ、そうか?」
いつの間にか緩んでいた頬に気づき、両手を頬に当てて引き締める。すると僕の顔を覗き込んでいた藤堂が口を尖らせ目を細めた。
「まあ、いいですけどね」
乾いた笑い声を上げる僕に肩をすくめて、藤堂は小さなため息をついた。
「悪い、でも藤堂のちょっと不器用な感じが可愛くて好きなんだよな。お前って割となんでも完璧だし」
「……前にも言いましたけど、俺は全然完璧じゃないですからね」
「わかってるって、イメージだよイメージ」
顔を片手で覆い俯いた藤堂の頭を撫でれば、再び小さなため息が吐き出された。
前に出かけた時もこんなにいい天気だったなと、ふいに思い出して口元が緩む。朝、目が覚めてからなんだかずっとそわそわしている自分がいる。その理由には気づいているけど、気恥ずかしくていまはあまり考えないでおこうと思う。
「うーん、いい天気」
欠伸と共にそう呟いて、僕は大きく伸びをしてから寝間着のTシャツとハーフパンツをベッドの上に放り投げる。着替えたその服装は、長袖のTシャツにデニム、トレーナー地のジップパーカーで、以前に出かけた時とあまり変わらないが、まあそこは気にしない。それによそ行きなおしゃれな服などほとんど持っていないし、今日の行き先ならばこんなもんだろう。
「それなりに歩くだろうしな」
連休前に藤堂の予定に合わせてスケジュールを調整し、約束した通り二人で出かける計画は今日、無事決行されることになった。一応、藤堂が行きたいところという名目なのだが、正直言うと首を傾げる部分がある。
「なにか違う気がするんだよな」
これから向かう場所を思い浮かべ僕は思わず小さく唸る。あの時、藤堂が選んだ場所はどう考えても、彼の口からなんの躊躇いもなく出るような場所には思えなかった。多分きっと嫌いではないだろうが、それでもやっぱり少し違う気がする。
なぜならそこは僕自身が好きな場所だからだ。大体そのことを知っていなければ、藤堂の口から――動物園へ行こう、なんて言葉が出るはずがない。
「結局、僕の行きたいとこじゃないか」
藤堂の行きたいところに行こうと言ったのに、ため息交じりに呟けば、図ったように携帯電話が鳴った。慌ててそれを開くと、メールを受信している。
藤堂からいつも届く朝のメールだ。大して中身のない「おはよう」の挨拶だけだが、これには意味がある。
「もう電車に乗ったのか」
普段、平日の朝にだけ来るこのメールは、藤堂が電車に乗った頃に送信される。なのでこれはいま電車に乗りましたという合図のようなものだ。彼の最寄り駅は僕の駅と同じ沿線で、あいだに七つ駅を挟む。なのでのんびりしていると、あっという間にこちらに着いてしまう。
時計を確認し、少しだけスピードを上げて身支度すると、僕は目と鼻の先にある駅へと急いで向かった。
休日の朝はさすがに静かだった。普段はたくさんの人が行き交う場所は閑散としていて、人波などまったくない。ひと気の少ないやけに広々とした駅前の広場を過ぎ、約束の五分前に改札口を通り抜ければ、ちょうど藤堂が階段を下りてきた。
「おはよう」
「おはようございます」
軽く手を上げれば、爽やかな笑顔が返ってくる。朝に見る藤堂の微笑みは妙に眩しく感じる。こうキラキラとしたオーラが周りを取り巻いているような感じだ。
「なんか目が覚めるな」
思わず口から出た言葉に、自分で笑ってしまう。しかしそのくらいに藤堂が眩しくて、気分が高揚していくのを感じる自分がいるのだから、仕方がない。
「なんですかそれ」
そんな浮かれた僕に藤堂は不思議そうな顔で首を傾げるが、僕は苦笑いを浮かべて、その場を誤魔化すようのんびりと歩き始めた。朝から藤堂に見惚れてました、なんて恥ずかし過ぎてそんなことは絶対に言えない。
「さすがに空いてるな」
目的地はこの駅で別の線に乗り換え、電車とバスを乗り継ぐ。日帰りだが片道二時間弱で、ちょっとした小旅行な気分だ。ホームに着きちょうど来た電車に乗ると、その中も駅前と同様にひと気は少ない。おそらく目的地が同じと思える家族連れや中高生くらいのグループなどをちらほら見かける程度だ。
「いまから行く場所は連休中なんでまったく混んでないとは言えませんけど、多分余所より広いのでいくらかマシですよ」
ぼんやりと車内を眺めていた僕は藤堂の声に振り返る。すると隣に座っている藤堂がふっと目を細め、やんわりとした優しい微笑みを浮かべた。
「ふぅん、そうか」
相槌を打ちながら僕はなぜかその姿をじっと見つめていた。しばらくそのままでいると、藤堂が不思議そうに小さく首を傾げる。
相変わらずプライベートの藤堂には少し戸惑う。普段と一緒で決して派手ではない。着ているものも黒地のシャツとデニムにグレーのシンプルなデザインのジャケット。それはまったく華美ではないし、アクセサリー類はつけないほうなのかシンプルだ。戸惑う原因は髪型や眼鏡のせいだろうか。なんだかいつもと違う雰囲気で大人っぽいその姿にそわそわしてしまう。
「藤堂」
「なんですか?」
「ん、いや、なんでもない」
数少ない乗客の多くが藤堂を振り返る――そんな視線を感じて、胸の内にモヤモヤしたものがくすぶってくる。でもこんな公衆の場で、こんないい男がいて、振り返るなというほうが無理な話だ。
「心が狭過ぎる」
嫉妬――ふいに浮かんだその感情に僕は肩を落とした。いままではこんなこと感じたことがなかったから、余計にその感情に翻弄される自分がいる。
「どうしたの佐樹さん」
微かな僕の呟きに訝しげな表情を浮かべた藤堂は、座席に置いていた僕の指先にさり気なく触れる。
「な、なんでもない」
その感触に僕が思わず肩を跳ね上げれば、どこか含みのある藤堂の笑顔と共にそれは離れていった。一体どこまで藤堂に心の内を見透かされているんだろうかと思う。知っていてもらえる嬉しさと、独占欲の塊みたいな自分に気づかれる不安とが、ごちゃまぜになってどうしたらいいかわからなくなる。
「お前には、なんでも知られてそうで怖い」
感情も言葉も、あれこれとすぐに先回りされて、言葉が足りなくとも藤堂は敏感に察しすくい取ってくれる。それがすごく嬉しいと思う反面、それに慣れてしまったら、普段でも足りてないと自覚のあるコミュニケーションや言葉が皆無になりそうで怖い。そして無意識に周りに向けてしまうドロドロとした感情に気づかれるのが怖い。
「意外と佐樹さんは顔に出てますよ。見ていてすごくわかりやすい」
「そうか……いままでは、なにを考えてるか全然わからないって言われることが多かったけどな」
無関心過ぎるとか、無頓着で嫌だとか、もっとはっきりと気持ちを示して欲しいとも言われたことがある。でも僕はそんなつもりはなくて、僕なりにできる限りのことはして来たつもりなのだけれど、なかなか伝わることが少なかった。しかし最近、誰かにも同じようなことを言われた気もする。
「わかりやすいのか?」
思わず顔を両手で触って考え込んでしまった僕に、藤堂は小さく笑い微かな声で可愛いと呟く。
「可愛くない」
その言葉に僕は間髪入れず言い返した。すぐにこうやって藤堂は、僕に対して可愛い可愛いと囁く。いつまで経っても慣れないその言葉を聞くたびに恥ずかしくて仕方がなくなる。
「そういや、今日の調べてたのか?」
いまだ笑っている藤堂の脇を肘で小突きながら、僕は朝から疑問に思っていた行き先を問う。その言葉に頬を緩めて藤堂はにこりと微笑んだ。
「ええ、少し。以前にあずみから話は聞いていて、いつか機会があればと思ってたんです。でもこのあいだ一緒に出かけた時、人混みが駄目なんだなって気がついたので、ちょっと遠くなっちゃいました」
「……そうか」
片道に二時間近くもかかる場所へわざわざ行くのは、やはり僕の人混み嫌いを察してのことだったのか。あんなに短い時間でそれに気づかれるなんて思いもよらなかった。
「お前が行きたいとこって言ったのに」
「俺は佐樹さんが楽しいならそれが一番嬉しいですよ」
「うーん、まあ藤堂がよければ、それでいいけどな」
なんのてらいもなく当然だと言わんばかりの顔をされると、甘やかされていることをしみじみ実感してしまう。これじゃあ、どっちが歳上かわからない。でも悔しいがこの気遣いと優しさには完敗だ。
「もしかしてそんなに好きじゃないですか?」
反応の薄い僕に不安になったのか、ふいに藤堂の表情が曇った。
「いや、かなり好き」
藤堂がしょげた気配を感じて、慌てて訂正すると、あからさまにほっとした表情を浮かべられてしまった。ただ確かにもちろん楽しみなのだが――心の中にほんの少し残る気持ちがある。
「藤堂の好きなものとか、場所とかってなんだ」
なによりも今回は藤堂のことを知るのが第一の目的だったのだ。いつものように自分が主体では、その目的が果たされなくて困ってしまう。
「俺、ですか」
なに気なく問えば、藤堂は難しい顔をして真剣に悩み出す。
そういえば以前三島が、藤堂はあまり物事に興味がなかったと言っていたけれど、もしかしたらいまだにそうだったりするのだろうか。そうだとすると、いま無理に聞き出すのは止めておいたほうがいいかもしれない。
「思いつかなければいいぞ。なにか思いついた時に言ってくれれば」
なんだか本気で悩んでいて少し可哀想になってくる。しかしあまり隙を見せない藤堂の、そんな不器用過ぎる一面が見られるのは楽しい。
「佐樹さんって時々意地の悪い顔をしますよね」
「そ、そうか?」
いつの間にか緩んでいた頬に気づき、両手を頬に当てて引き締める。すると僕の顔を覗き込んでいた藤堂が口を尖らせ目を細めた。
「まあ、いいですけどね」
乾いた笑い声を上げる僕に肩をすくめて、藤堂は小さなため息をついた。
「悪い、でも藤堂のちょっと不器用な感じが可愛くて好きなんだよな。お前って割となんでも完璧だし」
「……前にも言いましたけど、俺は全然完璧じゃないですからね」
「わかってるって、イメージだよイメージ」
顔を片手で覆い俯いた藤堂の頭を撫でれば、再び小さなため息が吐き出された。
0
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ
樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース
ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー
消えない思いをまだ読んでおられない方は 、
続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。
消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が
高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、
それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。
消えない思いに比べると、
更新はゆっくりになると思いますが、
またまた宜しくお願い致します。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
【完結】もう一度恋に落ちる運命
grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。
そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…?
【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】
※攻め視点で1話完結の短い話です。
※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。
記憶の欠片
藍白
BL
囚われたまま生きている。記憶の欠片が、夢か過去かわからない思いを運んでくるから、囚われてしまう。そんな啓介は、運命の番に出会う。
過去に縛られた自分を直視したくなくて目を背ける啓介だが、宗弥の想いが伝わるとき、忘れたい記憶の欠片が消えてく。希望が込められた記憶の欠片が生まれるのだから。
輪廻転生。オメガバース。
フジョッシーさん、夏の絵師様アンソロに書いたお話です。
kindleに掲載していた短編になります。今まで掲載していた本文は削除し、kindleに掲載していたものを掲載し直しました。
残酷・暴力・オメガバース描写あります。苦手な方は注意して下さい。
フジョさんの、夏の絵師さんアンソロで書いたお話です。
表紙は 紅さん@xdkzw48
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)
Oj
BL
オメガバースBLです。
受けが妊娠しますので、ご注意下さい。
コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。
ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。
アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。
ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。
菊島 華 (きくしま はな) 受
両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。
森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄
森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。
森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟
森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。
健司と裕司は二卵性の双子です。
オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。
男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。
アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。
その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。
この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。
また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。
独自解釈している設定があります。
第二部にて息子達とその恋人達です。
長男 咲也 (さくや)
次男 伊吹 (いぶき)
三男 開斗 (かいと)
咲也の恋人 朝陽 (あさひ)
伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう)
開斗の恋人 アイ・ミイ
本編完結しています。
今後は短編を更新する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる