上 下
28 / 33

28 オーバン侯爵家での生活

しおりを挟む
 (アルベルティーヌside)


 王前裁判から早くも一ヶ月が経った。

 「アルベルティーヌ!とっても綺麗よ!二人並ぶと春のお花畑のようね!」
 「お姉様の手首や足首の跡もだいぶ色が薄くなったし……本当に良かったわ!」

 鏡の中には化粧を施され、髪はハーフアップに結い上げられ、深い緑色のイブニングドレスを纏った私がいる。


 髪の毛には、侍女のリリアンナ(リリー)にお願いして、モルヴァド領の大市で買った金糸で縁取られた緑色のリボンを編み込んでもらった。そう、クロとお揃いのあのリボン。

 イブニングドレスは、義妹シャリーお揃いのデザイン。二人で相談して決めた。

 私は深い緑色の生地に若葉色のふわふわのチュールを重ねたドレス、シャリーは少し濃いめの桃色の生地に薄い桃色のチュールを重ねたドレス。


 「やっぱりお姉さまは緑色にして正解でしたね!髪色も明るい飴色ですし、お肌もアイボリー系の明るい肌ですし!」
 「シャリーもやっぱりピンクが似合うわ!とっても可愛くて素敵よ……!」

 オーバン侯爵家に来てから、すぐにドレスやワンピースなどを十数着も作っていただいた。

 軋んで、傷んでいた髪の毛も、カトリーヌお義母様にいただいたシャンプーとトリートメント、木の実から搾られたというヘアオイルで今では艶が出るようになった。

 畑の世話や家事で少し日に焼け荒れていた手も、今では爪も磨かれ、クリームを塗りこまれ、少しずつすべすべになってきている。


 ──そういえば、専属の侍女や家庭教師もつけてもらえた。リリーはシャリーと同じ18歳の男爵令嬢だった。

 リリーとシャリーは意気投合し、私のドレスのデザインを楽しそうに決めていた。
 リリーと私は、よくシャリーの部屋にお呼ばれされて、夜な夜なガールズトークを楽しんでいる。

 鳥たち以外に友達と呼べる存在がいなかったので、ガールズトークも深夜の女子会も、お庭でのお茶会も……毎日がとても楽しい。
 社交の練習ね、とカトリーヌ様は仰るけれど、おそらく私に色々と甘いものを食べさせたいのだと思うわ……!

 この歳で家庭教師というのも恥ずかしいけれど、吸収が早いとよく褒めていただけるのが嬉しい。
 何より、10歳まで令嬢教育をしっかりと施してくれていた両親について褒められることが……何よりも嬉しかった。


 ──と、話が逸れてしまったけれど……
 今日は、秋の叙爵式でデボラ様が男爵位を叙爵される。
 そのお披露目も兼ねる夜会では、クロヴィス殿下のフォートリエへの帰国の報告もされるらしい。

 シャリーの話によると、もっぱらクロヴィス殿下の結婚相手探しのための夜会だと噂され、年頃の令嬢たちは浮き足立っているとかなんとか……!

 私は大人になってからは初めての社交界なので、緊張でそれどころではないわ……!
 10年間、鳥たちと街の人以外とまともに会話していなかったので、とても緊張するわ……!


 シリルお義父様の話によると、国王直属の名誉薬学研究員という役職を与えられ、領地無しのメディカ男爵位を叙爵されたデボラ様。
 なんと陛下の計らいで、モルヴァド領内に研究所を兼ねた立派な邸宅を下賜されたらしい。
 中には最新の魔法具や実験器具なども揃えられたそう……!見学に行ってもいいかしら?


 「──おそらく、来年正式に爵位継承する予定のアルベルティーヌの補佐として彼女を残したんだろう。陛下も粋なことするね」
 「もう!せっかくアルベルティーヌがうちに来てくれたというのに……たった一年だなんて寂しいわ!」

 ありがたいことに、シリルお義父様と、カトリーヌお義母様は、一年間ということを残念がってくれている。


 ──そうなのだ。
 本来は20歳になり、叔父セザールも処刑され後見が外れた今、父のモルヴァド伯爵位を継ぐはずだったのだけど……陛下よりご厚情を賜り、継承が来年に延びたのだ。

 『君は大変な目に遭ってしまった。今は心と体を休め、オーバン侯爵家の元で休養をしながら一年間領地について勉強するといいだろう』

 ──元々、両親は一人娘の私にスパルタ教育だったということもあり、勉強自体は飲み込みがとても早いと褒めてもらえている。
 一年で色々なことをみっちりと詰め込むなんて大変だけれど、なんだか生きているって感じがして、とても楽しいわ……!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

処理中です...