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53.聖人の日常

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 新しく建てられる家で専属護衛であるユリウスと一緒に住めることが決まったものの、俺とユリウスだけというのも体裁が悪い。というのも、俺付きの侍従や侍女が全くいないというのは俺とお近づきになりたい腹黒狸共(とランベルトさんが言ってた)に付け入る隙を大いに与えてしまう。そこでロキュスさんを専属侍従、オフィーリアさんを専属侍女に任命してしまおうとなったのだ。

 もちろんこれは命令じゃない。だからオフィーリアさんと会わせてもらった時に、どうでしょうか? とお伺いを立てたのだ。すると『聖人様の専属侍女など光栄でお断りする理由はございません』と、それはそれは嬉しそうに笑って受けてくれた。職場でロキュスさんと一緒にいられるというのも彼女の中でポイントが高かったんだろうと思う。

 そしてオフィーリアさんのご両親にも会わせてもらい、ロキュスさんとの婚約を解消しないでほしいとお願いした。二人は俺の家で専属侍従と侍女として雇うことと、今回の事件に関してロキュスさんも完全に被害者だと説明。
 オフィーリアさんのご両親もロキュスさんのことはとても気に入っていて、むしろオフィーリアさんが人質にならなければこんなことにもならなかったともの凄く謝られた。それにオフィーリアさんが俺付きの侍女になるなら箔も付くし、こちらからも是非お願いしたいと快諾をいただいた。

 オフィーリアさんの件はこれで解決したので、今度はロキュスさんの家にもお邪魔させてもらった。そこでも同じようにロキュスさんのご両親にロキュスさんの今後のことを説明。すると『勿体ないお言葉です』と泣きながら感謝された。
 これで全部丸く収まったことになる。それにほっとして肩の力が抜けた。

「なんという……ハルト様ッ……こんな、私にここまでっ……」

 一部始終を話し終えるとロキュスさんは滂沱の涙を流し顔を両手で覆って蹲った。そんなロキュスさんの肩をオフィーリアさんはそっと抱きしめるように手を置いた。

「だからロキュスさん、頑張っていっぱい働いてくださいね」
「これからハルトとの連絡役や身の回りの世話、それから館の管理に来客の予定管理などなどなど。やることは非常に多い。ロキュス、頼んだぞ」
「はいっ……はいっ! 粉骨砕身、お仕えさせていただきます!」
「ハルト様、わたくしも微力ながら、誠心誠意お務めさせていただきます」

 うんうん。これで一件落着! よかったよかった。
 ロキュスさんとオフィーリアさんは一つ礼をすると帰宅していった。ロキュスさんはしばらく自宅で療養した後、王宮へと出仕することになる。しばらく牢屋生活でかなりやつれていたからね。しっかり休んでもらって元気になってもらわなきゃ。
 一方オフィーリアさんは侍女の研修があるため、俺の家が建つまでの間侍女頭のカルラさんが面倒を見てくれることになった。カルラさんなら安心して任せられるね。

 それからは家が建つまでの間、王宮の一室でお世話になっていた。ただここでの生活は家政夫としての仕事が出来ない。今までのように血液の採取をする以外、正直言って俺の仕事はなかった。
 そんな暇を持て余していた俺に、ランベルトさんから『厨房を使いますか?』とご提案が。料理人さん達の迷惑にならないのかと心配だったが、異世界の料理を教えて欲しいから是非とのこと。それなら俺もこの世界の料理を教えて欲しかったので、お互い情報交換することになった。

 そこでいろいろとやっている内に、なんと味噌や醤油(らしきもの)が存在することがわかった。ここよりももっと遠い国に、文明や食文化が全く違うところがあるらしく、料理長さんが昔読んだ本にそのようなことが書かれていたらしい。真偽のほどは定かではないが、調べてみる価値はあるとヴォルテル様に相談してくれた。
 ヴォルテル様も新しい料理が気になるようで、この件に関して調査員を派遣してくれることになった。結果が出るのが一体いつになるのかはわからないが、今後が楽しみだ。

 そして元の世界では大人気だったカレーもなんと出来てしまった。ウコンやコリアンダー、クミンやカルダモンなど数種類のスパイスがあれば出来ることは知っているが、俺は今まで実際に作ったことがない。それぞれの配合もよくわかっていない、そんな申し訳程度の知識しか伝えられなかったが料理長さん達はめっちゃ乗り気だった。その熱意のお陰もあって割と早い段階でカレーが出来上がったのだ。

 カレーと一口で言ってもその種類は多い。スパイスの配合を変えれば全く違うカレーが出来るのだ。それを伝えたら流石は王宮の料理人。いろいろと研究しているようで、カレーが更に美味しくなっていった。

 カレーは王宮の社員食堂でも大人気のようで、カレーの日はおかわりが殺到するらしい。そこでナンの存在もおぼろげな記憶で伝えたところ、元の世界とかなり近いものが出来上がった。今じゃカレーの日はパンではなくナンが出てくるようになった。俺は中にたっぷりのチーズが入ったやつが大好きだと言ったら、それも提供されるように。

 それ以外にも餃子やから揚げ、オムライスやロールキャベツなどの他に、ババロアやプリンなどの簡単デザートも教えた。似た料理やお菓子は既に存在していたが、いろんなアレンジが加わったり進化したりと厨房での時間は凄く楽しかった。

 料理人さん達は最初、俺がいることにめちゃくちゃ恐縮して申し訳ないくらいだったが、今じゃすっかり仲良しだ。ユリウスはそれがちょっと面白くないようで、厨房に行く日はちょっとむすっとしている。
 そうそう。ユリウスの評判だけど、俺の専属護衛になったことから徐々に変わってきたんだ。
 というのも、ユリウスもこうしてやきもちなところもあるんだといろんな人が知ったことで、親近感がわいたらしい。以前のユリウスは悪評が凄かったらしいから。

 そこで俺はユリウスのイメージアップ作戦を決行することにした。俺がいろんな所へ足を運べば必ずユリウスは付いて来る。そこでユリウスと仲のいい様子を見せたり会話をしたり。最初はユリウスを懐疑的に見ていた人も段々とユリウスへの印象を変えていったようだ。

 そして肝心の騎士団の団員達だが、ここは騎士団長さんが一肌脱いでくれた。あの事件でジョストン家がなくなったことで、ユリウスの今までの行動の理由を話してくれたそうなのだ。
 それを知った俺はユリウスと一緒に騎士団へ。そこでユリウスが今までの態度や行動を謝罪した。それですっきりユリウスへの態度が変わった、というわけじゃないけど、以前のようなギスギスとした感じは段々と薄れていった。

 今じゃ騎士団の方へ顔を出した時は、ユリウスに剣を教わりたい団員が話しかけたりと微笑ましい場面も出てきた。
 その様子に団長さんも笑みを零していたし、ユリウスも「甘えるな」と口では言いながらも面倒見の良さを発揮していて俺も嬉しくなる。

 そして俺の家も出来上がった。王宮から少し離れた場所にドンと建てられた俺の家。ユリウスの家くらいのものを希望していたんだけど、流石に聖人の家を粗末には出来ないと予想以上に豪華な建物になってしまった。
 広さもかなりあり、部屋数もとても多い。それでも俺の希望になるべく沿うよう、これでもこじんまりとしたものだそうだ。
 引っ越しも無事に終わり、俺とユリウスはこの家で生活をすることになる。立派過ぎて恐縮するが、ここが自分の家になるのかと思うと王宮でお世話になるより幾分か気持ちとしては楽だった。
 ユリウスの家にあったものももちろん持ってきている。あの家で過ごした日数は短いものの、この世界に来て生活した大切な思い出がたくさんあるから。

 俺の家がかなり大きな建物となってしまったため、俺一人で掃除や洗濯をしても間に合わない。当然ここにも数名使用人がつけられたのだが、ヴォルテル様と王様の厳しい審査を潜り抜けた精鋭が配置された。

 だが俺は自分でいろいろとやりたかったから、自分の部屋の掃除と料理はさせてもらっている。ユリウスも俺の作った料理が食べたいと言ってくれるしね。
 以前とはちょっと違うけど、少しでも家政夫業を続けられて俺としては満足だ。
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