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美しい花には毒がある

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 そして数日後、予想通り王家から招集命令が下った。その指定された日時に、伯爵とルテニター、そして婚約者役となったダレンが王宮へと向かう。

 謁見の間ではなく、私的なサロンへと案内された。中へと入れば陛下に当事者である王太子と第2王子、そしてその婚約者たちにその両親と勢揃いしていた。
 その姿を見て「ひゅっ」と息をのむルテニターだったが、側に立つダレンに背中をさすられるとほっと息を吐く。ダレンに視線を向ければにこりと微笑まれ、その笑顔で自分を奮い立たせた。

「ルテニター! 会いたかった!」

 まだ何の挨拶もしていないのに、王太子は待ち切れなかったとルテニターに声を掛ける。だがルテニターは緊張のあまりその声でびくりと身を竦ませた。

「兄上。ルテニター殿が怖がっています。下がってください」

「何を言う! 勝手な事を言うな!」

 いきなり兄弟喧嘩が始まってしまった。それを見てルテニターはますます萎縮してしまう。こうなったのは間違いなく自分のせいだから。

「静かにしなさい。いきなり喧嘩を始めるとは王族として恥ずかしくないのか!」

「「あ……」」

 流石陛下。兄弟喧嘩をいとも簡単に収めてしまう。2人が落ち着いたのを見てルテニターはほっとした。

「皆様方。本日はお忙しい中、ルテニターの婚約についてお集まりいただいきありがとうございます」

 先手必勝とばかりにオーチェン伯爵はそう語ると深々と頭を下げた。それに合わせてルテニターとダレンも頭を下げる。

「先にお知らせいたしましたように、ルテニターはこちらにおります従者のダレンと既に婚約しておりました。ダレンは使用人であるため公表する時期を見計らっておりました故、皆様がご存知ないのも致し方ございません。ですが、2人は相思相愛でして間を引き裂くのは伯父としても養父としても心が痛みます。どうか今回のお話はなかったことにしていただければ、と」

 そう粛々と語るとオーチェン伯爵は再度頭を下げる。だがそこで引き下がる者達ではなかった。

「使用人と婚約などどうして認めたのだ!? それではルテニターが可哀そうではないか!」

「そこまで美しい彼をどうして使用人なんかに!? そんな男より、私の方がよっぽどルテニターに相応しい!」

 と2人の王子たちは反論した。それを見ていた彼らの婚約者たちは手にしていた扇をギリギリと握り締める。

「わたくし別に殿下との婚約が解消されても構いませんわ。というよりも! わたくしだってルテニター様と婚約しとうございます!」

「わたくしもですわ! 殿下も素敵な方でしたけど、ルテニター様に比べれば月と鼈! わたくしだってどうせならルテニター様と婚約したいですわ!」

 王子の婚約者2人は「この泥棒ネコ!」「卑しい男が!」と言うかと思いきや、なんとルテニターに自分達も婚約したいと叫んだのである。これで4人の男女がルテニターと婚約したいと言い出したことになる。

(な、なんじゃとぉ!? お、おらにだちゃかん言うんかおもたらおらと婚約しとーって!?)
 ※訳 な、なんだって!? ぼ、僕に怒るのかと思ったら僕と婚約したいだって!?

「な! 私だって君との婚約よりルテニターの方がいい!」

「わたくしだって同感ですわ!」

「ルテニターは渡さない!」

「わたくしだって渡しませんわ!」

 もうこの場は阿鼻叫喚である。4人が口々にお互いの婚約者を罵り合い、ルテニターは渡さないとさも自分の物であるかのようにふるまっている。

 この場にいる者が皆、この4人を落ち着かせようとするが誰一人として落ち着くどころかますます口論は熱を上げていく。

 そしてこの場にいる誰よりもルテニターは1人おろおろとその場を眺めていた。

(こ、こげなことになるちょは思わんかった……あんひとーらもばっかいならんっちゃばらやろ…)
 ※訳 こ、こんなことになるなんて思ってなかったよ……あの人たちでも手に負えないなんて大変だ…

 だがここで聞き捨てならない一言を聞いてしまう。

「ルテニターの相手は王族で王太子である私が一番相応しい! 使用人が婚約者など言語道断! ルテニターを支えることも守ることも財力も権力も何もないではないか! そんな男が相手など認めん! ルテニターは私のモノだ!」

(は……? こんあんかなんゆーた? ダレンがなんもないやと……? へいろくなこと言いおってからに…っ!)
 ※訳 は……? この男はなんて言った? ダレンが何も持ってないって……? 下らん事言いやがって…っ!

「ちょーまちんしゃー! わっらなん言うとがや! ダレンがなんもないやと? ダレンばなんもわからんがにごたむくなや! ダレンばおらんためにたぁんとくんずねんずしとんがや! ダレンばおらにゃあおらさここにゃおらんがやぞ!」
 ※訳 ちょっと待てやー! お前は何言ってんだ! ダレンが何もないだと? ダレンの事何にも知らないくせに勝手なことを言うな! ダレンは僕の為に一杯苦労してきてるんだ! ダレンがいなかったら僕はここにはいないんだぞ!

「ル、ルテニター!?」

 いきなり田舎言葉全力全開で怒鳴りだしたルテニター。顔は怒りで赤く、足は子供の様に地団駄を踏んでいる。

「おらさダレンばがんこ好いとんや! いごくりわるいわっらなんか好かんわ! さっきからいさどいこと言いよってからに! あてがいな事言うな!」
 ※訳 僕はダレンがめちゃくちゃ好きなの! 意地悪なお前らなんか嫌いだ! さっきから偉そうな事ばっかり言いやがって! いい加減なこと言うな!

「ルテニター様ッ!」

「むぐっ!」

 まだまだ言ってやろうと息を吸い込んだところでダレンに抱きしめられ言葉を封じられてしまったルテニター。そこでハッと気が付き自分が田舎言葉で思いの丈をぶちまけたことに気が付いた。
 王族相手にとんでもない事を言ってしまった自覚がある。これは不味い……秘密にしていたことがバレてしまっただけじゃなく、暴言まで吐いてしまっている。サァー…っと青ざめ背中には冷や汗が流れる。

「ルテニター様、私の事が好きだというのは本当ですか?」

 青ざめながらもダレンの言葉にこくこくと頷く。

「それは結婚しても良いという意味で?」

 またしてもこくこくと頷く。

「私もです。ルテニター様。嬉しいです」

 そしてダレンは今までにないほどの満面の笑みを見せる。至近距離でそれを見たルテニターの心臓はドキドキと高鳴り、ぽっと頬を赤らめダレンから目を離すことが出来なかった。
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