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過保護な人柄

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 スタッフや編集の私たちの控え室は客室。

主寝室はブラウンを基調としたアーバンな落ち着いた雰囲気だが、こちらの客室は白と淡いピンクを貴重としたアンティーク調にまとめられた部屋になっている。

女性スタッフに受けが良く“ここに住みたい!”と言い出す子もいた。

28歳の私には…ちょっぴり気恥ずかしい色合いの空間。

そんな空間にバスローブ姿の彼が居るのも、また違和感なんだけど…。

当の本人は気にしてないのか?

私をソファーに下ろしたあと、備え付けのティーセットを使い、彼は温かいお茶をマグカップに入れて私に差し出した。

「有り難うございます。」

私が有り難く受け取ると、彼は私の前に跪いて心配そうに見上げた。

「撮影の方は、あとワンポーズだけですし木原さんはここで少し休んでて下さい。」

「あとワンポーズなら大丈夫です。ちゃんと宇佐美さんの仕事を見届けます。」

「この後も、仕事もあるんでしょう?」

「平気です。貧血性の立ち眩みじゃありませんし。」

彼は私の目を見つめる。

私の真意を図ろうとしている目だ。

(なんていうか…赤の他人の私に随分と過保護な人だなぁ…。)

「もう4年、この業界で働いているんです。立ち眩み一つで仕事を投げ出すほど、そんなに柔に出来てません。宇佐美さんの心配して下さるお気持ちは嬉しいですが、私の仕事をさせてください。」

彼は私の目をジーッと見て、そのあと諦めた様に深く息を吐き出した。

「…木原さんは意外と強情なんですね。」

「フフフ…可愛げないほど強情なんです、私。」

私の言葉に彼は眉を歪めた。

「…可愛げないなんて、誰かに言われたことあるんですか?」

サラッと流してくれればいいのに、真剣な表情になってしまった。

(困ったなぁ…私もしかして、なんか地雷踏んだ?)

あくまでもライトに笑って誤魔化そうと、私は明るい口調で話す。

「ええ…まぁ…。実際、可愛げないことは自分でも自覚してますから、気にしてません。」

「…そんなこと…そんなことを自分でも言ってはいけません!」

そんな私を彼は叱る。

「こんなは貴女は頑張り屋なのに…可愛げない訳ないじゃないですか!他人からの意見は聞き入れるべきですが、貴女を侮辱する言葉を受け入れる必要はありません!」

「う、宇佐美さん落ち着いて下さい!そんなに、怒らなくても…。」

「怒りますよ!僕は貴女を可愛い人だと思ってます!そんな可愛い貴女を侮辱する人を許せません!例えそれが、貴女自身でも!」

「うっ…すみません…。」

私は彼の勢いに圧されて、気が付くと謝っていた。

(この人は他の女性にも、いつもこんな対応なんだろうか?)

私はマグカップのお茶を一口飲んでから、おずおずと彼に聞いた

「…宇佐美さんは優し過ぎますよ。一々女性にこんな対応していたら、勘違いしちゃう人とかいませんか?」

「勘違い?」

「その…宇佐美さんに好かれているとか…相思相愛なんだとか…」

「いつもはそうでもないですよ。でも…貴女になら、僕は勘違いされたいです、相思相愛だって。」

「はぁ!?」

慌てる私を見て、彼は笑みを浮かべた。

(何がそうでもないですのだろうか?なんか私、からかわれてる?)

なんて言葉を返せば良いのかと、考えあぐねているとノックの音が聞こえた。

「はい!」

「木原さん、撮影の準備が出来ました!」

「分かりました、すぐに行きます!」

私はマグカップをテーブルに置いて立ち上がろうとしたところを、さっき納得してくれた筈の彼が私の両手を掴んで止めた。

「やっぱり、ダメです。木原さんは、ここに居てください。」

「宇佐美さん!」

「木原さんはここで仕事していてください。」

「え?」

「体を休めるのも仕事です。」

「…宇佐美さん、頑固だって言われません?」

「どうでしょうね?まぁ…少なくとも…今、貴女が無理に現場に来ると言うなら、頑固な僕らしく撮影をボイコットして貴女の側から離れませんよ?いいんですか?」

私は目を瞠って彼を見た。

なんでだか艶っぽく笑って彼は私を見上げている。

「どうします?僕は撮影をボイコットしても、貴女と二人っきりで居られるので嬉しいですけど?」

(はっ!!そう言えば、不可抗力とはいえ今、私は彼と二人っきりになってる!!)

二人っきりを自覚した途端に、嫌な汗が背中から出始めていた。

これは、八方塞がりだ。

両手を拘束されている上に、二人っきりだし、撮影ボイコットを盾に取られては、彼の言うことを聞くしかない。

「分かりました…。おとなしくここで仕事してます…。」

渋々返事をすると、彼は両手を放して私の頭を軽く撫でた。

「…イイ子です。」

控え室を出ていく彼の背中を見送ったあと、私は大きく息を吐き出して、ソファーに寝転がった。


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