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9 最終話
しおりを挟むずるりと俺の中から出ると、上から俺を抱きしめてくる。耳に届くのはテオ様の荒くなった息遣い。
「はぁ、はぁ…ははっ。やっぱりな。…俺はミリオだけにしか反応しないようだ。これではっきりした」
「テオ様…?」
「ミリオ。愛している。俺の子供を産んでくれないか?」
「は?」
え? 待って。なんて? なんて言った?
「ははっ可愛い顔だな。もう一度言うぞ。…愛してる。俺にはお前が必要なんだ。だから結婚しよう。…それとも俺とは嫌か?」
「え、は? えぇ? 嘘、だって、俺…いや、あれ? なんで、嘘」
愛してるってテオ様が…。愛してるって、結婚しようって…。これは夢か? 夢だな。夢に違いない。こんな自分に都合のいい夢。きっと俺はテオ様恋しくてこんな夢を見ているんだ。そうじゃなかったらあり得ない。こんなこと、あり得ない。
「嘘じゃないし夢じゃない。現実だ。俺はここにいるし、言った言葉も本当だ」
どうやら俺はあまりの混乱に、思っていることが口に出ていたらしい。
「俺、は…」
「ん? なんだ? 言ってくれないか?」
言っていいのかな。こんな事。
「だって、俺はただの男娼でテオ様は客で…。こんな事あってはいけないことで…でも俺は、テオ様の事が好きになってしまって…。毎日会いたくて会いたくて。でも、もう二度と会えないと思っていて…。なのに今ここにいるし、愛してるって言うし、結婚しようって言うし、不能じゃなくなってるし…」
「うん。それで?」
「俺も…俺もテオ様の事が、好き。愛して、ます…」
「ミリオ…。ありがとう。とても嬉しい」
まだ頭がふわふわしてるけど、抱きしめられた温もりは本物で。包まれればテオ様の匂いがして。ああ、現実なんだって思って。
「ふぅ…ううう…」
「ミリオ? 泣いているのか?」
「だって、だってぇ…。こんな夢みたいなこと、ひっく、信じられ、なくてっ…」
「ああ、俺も信じられないよ。ミリオに出会えてよかった。俺を救ってくれてありがとう」
それからしばらくテオ様の腕の中で泣いていた。
涙も止まって落ち着いてから。改めてテオ様の話を聞くことになった。
何度か抱かれるために挑戦してみたが、どうしても気持ち悪くてダメだった。ならば入れることが出来るかというと、それもやっぱり無理だった。
国に戻ってからの毎日で、思い出すのは俺の事だったらしい。たった一週間なのに、テオ様の心を理解して寄り添ってくれたことが嬉しかったらしく、あの時俺に抱かれることが出来たのも、俺が相手だったからだと思い至る。
自慰をしている時も俺の痴態を思い出しながらしていたらしく、俺の体を思い出すだけで勃つようになった。もう自分の気持ちを認めて俺を身請けする方向で話を進めることにした。
当然、男娼が相手なんて周りは認めることが出来ずかなり揉めに揉めた。だけど、抱く方も抱かれる方も俺以外は無理となれば残された道は一つしかない。
とうとう周りが折れて俺を迎えに行くことになった。そして今日この国へ到着するなりここへ来て、主人と話をする。身請けする話を。
テオ様の本当の名前はテオドワン・カペルオーブリー。しかも隣の国の公爵家の嫡男だった。
父親は現国王の弟で、テオ様自身も遠いながらも王位継承権があるらしい。
カペルオーブリー家は昔からその国にある聖地を守る家らしく、聖地に入れるのはカペルオーブリー家の者だけらしい。それ以外の者が入ろうとしても結界で弾かれるらしく、その聖地へ入る者がいなくなるのは大問題だそうだ。
国にとって重要な役割のある聖地らしく、お家断絶だけは絶対に避けなければならない問題だった。そりゃそんだけ重要な血筋ならあれだけのプレッシャーも分かる気がする。
だからカペルオーブリー家の問題は国の問題でもあった。今回俺が身請けする話も国王から認めてもらい、その書状を持ってきていた。だから部屋へやって来たここの主人が慌てていたんだな。納得。そりゃ隣の王様の名前出されたらダメですなんて言えないし、のんびりもしていられない。
というか俺はそんな大変な凄いところへ嫁に行くのか…。この先俺、大丈夫かな…。すげぇ不安。
「もしかしたらミリオの生まれの事で何かしら言われる可能性もある。だが、俺はそう言ったことからも守ると誓うし俺を信じて欲しい」
「でも、こんな見た目で俺大丈夫ですか? 気味悪がられたりしたら…」
「そのことなんだが大丈夫だ。面白いことに白い髪と赤い目はとある精霊の見た目と同じなんだ。物は言い様だ。精霊の加護があるとかなんとか言えばそれについて何かを言うことはないだろう。
それに前も言ったが俺はその色がとても好ましく思っている。綺麗だよ」
ふわっ! テオ様に綺麗だなんてっ! もうそれだけでお腹いっぱいになれるっ! この色で良かった!
そして俺はすぐさまテオ様と一緒にこの国を出た。
娼館の予約はずっと埋まっていたが、小間使いに毒を盛られたことにして二度と表に出られないという設定にした。予約していた客への賠償金もテオ様が全部出してくれたのと、身請け金も出してもらったので館の主人はほくほくだった。
最後に育ててくれた感謝を述べて俺は売られてから初めて館を出た。
空は青く澄み渡り、風が優しく吹き抜けていく。
隣を見れば二度と会えないと思って泣くほど焦がれた、今は俺の旦那様。俺はこの人とこの先を生きていく。
テオ様が俺を守ってくれるというなら、俺もテオ様の心を守ろうと思う。もう二度と傷つけられないように。傷つけられても癒してあげられるように。俺が出来ることは少ないけれど、寄り添うことは出来るから。
空を見上げれば輝かんばかりの太陽が。まるでテオ様みたいだな、と思いながら隣国へ向かう馬車に乗り込んだ。
~Fin~
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