天国の屠殺場

1話

　わたしは食べ物に恋をしてしまった。
私は罪を犯している。過去も現在も未来も。だが私はこれに抗う手立てはない。
林檎の味は、においは、色は何色だ？





ギャン。凍てつく空を切り裂く叫び声。ひとりの羊族が首を嚙まれ、動きを止めた。深い森なかで狩りで生きる者、狼族。獲物の周りの犬族っは集まり、久しぶりのごちそうに歓声を上げている。

だが一人の狼族の少年は耳をふさぎ横たわる羊族の人間を見つめていた。彼には橙色と墨黒が空気に染みわたるように見えている。かれは感情を色として見える体質であった。そのせいで周りからは情けないと思われている。

「ラキ、なんでそんなに狩りができないんだ。」

「だって、悲しい気持ちが伝わってくるんだ」
顔を地面に向ける。

「しかたがないだろ。俺たちは食わなきゃ生きていけない。」
力強い目つきで見つめた。そしてため息をこぼしながら帰るぞと背中を見せ歩きながらつぶやいた。少年は尻尾を一瞬地面につけ、駆け足で追いかけた。





　みんなは狩りが好きだというけれど、僕にはもっと楽しいことがある。それは空を見て空想すること。あとは大好きなでも少し生意気な弟と話すこと。ひらりと蝶が舞う。色とりどりの花が頭を揺らしながら合唱するうえでリズムかるに動くその様子を眺める。きれいな黄色や緑の色彩に心を癒す。それがどれだけ素晴らしいことか。


ぼんやりと景色を眺めていると、草を踏む音が聞こえた。狼族の特徴を色穀物弟のカルは立派な鬣に凛々しい顔立ちという何とも男らしい容姿だ。
「お兄さん、また獲物を逃したと聞きましたよ。闘争心はないのですが」
中身も男らしい。

「あのな、落ち込んでるんだ。そっとしてくれよ」
ふん、と横を向いたが、直ぐにカルに向き直る。

「その傷どうしたの」
ああ、ちょっと擦りむいただけだよと話しているさなかには傷を診て、薬を塗り始める。
「良かった、お薬持ち歩いてて」

とにっこりと笑う。そんな兄さんを見てやさしすぎるんだよなぁと俺は独り言を言うのであった。


急ぎ足で家に戻りほっと一息つく。やっべ弟のオーラが暗かったから、どうなるかと思ったけど、何とか懐柔できてよかった。いつも説教が長いからなあと愚痴りながらベッドに横たわる。