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しおりを挟むそれから僕の学園生活は順調だ。すごく楽しい!
毎日毎日、魔法のことをみっちり勉強できるんだ!
最初は知ってることをおさらいって感じだったけど、新しい理論や魔力について勉強したり、実践練習も毎日出来るし、魔道具の事も。
母さんから教えてもらってたけど、本格的な詳しいことはやっぱり専門の先生には敵わない。いっぱい勉強できてとても楽しい!
それに友達もできた。特に毎日一緒にいるのは最初に話しかけてきてくれたノーマン様とハミッシュ様。
ノーマン様はいつもにこにこ笑ってる人で、おっとりしててとても優しい人。
ハミッシュ様は僕にデートに行こうって冗談を言うけど、実は婚約者の方をとっても大事にしている。
2人は僕が平民だとか全然気にしてなくて、むしろ畏まることを嫌がってる。ノーマン様とハミッシュ様も元々知らない同士だったけど、すごく仲が良くなった。爵位だって男爵家と侯爵家だからこんなに砕けて話すなんて本来は出来ない。でも僕たちは、そんなお互いの立場なんて関係なく仲良くさせてもらってる。
そしてアレクシスおじ様とも連絡をとっている。魔道具の事についてだ。通話の魔道具だけじゃなくて母さんからあったらいいな、と思うものを聞いて試行錯誤していた魔道具が完成したそうだ。すごい!僕もそれ早く見たい!
僕の見た目が目立つ事で、いろんな人に声を掛けられる。それも愛人候補として。婚約者がいるのと僕が平民だから結婚できないっていうので愛人。
僕は別に貴族の人と結婚したいわけでも、愛人になりたい訳でもないから断ってる。僕の理想は僕の両親。
でも断ると平民のくせに、って言われることもある。そんな時はハミッシュ様やローレンス兄上が助けてくれる。声を掛けられて僕だけ呼ばれても、ノーマン様とハミッシュ様は付いてきてくれる。
だから僕は今のところ、変な事に巻き込まれることはない。1番懸念していた事だったから本当に嬉しい。何か今度、お返ししなきゃな。僕に何が出来るだろう。
そう思って2人に相談したら、「魔法を使うコツとか教えてほしい」って言われて、お礼はそれで良いって言われてしまった。それで、2人にこんな感じでって使うイメージとか教えてあげるとメキメキと上達していった。
元々優秀な2人だから、飲み込みが早くて出来ることが増えていった。こんな事でお返しになるのかなって不安だったけど、2人は「これが1番良い!」って喜んでくれた。
たまにセイルズ様から嫌味を言われたりするけど、これといって大きな問題もなく毎日を過ごして行った。このままいけばいいのになって思っていたのに…。
「今日ダンスの授業があるんだよね。」
「そうだよ~。アシェルは踊れるの~?」
「うん。踊れるは踊れるんだけど…。僕運動神経あんまり良くなくて、実は苦手なんだ。」
今日は合同でダンスの授業がある。来月、騎士科と合同で校外実習があるんだけど、その前に交流を深める意味合いでダンスの授業があるんだ。
ダンスは母さんから教わっているから、踊れるには踊れるんだけど…。
「アシェルにも苦手なものがあるって変な感じだな。」
「昔、魔法の才能に全部いっちゃったんだねって言われたことあるけど、その通りだと思った。」
「「あはは!」」
もう2人ともそんなに笑わなくても良いじゃないか!うー…いいもん。僕平民だし、踊ることなんてそんなにないからいいもん。
小さめの(といっても十分広い)ホールに集まる。騎士科も含めると結構多い人数になるんだな。なんてぽやーっとしていたら、「ハミッシュ!」って声が聞こえた。
そっちを見てみると、くすんだ金の髪を軽く後ろに流した短髪のアーネスト・スタンディング様がいた。
「アーネスト!久しぶりだね!同じ学園内なのに科が違うと全然会わないもんだね。」
「ああ、俺は寮にいるがお前は通いだろう?なかなか会えなかったが、元気そうで安心した。」
え。ハミッシュ様とスタンディング様って友達だったんだ。関わらないようにって思ってたのに…。
「……君も久しぶりだ。入学おめでとう。」
「…あ、りがとうございます。」
「え?なになに?2人は知り合いなの?」
「…いえ、知り合いと言うほどのものでも…。」
なんて答えたらいいんだろう?昔告白されましたって言えばいい?僕全然覚えてなかったのに。
「入学試験の時に会ったんだ。……そうだ。今日のダンスを一緒に踊ってくれないか?」
「え!? 僕がですか!?」
「いいね、それ!知ってると思うけどアーネストは騎士科の首席だから、運動神経はかなり良いんだ。ダンスが苦手なアシェルを上手くリードしてくれると思うよ。」
え。やめてよハミッシュ様!そんな事言わないで!
「え、あの…いや…。」
困ってしまってしどろもどろになったら、パンパンと手を打つ音が聞こえて、授業が始まってしまった。
「来月行われる、騎士科と魔法科の合同実習の前の顔合わせです。ペアは必ず自分と違う科の生徒と一緒になるように!」
え!? そんな!? それじゃ僕、ハミッシュ様ともノーマン様とも組めないの!? 断る口実が!!
「じゃあ行こう。」
そう言われて僕はスタンディング様に手を取られてしまった。そのままホールの中央へ。されるがまま連れてこられてしまった。
「アシェル、だったな。確か魔法科の首席合格者。」
「……そうです。スタンディング様、よろしく、お願いします。」
「アーネスト、と。そう呼んでほしい。ハミッシュとは小さい頃からの友人なんだ。ハミッシュの友人ならば俺も仲良くさせてほしい。」
「………はい、アーネスト様。」
えー!? 初対面なのに名前呼びなんて…。
アーネスト様、今は僕の事どう思ってるんだろう?ただ友人として仲良くしたいだけなら、大丈夫なんだけど子供の時告白してきたんだよね?えー!全然わからないよー!
皆ペアを組み終えて、音楽が流れ始める。
「あ、あの!僕運動が苦手で、それでダンスも苦手でっ…。アーネスト様にご迷惑をっ。」
「大丈夫だ。俺に任せて。…いくよ。」
そう言って一歩踏み出して踊り始めた。うわ…すごい。何これ、すごく踊りやすい。信じられない。僕がスムーズに踊れてる!
父さんと踊った時も踊りやすいと思ったけど、それ以上だ。ちゃんと僕の事考えてリードしてくれてる。
すごい。楽しい!ダンスって苦手であんまり好きじゃなかったけど、こんなふうに踊れたら楽しいんだ!新しい発見だ!
「アーネスト様!すごく踊りやすいです!すごい!楽しい!」
「良かった。」
そう言って、にっこり笑ってくれた。その笑顔がかっこよくてちょっとドキッとしてしまった。
ちょっとしっかりして僕!ダメだよ!なんでドキッとしてるの!
自分で自分にそう声を掛けながら、ダンスに夢中になる。こんなに楽しいダンスは初めてだ。あっという間に3曲踊り終えてしまった。
「アーネスト様、ありがとうございました。こんなに楽しく踊れたのは初めてです。」
「俺もすごく楽しかった。これからよろしく。」
アーネスト様と握手をして別れる。……よくわからないけど、もしかしたらもう警戒しなくても大丈夫なのかな。
「アシェル~!すごかったよ~!上手に踊れてたね~!」
「ノーマン様!本当に?ちゃんと踊れてた?」
「うんうん。皆見惚れてたよ~!アシェルの笑顔ってすごいよね~!」
え。それはどういうこと??
「な、凄かったよな!…周りからなんて言われてたか教えてやろうか?……『天使の微笑み』だってさ!」
は??
「え、それは、本当…なの?からかってるわけじゃ、ない?」
「からかってなんかないよ~。本当に本当~!」
えぇ!? 『天使の微笑み』ってなんだよそれ!?
父さんは母さんのこと天使って言ったりするけど、まさか僕までそんな風に言われるなんて!
母さん、人から言われるとこんなに恥ずかしいものなんだね…。僕、よくわかったよ…。
その授業以降、僕は『魔法科の銀の天使』と言われるようになってしまった。こんなの恥ずかしくて、家族に言えない…。
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https://www.pixiv.net/artworks/105819552
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