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55.結婚するって言ったら問題が出てきた

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「あ、ロキュスさんおはようございます! ちょっとお聞きしたいんですけど、ユリウスと結婚することになったんです。手続きとかどうしたらいいですか?」
「はい? ……え? え!? えぇぇぇぇ!? ほ、本当ですか、ハルト様ッ!?」
「もう、様付けは止めて前みたいに呼んでくださいって言ったじゃないですか」
「い、今はそんなことを仰っている場合ではありませんよ!? い、今すぐ殿下にお伝えしてまいりますッ!」
「あ、ちょっとロキュスさん!?」

 翌朝、出勤してきたロキュスさんに結婚のことを聞こうと思ったら、物凄い勢いで家を出て行ってしまった。それを呆然と見送ったのだけど、ユリウスは平然と朝食を食べていた。

「ハルト様、ロキュスが申し訳ございません」
「あ、いえいえ。オフィーリアさんが謝ることじゃないですし、俺もまさかロキュスさんがあんなに慌てるとは思わなくて」
「ふふふ。ハルト様は相変らずですわね。おめでとうございます、ハルト様。ユリウス様」
「あ、ありがとうございます……へへへ」
 
 こうして祝って貰えるってなんだかくすぐったくて嬉しい。ニマニマとにやけるのを止められない。ぽわぽわとした気持ちのままユリウスと朝食を食べ、片づけをしようと思った時だ。

「ハルトぉぉぉぉぉ!? 結婚するとは本当かッ!?」
「うわぁっ!? ヴォルテル様っ!?」
「ちょ、殿下!? お待ちくださいっ! ハルト様のお屋敷にいきなり飛び込んでどうするんですか!?」

 ロキュスさんからの知らせを聞いたヴォルテル様が物凄い勢いで家にやってきた。相当急いで走ってきたようで、髪は乱れているし息はちょっと上がってるし目はガン開きでちょっと怖いし。いつもの王子様然としたヴォルテル様にしてはとても珍しい状態だった。
 その後ろから遅れてロキュスさんがぜぇぜぇ言いながら追いかけてきていた。ヴォルテル様ってこの国でもトップくらいに強い人だし、当然身体能力も高いから追いかけて来るだけでも大変だっただろう。そんなへばっているロキュスさんにオフィーリアさんはそっとお水を差しだしていた。

「ハルト!? 結婚すると聞いたのだが!?」
「え、あ、はい。ユリウスと結婚することにしました」
「いつ!? いつするのだ!?」
「え!? いつっていうか、まず結婚するには手続きとかどうすればいいのかわからないので、それを聞きたかったんですけど……」
「よしわかった! その辺りは私に任せてもらおう! この国で一番の挙式にすることを約束する! では失礼する!」
「え、ちょっと!? ヴォルテル様っ!? 待って! ちょっと待って!」

 俺の呼び止め空しくヴォルテル様は一目散に帰っていった。嵐のようなヴォルテル様の行動に、俺達全員ただ呆気に取られている。ただ一番立ち直りの早かったユリウスに「大丈夫か?」と声をかけられ、はっとすると朝食の片づけをすることにした。
 ユリウスもオフィーリアさんも手伝ってくれるのであっという間に終わってしまう。食後にオフィーリアさんが淹れてくれたお茶を飲んで、今日はどうしようかと考えているとまたバタバタとたくさんの足音が聞こえた。

「ハルト!? 結婚すると聞いたのだが!?」

 うん。さっきも聞いたなこれ。
 家にやって来たのはヴォルテル様以外のロイヤルファミリーの皆さん。そして皆さんも急いでやってきたようでぜぇぜぇと息を荒げている。ヴォルテル様とやってることが同じで、似た者親子だなと思う。
 とりあえず座ってもらおうと案内するとオフィーリアさんとロキュスさんが急いでお茶の準備をしてくれた。この家になってから席も食器も茶器もたくさんあるから何の心配もない。

「まずは二人共おめでとう」
「ありがとうございます、王様」

 口々に皆さんからおめでとうと祝われ、にへへとにやけるのを止められない。
 俺がこの国から離れにくくなる、という打算的な部分も当然あるのだろうが、前の世界とは違い男同士での結婚が違和感なく普通に受け入れてもらえることが嬉しかった。

「ヴォルテルが『最高の式にしなければ!』と張り切っておったぞ。恐らく周辺国へ招待状を出すだろうし、ハルトのお披露目も兼ねるつもりだろうな」
「え……? 周辺国に招待状……?」
「あと数か月もすればヴォルテルの婚姻式だからな。その時にも告知をするだろうし、恐らくかなりの人数が参加となるだろう」
「……ということは。もしかしなくても来るのは他国の王族の方々……?」
「それはそうだろう。五百年ぶりの聖人なのだから国交のある国は間違いなく来るだろうし、話を聞きつけて何とか参加出来ないかと打診を送ってくる国もあるだろうな」
「え……冗談、ですよね……?」
「ははは。ハルトは面白いことを言う。冗談なわけがないだろう」
「え……?」

 想像を超えた話についていけない。くるりと周りに視線を巡らせば皆『うんうん』と頷いている。え、なにそれ。本当にそうなるってこと……?

「無理無理無理無理っ! 無理ですからっ! 何ですかそれ!? 俺はひっそりと式を挙げられたらそれでいいんです! 他の国の王族の方々に臨席いただくつもりは全くないんですけど!?」
「うーむ……だがなぁ……」

 王様は腕を組み考え込む。え、何か問題でもあるっていうんですか……

「以前ハルトが聖人として身分を明かすと決めた時に、周辺国へも公表しただろう? その後から謁見の申請が山のようにきていてな」

 俺が聖人ですよーと公表すると決めた時、予め周辺国へも公表することは聞かされていた。どうせバレるのだからこちらから公表した方がいいと言われて。
 人の口に戸は立てられないし、それはそうだろうなと思って俺もそのことについては了承している。ただその時に『会いたいと言われても俺は無理だ』と言っていたのだ。
 だって今でこそ慣れたものの、最初はこの国のロイヤルファミリーでさえ緊張したのに他国の王族となんて軽々しく会ってお話しするなんて無理過ぎる。だから謁見の申請が来てもヴォルテル様達は、謁見は難しいと返答してくれていたんだ。
 
「ついでに言うと、今は世界中で瘴気溜まりが発見されているらしい。その浄化のことについてや、ハルト自身を招致、もしくは拉致しようと画策しているところもある」
「え……?」
「ハルトに不安を与えないよう拉致の件は言っていなかったがな。既に犯行に及ぼうとした者を捕獲している」
「嘘……」

 拉致される危険がある、というのも以前聞かされていた。だからずっと警備がしっかりとしている王宮でお世話になっていたんだ。この家が出来てからも周りにはしっかりと騎士が警備としてついてくれている。
 俺自身もその可能性について皆が煩いほどに言っていたし、俺も疑ったりはしていない。ただそういった犯行に及ぶことが余りにも早いと思って驚いたのだ。
 
「婚姻式に周辺国の代表を招待せずとも、一度謁見の場を設けておくことはした方がよいだろうな」

 王様曰く、少なくともこの国と深く関わりのある国だけは謁見した方がいいと言う。というのも変なことを考える国は一つじゃないし、これからもっと増える可能性もある。それについて他の国からも協力を得られた方がより安全に繋がるから、と。
 もちろんそのためには何か対価を用意しないといけないらしいけど、それは俺のとんでも治療薬で十分らしい。

「……なんかすみません。俺のせいでご迷惑を」
「それは違うぞ、ハルト。ハルトのお陰で瘴気溜まりの浄化や治療薬が得られたのだ。変異種の増殖を抑えられるし、救える命も増える。それは後の国益に繋がることだからな。迷惑と思うどころか感謝しかない」

 王様はそう言ってくれるものの、俺の存在一つで大きな迷惑をかけていることは変わりない。だって俺がいなかったらこの件に関しての仕事は発生しないのだから。

「どこもそれだけ聖人の力を欲しているということだ。その聖人がこの国に留まることを選んでくれたことは、我が国の誇りだ。そのために我々は協力を惜しまないしハルトを守ることを誓おう。だからハルトをより守りやすくするためにも、少しだけ力を貸してほしい」
「……わかりました。俺に出来ることなら協力させていただきます」

 そうだよな。俺は魔法が使えないし武術だって何一つできない。守られなければいけないのだ。
 それに対して申し訳ないと思うなら、俺だって自分に出来ることをやらなきゃ。持ちつ持たれつだ。

「でも出来れば結婚式に関してはひっそりとでお願いします……仰々しいのはちょっと恥ずかしいので……」
「ははは。承知した。ヴォルテルにも伝えておこう。アレは放っておくとどこまででもやりそうだからな」
 
 ロイヤルファミリーの皆さんが帰った後は、ランベルトさんと騎士団長さんまでやってきて「おめでとう」と言ってくれた。夕方には話を聞いた厨房の方々からお祝いの料理が届いたり、騎士団からはお酒が届いたり。
 この先もいろいろと問題はあるんだろうけど、王様もヴォルテル様もいるし、何よりユリウスがいる。きっとなんとかなるはずだ。
 今は皆からのお祝いの気持ちを素直に受け取って、ロキュスさんとオフィーリアさんも誘って美味しいご飯を堪能することにした。










* * * * * * * *

次回最終話になります!21時にラストの更新がありますのでよろしくお願いしますm(_ _)m
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