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1章:安藤日和(クラスの友達を一人作れ)
悩み相談
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ゲームセンターで一通り遊んだ僕たちは近くのフードコートで休むこととなった。
「はい、最上くん」
席に座って寛いでいると、安藤さんがジュースを二つ持ってきた。
果汁100パーセントのマンゴージュースとバナナジュース。安藤さんがバナナで僕がマンゴーだ。
「ありがとうございます。すみません、本来なら僕が持ってくるところだったのですが」
「いいのよ。だって……私たち……カップルだから。対等でいよ」
安藤さんは頬を赤くしながら髪をいじる。今日一日彼女と一緒にいて分かったが、安藤さんは恥ずかしいことを言う時、髪をいじる癖がある。
昨日はそんなことを感じなかった。おさげだと髪をいじりづらいからだろう。
「それに! 良いものも見せてもらったしね!」
色気のある表情は一転。次には不敵な笑みを浮かべた小悪魔のような表情になっていた。
「ははは……」
僕は笑うことしかできなかった。恥ずかしさを紛らわせるためにマンゴージュースを口にする。シェイクジュースのような感触が口の中を浸透していく。甘味が舌を伝い、温度が体を伝っていった。
脱出病院では、男としてはとても不甲斐ないものだった。
「キャー!」と悲鳴を上げる安藤さんとは違い、僕は叫ぶことなく無言だった。本当に怖いからこその無言だった。
「私に支持しようとした時、扇風機でも吹いてるのかと思うくらい声が震えてたよ」
「仕方がないですよ。怖いと声は震えるもんです」
「ふふっ。最上くんって物怖じしなさそうなのに、とても怖がり屋さんなんだね」
安藤さんは僕の弱みを知れてさぞ嬉しいのか、日々を築きながら吊り目で僕を見る。互いの気持ちが近づいているからか、今日は色々な表情の安藤さんが見れる。
「彼氏としては減点ですか?」
「へっ? うんうん。むしろプラスかな」
「その心は?」
「後輩だから。やっぱり年下の子には何らかの欠点があった方が親しみやすいんだよね。先輩だったら減点だったかも」
なるほど。母性本能的なやつが働いているのか。
年下だと怖がりはプラスに働くのか。タイプがお姉さん系で良かった。
一度無言になり、お互いにジュースを飲む時間が続く。
気まずい雰囲気になったわけではない。無言の時間は、話題転換のための休憩時間のようなものに感じられた。
「高校生活はどう?」
それを示すように、安藤さんはカップを置くや否や問いかけてきた。
四宮先生と話していたのを聞いていたのもあってか、安藤さんは心を開くとぐいぐい話しかけてくれる人だと分かった。
「どう?と言われても……」
彼女の質問に対して、頭の中で会話の構築が始まる。
僕が彼女と一緒にいるのは、なにも恋人同士だからというだけではない。僕には四宮先生からの依頼がある。
「特に言及することはないですね。友達作りに失敗してアウェイの状態くらいです」
「クラスに友達いないんだ? へぇー、私と同じかー」
「安藤さんも友達いないんですか?」
知っていることだが、既知であったと悟らせないためにシラを切る。
「うん。他のクラスにはいるんだけどね」
なんだろう。今、さらりとマウントを取られたような気がする。
「他クラスに友達がいるというのは、高一の時の友達ですか?」
「そう。高一の時はさ、アウェイの子が多かったからアウェイの子同士で結託することでボッチを回避してたんだよね。最上くんもそれを狙ってみたら?」
「やってみたいのは山々なんですが、時既に遅いですね。一番後ろの席で前と右は女子。左にいる唯一の男子は陽気なタイプで馬が合いそうにないですし、既にたくさんの仲間を連れているので、声かけにくいんですよね」
「分かる! 複数人のグループに一人で立ち向かうのって勇気がいるよね!」
「だから安藤さんはクラスでボッチなんですか?」
僕がそう問いかけると、安藤さんは図星を突かれたようにバナナジュースを吹く。咳き込む彼女に謝罪しながらポケットに入れたティッシュで机の上に垂れた液体を拭き取る。
「ごめんね」
「いえ。僕の方こそすみません」
まさか盛大に吹くとは思いもしなかった。でも、よく考えればそうか。不意につかれた図星って大きな損傷だもんな。
「そ、そうだね。クラス替えガチャが最悪で、去年同じクラスだった女子がいなかったの。他の子は去年同じクラス同士で仲良くなってて、それが更なる勢力を生み出して……」
集団と集団が結託して大きな集団になってボッチはボッチのままと。確かにそれは辛いな。このまま集団が肥大化して、『私』か『私以外』か状態になったらたまったものじゃない。
当然といえば当然だが、安藤さんはいじめっ子については触れなかった。
「なにかグループに入るきっかけが欲しいですね」
「でも、今からきっかけを作るのは難しいんだよね」
「グループディスカッションの時とかどうですか? 話し合いですから喋るきっかけにはなると思います」
「最上くん。クラスの私は今の私とは違うからね。自ら喋りかけるなんて烏滸がましいことできるわけないよ」
確かに、そんなにグイグイ行けるタイプなら友達がいないなんて言うはずないもんな。相手側は友達だと思っていなくても、自分は友達だと思っていそうだし。
「では、自分で言うのは恥ずかしいですし、少々外道な感じではありますが、僕と付き合っているのを見せつけてやるのはどうですか?」
「最上くんと付き合っているのを?」
「はい。来週からは僕たち一年生も午後の授業が始まります。だから下校時に僕が安藤さんを迎えにいくことで、安藤さんが付き合っていることを仄めかすんです。女子も男子も恋バナ好きですから、それできっかけが生まれると思うんですよね」
「うーん、そんなにうまくいくかな?」
「うまくいくかは分かりませんけど、やってみる価値はあるかと」
安藤さんはバナナジュースを飲みながら考えに耽る。空になったのか「ズズズッ」とストロー内部に空気の入った音がする。
気が付かず、大きな音を立てたことに恥ずかしさを覚えたのか、安藤さんは目を大きくすると、こちらをジト目で見て、ゆっくりコップを置いた。なにもしていないのに怒られた気分だ。
「分かった。最上くんが言ったことやってみよう」
どうやら、安藤さんは決心がついたようだ。
あとはうまくいくことを願うだけ。依頼が達成されれば僕は自由の身だ。
ただ、そうなった場合、僕と安藤さんの関係はどうすればいいのだろうか。
「でも、その前に!」
僕の思考は安藤さんの大きな声に遮られた。
見ると、安藤さんは真面目な表情で僕を見つめていた。
「まずは私が最上くんのクラスに行くよ!」
「えっ? どうしてですか?」
「最上くんもボッチでしょ? だったら、最上くんの友達作りのために私が人肌脱がなきゃね。ついでに本当に友達ができるのかの検証もできるしね」
安藤さんは策士のようなキメ顔で提案する。
何だか面倒くさいことになりそうだ。そうは言っても、依頼を進展させるためにはやるしかない。
僕は泣く泣く了承することにした。
「はい、最上くん」
席に座って寛いでいると、安藤さんがジュースを二つ持ってきた。
果汁100パーセントのマンゴージュースとバナナジュース。安藤さんがバナナで僕がマンゴーだ。
「ありがとうございます。すみません、本来なら僕が持ってくるところだったのですが」
「いいのよ。だって……私たち……カップルだから。対等でいよ」
安藤さんは頬を赤くしながら髪をいじる。今日一日彼女と一緒にいて分かったが、安藤さんは恥ずかしいことを言う時、髪をいじる癖がある。
昨日はそんなことを感じなかった。おさげだと髪をいじりづらいからだろう。
「それに! 良いものも見せてもらったしね!」
色気のある表情は一転。次には不敵な笑みを浮かべた小悪魔のような表情になっていた。
「ははは……」
僕は笑うことしかできなかった。恥ずかしさを紛らわせるためにマンゴージュースを口にする。シェイクジュースのような感触が口の中を浸透していく。甘味が舌を伝い、温度が体を伝っていった。
脱出病院では、男としてはとても不甲斐ないものだった。
「キャー!」と悲鳴を上げる安藤さんとは違い、僕は叫ぶことなく無言だった。本当に怖いからこその無言だった。
「私に支持しようとした時、扇風機でも吹いてるのかと思うくらい声が震えてたよ」
「仕方がないですよ。怖いと声は震えるもんです」
「ふふっ。最上くんって物怖じしなさそうなのに、とても怖がり屋さんなんだね」
安藤さんは僕の弱みを知れてさぞ嬉しいのか、日々を築きながら吊り目で僕を見る。互いの気持ちが近づいているからか、今日は色々な表情の安藤さんが見れる。
「彼氏としては減点ですか?」
「へっ? うんうん。むしろプラスかな」
「その心は?」
「後輩だから。やっぱり年下の子には何らかの欠点があった方が親しみやすいんだよね。先輩だったら減点だったかも」
なるほど。母性本能的なやつが働いているのか。
年下だと怖がりはプラスに働くのか。タイプがお姉さん系で良かった。
一度無言になり、お互いにジュースを飲む時間が続く。
気まずい雰囲気になったわけではない。無言の時間は、話題転換のための休憩時間のようなものに感じられた。
「高校生活はどう?」
それを示すように、安藤さんはカップを置くや否や問いかけてきた。
四宮先生と話していたのを聞いていたのもあってか、安藤さんは心を開くとぐいぐい話しかけてくれる人だと分かった。
「どう?と言われても……」
彼女の質問に対して、頭の中で会話の構築が始まる。
僕が彼女と一緒にいるのは、なにも恋人同士だからというだけではない。僕には四宮先生からの依頼がある。
「特に言及することはないですね。友達作りに失敗してアウェイの状態くらいです」
「クラスに友達いないんだ? へぇー、私と同じかー」
「安藤さんも友達いないんですか?」
知っていることだが、既知であったと悟らせないためにシラを切る。
「うん。他のクラスにはいるんだけどね」
なんだろう。今、さらりとマウントを取られたような気がする。
「他クラスに友達がいるというのは、高一の時の友達ですか?」
「そう。高一の時はさ、アウェイの子が多かったからアウェイの子同士で結託することでボッチを回避してたんだよね。最上くんもそれを狙ってみたら?」
「やってみたいのは山々なんですが、時既に遅いですね。一番後ろの席で前と右は女子。左にいる唯一の男子は陽気なタイプで馬が合いそうにないですし、既にたくさんの仲間を連れているので、声かけにくいんですよね」
「分かる! 複数人のグループに一人で立ち向かうのって勇気がいるよね!」
「だから安藤さんはクラスでボッチなんですか?」
僕がそう問いかけると、安藤さんは図星を突かれたようにバナナジュースを吹く。咳き込む彼女に謝罪しながらポケットに入れたティッシュで机の上に垂れた液体を拭き取る。
「ごめんね」
「いえ。僕の方こそすみません」
まさか盛大に吹くとは思いもしなかった。でも、よく考えればそうか。不意につかれた図星って大きな損傷だもんな。
「そ、そうだね。クラス替えガチャが最悪で、去年同じクラスだった女子がいなかったの。他の子は去年同じクラス同士で仲良くなってて、それが更なる勢力を生み出して……」
集団と集団が結託して大きな集団になってボッチはボッチのままと。確かにそれは辛いな。このまま集団が肥大化して、『私』か『私以外』か状態になったらたまったものじゃない。
当然といえば当然だが、安藤さんはいじめっ子については触れなかった。
「なにかグループに入るきっかけが欲しいですね」
「でも、今からきっかけを作るのは難しいんだよね」
「グループディスカッションの時とかどうですか? 話し合いですから喋るきっかけにはなると思います」
「最上くん。クラスの私は今の私とは違うからね。自ら喋りかけるなんて烏滸がましいことできるわけないよ」
確かに、そんなにグイグイ行けるタイプなら友達がいないなんて言うはずないもんな。相手側は友達だと思っていなくても、自分は友達だと思っていそうだし。
「では、自分で言うのは恥ずかしいですし、少々外道な感じではありますが、僕と付き合っているのを見せつけてやるのはどうですか?」
「最上くんと付き合っているのを?」
「はい。来週からは僕たち一年生も午後の授業が始まります。だから下校時に僕が安藤さんを迎えにいくことで、安藤さんが付き合っていることを仄めかすんです。女子も男子も恋バナ好きですから、それできっかけが生まれると思うんですよね」
「うーん、そんなにうまくいくかな?」
「うまくいくかは分かりませんけど、やってみる価値はあるかと」
安藤さんはバナナジュースを飲みながら考えに耽る。空になったのか「ズズズッ」とストロー内部に空気の入った音がする。
気が付かず、大きな音を立てたことに恥ずかしさを覚えたのか、安藤さんは目を大きくすると、こちらをジト目で見て、ゆっくりコップを置いた。なにもしていないのに怒られた気分だ。
「分かった。最上くんが言ったことやってみよう」
どうやら、安藤さんは決心がついたようだ。
あとはうまくいくことを願うだけ。依頼が達成されれば僕は自由の身だ。
ただ、そうなった場合、僕と安藤さんの関係はどうすればいいのだろうか。
「でも、その前に!」
僕の思考は安藤さんの大きな声に遮られた。
見ると、安藤さんは真面目な表情で僕を見つめていた。
「まずは私が最上くんのクラスに行くよ!」
「えっ? どうしてですか?」
「最上くんもボッチでしょ? だったら、最上くんの友達作りのために私が人肌脱がなきゃね。ついでに本当に友達ができるのかの検証もできるしね」
安藤さんは策士のようなキメ顔で提案する。
何だか面倒くさいことになりそうだ。そうは言っても、依頼を進展させるためにはやるしかない。
僕は泣く泣く了承することにした。
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