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SSデボラの日課(物忘れの魔法薬学)
しおりを挟むデボラの朝は夫のセザールにコーヒーを淹れることから始まる。
「あなた、今日も体調が悪いのかしら?顔色が悪いわ……!こちらを召し上がってくださいな!薬も置いておきますので」
「ああ、デボラ。いただくよ」
「旦那様、お疲れでしょう?私が今日も書類仕事手伝わせていただきますわ……!」
「ああ、すまない。頭がボーッとして……部屋に戻る」
デボラは夫の前では猫を被っている。
使用人たちから見たデボラは、夫を立て、心配して手ずから毎日薬を調合し、お茶やコーヒーを淹れ、体調の優れない主人に代わり仕事を率先して手伝う優しい夫人。
しかし、このコーヒー、見た目は普通のコーヒーだが、ただのコーヒーではない。
魔法薬学により物忘れのコーヒーと化していた。
「───アルベルティーヌのことを忘れなさい、アングラード侯爵との企みや領地のことを忘れなさい……」
デボラ自ら調薬した薬をコーヒーに溶かし入れながら、忘れて欲しい事柄を念じる。
くるくると回るコーヒーに魔法を丁寧にかけていく。
濃いめに入れたコーヒーからは薬の味は感じ取れない。
セザールの企みが分かってからというもの、デボラはこうして夫に毎日朝と夜の二回、薬を盛っているのだ。
「ふふふ……!お見合いで結婚したものの、こんなに愚かな人だったなんて……!ベルちゃんが無事に伯爵位を継げるように、あいつらに殺させはしないわ……!」
───たとえ、あの子に嫌われていようとも……セレスティーヌ様やアドリエンヌ様の仇は私がとる。
(おわり)
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