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待ち続けた孤独の魔法人形

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「――ッ!!」

 ヒューバートは飛び起きた。心臓がどくどくと早鐘を打ち、体は冷や汗をかいている。

(なんだ……今の、夢はっ……!)

 組み敷かれていたのは間違いなくあの執事の男、アウレーリオだった。一糸まとわぬ姿で善がり、乱れ、愛の言葉を口にしていた。そしてそのアウレーリオを組み敷いていたのは――

「……俺、だった……?」

 感覚も生々しく感じていた。硬くなった自身の肉棒をアウレーリオの中に差し込み、腰を激しく打ち付けていた。その時の締め付ける快感、白濁を吐き出す感覚、夢であるのに実際に体が感じていたようだった。

 だがアウレーリオが口にした名前は『ヒューバート』ではなかった。その部分だけは聞き取れなかったが、口の動きは自分の名前ではない別の誰かだったのは間違いない。

「ぐっ……!」

 またヒューバートのこめかみの辺りがズキズキと痛む。だがそれはすぐに引くことはなく頭を激しく揺さぶってくる。
 おかしい、この屋敷に来てからの自分は一体どうしたというのか。

 痛む頭を押さえ、外を見ればまだ暗かった。眠りについてからあまり時間は経っていないのだろう。そして天候は変わらず激しい雨が降り続いており、稲光も健在だ。

 頭を襲った激しい痛みはやがてすっと引いていった。それにほっと息を吐く。
 もう一度眠ろうかと思ったが、目がはっきりと冴えてしまい寝付けそうにない。とりあえず水を飲もうとベッドを下りた。だが食事の時に用意されていた水は全て飲み干していたことを思い出す。

 ヒューバートは少し思案するも、水を貰いに部屋を出ることにした。



 自室を出たアウレーリオは屋敷の一番奥にある研究室に入っていった。
 その部屋の中央には長方形の大きな箱が寝かされており、その上下に太く大きな管が伸びている。そしてその箱をぐるりと囲むように巨大な魔道具がゴウンゴウンと煩く音を立てていた。

 アウレーリオはその魔道具の前に進むと赤く光るスイッチを押す。するとブワンッという音と共にスイッチの光は強くなり、ジャーと流れる水音が聞こえだした。
 
 耳を塞ぎたくなるほどの轟音だが、アウレーリオは表情を変えることなく淡々と作業を進め、大きな魔道具を順に周り次々と光るスイッチを押していく。そして最後のスイッチを押そうと指を差しだした時、スイッチの灯りが白いことに気が付いた。

(魔石の交換ですか)

 アウレーリオは研究室を出ると、少し離れた場所にある『魔石充填室』と書かれたプレートが貼られた部屋へと入っていった。
 そこにも大きな魔道具が置かれており、下部にある大きな引き出しをぐっと開けるとこぶし大ほどの魔石がツヤツヤと輝いていた。
 その魔石をそっと手に取ると、研究室へと戻るべく部屋を出た。

(そういえばこの部屋もあの魔道具も、誰が作ったのだっただろうか……)

 そんなことが頭をよぎり、ふと足を止めてしまう。

(どうしてわたくしは毎日決められた時間にこうして動いているのだろうか……)

 一つ考え始めた途端、また別のことが頭をよぎる。

(どうしてわたくしは生まれたのだろうか……)

 そう思った時、突然この屋敷を訪ねて来たヒューバートの顔が頭の中に現れる。
 すると何故か胸が苦しくなったように感じて、魔法陣が刻まれた胸元をぎゅっと掴んだ。

(どうしてあの方のことがこんなにも気になるのだろうか……どうして……)

 そうやってしばらく考えて見ても、頭の中は霞がかったようになって答えを見つけることが出来ない。

 ずっと長い時間、一人でこの屋敷であの魔道具を管理し続けてきた。それはそうしなければならなかったから。
 孤独を感じたことはない。だけどヒューバートの顔を思い出すと、なぜか寂しいと思ってしまう。魔法人形で感情を感じた事などないのに、何故かそう思うのだ。

 自分の思考に沈みそうになったそんな時、手の中にある魔石に意識がいく。

(今はこんなことを考えている場合ではない。早く魔石を交換しなければ)

 頭の中を切り替えたアウレーリオは、止まっていた足を前へと進め研究室へと戻っていった。
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