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12 招き猫ならぬ招き鷹

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 (アルベルティーヌside)


 クロちゃんを拾って三週間、季節はすっかり夏になっていた。


 「今日は大市に行ってくるから、みんなお留守番よろしくね!」
 『ピィィィ俺も行く

 「ええ……クロちゃんも行きたいの……?ハンカチや小物を売るだけだから、楽しくないわよ?来てもいいけど、絶対に離れないでね?」
 『ピィィィもちろんだ


 そんなわけで、頑張って作りためた作品をマジックバッグに入れて、クロちゃんを抱えて市に向かった。


 ────

 冬の間は大市は開かれないため、街では3月から11月にかけて月に一度、土日の二日間開かれる。
 モルヴァド領内の大きな四つの街で一週ずつずらして開催される。
 領内をはじめ、日持ちのするものであれば少し離れた近隣の領からも売りにくる、荷馬車が多くやって来る大きな市なのだ。

 私はは完全に個人でやっているため、数もそんなに作れないし売ることもできない。
 主に畑仕事の無くなる冬に作品を作りため、寝る前や雨の日などにも作品を少しずつコツコツと作っていく。
 そうして季節に一度、別邸のあるこの辺境の街の大市に出店する。つまり年に三度、六日間だけの出店になる。


 街で手芸と小物を扱う雑貨店を営んでいるアンヌに作品を認められ、少しだけお店に常時置いてもらったりもしている。
 個人で使える荷馬車などないので、いつも大市には母の形見のマジックバッグで作品を運び、アンヌのお店の荷馬車の一部を作品の展示場所として借りている。

 そうして頑張って手に入れたお金で、本当に少しだが自分の服や下着を新調したり、手芸用品を買い足す。
 あとはほとんど鳥たちのために、新しい果物や野菜や薬草の種や苗、農業資材などの購入に充てている。


 ────


 「──いらっしゃいませ!どちらの商品が気になりますか?」

 別邸にいる色とりどりの鳥たちをモチーフにした刺繍のハンカチや巾着袋に、畑の花や薬草を乾燥させて作ったポプリやリース。
 縁にレース編みを施したクッションカバーや少し小さめの膝掛け。

 特に今回のおすすめは、奮発して買った黒い艶やかな絹糸で刺繍した黒鷹のモチーフシリーズ。金色の目は金色のガラスビーズを縫い付けた渾身の作だ。
 陽の光を浴びるとキラキラと輝く黒鷹のモチーフは、予想通りやはり大好評だ。


 「このお店久しぶり!前回買ったポプリ枕元に置いて寝てるの!」
 「わぁ!素敵なハンカチ。目がビーズで輝いていて綺麗……!」
 「この鷹のモデルは君かい?賢そうな綺麗な鷹だなぁ」

 ──すごいわ……!いつもよりお客さんで賑わっていて、売れ行きも良いわね!招き猫ならぬ招き鷹様様ね!
 クロ様はかっこいいもの。みんな見ているわ!


 完全にクロのおかげだと思い込んでいるアルベルティーヌだが、希望するお客さんにはサービスでイニシャルやワンポイントの簡単な刺繍を入れる。
 そんなライブ感や特別感もアルベルティーヌの店の人気の秘密である。



 「ええっと。赤の糸で『S』ですね!」
 『ピィィこれでいいか?
 「あら!クロちゃんありがとう!」


 「まあ!なんて微笑ましい光景なの?」
 「鷹って怖いと思っていたけど、よく見れば優しそう!」
 「一生懸命嘴でくわえているのがなんだか可愛い!」

 この一生懸命な女の子と、糸を渡す賢く美しい黒鷹のやり取りがすっかり噂になり、大市一日目は大盛況で売り切れとなった。

 「クロちゃん、お疲れ様!招き鷹素敵だったわ!呼び込みありがとうね。商品も無くなってしまったし、他のお店を少し見てまわりましょうか」


 ──そうして色々なお店を歩いて回っていると、ふと綺麗な色とりどりのリボンを売っているお店をじーっと見つめているクロちゃん。
 クロちゃんは緑色が好きなのかしら?

 「あら?クロちゃんリボンが気になるの?素敵な緑色ね!薬草畑の若葉の色だわ!それに縁どられた金糸も素敵ね! 」

 『ピィィィィ……あなたの瞳の色なんだが

 「すみません!この緑のリボンを二本ください」


 クロちゃんの首にリボンを結び、自分の髪にも器用にリボンを結わえ付けてみた。
 クロちゃんの首が締まらないように……っと……!

 「──はい。これはお手伝いのお礼よ。ふふっクロちゃんの首輪と私の髪結い。お揃いね」

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