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それから数日。僕は何事もなく日々を過ごしてたんだけど…。

「ねぇ、アシェルっていう平民は君の事?」

「…はい。僕がアシェルです。」

とうとうパーキンス様に声をかけられてしまった。それも僕が1人の時に。取り巻きの方と一緒に現れて僕を取り囲ってしまった。

ハミッシュ様が教えてくれた事が頭を過ぎる。

「ふーん…。まぁ確かに綺麗な顔してるよね。でも僕の方が可愛いかな。親衛隊が出来て調子に乗ってるようだけど、平民なんだから分を弁えてよね。」

「え…あの、僕は調子に乗ったつもりはなくて…。」

「言い訳しないで!平民のくせにっ…。あと、僕の婚約者のアーネスト様と授業とはいえダンス踊ったんでしょ?僕のアーネスト様に手を出したらタダじゃおかないから。」

そう言うだけ言って、帰っていった。

…どうしよう。アーネスト様とはそもそもダンスの時くらいしかお話してないんだけど、それでも面白くなかったんだ。

とりあえず、またアーネスト様とは関わらないようにしよう。もうすぐ合同の校外実習があるけど、アーネスト様とは一緒にはならないように。人も多いからきっと大丈夫。


と思っていたのだけど…。


「アーネストよろしく!いやー、アーネストが居てくれると心強いよ!」

「いや、こちらこそよろしく頼む。」

魔法科2人、騎士科2人の合計4人で組む事になって、僕とハミッシュ様が一緒になった。ノーマン様はBクラスに友人がいるらしくそこへ呼ばれていってしまって残された僕たちが組む事に。

そしたら、ハミッシュ様が「アーネスト入れちゃお!」って言ってアーネスト様を捕まえてきてしまった。

…アーネスト様と関わらないようにしたかったのになんでこうなるの…。

「初めまして!俺はフィリップ・スティード。家は子爵家です。騎士科と魔法科の首席組なんて光栄です。」

「あ…アシェルと申します。平民ですので、敬語はやめて下さい。スティード様、よろしくお願いします。」

「さすがは『魔法科の銀の天使』!それだけの実力があるのに謙虚で鼻にかけることもない。騎士科でもすごく噂になってるよ。」

「あはは…。」

その話はもうやめてください。恥ずかしいです。

「騎士科と魔法科の首席組なんて贅沢だよな!俺たちもう勝ったも同然だな!」

「あまり調子に乗るなよハミッシュ。何が起こるかわからないんだから気を引き締めておけ。」

「はーい。なんだよもう。ちょっとくらい良いじゃんか。」


これから1泊2日で合同実習になる。学園近くの広大な森へ行って、魔物の討伐をする。

騎士科と魔法科の生徒は、卒業したら騎士団や魔法師団へ入る事が多いから、学園にいる間にこういう実践を何度か行う。騎士団も魔法師団も、魔物の討伐で遠征する事があるからその基礎を学ぶんだ。

その時も、前衛となる騎士、後衛となる魔法使いの連携が必須。今のうちに上手く連携が取れるように実践していく。

僕は冒険者として活動していたからこういう事は慣れている。野営しながら何日間か討伐に赴いたりもしていたから特に不安もないんだけど、貴族の人達は特別な事情がない限り初めてだ。


「ではこれより、騎士科と魔法科の合同実習を始めます。順番に森へ入ってください。」

指示に従って少しずつ森へと入っていく。僕たちの人数はかなり多いけど、森は広すぎるくらいだから全員が入っても大丈夫だ。それにこの森は低級の魔物しか出ないらしく危険も少ない。

現役の騎士団や魔法師団の人達も、監督として森にいるらしく安全性は高くなっている。

さすがは貴族学園。至れり尽くせりだ。


「よし。じゃあ俺たちも行こうぜ。」

4人で森へと入っていく。荷物は収納カバンに入れてある。だから割と身軽でいられる。

しばらくはただ歩いて森の奥へと進んでいく。そろそろ魔物が出てきてもおかしくなさそう……あ。

「待って。……右から魔物の反応があった。1、2…5体だね。割と近いから慎重に進もう。」

「え…アシェル、なんでそんな事わかるの?」

「風の魔法の応用だよ。物凄く弱い風を周りにかけてる。その風の動きで把握してるんだ。」

「……それインチキじゃん。」

「そんな事ないよ!僕、冒険者やってる時はいつもこうやって調べながらやってたし。」

母さんに教えてもらって、そうやって魔物のいる場所を特定してたんだ。だから僕たち家族の稼ぎは多かったし、依頼の失敗も無い。
でも細かいコントロールが必要だから、簡単に出来る事じゃ無いって母さんも言ってたな。

「え?アシェルは冒険者なのか?」

「はい、アーネスト様。両親と一緒に活動してました。」

「なんとアシェルはSランク冒険者なんだぜ!それに学園が休みの日は王都のギルドへ行って冒険者も続けてる!」

「なんでハミッシュ君が自慢げなの?」

「いいじゃん別に!友達が凄いの自慢したいだろ?」

ハミッシュ様にそう言われて、嬉しいのとちょっと恥ずかしい。


右へ向かって歩いていくと、すぐに魔物に出会した。

うん、予想通り5体。Dランクの魔物だから僕たちなら危なげなくやれるね。

「じゃあどうする?できれば俺はアシェルの戦いを見たいんだけど。」

え、僕?

「そうだね、俺も『魔法科の銀の天使』の実力をみたいな。」

「…じゃあアシェル、俺と組もう。前衛は俺が出るから後衛を頼む。」

「お。アーネストとアシェルの首席コンビ!これは楽しみ!」

僕の意見はなく決まってしまった。…いいんだけど。

「はい。じゃあ行きましょうか。アーネスト様、自由にやっていただいて大丈夫です。フォローしますね。」

一つ頷きで返すと、アーネスト様は魔物へと向かっていった。

近くまでゆっくり近づいて射程圏内まで来ると、一気に駆け出しまず1体。それに気づいた4体が一斉にアーネスト様を見る。

僕はその瞬間、草を伸ばして4体を捕獲。それから風の刃で2体を討伐。そしてすぐさまアーネスト様が残りの2体を討伐。あっさりと終わってしまった。

「…すげぇ。なんだこれ。」

「一瞬で終わってしまったね……。」

アーネスト様が剣についた血を振り払いつつこちらへ戻ってくる。

「アシェル、素晴らしいな。低級とはいえ5体の魔物を一瞬で片付けてしまった。素晴らしい魔法のコントロールと早さだな。こんなに楽に倒せたのは初めてだ。」

「いえ、ありがとうございます。そう言っていただけて光栄です。」


それから倒した魔物の解体をする。授業である程度学んだとはいえ、ハミッシュ様たちは実践するのは初めてだ。教えながら丁寧に解体作業をしていく。

また奥へと進み、魔物を討伐していく。今度はハミッシュ様とスティード様のコンビで討伐だ。僕たちより時間はかかったけど、危なげなく討伐成功。


解体して討伐して、たまに薬草も採取して日が暮れる少し前までその作業を繰り返していった。



* * * * * *

~2人の戦いを離れた場所で見ていた教師達の会話~


「おや、どうやら首席組で戦うようですね。」

「これはこれは。ちょっと楽しみですね。」

「……!速い!さすがアーネスト君。素晴らしい速さと剣筋です。スタンディング家の名前は伊達じゃありませんね。」

「あっ!銀の天使は一度に4体捕縛して…は?そのまま風の刃を使った?しかもなんて精密なコントロール。…………これ、学生ですか?授業受ける必要あります?」

「……ないでしょうね。私も魔法使いとして教壇に立って長いですが、彼に代わった方がいいでしょうか…。」

「…やめてくださいよ。それ私にも言える事なんですから…。」

「「………はぁ。」」

「…まだまだ修行が足りないということなんですね。」

「……我々も頑張りましょうか。」
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