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19 ヴィンセントの決意

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アーロンと別れてから。王都の街をのんびりと歩いていく。するとヴィンがある広告に目をつけた。

「ん?劇場?行きたいの?」

「あ、いえ。この劇が昔本で読んだ物語だったので。それなりに面白いお話だったんです。」

「ふぅん。…観に行く?」

「え?いいんですか?」

だって顔に『観に行きたい』って書いてある。

「もちろん。ヴィンがやりたい事したい事何でもしよう。」

それから劇場に足を運んで明日のチケットを買うことにした。ここはかなりの人が集まっていてそれなりに人気がある様だ。


丁度今日の公演が終わったのだろう。沢山の人が会場から出て来ていた。


「…ヴィンセントっ!なぜお前がここに!」

劇場の中に入ってしばらくすると、ヴィンを呼ぶ声が聞こえた。声のした方へ顔を向けると、2人の男が睨む様にこちらを見ていた。

「……お母様。」

え?あれがヴィンの母親?

母親を見たヴィンが少し震えていた。昔のことを思い出してるのかも知れない。手をギュッて握るとハッとして僕の顔を見た。

うん、大丈夫。もう1人じゃないよ。

「もう2度と私たちの前に姿を見せるなと言ったはずだ!それなのになぜここにっ………。一緒にいるこの人は誰だ?」

「こんにちは。僕はライリー・フィンバーです。」

こんな奴に挨拶なんてしたくもないし話したくもないけど、ヴィンを守るために一歩前に出る。

「ライリー・フィンバー…?まさか『ドラゴン討伐の英雄』の?……ヴィンセント、どういう事だ?なぜお前がこんな方と一緒にいる?」

「ヴィンとは恋人ですよ。それが何か?」

肩を抱いて親密さをアピールする。

「恋人だと…?本当なのか?」

「……はい。」

「…よくやった!ウェインライト家との縁談が無くなったが、代わりに『ドラゴン討伐の英雄』と恋人になったのなら話は変わる。これで我がトルバート家も更に力を付けられる。今すぐお前の勘当を解き家に戻して…」

「ふざけるな。」

なんだコイツは。僕と恋人になったから家に戻す?ヴィンを散々な目に遭わせておいて勘当したくせに。

「僕はトルバート家と縁を結ぶつもりはない。ヴィンをまともに見てこなかったお前らなんかと仲良くしたいなんて思わない。ヴィンはお前達になんか渡さない。2度と僕達の前に現れるな。」

「なっ!?」

ヴィンの手を握り劇場の外へ向かう。こんな奴と1秒だって一緒になんて居たくない。

「待ちなさいヴィンセント!お前を育ててやった恩を忘れたのかっ!」

その言葉を聞いてヴィンの足が止まる。

「ヴィン?」

「大丈夫です、ライリーさん。」

そう言うとくるりと体の向きを変えた。

「お母様、今まで生かしていただきありがとうございました。ですが育ててもらった覚えはございません。殆ど関わりなど無かったのですから。
それに目の色が違う私は『不幸を呼ぶ』のですよね?そんな私ですからトルバート家に戻るつもりはありません。もう2度とお目にかかる事はないでしょう。さようなら。トルバート侯爵夫人。」

そう告げると「行きましょう。」と僕の手を引いて歩き出した。


ヴィン…。凄くカッコよかったよ。もう言いなりなんかじゃない。自分の意思を持って自分の言いたい事を言えるようになったんだ。

堪らなくなってぎゅってヴィンを抱きしめた。それだけじゃ足りなくて、そのままキスまでしてしまった。

周りには沢山人がいるし、僕達を何事かと見ていたからキスシーンを目撃されて真っ赤になってる。

可愛い。

そのまま自慢する様に肩を抱いて、劇場を出た。

「あ。チケット買うの忘れてた。」

「ふふっ。いつでも観られますから。また今度改めて来ましょう。」

ヴィンの顔はスッキリとしてとてもいい笑顔だった。その顔最高に可愛いよ。


また少し散策して洋服店に。ヴィンの服を買っていく。

「ソルズの街である程度買いましたからこんなにも沢山は…。」

「だめ。買うの。僕が買いたいから買う。」

やっぱり王都はいいデザインの物が多い。ヴィンに似合いそうな物を10着ほど選んでいった。あんまり多くても持ち帰るの大変だし今回はこのくらいかな。

「あ、待ってください。」

帰ろうかとした所にヴィンが慌てて会計に。

「すみませんお待たせしました。…これをライリーさんに。」

そう言って手渡されたのはとても小さなチャーム。

「私の目は金と青ですが、その2色が並んだこれを見つけてしまって…。ライリーさんの持っている剣に付けていただけないかと…。あの、ダメ、でしょうか。」

何これ。段々と顔を赤くさせて声も小さくなって。可愛すぎてしんどいっ!

「嬉しい。大切にする。うん、すごく嬉しい!あ、でもヴィンにも何か…。」

「いいえ、服をたくさん買っていただきました。それに紫色のチャームもあったんです。これは私が持っています。」

そう言って掲げた手には紫のチャーム。形は僕にくれた物とお揃いだ。

あああ!可愛すぎてしんどい!誰か助けてっ!

抱きしめたいけど僕の手には沢山の荷物。くっそ!後で目一杯いちゃついてやる!


それから宿に戻って父さん達と合流。


「デートは楽しかったか?」

「あ、えっと…はい。服まで買っていただきました。申し訳ないです。」

「いいのいいの。貰っとけ貰っとけ。なんかうちの特徴はとにかく買い与える血筋みたいだから。」

確かに。お爺ちゃま達なんか凄いもんな。これはフィンバー家の血筋だったのか。


「明日は騎士団の方に顔を出すからな。勝手に出かけるなよ。」

「分かってるよ。」

「あの…私も一緒に行って大丈夫なのでしょうか。」

「大丈夫。ちゃんと許可貰ってるから。」


明日の出発時間を確認して夕食を皆で食べてからまた部屋でゆっくりと過ごす。

お風呂はまたヴィンと一緒に。

「…やっぱり慣れません。」

恥ずかしがるヴィンが可愛い。なんで皆ヴィンを嫌っていたのかまっっったく理解出来ない。そのおかげでヴィンと一緒にいられるんだけど。

広い湯船の中でピッタリとヴィンを抱え込む。そろっと指を動かして、可愛い乳首をくりくりと弄る。

「あ…まっ、待ってください!んんっ。昨日も…しました、よ?」

「昨日は昨日。今日は今日。せっかくヴィンと一緒にお風呂入ってるのに我慢なんて出来るわけないでしょ?」

「…仕方ないですね。」と言いながらも嬉しそうなヴィン。

もう限界だからいただきます。




そして翌日。

皆で王宮へ向かう。王宮へはドラゴン討伐の褒賞の時以来だ。

王宮から馬車が迎えに来て乗り込もうとした時、ヴィンがある人間をずっと見つめていた。

「ヴィン?どうしたの?」

「…ライリーさん。あの…あの人、なんですけど。」

ヴィンの視線の先にはローブを被った旅人らしき人。

「…あの人、前に私を襲ったガンドヴァの人と似た魔力をしているんです。」

「っ!? 目線をこっちに。ずっと見てると怪しまれる。…それで?」

「…凄く澱んでいて、あそこまで澱んだ魔力の方は初めて見ました。もしかしたら、かなり人を殺めて来ている人かも知れません。」

これかなり不味くないか?

「直ぐ父さん達に言おう。」

先に馬車に乗り込んだ父さん達に事情を説明する。

「なんだと?…後を付けた方がいいだろう。何かを企んでいる可能性が高い。」

「よし、それなら行こう。」

追いかけようと馬車を降りたら迎えに来た騎士団の人に止められてしまった。

「お待ちください!ど、どこへ行かれるのですか?」

「あのローブの人の後をつけるんだ。…もしかしたらガンドヴァが絡んでるかも知れない。」

「なっ!? それでしたら私が行きます。皆さんは王宮へ。宰相様もお待ちですから皆さんは王宮へ向かってください。」

「…わかりました。気を付けてください。無理はしない様に。」

「はい、エレン様。大丈夫です。…では、行ってまいります。」


ローブの人は騎士団の人に任せて僕達は王宮へと向かった。
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