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13 恋の自覚と別れは突然に
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(クロヴィスside)
次の日も再び大市にやってきた。
昨日、アルベルティーヌに贈られたリボンを眺めていたら、嬉しくてあまり寝られなかった。
元々ここ一週間ほど夜になると、邸内の人間が寝静まったのを確認して、邸内で探し物をしたり、外に出て少しやることがあった。そのため、寝不足は昨晩だけの話では無いのだが。
「まぁ!見て!もうお客様がいるわ!急いで準備しましょう!」
『ピィィィ』
今日も繁盛している。女性客が八割、プレゼント用なのか男性客が二割ほど。
──人間の姿ならベルにプレゼントの一つや二つ贈るし、手伝いだってもっとしてやれたのに。涙だって拭ってやりたいし、寂しそうな時は抱きしめてやりたい。
それに、もしベルが望んでくれるならばその先も……
──その先?俺はベルとの未来を望んでいる……?
ああ、俺はいつの間にか、また彼女のことを好きになっていたのか。この三週間、命を救い、そして無償の愛をくれたベル。
いつしか愛されたいと願う彼女に、たくさんの愛を与えたいと思うようになっていた。
『ピィ』
いや
『ピィィ』
言葉にしてみると、しっくりときた。愛しているの五文字が胸にストンと綺麗に落ちた。
でも元に戻る方法が分からなければ、俺はずっと鷹のまま。
実は鷹の状態でも話せるというカミングアウトでもしない限り、思いを伝えることも出来ない。まぁ、伝えたところで鷹のままでは異種間恋愛になってしまう。それは無理だろう。
──それでもいい。このままずっと鷹のまま傍で好きな人を見守る人生、いや鷹生も悪くない。
それに、もし仮に先祖返りすることなく人間の姿でいられたなら、そもそも辺境に追いやられているベルに気付くこともなかっただろう……
そう思うと、先祖返りしたことや怪我をしたこと、拾ってくれたのがアルベルティーヌだったこと、全てに感謝したい気持ちになった。
今まではひたすら人間に戻りたいと思っていたし、獣人の先祖様に対して若干恨めしい気持ちになった日もあった。
しかし、自分の思いに気がついた今日は改めて鷹になって良かったと心から思った。
────
「──噂を聞いてもしやと思えば、やっぱり!クロ!お前ここに居たのか!めちゃくちゃ探したんだぞ!!生きててよかったよ!!」
『ピィィ!』
聞き慣れた声がすると思い、ボーッと思いにふけっていたクロヴィスが顔を上げると、幼馴染みであり、近衛騎士団情報部所属のエリク・ラクールがいた。
「あの、すみません。飼い主の方でしょうか?魔道具が着いておらず、てっきり野良の子が怪我をしたのだと思い、傷の手当を勝手にしてしまいました」
「私は近衛騎士団所属エリク・ラクールと申します。この鷹は王宮で飼われていたのですが、色々ありここに……」
「──王宮……近衛騎士団……ですか……」
「治療していただきありがとうございました!治療費はこちらへ請求して下さいね。私が窓口となり、後ほどお礼もさせていただきますので」
「……あの、最後にクロちゃんにお別れの挨拶がしたいので、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
俺はアルベルティーヌに抱きかかえられ、市から少し離れた木陰に立った。
「──クロちゃん……短い間だったけど、ありがとう。私、あなたのこと大好きだった。おうちに帰っても元気で暮らすのよ?」
『ピィィ……』
「こんなこと言うなんて馬鹿らしいけど……あなたが……人間だったなら良かったのに……ってずっと思っていたの」
「ごめっ……なさい……こんなに突然お別れするなんて思っていなかったから、寂しくてもう無理なの。クロ様さようならっ」
──ぽんっ
「アルベルティーヌ!!」
アルベルティーヌは泣きながら走っていった。
後を追うにも、何故かいきなり人間の姿に戻ってしまい、全裸で首に緑のリボンという姿になってしまったクロヴィスは、しばらくその場から動けなかった。
次の日も再び大市にやってきた。
昨日、アルベルティーヌに贈られたリボンを眺めていたら、嬉しくてあまり寝られなかった。
元々ここ一週間ほど夜になると、邸内の人間が寝静まったのを確認して、邸内で探し物をしたり、外に出て少しやることがあった。そのため、寝不足は昨晩だけの話では無いのだが。
「まぁ!見て!もうお客様がいるわ!急いで準備しましょう!」
『ピィィィ』
今日も繁盛している。女性客が八割、プレゼント用なのか男性客が二割ほど。
──人間の姿ならベルにプレゼントの一つや二つ贈るし、手伝いだってもっとしてやれたのに。涙だって拭ってやりたいし、寂しそうな時は抱きしめてやりたい。
それに、もしベルが望んでくれるならばその先も……
──その先?俺はベルとの未来を望んでいる……?
ああ、俺はいつの間にか、また彼女のことを好きになっていたのか。この三週間、命を救い、そして無償の愛をくれたベル。
いつしか愛されたいと願う彼女に、たくさんの愛を与えたいと思うようになっていた。
『ピィ』
いや
『ピィィ』
言葉にしてみると、しっくりときた。愛しているの五文字が胸にストンと綺麗に落ちた。
でも元に戻る方法が分からなければ、俺はずっと鷹のまま。
実は鷹の状態でも話せるというカミングアウトでもしない限り、思いを伝えることも出来ない。まぁ、伝えたところで鷹のままでは異種間恋愛になってしまう。それは無理だろう。
──それでもいい。このままずっと鷹のまま傍で好きな人を見守る人生、いや鷹生も悪くない。
それに、もし仮に先祖返りすることなく人間の姿でいられたなら、そもそも辺境に追いやられているベルに気付くこともなかっただろう……
そう思うと、先祖返りしたことや怪我をしたこと、拾ってくれたのがアルベルティーヌだったこと、全てに感謝したい気持ちになった。
今まではひたすら人間に戻りたいと思っていたし、獣人の先祖様に対して若干恨めしい気持ちになった日もあった。
しかし、自分の思いに気がついた今日は改めて鷹になって良かったと心から思った。
────
「──噂を聞いてもしやと思えば、やっぱり!クロ!お前ここに居たのか!めちゃくちゃ探したんだぞ!!生きててよかったよ!!」
『ピィィ!』
聞き慣れた声がすると思い、ボーッと思いにふけっていたクロヴィスが顔を上げると、幼馴染みであり、近衛騎士団情報部所属のエリク・ラクールがいた。
「あの、すみません。飼い主の方でしょうか?魔道具が着いておらず、てっきり野良の子が怪我をしたのだと思い、傷の手当を勝手にしてしまいました」
「私は近衛騎士団所属エリク・ラクールと申します。この鷹は王宮で飼われていたのですが、色々ありここに……」
「──王宮……近衛騎士団……ですか……」
「治療していただきありがとうございました!治療費はこちらへ請求して下さいね。私が窓口となり、後ほどお礼もさせていただきますので」
「……あの、最後にクロちゃんにお別れの挨拶がしたいので、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
俺はアルベルティーヌに抱きかかえられ、市から少し離れた木陰に立った。
「──クロちゃん……短い間だったけど、ありがとう。私、あなたのこと大好きだった。おうちに帰っても元気で暮らすのよ?」
『ピィィ……』
「こんなこと言うなんて馬鹿らしいけど……あなたが……人間だったなら良かったのに……ってずっと思っていたの」
「ごめっ……なさい……こんなに突然お別れするなんて思っていなかったから、寂しくてもう無理なの。クロ様さようならっ」
──ぽんっ
「アルベルティーヌ!!」
アルベルティーヌは泣きながら走っていった。
後を追うにも、何故かいきなり人間の姿に戻ってしまい、全裸で首に緑のリボンという姿になってしまったクロヴィスは、しばらくその場から動けなかった。
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