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24・最終話 愛し子の国

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 あの最終決戦から1年。俺は毎日激務に追われている。

「…ん? お、エレンさんからだ!」

 あの後からもエレンさんとの繋がりは消えてはいない。直接会うことは流石に出来ないけれど、通話の魔道具とメールの魔道具を贈ってくれてやりとりだけは続けている。

「……マジか!? おい、ディルク!」

「陛下? どうしました?」

「エレンさんからのメールで、3ヵ月後にこっちに遊びに来るって! どうしようどうしよう! しかも孫やら勢揃いらしいぞ!」

「それはそれは…久しぶりですものね。楽しみです」

 エレンさんとやり取りをしていた中で色々と家族について教えてもらったことがあった。なんとあの見た目で既に孫持ちだった。アシェルさんのところは2人、ライリーさんのところは1人の子供が生れているそうだ。だけどあの調子だとまた生まれそうだ、なんて嬉しそうに話していたっけ。

「3ヵ月後ですか。滞在日数はどれくらいなんでしょう?」

「多忙な人たちだからな。3日ほどなら滞在できそうだって。バス、忙しいとは思うけど準備を任せても良いか?」

「かしこまりました。快適な滞在時間を過ごしていただけるように致しますね」

 バスは俺が王子時代、俺の宮で身の回りをしていた使用人だ。
 なんとあの襲撃の日、リッヒハイムの諜報員達の手によって救出されていたらしい。もちろん全員助かったわけじゃない。亡くなった使用人も多い。だけど助かった使用人もそれなりにいて再会したときは皆で大泣きした。

「陛下、ただいま戻りました。こちらの書類をご確認ください」

「ドミニクさんお帰りなさい。……うん、これで大丈夫だな。そうそう、エレンさん達今度こっち来るって」

「おや、それは楽しみですね。賑やかになりそうです」

 ドミニクさんはリッヒハイムから派遣されてきた。国を立て直すのに手を貸してくれている。色々な知恵を貸してくれて本当に感謝しかない。課題が山盛りだったからな。いや、今も山盛りだけど…。

 リッヒハイムとの正式な同盟はまだ成されていない。あと数年、もう少しこの国が落ち着いたら行う予定だ。だけど優秀な人材を数人派遣してくれたり友好関係を築かせてもらっている。破格な対応だ。

 本来なら戦争に負けているから賠償金などが発生するんだが、予想よりかなり少ない金額で済んでいた。それの支払いも長期間で設定してくれて優しさに泣いた。これもエレンさん達の助言があったかららしい。

 正直今、この国は金がかかってしょうがない。色んなことをぶち壊して新しい政策や仕組みを作っているからな。何より国民を飢えさせないように平民からの税をかなり低くしている。そして食糧問題もあって、今はなんとか芋などで凌いでいる現状だ。

 ま、何とかやってこれているのもアドリアン陣営の貴族家から金をむしり取ったからだ。というと聞こえが悪いが、国を混乱に陥れた代償として取り潰ししない代わりに、爵位の降格、全財産の半分を罰金として納めさせた。アドリアン陣営は大きかったからな。加担していた貴族家の数も多かったし、納められた金額もかなりのものになった。

 おっと。忘れてはいけないのがあった。あの悪趣味なキンキラ眩しい成金玉座。それ以外にも王宮内にある悪趣味な骨董品などまとめて売り払ってやった。おかげで多少は目に優しい王宮になっただろう。


 それを使って最初はリッヒハイムから食料や苗や種を購入し平民へ配っていった。
 
 そしてその平民との橋渡しを教会の仕事に振り分けた。各地方に教会はあるからな。それを利用させてもらった。

「陛下、ヴェッセル猊下がお見えになりました」

 教会は一旦解体。そして別組織として再編成することにした。その代表を前ヴェッセル神官長にお願いしたんだ。

「陛下、今日も相変らず麗しい。今日こそは私からの求婚をお受けいただけると嬉しいのですが」

 おい、ディルクから殺気が漏れているからやめてくれ。

 ヴェッセルは俺たちを逃がした後、追手を振り切って逃げおおせていた。そして教会には戻らず部下の家に匿ってもらっていたらしい。生きていたと知った時は心から安堵した。

 そしてこいつはあの神様降臨の儀を見て更に俺に心酔した。らしい。神様降臨の話は辺境の地へも一気に広まった。そのおかげで俺が王になることに反対どころか賛成一択。ドゥクサス神信仰が強かったお陰で、今や俺は神の愛し子認定を受けている。下手をすると俺自身が神様扱いだ。

 あれが作られたことだなんて誰にも言えない。あの決戦メンバーだけの秘密だ。

 だからヴェッセルもあれを本物の神様だったと信じている。そしてその愛し子の俺に顔を合わせる度求婚してくるから困っている。

 ヴェッセルから熱い視線と教会の報告を受けて打ち合わせは終わり。ヴェッセルの手腕のお陰で平民との繋がりが上手くいっているのも事実だからな。ちゃんと毎回断っているのにしつこいが、だからといって邪険にも出来ず…。うお、ディルクの機嫌も最底辺に落ちている…。今日の夜は覚悟しておかなければ…。


 俺とディルクはまだ結婚をしていない。正直それどころじゃない。だけど、生涯の伴侶とすることを明言しているから実質王配扱いだ。
 この世界は男しかいない。王は俺だから本来ディルクは王妃となるが、子供を産むのは俺になるだろう。王が子供を産む立場の場合は、伴侶は王配となる。ややこしいわ。
 大体の国は王妃が子供を産むことがほとんどだから、この国みたいな関係はないわけじゃないけどかなり少ない。だって王様が妊娠出産で公務を休んだりすると調整が大変だからだ。

 だけど俺がディルクに突っ込むとか…無理だな。という訳でこうなった。


「陛下、一旦休憩されては?」

「ディルク。…そうだな、もうこんな時間か。よし、一旦休憩! 皆もお茶の時間だ」

 俺の執務室には宰相などの文官も一緒に働いている。いちいち移動してやり取り何てめんどくさいからな。国が落ち着くまでは少しでも効率よく動けるようにコンパクトにした。

 休憩は皆で一緒にする。ホワイトな職場を目指したいが、どうしても今は無理をせざるを得ない。やることが多すぎるんだよ。だから少しでも皆が働きやすい環境を作るために小まめに休憩をとったり少しでも力を抜く時間を作っている。正直休みをやりたくても半日が限界だ。申し訳ねぇ。

 ブラック企業、ダメ、絶対。…早く理想の労働環境を作れるようにしないとな。

「そういえば例の蚕村ですが、何とかなりそうですよ」

「本当か!? よし! そのまま進めてくれ」

 この国の辺境にある村が、特殊な蚕を育てていたという情報があった。かなり辺鄙なところで王都までは情報が回っていなかったんだ。その蚕が出す糸がなんと虹色だという。もちろんそれ以外にも様々な色の糸を出す蚕もいる。俺も見たけどすごく綺麗な色をしていた。
 その糸を使って織物が出来ればこの国の特産品となる。だから国の金策として支援を始めることにした。

 だって、そうしないと食べられてしまうから…。なんとその村では蚕は食用のためだけに育てていたのだ。

 報告を聞く限り、この先事業として展開できそうだな。良かった。


 もっと国が安定して豊かになってきたら。まだまだやりたいことはたくさんある。

 いずれは平民が通える学校みたいなものも作りたい。識字率をもっと上げて優秀な人材を育て上げるんだ。そうすれば研究者や学者、医師に教師、様々な分野が充実する。
 そして娯楽施設の確保。近々着手しようと思っているのは大衆浴場だ。貴族以外風呂なんて贅沢品だ。だけど清潔感が高くなれば病気も減るし、医療費が抑えられる。国民の健康促進の一環だ。

 手洗いやうがい、風邪などの処置法、マスクの存在を広めたり簡単なことを平民へ教えている。

 平民は医者にかかることが出来ない。診療費がバカ高いからだ。その辺りも今後何とかするつもりだが、まずは病気になりにくい生活を心がけてもらう事。予防知識を知ってもらうことだ。


 本当にやりたいこと、やらなきゃならないことがありすぎて死にそうだ。俺が在位している間にどこまで出来るかはわからない。だけどいずれ王位を退いた後も問題なく発展していってくれればいい。その基盤を作ることが俺の仕事だ。
 

 

「陛下、今日も一日お疲れ様でした」

「ああ、ディルクもお疲れ様。お前も毎日遅くまでありがとう。…それともう勤務時間は終わったぞ」

「そうでした。ヴォル、お風呂にしませんか?」

 あれから俺たちは毎日一緒に風呂に入るようになった。着替えも相変らずディルクがしてくれる。まぁそれはいいんだが…。

「…おいその手はなんだ。ヴェッセルの事なら断っていただろ? 俺はお前以外要らないって言ってるのにまだ疑ってるのか?」

「まさか。…俺がしたいだけですよ。明日は午後からの勤務ですよね? いつもより時間があるんです。有効活用しないと」

 ……どうやら今日はなかなか寝かせてもらえないようだ。いつもは我慢させているからな。今日はヴェッセルの事もあったし甘んじて受けてやるか。俺だって溜まっているとかそういうわけじゃない。こいつの為だ。うん。

「じゃあ忘れられない夜にしてくれよ?」

「喜んで。泣いても止めませんからお覚悟を」


 ………早まったかな? ま、それもたまにはいいか。

 ディルクの手を取り浴室へ向かった。翌日の俺がどうなったかは、もうわかるだろ?



⁂  ⁂ ⁂ ⁂ ⁂ ⁂


 
 それから3年後、リッヒハイムとの同盟が結ばれる。そこから更に周辺国とも友好関係を結び、交流が増えたことでグリュック王国は大きく発展する。
 ガンドヴァからグリュックに名を変えてから、真っ先に認知させた事柄がある。それは『戦争をしない』こと。防衛のみの戦力は確保するが、他国へ侵攻することは二度としないと明言した。
 そのことに対し、同盟後の隣国リッヒハイムは『もしどこかの国がグリュック王国へ侵攻を始めたらリッヒハイムが相手となる』と表明。リッヒハイムの軍事力の高さは広範囲に知れ渡っていたため、グリュック王国の安全は保障された。


 虹色の絹はグリュック王国の代表産業となり、遠い国からもわざわざ買い付けにくるほどの品になった。それ以外にも多くの娯楽施設が出来、観光客の誘致にも成功した。

 そして学校が出来たことにより優秀な人材が多く輩出。医師も増え医療が発達、ポーション類も安価に出回り平民でも購入できるようになった。そのことで国民の寿命も延び、人口も増え税収も増えた。


 豊かになった王国は、これからもまだまだ発展するだろう。

 ドゥクサス神の愛し子であるヴォルテル・セド・グリュック陛下はのちに4人の子宝に恵まれる。子供たちはそれぞれ親の長所を受け継ぎ国の発展に貢献する。

 そうしてヴォルテル陛下の政策は子々孫々受け継がれていくことになる。


 この国は別名『愛し子の国』と呼ばれていた。

 ドゥクサス神の愛し子が願った幸せが溢れる国。その恩恵に預かりたいと移住者も増える。どの国からも羨ましがられるほどの幸福度の高い国になった。




~Fin~





* * * * * * *


最後までお読みいただきありがとうございました!
これにて本編は終了となりますが、明日ディルクsideのお話を前・中・後と3話続けて更新します。
8時、12時、17時の3回更新です。

そして明後日にももう一つおまけの話を用意しています。
もしよろしければご覧くださいませ。


『平民としてシリーズ』も4作目となり、やっと2作目3作目でちょこちょこ嫌がらせをしていたガンドヴァが落ち着きました。これからはきっと平和で楽しい(きっと厳しいことも)が沢山ある毎日になっていくと思います。
ここまで本当にありがとうございました!4作も続けてこれたのも、こうして読んでくださる方がいらっしゃるからです。心よりお礼申し上げます!



そして明後日から新作の公開を予定しています。こちらもよろしければお読みいただけると嬉しいです!


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