31 / 33
SS クロの嘆き(1~2話)
しおりを挟む
(クロヴィスside)
「クロちゃん、食べられる分だけでいいからね、しっかりと食べるのよ!」
そう言って柔らかな餌が入っているのであろうスポイトをずいっと差し出す目の前の女の子。──毎日、距離感が近くて困る。
数日前にベルと名乗る女の子に拾われた。15歳くらいだろうか?
所作は綺麗なのに、見た目は……可愛らしいのだが、お世辞にも綺麗とは言えないぼろぼろに荒れた髪や手。
『きちんと磨いたら可愛くなるんだろうなあ』なんて、柄にもなく想像してしまった。
そんなちぐはぐな、でもこんな怪我をした俺を助けてくれた優しい女の子。
──じぃぃぃぃぃっ
そんなに毎日毎日、穴が開くほど見つめられたら食べづらいのだが……!
鳥が餌を食べる姿の何がそんなに楽しいのだろうか?
ベルは飽きずに毎日楽しそうに餌やりをする。
食べ終わると、翼に塗り薬を塗りこまれる。
助けてもらった手前、文句は言えないのだが……この薬がまたすごく酷い臭いなのだ。しかも傷にめちゃくちゃしみる。
『ピィピィィィィィィ……』
「きゃ~っ、プルプルしているクロちゃんも可愛い~!怖くないよ~」
──怖くはないが、痛いんだ……
「──はーい!クロちゃん大人しくしてくれてありがとう!手当終わりね」
餌やりされて、傷の手当をされるだけで、もう一日が終わったような感覚になる。
ヘロヘロになり、抱きかかえられたベルの膝の上は温かくて眠くなる……
そして、少し遠巻きにそんな光景を見ている鳥たち。
『新入りちゃんは甘えん坊ですね♡』
『新入りが甘えん坊なんじゃなくて、姫さんがメロメロなだけじゃね?俺だってアイツに似てるのに!』
『ブラン~新入りに嫉妬は見苦しいぞ~』
『だってよ~!俺も鷲なのに!鷹と鷲はほぼ一緒だろ!?』
『やっぱ、高貴さっていうの?ブランに欠けてるのは』
『──高貴さはねぇが男気ならある!』
──なんなんだ、騒がしいこいつらは……
遠巻きにこちらをちらちら見ながら話すんじゃない……!
「ふふっ、クロちゃんが来てから、なんだかみんなも賑やかで楽しそうなの!きっとあの子たち、クロちゃんの怪我が治ったらみんなで遊びたいのよ!」
『ピィィィィ……』
──はぁ……
早く落ち着いて一人で飯食いたい……一人になりたい……早く傷治してここを出るぞ……
そんな決意とは裏腹に、この騒がしい鳥たちとベルとは長く深い付き合いになることを、この時の俺はまだ知らなかった──
《おわり》
「クロちゃん、食べられる分だけでいいからね、しっかりと食べるのよ!」
そう言って柔らかな餌が入っているのであろうスポイトをずいっと差し出す目の前の女の子。──毎日、距離感が近くて困る。
数日前にベルと名乗る女の子に拾われた。15歳くらいだろうか?
所作は綺麗なのに、見た目は……可愛らしいのだが、お世辞にも綺麗とは言えないぼろぼろに荒れた髪や手。
『きちんと磨いたら可愛くなるんだろうなあ』なんて、柄にもなく想像してしまった。
そんなちぐはぐな、でもこんな怪我をした俺を助けてくれた優しい女の子。
──じぃぃぃぃぃっ
そんなに毎日毎日、穴が開くほど見つめられたら食べづらいのだが……!
鳥が餌を食べる姿の何がそんなに楽しいのだろうか?
ベルは飽きずに毎日楽しそうに餌やりをする。
食べ終わると、翼に塗り薬を塗りこまれる。
助けてもらった手前、文句は言えないのだが……この薬がまたすごく酷い臭いなのだ。しかも傷にめちゃくちゃしみる。
『ピィピィィィィィィ……』
「きゃ~っ、プルプルしているクロちゃんも可愛い~!怖くないよ~」
──怖くはないが、痛いんだ……
「──はーい!クロちゃん大人しくしてくれてありがとう!手当終わりね」
餌やりされて、傷の手当をされるだけで、もう一日が終わったような感覚になる。
ヘロヘロになり、抱きかかえられたベルの膝の上は温かくて眠くなる……
そして、少し遠巻きにそんな光景を見ている鳥たち。
『新入りちゃんは甘えん坊ですね♡』
『新入りが甘えん坊なんじゃなくて、姫さんがメロメロなだけじゃね?俺だってアイツに似てるのに!』
『ブラン~新入りに嫉妬は見苦しいぞ~』
『だってよ~!俺も鷲なのに!鷹と鷲はほぼ一緒だろ!?』
『やっぱ、高貴さっていうの?ブランに欠けてるのは』
『──高貴さはねぇが男気ならある!』
──なんなんだ、騒がしいこいつらは……
遠巻きにこちらをちらちら見ながら話すんじゃない……!
「ふふっ、クロちゃんが来てから、なんだかみんなも賑やかで楽しそうなの!きっとあの子たち、クロちゃんの怪我が治ったらみんなで遊びたいのよ!」
『ピィィィィ……』
──はぁ……
早く落ち着いて一人で飯食いたい……一人になりたい……早く傷治してここを出るぞ……
そんな決意とは裏腹に、この騒がしい鳥たちとベルとは長く深い付き合いになることを、この時の俺はまだ知らなかった──
《おわり》
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる