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幕間2
日和の別荘2
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モリカ、モリパと大画面でゲームを堪能していた。気がつけば日は西の空に沈みかかっており、夕暮れ時となっていた。
「皆さん、用意ができましたよ」
モリパのパーティーモードを終えたところで、橘さんからお呼びがかかる。
保護者として同行していた橘さんが僕らがゲームをしている間、バーベキュー用の食材を切り、庭にコンロを用意してくれていた。橘さんは3日間、僕らに付き添ってくれるらしい。
人の身体というのは不思議なものでバーベキューができると分かった瞬間、お腹が一気に空き始めた。
「よっしゃ! バーベキューだー!」
「いっぱい食ーべよ!」
天音さんと飯塚先輩はいち早く玄関の方へと走っていく。ゲーム中もたくさんはしゃいでいたのに、体力は未だ有り余っているみたいだ。
「奏ちゃん、私たちも行こっ」
千丈先輩が奏さんを誘う。
「はい。行きましょ」
奏さんは丁寧にリモコンを机の上に置いてから向かう。
「つけたまま行っちゃったけど、流石にもうやらないわよね?」
唯川さんが玄関の方に顔を向けてから、僕を見て訝しげに言う。彼女としてはもうゲームはお腹いっぱいみたいだ。
「天音さんと飯塚先輩はまたやりそうですが、切ってはおきましょう」
僕はゲーム機を切った後、周辺機器を含めテーブルの真ん中に集めておいた。唯川さんも手伝ってくれた。
「ありがとう。私は庭にサンダルがあるからそれを使うね」
僕らが片付け終えたところで日和が感謝を述べる。今回の主導者であるため最後までい残ってくれたみたいだ。
「じゃあ、私たちは玄関から行くわね」
唯川さんが返事をし、僕ら二人は玄関まで足を運んだ。
「日和の高校の連中は元気だね。よくあんなに長い時間ゲームに集中してられるわ」
最初にやったモリカは交代交代でやっていたが、唯川さんや千丈先輩は途中でダレてモリパは残りの5人でプレイしていた。
「よく僕の家でゲームしている人たちですからね」
「へぇ~、最上くんはたくさんの女の子を家に連れ込んでいるんだね」
「その言い方は悪意がありますよ」
「事実だからしょうがないでしょ。母親とかに何か言われないの?」
「一人暮らしですから誰かに咎められることはないですよ」
僕の言葉を聞いて唯川さんの足が止まる。何事かと彼女に目を向けると、目を大きくして口を小刻みに動かしていた。頬も若干朱色に染まっている。
「あ、あ、あなた……ひ、ひ、一人暮らしだったの?」
「高校生になってからですけどね。何か問題でもありましたか?」
尋ねたところで唯川さんが歯軋りする。止まった足を再び動かし、僕との距離を徐々に詰めていく。普通では来ない距離まで近づいてきて、僕の両肩に手を乗せた。
「日和と付き合うのは良いけど節度は保ちなさいよ。あの子、誰かと付き合うのは初めてだからあなたがその気になればホイホイ受け入れちゃう可能性があるんだからね!」
心で訴えるように、目をガン開きしたまま僕から視線を離さない。どうやら、僕はかなり信用されていないみたいだ。
「はっ!」
少し時間が経過した後、唯川さんは不意に僕から距離を離す。
「ご、ごめん。とにかく! 日和に変なことをしたら私が許さないから!」
そう言って我先に玄関に向かい、靴を履き始めた。流石に今隣合うのは良くないと判断し、その場に待機する。
靴を履き終えたのか唯川さんは立ち上がる。その際、チラッと僕の方に顔を向けた。
「それともう一つ言い忘れたことがある」
「まだあるんですか。日和が求めてこない限り、何もしませんよ」
「求めてきたらするの……まあ、今は良いわ。次のは注意喚起じゃないよ。礼を言いたかっただけ」
「お礼?」
今までずっと当たりが強かっただけにお礼を言われるとは思いもしなかった。
「一応、これでも最上くんには感謝してるの。中学校以降に日和があんな楽しそうな顔を見せたことはなかったからさ。高校が別れて心配してたけど、もう大丈夫みたいだね。だから……その……ありがとう」
いざ、感謝を言おうとしたところで恥ずかしくなったのか、最後の方は言い淀んでいた。
「それじゃあ」
話は終わりだと言わんばかりに僕から顔を背けて玄関の扉を開けた。
素っ気ない感謝だったが、大事なことを聞けたので良かった。日和は僕との関係によって今までの辛さが薄まったみたいだ。
僕もまた靴を履いて玄関を出る。庭に着くと、みんなバーべキューコンロの前に立って肉やら野菜やらを焼いていた。
「ふみや~ん、もうすぐ焼けるよ~」
天音さんが僕の方に手を振る。「焼けるよ」と言う割にはすでに焼いたトウモロコシを食べている。この中では圧倒的に最年長だというのに一番子供っぽい。それが天音さんの良いところなのだろうが。
僕はバーベキューコンロから少し離れたところで待機する。
「文也さんは焼きはしないの?」
一人待っている僕のところに奏さんがやってくる。
「大勢で焼くのは流石に邪魔かなと思って。奏さんはどうしてここに?」
「文也さんとあんまりお話ししてないと思って」
そう言って、奏さんは僕の隣につく。
「日和さんの家庭ってすごいお金持ちだったんだね。良かったね。ヒモになっても大丈夫そうで」
「ちゃんと真っ当に働くよ。補助はあってくれた方がありがたいけど」
「ふふっ。文也さんらしいね」
「そういえば、間藤さんは連れてこなくて良かったの?」
「麗華は他の子たちと遊ぶ約束をしているので」
「奏さんは行かなくて良かったの?」
「あくまで麗華のお友達だから。付き添うくらいならこっちに来た方が楽しいと思って。良い写真も撮れたしね」
奏さんはスマホを操作して僕に見せる。画面には行きの車中の様子が写されている。眠気に負けて寝てしまった僕の寝顔がメインだ。
「自分の寝顔を見るって結構恥ずかしいね」
「消せって言われても消さないからね」
「消せとは言わないけど、保存しておいて大丈夫なの?」
男子の写真を保存しているのを誰かに見られたりしたら、何か言われるんじゃないだろうか。
「何か問題あるかな?」
だが、奏さんは本当に疑問に思っているようで目をキョトンとさせて僕を見る。気づいていないなら言わないでおくか。僕は「特にないね」と答えておいた。
「逆に文也さんは良かったんですか?」
「何が?」
「私と同じで親友を連れて来なくて。大宮茜さんだっけ?」
奏さんの言葉に心臓が高鳴ったのを感じる。まさか未だに覚えているとは。
「茜は人見知りだからね。知らない人たちのところに行くのはあまり気が乗らないんだ」
「へぇ~、そうなんだ。会ってみたかったのに。残念」
一生会えないと思うから一生残念になりそうだ。
「もうそろそろ焼けそうだから行こっか」
これ以上、追求されるのを防ぐため僕はひとり歩き始める。奏さんは「待ってよ」と言って僕の後ろを付いてくる。
「最上くん聞いてよ。日和が大事な肉を地面に落としちゃったんだよ」
みんなの元に行くと、飯塚先輩がやや不貞腐れた様子で僕に話しかける。
「別に良いでしょ。日和が用意した肉なんだから」
日和をフォローするように唯川さんが彼女に口答えする。
「ごめんね。ちょっと手が滑っちゃって」
日和は照れ笑いを浮かべながら飯塚先輩に答える。手には半焼けの肉を持っていた。おそらく落としたものに違いない。
「何かあった?」
「うんうん。なんでもないよ。これ、捨てに行ってくるね」
僕に返事するや否や日和は颯爽と歩いていった。
明らかに何かありそうな雰囲気だ。一体どうしたのだろうか。
疑問に思ったものの追求することはできなかった。心が靄を抱えたまま食べる羽目になったが、用意してくれたものはどれも絶品だったためとても美味しく頂くことができた。
「皆さん、用意ができましたよ」
モリパのパーティーモードを終えたところで、橘さんからお呼びがかかる。
保護者として同行していた橘さんが僕らがゲームをしている間、バーベキュー用の食材を切り、庭にコンロを用意してくれていた。橘さんは3日間、僕らに付き添ってくれるらしい。
人の身体というのは不思議なものでバーベキューができると分かった瞬間、お腹が一気に空き始めた。
「よっしゃ! バーベキューだー!」
「いっぱい食ーべよ!」
天音さんと飯塚先輩はいち早く玄関の方へと走っていく。ゲーム中もたくさんはしゃいでいたのに、体力は未だ有り余っているみたいだ。
「奏ちゃん、私たちも行こっ」
千丈先輩が奏さんを誘う。
「はい。行きましょ」
奏さんは丁寧にリモコンを机の上に置いてから向かう。
「つけたまま行っちゃったけど、流石にもうやらないわよね?」
唯川さんが玄関の方に顔を向けてから、僕を見て訝しげに言う。彼女としてはもうゲームはお腹いっぱいみたいだ。
「天音さんと飯塚先輩はまたやりそうですが、切ってはおきましょう」
僕はゲーム機を切った後、周辺機器を含めテーブルの真ん中に集めておいた。唯川さんも手伝ってくれた。
「ありがとう。私は庭にサンダルがあるからそれを使うね」
僕らが片付け終えたところで日和が感謝を述べる。今回の主導者であるため最後までい残ってくれたみたいだ。
「じゃあ、私たちは玄関から行くわね」
唯川さんが返事をし、僕ら二人は玄関まで足を運んだ。
「日和の高校の連中は元気だね。よくあんなに長い時間ゲームに集中してられるわ」
最初にやったモリカは交代交代でやっていたが、唯川さんや千丈先輩は途中でダレてモリパは残りの5人でプレイしていた。
「よく僕の家でゲームしている人たちですからね」
「へぇ~、最上くんはたくさんの女の子を家に連れ込んでいるんだね」
「その言い方は悪意がありますよ」
「事実だからしょうがないでしょ。母親とかに何か言われないの?」
「一人暮らしですから誰かに咎められることはないですよ」
僕の言葉を聞いて唯川さんの足が止まる。何事かと彼女に目を向けると、目を大きくして口を小刻みに動かしていた。頬も若干朱色に染まっている。
「あ、あ、あなた……ひ、ひ、一人暮らしだったの?」
「高校生になってからですけどね。何か問題でもありましたか?」
尋ねたところで唯川さんが歯軋りする。止まった足を再び動かし、僕との距離を徐々に詰めていく。普通では来ない距離まで近づいてきて、僕の両肩に手を乗せた。
「日和と付き合うのは良いけど節度は保ちなさいよ。あの子、誰かと付き合うのは初めてだからあなたがその気になればホイホイ受け入れちゃう可能性があるんだからね!」
心で訴えるように、目をガン開きしたまま僕から視線を離さない。どうやら、僕はかなり信用されていないみたいだ。
「はっ!」
少し時間が経過した後、唯川さんは不意に僕から距離を離す。
「ご、ごめん。とにかく! 日和に変なことをしたら私が許さないから!」
そう言って我先に玄関に向かい、靴を履き始めた。流石に今隣合うのは良くないと判断し、その場に待機する。
靴を履き終えたのか唯川さんは立ち上がる。その際、チラッと僕の方に顔を向けた。
「それともう一つ言い忘れたことがある」
「まだあるんですか。日和が求めてこない限り、何もしませんよ」
「求めてきたらするの……まあ、今は良いわ。次のは注意喚起じゃないよ。礼を言いたかっただけ」
「お礼?」
今までずっと当たりが強かっただけにお礼を言われるとは思いもしなかった。
「一応、これでも最上くんには感謝してるの。中学校以降に日和があんな楽しそうな顔を見せたことはなかったからさ。高校が別れて心配してたけど、もう大丈夫みたいだね。だから……その……ありがとう」
いざ、感謝を言おうとしたところで恥ずかしくなったのか、最後の方は言い淀んでいた。
「それじゃあ」
話は終わりだと言わんばかりに僕から顔を背けて玄関の扉を開けた。
素っ気ない感謝だったが、大事なことを聞けたので良かった。日和は僕との関係によって今までの辛さが薄まったみたいだ。
僕もまた靴を履いて玄関を出る。庭に着くと、みんなバーべキューコンロの前に立って肉やら野菜やらを焼いていた。
「ふみや~ん、もうすぐ焼けるよ~」
天音さんが僕の方に手を振る。「焼けるよ」と言う割にはすでに焼いたトウモロコシを食べている。この中では圧倒的に最年長だというのに一番子供っぽい。それが天音さんの良いところなのだろうが。
僕はバーベキューコンロから少し離れたところで待機する。
「文也さんは焼きはしないの?」
一人待っている僕のところに奏さんがやってくる。
「大勢で焼くのは流石に邪魔かなと思って。奏さんはどうしてここに?」
「文也さんとあんまりお話ししてないと思って」
そう言って、奏さんは僕の隣につく。
「日和さんの家庭ってすごいお金持ちだったんだね。良かったね。ヒモになっても大丈夫そうで」
「ちゃんと真っ当に働くよ。補助はあってくれた方がありがたいけど」
「ふふっ。文也さんらしいね」
「そういえば、間藤さんは連れてこなくて良かったの?」
「麗華は他の子たちと遊ぶ約束をしているので」
「奏さんは行かなくて良かったの?」
「あくまで麗華のお友達だから。付き添うくらいならこっちに来た方が楽しいと思って。良い写真も撮れたしね」
奏さんはスマホを操作して僕に見せる。画面には行きの車中の様子が写されている。眠気に負けて寝てしまった僕の寝顔がメインだ。
「自分の寝顔を見るって結構恥ずかしいね」
「消せって言われても消さないからね」
「消せとは言わないけど、保存しておいて大丈夫なの?」
男子の写真を保存しているのを誰かに見られたりしたら、何か言われるんじゃないだろうか。
「何か問題あるかな?」
だが、奏さんは本当に疑問に思っているようで目をキョトンとさせて僕を見る。気づいていないなら言わないでおくか。僕は「特にないね」と答えておいた。
「逆に文也さんは良かったんですか?」
「何が?」
「私と同じで親友を連れて来なくて。大宮茜さんだっけ?」
奏さんの言葉に心臓が高鳴ったのを感じる。まさか未だに覚えているとは。
「茜は人見知りだからね。知らない人たちのところに行くのはあまり気が乗らないんだ」
「へぇ~、そうなんだ。会ってみたかったのに。残念」
一生会えないと思うから一生残念になりそうだ。
「もうそろそろ焼けそうだから行こっか」
これ以上、追求されるのを防ぐため僕はひとり歩き始める。奏さんは「待ってよ」と言って僕の後ろを付いてくる。
「最上くん聞いてよ。日和が大事な肉を地面に落としちゃったんだよ」
みんなの元に行くと、飯塚先輩がやや不貞腐れた様子で僕に話しかける。
「別に良いでしょ。日和が用意した肉なんだから」
日和をフォローするように唯川さんが彼女に口答えする。
「ごめんね。ちょっと手が滑っちゃって」
日和は照れ笑いを浮かべながら飯塚先輩に答える。手には半焼けの肉を持っていた。おそらく落としたものに違いない。
「何かあった?」
「うんうん。なんでもないよ。これ、捨てに行ってくるね」
僕に返事するや否や日和は颯爽と歩いていった。
明らかに何かありそうな雰囲気だ。一体どうしたのだろうか。
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