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9、大斗の過去

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  俺には兄貴がいる
  中西翔(なかにししょう)だ
  3歳上の兄貴

  めちゃくちゃ仲が悪い
  よく兄弟どうしでやるケンカとかのレベルじゃない
  お互いに嫌いあっている
  部屋が別々なのはもちろんのこと、食事も絶対に一緒にしない。

  原因は分かってる

  兄貴が小六の時好きな子ができた
  俺は相談にのってた
  兄貴の恋がうまくいくように

  でもその子が好きになったのは俺だった

  それから3年間、兄貴に好きな子ができると必ず俺を好きになる

  そのせいで俺は兄貴に嫌われた

  最初は風呂入ろうとしたら湯をぬかれてたり、トイレ行こうとしたら先に入って鍵をかけられたりしてた

  けど、だんだんとその嫌がらせがエスカレートしていった

  俺に彼女ができたらその子に手を出したこともあった
  その子は俺に負い目を感じて別れた

  そういうことが何回かあって俺も兄貴を嫌っていった



  そんなある日、兄貴に彼女ができた

  それが下田香純先輩だった
  俺より1つ上で、地味でメガネをかけていて、あんまり目立たないような子だった

  けど、兄貴はベタ惚れだった

  毎日電話して好きだって何度も言うし
  俺に隠そうとしていてもバレバレになってるくらいに

  そして俺は今まで彼女に手を出されてきた仕返しに香純先輩を利用して兄貴に俺と同じ目にあわせてやろうと思った


「香純先輩!」

「橙斗くん、どうしたの?」

  俺は香純先輩にアタックを始めた

「これからうち来るんですか?」

「うん、翔くんに誘われてるから」

  この頃の香純先輩は幸せそうだった

「いいなぁ、兄貴はこんなに素敵な人が彼女で」

「へ!?え、えぇ!?」

  香純先輩は顔を赤くして驚いた

「俺も香純先輩みたいな彼女がほしいです」

  俺は香純先輩をおとした後、好きになれると思ってた
  好きになるつもりだった

「え、え、えぇ!?」

「俺と付き合いません?」

  俺は顔の良さを利用して背の低い先輩の顔を覗きこんだ
  もちろんこれくらいで俺のことを好きになるとは思わないけど……

「い、い、いいよ?」

「……え?」

  まじかよ。こんなに簡単におちるのか
  兄貴のこと本当に好きなのか?
  まぁ、俺としては都合がいい

「あ、でも兄貴と別れる必要はありませんよ。兄貴に隠れて付き合いましょう」

  面白くしようと思い、俺は提案した

「え、でもそれじゃ二股になっちゃう」

「ほら、急に別れたりしたら兄貴が変に思いますから」

  俺はただ他のやつらに付き合ってることをバラされたくなかっただった

「それもそうだね。そうしよっか」

  こうして俺達は兄貴に隠れて付き合い始めた



「香純先輩、今日もうち来る?」

「うん!」

  兄貴は俺達のことにまだ気づいていない
  あと俺はまだ香純先輩のことを好きになれてない

「お、香純!」

  兄貴は俺が気づいていることが分かったのか、香純先輩にベタ惚れなのを隠そうとしなかった





「橙斗くん!」

「香純先輩」

  香純先輩が軽く走りながら近づいてきた

「あのね、今日私の誕生日なんだ!だから、その、」

  恥ずかしそうに香純先輩は言った

「一緒に祝ってほしいなぁ、なんて」

  ボトッ
  後ろで何かが落ちる音がした

「な、なんで、だよ」

「翔、くん」

  兄貴だった

「なんで俺じゃなくてそいつなんだ?」

「え、えと、それは、その、」

  グイッ
  俺は香純先輩の肩を掴んで引き寄せた

「俺達、付き合ってんだよ」

「は?何言ってんだ、お前。香純が付き合ってんのは俺で……」

「うそ、橙斗くん」

  先輩が口をおさえて少し涙ぐんでいた

「香純、ほらな!お前、香純は俺と付き合って……」

  香純先輩が俺に抱きついた

「みんなには知られたくないから黙っとこって言ってたのに、嬉しいっ!」

「はぁ!?」

  兄貴は驚いて俺と香純を見比べた

「すみません、今まで待たせてしまって」

  俺は香純先輩の頭を撫でながら言った

「嘘だろ、香純」

「ごめんね、翔くん」

  香純先輩は兄貴のことを見ながら言った

「ほら、今日お前の誕生日だろ?お前が前から欲しがってた本に俺とお揃いのアクセサリー、あとお前がのぞむなら他のものだってなんでも買ってやる……」

「やめて!」

  香純先輩は大声で言った

「香純……」

  兄貴は苦しそうに名前を呼んだ

「私は、そんなもの欲しくない。別れてほしいの」

「ごめんね、兄貴。兄貴の彼女とっちゃって。」

  俺は兄貴を見ずに香純先輩を見ながら言った

「でも兄貴も俺の彼女に今まで手を出してたよね」

「……っ」

  俺はここまで言って兄貴をみた

  そして後悔した

  兄貴はこれまで見たことがないくらい暗い顔をしてた


  そして結局、俺が香純先輩を好きになることはなかった
  それから半年、俺は香純先輩に別れを告げた
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