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13 開戦

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「ん……」

 翌朝。腕に付けた魔道具が起床時間を知らせる。その動きを止め薄ら目を開ければ至近距離にヴァージルの寝顔があった。

 昨夜の情事の後、二人一緒に浴室へ行き汗を流した。その後は明日も仕事があるからと抱き合って眠った。

 ジョシュアは抱かれることが初めてだったのに気持ちよくて乱れに乱れた。ヴァージルに見つめられれば恥ずかしさと嬉しさが入り混じり、中を激しく突かれることが幸せだと感じた。

 いつもならすぐに早朝訓練を行うが昨日の余韻がまだ残っているのか、ヴァージルにまたぴたりとくっつきその温もりを堪能する。

「おはよう、ジョシュア」

 その言葉と共に、ジョシュアは強く抱きしめられる。たったそれだけの事がとても幸せに感じた。


 それから二人は朝食後、仲良く魔術車に乗って出仕した。魔術師団棟に到着し車を降りると二人は分かれる。しばらくは一緒にいられないと思うと少し寂しく思ったヴァージルは、ジョシュアの顎に手を掛けるとくいっと上へ向かせその唇に軽いキスをする。

「……馬鹿。また冷やかされるのわかっててやるなよ」

「お前は可愛いから僕のモノだって見せつけとかないと」

「……馬鹿」

 以前額にキスをされた時は真っ赤になって怒鳴っていたのに、今のジョシュアは同じく頬を赤らめながらも嫌がらずにヴァージルのキスを受け入れている。昨日はそれ以上のことをしたからなのか、人に見られる恥ずかしさはあっても怒鳴ることはなかった。

 当然それを見ていた団員たちに色々聞かれるも、課題である新魔術の進捗を聞き出し話を逸らす。

 そんな日々が一か月半程続いたある日、とうとう周りの同盟国が進軍して来たと報告が上がって来た。

「偵察部隊からの連絡だ。今日の午前、この国へ向かって進軍して来たと報告が来た」

 両魔術師団の団員達が招集され、団長からその話を聞かされる。だが団員全員、動揺することなく静かに団長の言葉に耳を傾けていた。

「いつ開戦されてもいいように陛下の指示の元、しっかりと準備をしてきた。それに今の我々は強い。どんなに敵が束になってかかってこようとも跳ね除けられる力がある。そして新魔術という恐ろしい力も」

 結局新魔術を習得出来たのは、両団長と団員二名だけだった。だが魔力操作をとことん訓練したお陰で各魔法の発動時間や威力、消費魔力などが改善された。お陰で個々の戦闘力が爆発的に跳ね上がったのだ。新魔術がなくとも、敵にすれば恐ろしいほどの力となった。

「二日後、早速出撃する。王都に強力な結界を設置後、魔術車で移動し待ち構えるぞ。今日、明日はそのための準備に費やす」

 その後両団員たちは一斉に最終確認とその準備に取り掛かった。

 上がった報告によれば、同盟国軍はこの国を取り囲むように広く展開しているとのこと。なのでこちら側はいくつかの班に分かれて迎え撃つことになる。当然、班一つの人数は少なくなる。普通であれば無謀な戦いだ。だが今のこの国の魔術師団であれば、人数の多さなど関係ない。個々の戦闘力が上がった今、それになんのデメリットもないのだ。

 そして新魔術が使える団員がいる所は人数を敢えて少なくし、他の班へと人員を回している。たった一人新魔術が使える人間がいるだけで、辺り一面は焦土と化す。むしろそんな人間が多くいればいるほど、違った意味での危険性が高くなるくらいだ。


「おいヴァージル。今日ヤろうぜ」

 退勤後、家で夕食を作っているヴァージルの背中にぴったりと張り付きそう零したジョシュア。初めて体を繋げた日から毎日のように体を合わせているが、開戦間近となった数日前からそれを避けて来ていた。だがジョシュアは二日後に開戦すると分かっているのにヴァージルを誘っている。

「もうすぐ開戦だってのに?」

「もうすぐ開戦するからだよ。ここ数日ヤってないからモヤモヤしてんだよ。お前だって同じだろ?」

「まぁな」

「だからここで一発スッキリしてガツン! と戦場で暴れて来ようぜ」
 
「わかった。僕も今日言おうかと思ってたんだ。異論はない」

「そうこなくっちゃ!」

 それからの二人は急いで食事を済ませると、風呂へは入らず浄化の魔法で身を清めさっさとベッドへと沈んだ。数日触れていなかっただけで二人の昂りは今までになく激しいものになった。

 そのせいで一回で終わらず二度三度と繰り返し睦み合うことになり、翌日ジョシュアの腰は立たなくなった。だが白魔術師団最強の男は治癒魔法でさっさと治すといつも通りの顔で出仕する。

 
 そして出撃の日を迎えた。それぞれが班に分かれ行動する。ジョシュアとヴァージルは同じ班だ。そして白魔術師団最強の男と黒魔術師団最強の男がいることで、この班はこの二人のみだった。これは二人が言い出したことでもある。今の自分達であれば二人で十分だと。そしてそれを各団長も了承した。

 実際、新魔術を息を吸うように軽々と扱える二人なのだ。むしろ二人だけしかいないのに、同盟国軍相手にとって過剰戦力かもしれないと思わせるほど。

 二人乗りの魔術車に乗ってジョシュアとヴァージルは目的地へと出発した。王都を出ればアクセル全開で車は爆走する。馬車なんか目じゃないほど速く走るためにあっという間に目的地に到着した。

 車を降りしばらくすると腕に付けた魔道具から各班もそれぞれ持ち場に付いたと連絡が来る。今はどこも敵の姿が見えないようだ。偵察部隊からの連絡によれば今日の午後に接敵するだろうとのこと。今はまだ午前。ジョシュアは監視魔法を発動させそれを遠くへと飛ばす。

「よし。じゃあ飯でも食うか」

 ジョシュアは車から荷物を取り出すと火を起こし鍋を置いて肉を焼いた。もうすぐ戦争が始まるというのに緊張など見受けられず呑気に食事をとろうとしている。

「しっかり食って暴れてやろうぜ」

 焼いた肉を皿に盛るとヴァージルへと渡す。そしてパンが入った籠も側に置いた。

「なんだか戦争が始まるという気がしないな」

 今の自分の状況をちょっと冷静になって考えてみると、なんともおかしな状況だとヴァージルは苦笑する。

「まぁな。油断するつもりは毛頭ないけどな。だけど今の俺達は世界で一番強いと思うぞ。たぶん、国を一つ落とすのに数分で終わるんじゃないか?」

 たった二人で国を落とすのに数分。異常なことだが、実際今の二人にすればそれは可能な事だった。

 他国にももちろん魔術師はいる。だがこの国の団員程の強さはないし、その国の魔術師が全員で結界を張ったとしてもヴァージルの攻撃魔法で簡単に打ち破れてしまうだろう。

「それに絶対お前を死なせなんてしねぇよ。俺の白魔術で最高の補助をしてやるからな」

「僕も簡単に死ぬつもりはない。国だけじゃなく、お前もちゃんと守るから安心しろ」

 二人はにやりと笑い、食事を平らげた。


 しばらくするとジョシュアが放った監視魔法に反応があった。敵がもうそこまで来ているようだ。

「ヴァージル、仕事だ」

 ジョシュアの一言でヴァージルの雰囲気が変わる。一瞬で二人の間にはピリピリとした空気が漂った。
 しばらく待っているとぞろぞろと大軍の姿が目に入った。まだかなりの距離があるところでジョシュアは拡声魔法を展開させる。

『同盟国軍に告ぐ! 今すぐ引き返せばこちらから攻撃はしない! だがこの警告を無視し、襲ってくるというのであればこちらは容赦せずお前たちを殲滅させる! 命が惜しくば今すぐ引き返せ!』

 ジョシュアが何度もそう敵に声をかけるも大軍は止まらずにこちらへと向かってくる。

『最終警告だ! このまま引き返せばこちらからは攻撃をしない! 今すぐ――』

 まだジョシュアが警告を発している時に、前方から火魔法が飛んできた。だがそれはジョシュアがあらかじめ張っていた結界に弾かれる。

『そうか。残念だ。ではこちらも全力で叩き潰させてもらう』

 ジョシュアは拡声魔法を消すと、ヴァージルと頷き合った。
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