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26 王前裁判

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 (アルベルティーヌside)


 今日はついに王前裁判の日。

 久しぶりの王前裁判ということもあり、物珍しさに広間に設けられた傍聴スペースは国内の貴族たちで埋めつくされていた。

 私は中央の関係者席にオーバン侯爵家として参加している。

 「──私は今日の裁判では何もしなくていいと……殿下やラクール様たちの計らいだわ……」

 「アルベルティーヌ、大丈夫だ。殿下や陛下が守ってくださるよ。君は何も心配しなくていいからね」

 シリル様、カトリーヌ様が肩を優しくさすって下さった。


 ────


 「これより王前裁判を始める」

 「容疑は違法植物《魔女殺し》による殺人。今回の原告はモルヴァド領後見人夫人のデボラ・マニエ夫人。裁判補助人は、クロヴィス第二王子殿下。被告はモルヴァド領後見人のセザール・マニエ、軍務副長官であるアシル・アングラード侯爵」

 傍聴席の間でざわめきが広がった。

 ──魔女殺しだって……?
 ──アングラード侯爵が殺人……?
 ──クロヴィス殿下がお戻りに……!?

 「皆の者静粛に。それでは始める──」


 促されデボラ様は震えながら、経緯を語り出した。
 その経緯はあの晩、ラクール様やポートリエ様が作り上げた筋書き通りに述べられていった。

 ──さすがデボラ様……今日も演技が素晴らしいわ……肩を震わせはらはらと涙まで流していらっしゃる……!


 デボラが語った筋書きはこうだ──

 元々、デボラは憧れていた王妃殿下と、義姉のセレスティーヌが亡くなったことに心を痛めていた。
 薬学に詳しいことを生かし、流行病の原因や治療薬について研究を始めた。

 デボラのその研究を偶然知り、興味を抱いた第二王子クロヴィスは密かに流行病について研究し報告することを命じた。

 ある日、デボラはセザールが栽培している違法植物の存在に気が付いた。
 流行病とされた死因の一部が実は違法植物による中毒死であり、セザールによる殺人ではないかと疑いはじめる。

 セザールの行動を疑ったデボラは、手紙のやり取りや資金の流れからアングラード侯爵との関係、侯爵の事情、殺害計画に辿り着いた。

 アングラード侯爵の娘のブリュエットは密かにクロヴィスを慕っていた。
 しかし、クロヴィスと幼なじみのエリク・ラクールと仲が良かったのは伯爵令嬢のアルベルティーヌだった。

 王妃殿下と仲の良い伯爵夫人と娘のアルベルティーヌがいる限り、ブリュエットが婚約者に割り入るのは難しい。
 そのため、アングラード侯爵は伯爵の弟で欲深いセザールに目をつけた。

 侯爵は王宮のメイドを買収し、少しずつ王妃を弱らせて流行病に見せかけた。
 セザールは伯爵夫妻の殺害の実行犯だが、裏でアングラード侯爵は資金援助を行っていた。


 元々、フォートリエ国でも違法植物について警戒し調査していた。
 その為、国王陛下に極秘で違法植物についての研究を命じられた。

 デボラは、義娘アルベルティーヌを夫とアングラード侯爵から守るために本邸では自分の部屋の近く、その後は別邸に匿った。
 夫に怪しまれないよう、侯爵に狙われないよう、アルベルティーヌは心の病になったと偽ることにした。

 10年に渡る研究の結果、セザールとアングラード侯爵による殺害だと結論づけた。
 出来た中和薬と中毒の治療薬や研究結果などを、証拠品の手紙とともに第二王子クロヴィスに預け、クロヴィスを通して国王陛下に報告をした──


 「──義娘のアルベルティーヌは別邸の使用人による虐待で衰弱してしまいました。私が会いに行けば夫にアルベルティーヌのことを思い出させてしまう……!そう思い、会いに行けずにおりました……」

 「私はアルベルティーヌを夫から遠ざけることや研究で頭がいっぱいで、使用人の虐待や着服にまで気が回りませんでした。至らぬ私のせいで、アルベルティーヌに辛い生活を強いてしまいました……!私に……どうか罰をお与え下さい……!」


 証言台は完全にデボラ様の独壇場ショーだった。

 時折、国王陛下から反論は無いか聞かれていた叔父セザールとアングラード侯爵は縄に繋がれ項垂れたまま、ずっと静かに聞いていた。

 デボラ様を上手く補助し、時折、証拠品の違法植物や手紙を効果的に掲げる黒髪の男性。
 10年以上振りに見たクロヴィス殿下は、すっかり背が高くなっていて素敵な大人の男性になっていた。


 ──クロヴィス殿下のお姿にも驚いたのだけど、何よりも驚いたことがあったわ!
 数日前にポートリエ様に預けた別邸の鳥たちが証言台に現れたの!

 『──イイ?トリタチ、イッショニイテヤルノヨ?』
 『オイ、オマエノユビワヨコセ』
 『チッ、トウロクマホーカヨ』

 オウムのオーちゃんに、ヨウムのヨーちゃん……!

 「ヨーちゃんもオーちゃんも元気そうで良かったわ……!証言もできるなんて、なんて賢いんでしょう……!」
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