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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)

広まった噂

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「最上! やっぱり、お前……安藤先輩と付き合っていたのか?」

 授業後。僕は数人の男子から尋問を受けていた。
 部活勧誘で見せた日和の行動は、瞬く間に学年に広がっていき、僕のクラスにまで知れ渡ってしまった。

「言ってませんでしたっけ?」

「聞いてねえよ。ただの親しい仲だと思ってた。普通、あんな美人な先輩が彼女になったらみんなに自慢するからな。何も言わないってことは恋仲ではないと思っていたぜ」

「まさかお前、あえて言わないで俺たちが浮かれる姿を見て楽しんでたのか!」

「そんなことするわけないじゃないですか」

「じゃあ、何で隠してたんだよ!?」

「別に隠していたわけじゃ……僕は言ったと思ってましたし」

「ちっ……俺らは眼中にねえってか。高みの見物気取りかよ」

「一ミリも思ってないですよ」

 眼の中に入っていないという意味では眼中にはないかもしれない。だが、流石に見下すようなことはしない。

「白々しいな。この調子だと、バーベキューを断ったのも、万が一彼女が取られる可能性があったからかもしれないな」

「だな。行こうぜ。こいつといると、見下されているような気がしてならないし」

「そういえば、移動教室でA組に可愛い子がいるのを発見したんだ。明日の昼に見に行かねえか?」

 さっきまでの会話がなかったかのように彼らは素早い話題転換をして僕の机から去っていった。嵐のように騒がしいクラスメイトだ。

「変な奴らに絡まれて可哀想ね。私も最初の頃は鬱陶しくて殴ってやりたいと思ったわ」

 彼らに視線を送っていると、隣から和光さんの声が聞こえてくる。
 彼女は話しながら帰りの支度をしていた。教科書やノートを綺麗に束ね、鞄の隙間に埋めていく。一つ一つの動作が鮮やかだった。

「へぇ~、和光さんも絡まれていたんですか? でも、あんまりクラスメイトが近寄ってくるところを見たことないですよ?」

「今の時代、何も直接会うだけが絡むではないからね」

 ようやく僕の方に顔を向けると、ポケットからスマホを取り出して見せる。

「クラスのグループから勝手に友達追加してメッセージ送ってきたの。『何番目の席の誰々だけど知っている?』って」

「あー、なるほど。だいぶ鬱陶しいですね」

「リアルでは話しかけてこないのに、デジタルになると煩くなる。こういう人種あまり好きではないのよね」

「和光さんは嫌いそうですね。なんなら、話しかけてくる人も嫌いそうですが」

「そんなことないわ。うざ絡みは嫌だけどね」

「同感です」

 さて、早めに出ないと待たせてしまう可能性があるので、ここらでお暇することにしよう。

「さっきの話なんだけど……」

 荷物をまとめ、席を立とうとしたところで声をかけられる。中断したい気持ちはあるが、和光さんに言うのは憚られる。なんだか怖いのだ。

「何ですか?」

「この前言ってた、ひよ何とかさん」

「日和ですね。あと一文字くらい覚えてあげてください」

「そうそう。日和さん、あの人は君の彼女だったのね。入学して早々、一つ上の先輩と恋仲とは。亡霊くんってやる時はやるのね。そっちの方もやってるの?」

 和光さんの問いかけに、前の席に座っている女子が咳き込む。盗み聞きされていたらしい。

「そっちの方とはどっちの方でしょうか?」

「女子に言わせようとするなんて。セクハラで訴えられるわよ」

「先にセクハラを仕掛けてきたのはどっちですか?」

「あら。私はそっちの方って言っただけよ。勝手に想像したのは亡霊くんの方じゃないかしら?」

「さっきの言葉を組み合わせたら、セクシュアルに関わることは見え見えな気がしますけど」

「あなたが変なことを言うから合わせてあげただけよ。最初のそっちはゲームの方。人生ゲームがお得意なのだから、普通のゲームもやってるかなって?」

「無理がありすぎますよ」

「そう? 私は本当に思っていたことを言っただけよ。亡霊くんが勝手に勘違いしたのに私のせいにするのは良くないんじゃないかしら?」

 これ以上は埒があかないな。
 和光さんは負けず嫌いというか。意地悪というか。よく分からない人だ。

「まあ、そういうことにしときます」

「賢明な判断ね。彼女さん、大切にしてあげなさいよ。くれぐれもヤリマンにはならないように」

 支度を終えたのか、一足先に席から立ち上がり、廊下に出ていった。
 あの人も嵐のような人だな。散々揶揄っておいて、勝手にいなくなるなんて。

「ねえねえ」

 廊下側を見ていると、今度は前の方から声をかけられる。視線を送ると、前にいた二人の女子がこちらを見ていた。

「どうしたんですか?」

「最上くんって和光さんと何かあった?」

「いえ、何もないですけど」

「そっか。和光さんのさっきの言動が変な感じだったから」

「ひょっとして、最上くんのこと好きだったり? はっ!」

 言ってはいけないことに気づいたのか口を両手で覆う。
 遅すぎる。せめて言い切る前にするべきだ。

「まあ、和光さんは最上くんにだけ雑談をかけてるイメージがあるから何か分かるかも」

「だよね。他の子たちに話しかける時は、だいたい業務連絡だし」

「詳しいですね」

「えっ! いやー、和光さんって美人で頭良くて、なんていうか気になる人だから。はっ!」

 また両手で口を塞ぐ。わざとなのか、天然なのか、分かりかねる反応だ。

「最上くーん!」

 三人で話していると、今度は廊下の方から声をかけられる。
 今日は色々なところから声をかけられるな。そんなことを思いながら顔を向けると、飯塚先輩の姿があった。

 そこで、今日の目的を忘れていた自分に気がつく。

「すみません、今日はこれで失礼します」

「うんうん。いきなり話しかけてごめんね。さよなら」

「バイバイ。はっ!」

 また口を噤む。いや、さよならの挨拶は別に良いだろ。

「おい、最上」

 立ち上がってすぐ、誰かに肩を叩かれた。
 置かれた手の持ち主に目をやる。先ほどの男子生徒たちだ。

「あの可愛い人は誰だ? 知り合いか?」

 男というのは可愛ければ誰でも良いらしい。
 懲りない奴らだ。彼らの輝かしい瞳を見ながら、心の中でため息をついた。
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