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あなたは僕の憧れの人

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「あ、あの……藤原君、このDVD……」

「ああ、それ僕の大切なドラマのDVDです。僕がこの世界に入ったきっかけがそのドラマなんですよ。というより、そのドラマに出ていた佐藤さんがきっかけだったんです」

「え? えー!?」

 嘘。うそうそうそうそ!? 藤原君がこの業界に入るきっかけが、まさかの俺!? え!? なんで!? 主役じゃないし、そこまですごく目立ったわけでもないのに!?

「そんな驚かなくても。あのドラマに出ていた佐藤さんの演技に引き込まれたんです。主役の人より断然輝いていました。あのドラマを見た時はまだ子供でしたけど、本当に感動したんです。佐藤さんみたいになりたいって思って、スカウトされた時にそのままこの業界に来ちゃいました」

 来ちゃいましたって、マジ……? 確かに一部では俺の演技が凄く良かったと言われたことはあった。だけど見た目もすごくいいわけじゃないし、あの一時だけで俺の全盛期は終わったようなものだ。
 あれからも俳優は続けているし、演技だって磨いてきたつもりだ。でも今でも俺は主役を張れるほどの俳優にはなれていない。
 でも。それでも。その俺の演技を見て憧れた人がいてくれたという事実が、今まで生きてきた中で一番と言っていいほど嬉しいと思った。
 それが今人気絶頂のモデル藤原颯真だったなんて。
 
「あの養成所に入ったのも、見学に行った時に佐藤さんが講師をしているってわかったからです。どうしても佐藤さんに教わりたくて、事務所の社長にお願いしました。やっぱり行って正解でした。佐藤さんの演技はとても勉強になりましたし」

「……だからあんなにたくさん質問を?」

「はい。半年しか通えないので、もっともっとたくさん教えて欲しかったんです。……すみません、迷惑でした、よね?」

「いや、全然。むしろ熱心に俺の話を聞いてくれてすごく嬉しかった。真面目に取り組んでくれて、俺も教えがいがあったよ」

「よかったっ……しつこいかなって不安だったんですけど、安心しました」

 俺がこの子の人生を変えたのか。大げさかもしれないけど、そういうことだろう? 俺の出演したドラマを見て演技に引き込まれて、そしてこの世界にやって来た。俺のシーンを見ていなかったら、もしかしたら『モデルの藤原颯真』も誕生しなかったかもしれない。

「え、佐藤さん!?」

「ははっ、ごめん。悪い、嬉しすぎてちょっとっ……」

 俺は目から零れ落ちる涙を止められなかった。俳優として何時まで経っても大成しないと思っていたが、そうでもなかったんだ。俺がやってきたことは無駄じゃなかった。見てくれる人は見てくれた。こんな俺でも誰かの憧れになることは出来ていた。
 俺も俳優になろうと思ったのは、とある俳優に憧れたからだ。あの人の演技を見て、わくわくしてどきどきして。あんな風になりたいって思ってこの世界に入った。
 まさか俺が、誰かをそんな風にさせていたなんて……俳優としてこんなに嬉しいことがあるだろうか。

「佐藤さんっ……」

 キッチンから駆け寄って来てくれた藤原君が、俺をギュッと抱きしめてくれた。背が高いから俺はすっぽりと包まれてしまう。

「僕、佐藤さんの演技が大好きです。僕の憧れそのものです。本当にありがとうございます」

「はは、まさか泣かされるとは思わなかったなぁ。こちらこそありがとう。人生で一番、幸せな瞬間だったよ」

「佐藤さんっ……」

「っ!?」

 え? え? ナニガオコッタ?
 藤原君は抱きしめていた体を離すと、俺の目尻にちゅっとキスをして、ぺろりと涙を舐めた、んだよな? 想像もしていなかったことが起こり、何が起こったのか一つずつ確認してみるが、うん。間違いない。

「あー、やばっ……佐藤さん可愛すぎっ……!」

「んっ!? んんー!?」

 え? え? えー!? ちょっと!? 今、俺と藤原君、キスしてませんか!? 口が藤原君の口とくっついているようにしか思えないのですが!? どうして!? どうしてこうなったの!?
 うひゃあ! 舌! 舌が入って来た! え!? なんで!? なんでディープキスされてんの俺!?

「んぅっ……ふぅっ……」

 容赦ない舌遣いに気持ち良くなってしまう。背の高い藤原君に上からガッツリ抑え込まれて、濃厚で官能的なキス。俺は異性愛者なのに、藤原君ほどのとびぬけたイケメン相手だとこうなってしまうのか。
 ぴちゃぴちゃという水音と、お互いの吐息が耳に届く。おしゃれなBGMをバックに藤原君とこんなことしてるなんて、頭がおかしくなりそうだ。
 しかもとってもやばいことが起きている。俺の股間がムクムクと……まずいまずいまずい! こんなことになってるなんて知られたらっ……!
 だが俺のそんな思い空しく、藤原君は俺の股間に自分の腰を擦り付けている。ちょ、ちょっとそれはっ……!

「んっ……佐藤さんっ……」

「んあっ! ……ダメッ……」
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