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SS クロの嘆き(1~2話)

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 (クロヴィスside)



 「クロちゃん、食べられる分だけでいいからね、しっかりと食べるのよ!」

 そう言って柔らかな餌が入っているのであろうスポイトをずいっと差し出す目の前の女の子。──毎日、距離感が近くて困る。


 数日前にベルと名乗る女の子に拾われた。15歳くらいだろうか?
 所作は綺麗なのに、見た目は……可愛らしいのだが、お世辞にも綺麗とは言えないぼろぼろに荒れた髪や手。

 『きちんと磨いたら可愛くなるんだろうなあ』なんて、柄にもなく想像してしまった。
 そんなちぐはぐな、でもこんな怪我をした俺を助けてくれた優しい女の子。


 ──じぃぃぃぃぃっ

 そんなに毎日毎日、穴が開くほど見つめられたら食べづらいのだが……!

 鳥が餌を食べる姿の何がそんなに楽しいのだろうか?
 ベルは飽きずに毎日楽しそうに餌やりをする。


 食べ終わると、翼に塗り薬を塗りこまれる。
 助けてもらった手前、文句は言えないのだが……この薬がまたすごく酷い臭いなのだ。しかも傷にめちゃくちゃしみる。

 『ピィピィィィィィィ も……もう少し優しくして……』
 「きゃ~っ、プルプルしているクロちゃんも可愛い~!怖くないよ~」

 ──怖くはないが、痛いんだ……

 「──はーい!クロちゃん大人しくしてくれてありがとう!手当終わりね」


 餌やりされて、傷の手当をされるだけで、もう一日が終わったような感覚になる。
 ヘロヘロになり、抱きかかえられたベルの膝の上は温かくて眠くなる……


 そして、少し遠巻きにそんな光景を見ている鳥たち。

 『新入りちゃんは甘えん坊ですね♡』
 『新入りが甘えん坊なんじゃなくて、姫さんがメロメロなだけじゃね?俺だってアイツに似てるのに!』
 『ブラン~新入りに嫉妬は見苦しいぞ~』
 『だってよ~!俺も鷲なのに!鷹と鷲はほぼ一緒だろ!?』
 『やっぱ、高貴さっていうの?ブランに欠けてるのは』
 『──高貴さはねぇが男気ならある!』


 ──なんなんだ、騒がしいこいつらは……
 遠巻きにこちらをちらちら見ながら話すんじゃない……!


 「ふふっ、クロちゃんが来てから、なんだかみんなも賑やかで楽しそうなの!きっとあの子たち、クロちゃんの怪我が治ったらみんなで遊びたいのよ!」
 
 『ピィィィィ違うだろ……』



 ──はぁ……
 早く落ち着いて一人で飯食いたい……一人になりたい……早く傷治してここを出るぞ……


 そんな決意とは裏腹に、この騒がしい鳥たちとベルとは長く深い付き合いになることを、この時の俺はまだ知らなかった──



 《おわり》
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