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12 兄ちゃんが!
しおりを挟むあれからもヴィンはギルドで働いていた。あっという間に仕事を覚えてしまって、もうサポートが無くてもこなせる様になっている。
2ヶ月経った今はもうベテランと同じくらいの働きを見せている。
僕は学園を辞めてからギルドの低ランク冒険者の育成に参加する様になった。
ギルドにいればもしヴィンセントに何かあってもすぐ対応できるから。
「これで依頼完了報告は終わりです。お疲れ様でした。お怪我が早く治ります様に。お大事に。」
最近は笑顔が増えた。無表情の方がまだ多いけど、明らかに変わった。それにどんな奴でも優しく接してくれるから、ヴィンが受付にいるとそこだけ混雑する様になった。
その分仕事量も増えるわけだけど、頭の回転も良いからささっと処理してしまう。
「ヴィンセントのお陰で大分助かってる。良い奴を紹介してくれてありがとよ。」
「デイビットさん。ヴィンと知り合ったのは成り行きだけどね。…あんなに良い奴なのに今まで酷い扱いされてたなんて。周りの奴は見る目ないよな。」
「ヴィンセントが変わったのは、明らかにお前のおかげだと俺は思うけどな。そうじゃなかったらあんなに人気も出ないぜ。」
そう言って受付に集まっている冒険者達を見る。
「カッコつけようとして高ランクの依頼を受けようとする奴は昔からいるが、ヴィンセントが止めるように言うと素直にいう事を聞きやがる。前とは大違いだよ。お陰で死亡者も減りそうでな。感謝してる。」
ヴィンの事情をデイビットさんには話してある。無表情な理由がわかり、なるべく気にかけておくと言ってくれた。
ヴィンの目の色はやっぱり目立つし、中には心無い事を言う奴もいる。だけどそんな時は周りが助けてくれてるみたいで、ヴィンも助けてもらえる事が信じられない、とても嬉しいと言っていた。
「…それと、以前お前達に依頼した魔物討伐の件だがな。この辺りじゃ見ない魔物がまた現れたらしい。お前達に依頼をすると思う。エレン達にも伝えておいてくれ。……それとガンドヴァの奴らがソルズに入ってきているらしいと聞いた。気をつけろよ。」
「…わかった。ありがとう。」
またガンドヴァか。しかも今度はソルズに来たとか。何が目的なんだろう。わからないけど、しばらくは油断禁物だな…。
「ヴィンセント君、今日はもう上がっていいよー。お疲れ様ー!」
「はい。お疲れ様でした。……ライリーさんお待たせしました。」
「ヴィンお疲れ様。相変わらず凄い人気だな。」
「なんていうか…。信じられません。」
「それがヴィンの元々の魅力だったんだ。今まで誰も気づかなかっただけ。…じゃ帰ろ。」
ヴィンと一緒に帰路につく。この時間が僕は結構好きだったりする。
今日はこんな事があった、こんな事を話した。そうやって1日にあった事を楽しそうに話してくれる。
そうしているとあっという間に家に着く。
「ただいま~。」
「ライリーお帰り!」
「兄ちゃん!? え?なんで兄ちゃんがいるの!?」
家に入ると兄ちゃんが出迎えてくれた。久しぶりの兄ちゃんだ!嬉しい!
「ふふふ。教えてあげたい事があってアーネスト様と一緒に来たんだよ!……あれ?この人はどなた?」
「紹介するね。彼はヴィンセント。学園の時に友達になって、色々あって今はここに住んでる。ギルドで受付の仕事をやってるんだ。」
「そうなんだ。うわぁ、綺麗な瞳。色が違うなんて珍しいけど、とっても綺麗。僕はアシェルです。ライリーの兄です。よろしくね。」
「はい、ヴィンセントと申します。よろしくお願いいたします。」
リビングに行くと皆勢ぞろいしていた。…アーネストまでいるのは気に食わない。ギッと睨みつけておいた。
「久しぶりだなライリー。元気そうで良かった。」
僕が睨んでもどこ吹く風だ。本当に気に入らない。
「初めまして。ヴィンセントと申します。」
そんな奴に挨拶しなくてもいいよ。本当に気に入らない。
「それでどうして急に帰ってきたんだ?」
「母さんあのね!前に言ってた魔道具が完成したんだ!」
「「「えっ!?」」」
それって武器に魔法を乗せるってやつ!? 凄い!完成したんだ!
「それで居ても立っても居られなくて帰ってきたんだ。…コレなんだけど。」
見せてくれたのは小さな平べったい魔道具だった。それを兄ちゃんはアーネストの剣に付けて魔力を流す。すると剣に黄色い光が纏われてバチバチと音を鳴らした。
「これは雷の属性を乗せてる。森の中だと火や雷ってなかなか使えなかったけど、これなら森を燃やす心配も無く使えるんだ。勿論注意は必要だけど。試してみたらダメージが大きくてかなりの大物でもすぐに倒せたよ。」
凄い!本当に兄ちゃんは天才だ!
「これは凄いな。よく成功したなアシェル。」
「もうすっごく大変だったんだから。ラッシュフォース先生とか皆の協力が無かったら出来なかったよ。」
「そうだ。今日デイビットさんに言われたんだけど、また魔物討伐を依頼したいって。その時にこれ使えないかな。」
「勿論!僕もそのつもりで雷と氷と火の属性を乗せた魔道具持ってきたんだ。使ってみてまた感想聞かせてね。」
3つの魔道具を預かって、とりあえず1つ自分の剣に付けてみる。魔力を流すと赤い光が纏われて熱さも感じる様になった。魔力を遮断すると直ぐに消える。要所要所で使えばかなり有利になりそうだ。
「魔道具とはそんな事まで出来るのですね。」
「ヴィン、兄ちゃんは天才なんだ。兄ちゃんのお陰で凄い魔道具が作られてるんだよ。」
「アシェル様は素晴らしいですね。流石は『ドラゴン討伐の英雄』と言ったところでしょうか。……あれ?」
「? どうしたヴィン?」
じっと兄ちゃんを見つめるヴィン。どうしたんだ?目線の先は兄ちゃんのお腹??
「あの…もしかしたら違うかも知れないのですが…。でも…いや…。」
「? どうしたんだよ、とりあえず言ってみたら?」
「……あの。もしかしてアシェル様は、妊娠、されてませんか?」
「「「「「えぇ!?」」」」」
なんだって!? 妊娠!? 兄ちゃんが!?
「な、なんでそんなことわかるんだよ!?」
「いえ、あのっ!アシェル様のお腹の中に、本当に小さいのですが誰とも被らない魔力があって…。」
「はぁ!? ちょちょちょ、もうちょっと詳しく話して!」
そしてヴィンが話した内容に驚いた。ヴィンは人の魔力が視えるそうでそれも一人一人違うらしい。
色も違えば明るかったり濁っていたり、それぞれ特徴があってその人の性格なんかにも影響しているらしい。
それで兄ちゃんのお腹の中には、ここの誰とも被らない魔力が視えるから妊娠しているんじゃないか、と。そう思ったらしい。
「す、すぐに先生に診せよう!これで本当に妊娠してたら凄いぞ!俺、先生んとこに行ってくる!」
「あ、母さん!?」
「アシェル、体は大丈夫なのか!? 大変だ、すぐに横になって休んでくれ!」
「え?え?え?アーネスト様待って待って!僕全然体調悪くなってないし、大丈夫ですから!!」
「いや、今すぐ横になっていろ!エレンも妊娠中は体調が悪くて起きていられなかったんだ!」
「だから父さんも待って!本当に大丈夫だってば!」
「…兄ちゃんが妊娠…。嘘だろ…ていうことはアーネストと…嘘だろ…。わかっていたけど…そんな…。」
「ライリーさん?大丈夫ですか?」
それから母さんが先生を連れてくるまで家の中は大騒ぎだった。
先生が兄ちゃんの体を診ると確かに妊娠していた事がわかった。
「いやぁこれは凄い。本当に初期の初期で、まだ体にはなんの変化もない状態で妊娠がわかるとは…。」
とりあえず、これから魔力が乱れて苦しい時期が来るだろうからしっかりと準備しなさいといって帰っていった。
「ヴィンセント、ありがとう。君が気づいてくれたお陰で早く準備が出来る。…アシェル、体に気をつけて元気な子を産んでくれ。」
「はい、アーネスト様。楽しみですね。なんだか信じられません。でもすごく嬉しいです。」
物凄くいい笑顔で兄ちゃんはアーネストに抱きついた。くっそ…兄ちゃんのそんなとこ見たくないのに!
「しっかし妊娠するの早かったな…。しかも俺たちもこの年で爺ちゃんと婆ちゃんかよ。」
「しかし魔力が視えるなんて初めて聞きましたね。もしかしたらヴィンセントの目の色が違うのはそのせいなのかも知れません。」
「それ、もしかしたら『魔眼』ってやつじゃないか?んー……オッドアイって言葉もなかったみたいだしこの世界にないんなら作っちまえ。ヴィンセントの目は特別な魔眼ってことにしよう!はい決定!」
母さんがそんな簡単に決めてしまった。いいの?それ。
「魔眼…。私の目は特別な魔眼。ありがとうございます。エレンさん。」
ま、ヴィンが嬉しそうならそれでいっか。
「それと私もまだ一つ不思議な事が残っていて…。エレンさんの中にライアスさんの魔力が混じっているのですが、これはどういう事なんでしょうか。」
「「「え。」」」
見る見るうちに母さんの顔が真っ赤になっていく。
…うん。そうなるよな。母さんの体の中に父さんの魔力が混じるなんて、アレしかないよな。
ヴィン以外の全員が固まってしまった。
「ヴィンセントっ!それは絶対誰にも言うなよ!いいな!」
そう言って母さんは部屋へと逃げ込んだ。
「え?私は何か悪いことをしてしまったのでしょうか?」
「…あー、うん。とりあえず僕の部屋行こ。説明するから。」
ここで説明するのは無理だから、僕の部屋にヴィンを呼んで説明した。
そしたら見る見るうちに真っ赤になってしまって「なんて事を…。」と頭を抱えてしまった。
…父さん達本当に相変わらずだな。だって母さんがよく買ってる魔法薬。あれ避妊用の魔法薬だもんな。
親と兄の性事情を突きつけられた感じですごく居た堪れないんだけど。はぁ…。
* * * * * * *
(作者のつぶやき)
アシェル編の番外編で、アシェルの妊娠話を載せなかったのはライリー編のこの件があったからなんです。
やっと出せました…。はぁスッキリ♪
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