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しおりを挟むそれから僕はアーネスト様と一緒に冒険者をすることになった。
合同実習の後、しばらくして寮の食堂でアーネスト様から声をかけられた。
来週の学園が休みの日にギルドへ行こう、と。
約束してしまったから断れないし、わかりましたと答えた。それを見ていたローレンス兄上とデリック様からはすごく心配されたけど。
でもハミッシュ様とフィリップ様も一緒だから大丈夫。びっくりしたけど、アーネスト様が2人に声を掛けたんだって。
そしたら、自分達もやりたいって言って一緒に行く事になった。
そして約束の日。僕たち4人で街のギルドへ行って冒険者登録をした。そのまま依頼へと出かける。
初めは簡単な依頼しか受けられないけど、冒険者としての知識だったりを教えながらだから丁度いい。魔物に遭遇したらその都度討伐していく事になった。
やっぱりアーネスト様達はとても強いから、討伐になんの不安もない。4人パーティーだから僕も1人の時より断然戦いやすいしすごく助かってる。物足りないくらい。
それにアーネスト様はとっても真面目な人で、僕が説明する事をしっかりと聞いてくれてちゃんと覚えようとしてくれる。
僕が平民だとか関係なく、僕を1人の冒険者として扱ってくれて、僕を師と仰いでくれる。
アーネスト様と一緒にいる事に不安もあったけど、今はとても楽しくて心地が良い。別に変なこともされないし、むしろとても大切にしてくれる。それがちゃんと伝わってくるんだ。
たまに見せてくれる笑顔がとても素敵で、その度に僕の心臓はドキッとする。
だって本当に楽しそうに嬉しそうに笑うんだもの。
僕って変だ。今まで色んな人と関わってきたけど、こんな風になる事なんて無かったのに…。
4人で依頼に行くこともあれば、アーネスト様と2人の時もある。
その時はなんか変に緊張してる自分がいる。
アーネスト様と一緒にいる事が多くなって、アーネスト様の良いところをたくさん知ったからだと思う。
僕はどうしたらいいのかな。
関わらない様にしようと思っていたけど、こうやって関わる様になってしまった。でも今はアーネスト様と一緒にいる事がすごく楽しくて、一緒にいられなくなる事を考えるとすごく寂しくて悲しくなる。
もしかして僕は……。
アーネスト様は貴族だ。僕とは違う世界に住んでる人。だからこんな風に考えちゃダメなんだ。ダメ、なんだよ…。
もうすぐ長期休暇になる。アーネスト様と離れていたら僕の気持ちも落ち着くかもしれない。
そして初めての長期休暇。学園は1ヶ月間のお休みに入る。
僕は明日ソルズの街へ帰る事にした。久しぶりに家族に会えるからとっても楽しみだ。たまに手紙を送っているけど、手紙が返ってくる度会いたい気持ちになるから、やっと会えることにワクワクしすぎて昨日は良く眠れなかった。
学園の皆とはしばらくお別れだ。授業が最後の日、
「アシェル~!会えなくなるなんて寂しいよ~。」
「そうだよなぁ。長期休暇楽しみだったけど、皆と会えないってのも寂しいよな。」
ノーマン様もハミッシュ様も寂しそうにしてくれた。
そしてアーネスト様も。
「…1ヶ月なんて長い時間じゃないはずなのに、アシェルと会えないと思うととても寂しい。俺も領地へと戻るが鍛錬を続けて、早く君と同じSランクになれる様努力する。
だからまたここに帰ってきたら、一緒に依頼をしよう。約束だ。」
ちょっと寂しそうに笑ったアーネスト様。僕は心臓がキュってなって少し苦しかった。
…なんで寂しいなんてそんな事言うの。やめてよ。
そして僕は、転移門でソルズの街へと帰ってきた。転移門を出るとそこには家族の皆が待ってくれていた。
「アシェル!お帰り!」
駆け寄ってきた母さんに抱きしめられる。あぁ、母さんの匂いだ。久しぶりの落ち着く匂い。
「兄ちゃん!お帰り!」
ライリーも掛けてきて一緒に抱きつく。あ、ライリーまた背が伸びた。
そしてその上から父さんも皆を包み込む様にして抱きしめてくる。
ああ、この感じ。久しぶりだ。やっぱり家族が1番だ。
少しだけ抱きしめ合って、久しぶりの家へと帰る。
「アシェル、学園で大活躍なんだってな。すごいぞ!」
「ああ、俺たちの自慢の子だ。」
父さんに頭を撫でられる。子供扱いされてるけど、久しぶりだからすごく嬉しい。
「それに兄ちゃん、親衛隊できたんでしょ?どんな感じなの?」
「えっ!それは…っ。」
「『魔法科の銀の天使』だろ?ちゃんとギルドの皆に知らせてあるからな!」
「エレンとそっくりだからな。その評価は妥当だ。誇りに思え。」
「~~~~っ!こうなるから嫌だったのにぃ!ローレンス兄上の馬鹿ぁ!」
もうもうもう!恥ずかし過ぎるよ!あははって皆笑ってるけど笑い事じゃない!ギルドの皆にどんな顔して会えば良いんだよ…。うぅぅ…。
そして案の定、ギルドへ行ったらひたすら揶揄われた。デイビットさんの奥さんのケリーさんまで、
「銀の天使様が帰ってくるっていうんで、菓子をいっぱい作ってきたぞ!」
なんて言ってくるし、街を歩けば
「よっ!銀の天使様!俺たちの街から天使様が現れるなんて幸運だ!」
なんて言われる始末…。もう、皆は僕をどうしたいの…。
それから毎日のように、僕は家族皆で冒険者として依頼をこなした。
アーネスト様達との依頼ももちろんやりやすかったけど、家族と一緒に戦うのが1番やりやすくてしっくりくる。皆のクセなんかも分かってるからだろう。
アーネスト様とだったらこういう時は……って、僕またアーネスト様の事考えてる。なんで。どうして。
アーネスト様に会えなくなってから、僕はおかしい。何かあると、アーネスト様はこういう時どうするのかな、とか、アーネスト様はこれ好きかな、とか、何でもかんでもアーネスト様の事を考えてしまう。
落ち着くどころか酷くなってる…。
「母さん、相談があるんだけど……。」
自分でどうしようもなくなって、アーネスト様のことを母さんに話す事にした。
学園でダンスを踊った事、一緒に冒険者活動している事、婚約者の事、僕を気遣ってくれる事、僕を冒険者の師として扱ってくれる事。
それがとても嬉しくて、楽しくて、会えない今もずっとアーネスト様の事を考えてる事。
「母さん、僕どうしちゃったんだろう…。」
「……アシェル。きっとアシェルはそのアーネスト様が好きなんだな。」
「……やっぱり?……僕、どう、しよう……ひっく…どう、したら…いい?」
だんだん悲しくなって涙が止まらなくなった。好きになっちゃいけない人なのに、婚約者がいる人なのに、貴族の人なのに…。
僕はアーネスト様の事を好きになってしまった。
「アシェルはどうしたい?」
「…ぼ、僕は…一緒に、居たい…。ひっく……でも、ダメ、なんだ……僕、は…ひっく…平民、だからっ…。………恋って…こんな、に…辛い、なんて…ひっく…知らな、かったっ…!」
しがみついて泣きじゃくる僕を母さんは優しく抱きしめてくれた。
「……ごめんな、アシェル。俺が平民になったから。お前に辛い思いをさせてしまってる。…俺が貴族だったら、お前にそんな辛い思いをさせなかったのにな…。」
「ちがっ…!違うっ!母さんの……ひっく、母さんの、せいじゃ、ないっ…!」
違う違う違う!母さんは何も悪くない!そんな風に思わせたいわけじゃない!
僕が…僕が貴族であるアーネスト様を好きになってしまったから。
僕がいけないんだっ…!
「ごめん、なさい…ごめんなさいっ…ごめん…なさっ……。」
僕は涙が止まらなくてずっと泣いてた。そんな僕を母さんは優しく抱きしめたまま背中を摩ってくれた。
* * * * * *
~アシェルが相談した後の親の会話~
「そうですか…アシェルがそんな事を…。」
「俺…俺が昔してしまった事の報いが、今こうしてアシェルに降り掛かってる…。」
「エレン、違います。そんなふうに考えないでください。」
「ライアスっ…戻れるならあの頃に戻りたい!…ごめん…アシェル、ごめん……。」
「エレン……アシェルはそんなふうに思っていませんよ。自分で自分を追い詰めないでください。それに今の貴方であの頃に戻ったら、俺と貴方は結婚できません。…そんなの俺はごめんです。」
「ライ、アスっ…!うぅぅ…っ。」
「エレン…もう泣かないでください。明日、エレンの目が腫れていたら子供達が心配しますよ。……落ち着くまでこうしていますから。……愛しています。どんな貴方でも。昔の貴方も今の貴方も。大丈夫、大丈夫。」
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