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僕たちはお互いの部屋を行き来するようになった。だからといって、あんな激しい事はしてないけどっ!

お部屋でゆっくりお茶を飲みながらお話しして、たまにキスをして…。
それだけで僕はドキドキしてしまって幸せだ。

「アシェル、2週間後に俺の両親の都合がついた。これでようやく婚約できるな。」

「はい。アーネスト様と婚約できるなんてすごく嬉しいです。」

母さんから手紙が来て、スタンディング辺境伯から婚約の打診が送られてきたと教えてもらった。了承してもいいかの確認だ。僕はお受けするようすぐに返事を書いた。
アーネスト様のご両親はお忙しい方だからすぐにとはならず、ようやくその日が決まった。

母さんからの手紙の中には、他の貴族からの婚約の打診も多く来ていたと書いてあった。もちろんライリーにも。ライリーは貴族と結婚は嫌らしくって全て断っているそう。ライリーらしいな。

そして僕はその日は家でアーネスト様達を待つ事になった。こちらから行くべきでは?と思ったのだけど、あちらから行きたいと言われて待つ事に。

「初めまして。スタンディング辺境伯当主のドヴァイアス・スタンディングだ。」

「妻のバロンと申します。宜しくお願い致します。」

「ようこそお越しくださいました。アシェルの父、ライアスと妻のエレンです。」

「エレンと申します。わざわざお越しくださいましてありがとうございます。」

アーネスト様のお父様はこれぞ騎士!っていうくらいの大きな鍛え上げられた体をされていて凄いと思ってしまった。父さんより大きいんだもん。凄い。
お母様は凛とした雰囲気をお持ちでスラリとした長身の方。アーネスト様はお母様似なんだな。

「ところでこちらの方々は…。」

「ご挨拶が遅れました。クリステン王国のフィンバー公爵家当主、ランドルフ・フィンバーと申します。アシェルの婚約の場に同席させていただきたく参りました。」

…なんとランドルフ伯父様達夫夫にお爺ちゃま、お婆ちゃままでもが来てしまった。なんで僕の婚約にランドルフ伯父様が来られるのか不思議だったんだけど、僕の婚約相手が貴族で僕の事がとにかく心配だったらしい。

例え『ドラゴン討伐の英雄』だとしても、人となりが分からないから釘を刺すつもりで。アーネスト様は優しい人だから大丈夫なのに…。

でもこんなに思ってくれているのが素直に嬉しかったのも事実。

「え…クリステン王国の公爵家??」

「アシェル、アーネスト様に何も話していなかったのか?」

「……忘れてた。」

アーネスト様達は、なぜ隣国の公爵家の面々がこの場にいるのか分からないらしく、ぽかんとしてしまっている。

そうだよね。だって僕たちは平民なのになんで隣国の公爵家の人がここに居るのか分からないよね。…すっかりアーネスト様に伝えるのを忘れていた僕のせいなんだけど…。
伯父様達が来る事も事前に聞かされていたのに、婚約ができる事が嬉しすぎて頭からすっかり抜け落ちていた。


それで事情をお話しした。するとかなり驚かれたけど納得してくれて僕はほっとした。…こんな大事な事忘れてるなんてな、って母さんには呆れられた目を向けられたけど。ごめんなさい。

それから婚約の手続きはすんなりと終わった。これで僕は正式にアーネスト様の婚約者になった。凄く感慨深くて泣いてしまってアーネスト様に抱きしめられた。

父さんから「アシェルが…アシェルが…。」って言葉が聞こえたんだけど、僕が婚約できた事に感動しちゃったのかな。

そしてその後はそのまま食事会に。
僕たちの家じゃ狭すぎるし、平民の手料理を出すわけにも行かないからこの街1番のレストランへ。

最初は緊張したけど、アーネスト様のご両親は僕の事を気に入ってくださったようで安心した。

「それにしても、ドラゴン討伐の話を聞くと改めて凄まじい事だと思わされる。こんな小さな体で立ち向かうとは…。」

「ええ、本当に素晴らしい事です。この様な方を我が辺境伯家に迎え入れられる事、誇りに思います。」

「いえ、アーネスト様も大変素晴らしい剣の腕前でした。未だ学生である事が信じられないほどです。」

僕の家族もお爺ちゃま達も安心してくれた様で、和やかな食事会になった。

「アーネスト様、もしよければ僕と手合わせをしていただけませんか?」

「ライリー?」

その手合わせは僕も見たいけど、大丈夫なの?

「もちろん喜んで。俺も君とは1度手合わせしてみたいと思っていた。」

「これはこれは。是非私たちも同席させていただきたい。」

とアーネスト様のご両親も乗り気で次の日に手合わせする事になった。

アーネスト様曰く、剣術バカの父だからこういうのは大好きなんだとか。喜んで下さったなら良いんだけど。


そして翌日。僕たちの家の庭で手合わせする事に。
どっちが勝つのかな。わくわくする。

そして2人が離れていって、暫くそこで話していた。アーネスト様が一瞬ピクリとして眉間に皺を寄せたんだけど、何話してるんだろう?ライリー変なこと言ってないよね?

そしてお互い位置について手合わせが始まった。ライリーから攻めていく。相変わらず速いなぁ。僕もあんな風に動けたらいいのに。

アーネスト様はそれを冷静に受け止めて流した。そのまま反撃するもライリーも分かっていて簡単に受け止めてしまう。

あ、ライリーもアーネスト様も楽しそう。自然と笑みが浮かんでる。

「いやはや。ライリー君の剣は見事だな。これはライアス殿が教えたので?」

「はい。子供の時から教えて参りました。剣が好きな様でよく訓練をせがまれました。」

「ライアス殿の剣も見事なのでしょうな。是非、今度私と手合わせ願いたいほどだ。」

「旦那様、またその様な事を…。全く腕がたつものに出会うとすぐこれなんですから。」

アーネスト様のお父様もライリーが気に入った様だ。ふふ、ライリーは凄いんだ!僕の自慢の弟だもん。

何度も何度も打ち合ってなかなか勝負が決まらない。そしてある時、アーネスト様の足が一瞬ブレた。その隙を逃さずライリーが剣をアーネスト様の首に当てる。あ、ライリーの勝ち!?

と思ったら、体勢を崩しながらもアーネスト様も剣をライリーの首元に。

「…これは引き分けだな。」

すごい。ライリーとアーネスト様、引き分けになった。どっちもすごくてどっちが勝ってもおかしくない勝負だった。


「ライリー君はまだ14だろう?うちのアーネストと引き分けとは…。何という才能だろうか。」

「父上、俺は更に努力し次こそは彼に勝てる様に腕を磨きます。…ライリー、素晴らしかった。手合わせができてとても楽しかった。ありがとう。」

「…僕もとても楽しかったです。僕も今度こそ勝てる様に頑張ります。」

ふふ。2人とも本当に楽しそうだった。良かった、2人も仲良くなってくれて。



そしてアーネスト様達は領地へと帰っていった。



* * * * * * 

~手合わせ前の2人の会話(アーネストside)~


「ねぇ、僕あんたを認めた訳じゃないから。」

先程までのにこやかな顔とは別人の様に、冷たい目で俺を見るライリー。…人が変わりすぎじゃないか?

「兄ちゃんはね、本当にすごいんだ。綺麗で可愛くてカッコよくて強くて。確かにあんたのあの時の戦いは見事だったし、兄ちゃんを庇ってくれた事は有り難いと思ってる。死にかけたくらいだし。だけど俺はそう簡単には認めないから。」

ブラコンか。ブラコンだったのか。

「兄ちゃんは昔から色んな人から狙われていて、実際襲われた事もある。その時は自分でなんとか出来たみたいだけど。でも俺はそれが許せなくて、それから怪しいやつは全部潰してきたんだ。」

「…それはアシェルは知っているのか?」

「知らないよ。言ってないもん。知ってるのは父さんと一部の冒険者だけだよ。」 

なるほど。これがライリーの本性で、アシェルはその事を知らないのか。

アシェルの前では可愛い弟で、裏ではアシェルを守る番犬。

「相手が貴族の場合はどうしてきたんだ?」

「メリフィールド様が手を貸してくれてる。…それでも実力行使してくる奴はいるからね。どっかから金で雇った傭兵だか冒険者だか騎士崩れだとか使ってね。全部きっちり潰してきてるから対人戦は得意なんだ。ああ、安心して。殺しまではしてないから。」

なんて冷たい顔をするんだ。これが14歳がする表情か?…すごい殺気だ。

「兄ちゃんに無様な姿、見られないように頑張んなよ。」

「…もし負けてそうなってもまた努力するだけだ。それにアシェルはそれくらいで俺の事を見限ったりしないさ。」

「…兄ちゃんのことなんでも知ってるように言うな。僕の方が兄ちゃんの事知ってるんだからな。」

これは相当なブラコン具合だな。それだけアシェルが大切なんだろう。
できれば敵対意識はなくして仲良くしたいところだが…。


ー ー ー ー ー

「ちっ…引き分けかよ。土壇場で反撃してくるとは思わなかった。」

「…なんとか面目は保てたか。…それにしても楽しかったよ、ライリー。」

「……まぁ僕も骨のあるやつと戦えて楽しかったけど。」

…これは仲良くなれそうか?

「…でも兄ちゃんとの事まだ認めたわけじゃないからな!泣かせたりしたらぶっ殺してやる!」

「もちろんそんなつもりはない。必ず幸せにする。」

「…ふん。」

アシェルは家族に愛されてるな。あの父親もそうだがこの弟も手強そうだ。だが俺は諦めないし、アシェルをかならず幸せにする。

次こそは勝って認めてもらうからそのつもりで。
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