21 / 34
20 怪しい男
しおりを挟む「あの騎士の方大丈夫でしょうか。」
王宮へ向かう馬車の中、ヴィンがそうぽつりと呟く。
「大丈夫だよ。騎士団でちゃんと訓練もしてる強い人だから。」
それでも心配なのかヴィンは下を向いたままだ。
「あの騎士に何かあるのか?」
「いえ、あの方の魔力は綺麗でした。…ですがあのローブの人がかなり危険な感じでしたので。」
かなり不安なようで、安心させるために手を握った。すると少し安心できたのかふっと笑ってくれた。
王宮に着くと騎士団長達が出迎えてくれた。
「お久しぶりです。ようやくこちらでお迎えできて嬉しいです。」
騎士団長は渋いおじさんだ。ガッチガチの筋肉で盛り上がった体なのに、俊敏な動きをするかなりの猛者だ。人柄も良くて騎士団の人から慕われている。
僕もこの人は付き合いやすくて好きだ。
「ライリー、可愛い恋人連れとはやるな。恋人が出来たと聞いて、しばらく騎士団は葬式のようだったぞ。」
げぇ…。なんだよそれ。嬉しくない。
「ふふ。ライリーさんはどこに行っても人気者ですね。」
ヴィンは嫉妬しないのか、そんな話を聞いても笑っていた。
「初めまして。騎士団長のエイデンだ。よろしく。」
「ヴィンセントと申します。私もこちらに伺わせていただけて光栄です。よろしくお願いいたします。」
「ほう。可愛らしいだけじゃなく、とてもしっかりした方のようだ。ライリー、さすがだな。それに目の色が変わっているがとても良い目をしている。」
そうでしょうそうでしょう。僕のヴィンは可愛いだけじゃなくて賢いんだ。
騎士団長に連れられて王宮内にある宰相様の執務室へ。
「あぁ、お久しぶりです皆さん。ようこそ王宮へ。…さ、お茶をご用意いたしますのでこちらに。」
この宰相様はお茶好きのようで、前もこうやってお茶を振舞ってくれた。
「こちらの可愛い方がライリー殿の恋人ですかな。これまた珍しい目の色をしているな。」
「ヴィンセントと申します。初めまして、宰相様。」
しばらくは騎士団の魔力剣習得者の報告を聞いたり、訓練内容の確認をしたりした。ある程度話終わったところで例のローブの人の話をする。
「宰相様。お伝えしたいことがあるのですが、出来れば人払いをお願い出来ませんか?」
「エレン殿…?…相分かった。では騎士団長と宰相補佐以外は、ここを出てもらいましょう。」
そうして僕達だけが残された。
「して何かあったのでしょうが。人払いまでするとはかなり重要な案件なのでしょうな。」
「はい。その話に併せてヴィンセントの事もお伝えしなければいけないのです。」
ここに向かう馬車の中でローブの男のことを伝える前に、ヴィンの目の事を教える事に決めた。秘密にしていた事だし、あんまり広めていい事じゃないから人払いをお願いして。
「実は私の目のことなのですが…。」
人の魔力が視える事。人によって色や輝きが違う事。それによってある程度人の善悪がわかる事。ガンドヴァの人間に襲われた事。そのガンドヴァの人間と似た魔力を持つ人を見かけた事等を教えた。
そして今、騎士団の1人が後をつけている事も。
「なんと…。そんな事が可能なのか。そんな話聞いたことがない。」
「信じられないかも知れませんが、アシェルの妊娠も見抜きました。初期の初期でまだ体に不調が現れていない時にです。」
「…悪しき者の手に渡ればかなり危険なことですな。使おうと思えばいくらでも使える。」
「それでその騎士の人が戻るまではまだわからないのですが、もしかしたら王都で何かをしようとしている可能性もあります。」
「…わかりました。貴重な情報をありがとうございます。何事も無いのが1番ですが、つい先日のソルズでの行動もありますからね。とりあえず報告を待ちましょう。」
それでこの話は終わって騎士団の訓練場へ行くことになった。
訓練場に着くと、騎士達が勢揃いしていて一斉に敬礼をした。ザッ!と一糸乱れぬ動きは見ていて壮観だ。
僕達は元々平民だし、騎士団の人達にこんな風にされるなんて本来はあり得ない。だけど『ドラゴン討伐の英雄』になった僕達に憧れる人も多いらしくいつも僕達を見る目が怖い。ギラギラしていて怖い。
「…なんだか学園の人達よりも凄いですね。」
ヴィンもそれを感じ取ったのか、ぽつりとそんなことを溢した。
今日は特別に父さんと騎士団長の模擬戦を見せる事になっている。
正直これは僕も楽しみにしていた。
僕は未だに父さんに勝てない。父さん強すぎるんだよな。そんな父さんの模擬戦は僕だって滅多に見られる物じゃ無いからわくわくする。
模擬戦が始まった。騎士団長も凄く強い人だから最初っから飛ばして激しく打ち合いを始めている。
父さんはそれを軽くいなしていて、2人ともまだ本気を出していない事がわかる。
「…わ、わ、わ!えっ!危ないっ!…あ、わっ!」
隣でハラハラと見ているヴィンが可愛くて辛い。
こんなの見るの初めてだろうし、素人から見たら危なく見えるんだろう。
2人はそのままスピードを徐々に上げていって激しく打ち合うようになった。
ガンっ!と強く鍔迫り合いをしてさっと同時に後退する。そこで剣を下ろして終了だ。
うわぁぁぁぁぁ!!と大歓声が起こる。ヴィンも一生懸命拍手を送っていた。
父さんの剣、やっぱり凄いな。僕もあれくらいなら出来るけど、本気で戦ったらどれだけもつだろうか。
それから、集団での魔力剣の講習。月に一度ソルズへやってくるけど、全員というわけにはいかない。だからまだ僕達が会ったことのない人を中心に教えていく。
その間母さんとヴィンは騎士団長とお茶してた。母さんとヴィンが並んでるだけで凄く画になる。
…こいつら見惚れてやがる。
ちょっとイラッとしたから訓練で叩きのめしておいた。
そしたらローブの男をつけていた騎士が戻って来たと連絡が来た。
そこで訓練は終了して、また宰相様の執務室へ向かう。
執務室に入ると既に人払いは終わっていて、ついでにお茶の準備も出来ていた。…本当にお茶好きなんだな。
「では結果を聞かせて貰えるか?」
宰相様の合図で騎士からの報告を聞く。
「はい。ローブの男ですが、あのままスラム街へと入っていきました。
その途中で何箇所か立ち止まり、何かを確認していたのかきょろきょろと見回していました。それも建物と建物の間とか、植木鉢の所とか。
何箇所か見た後は、スラム街のとある建物へ入っていったのでその場でしばらく待機していました。すると同じようなローブを着た人間が数人、同じ場所へと入っていくのを確認できました。」
「なるほど。その場所を地図に印を付けることは可能か?」
そしてその騎士は机に広げられた王都の地図に丸をいくつか書き込んでいった。最後は男達が入った建物も。
「…何をしているのかはわからないが、怪しいことは間違いないな。これは明日騎士団で街を捜索にあたらせます。バレないようあくまでも巡回という体で。」
「そうだな。騎士団長、頼んだよ。」
「はっ。」
「私たちも後数日は王都に滞在します。何かあれば力になります。」
「ああ、心強い。宜しく頼みます。」
それで王宮での滞在を終えて宿へと戻った。
62
お気に入りに追加
1,159
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
BlueRose
雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会
しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。
その直紘には色々なウワサがあり…?
アンチ王道気味です。
加筆&修正しました。
話思いついたら追加します。
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる